CLEAN YURU BOOK

本のあらすじ、感想を書き留めるブログ

穂村弘『図書館の外は嵐』

 

 

感想

 

穂村弘さんの本業は歌人だけれど、私は短歌の面白さがまだいまいちわからないので、穂村弘さんの本についてはエッセイばかり買ってしまう読者である。

 

本書は穂村弘さんの読書日記で、穂村弘さんが読んだ本がジャンルにとらわれず記録されている。本について論じるというよりも、感じたことを正確に記録することを優先したような自由な文章だ。

 

本書では歌集が読書の対象になることもあり、引用で短歌を紹介し、感想を書いている。

 

私はそれを読んで短歌の読み方のようなものを少し理解できた気がした。

 

人の感想にとらわれると、自分の読みの視野が狭くなったり、自分の感想の稚拙さに絶望したりするけれど、本書については、穂村弘さんのように、詩や、短歌や、ジャンルに囚われない色んな本を楽しめる読み手になりたいな、と思いながら読んだ。

 

 

西村ツチカ『ちくまさん』

 

 

感想

 

本書の主人公であるちくまさんは、伝票入力という「暗い画面に文字を打つだけの簡単なお仕事」をしている。

おそらく職場では番号で呼ばれ、同僚である「5番」のミスを尻拭いすることもある。

 

そんなちくまさん、仕事の息抜きは小説を読むことで、小説のなかのエキサイティングな世界と、白黒のインクで描かれるつまらない仕事の世界を横断しながらうまく心のバランスをとっていたのですが、ある日「5番」の職場脱走を契機に自身も様々な仕事の旅に出るのでした。

 

小説世界で起きるようなエキサイティングな仕事を、ちくまさんはたくさん体験します。

仕事のおもろしさをどこに見出すのかは人それぞれですが、ちくまさんが、伝票入力の仕事を抜け出して体験する仕事の数々は、繰り返し同じことをする仕事とは真逆の、毎日何かしらの発見があるところが、面白いのかもしれません。

 

最終章「あしたのひと」で描かれるちくまさんは、様々な仕事の体験を経たことで、少し視野が広がったのではないか、と思います。

 

例え「簡単なお仕事」でも、何かしらの発見はあるはず。

それを見つけるのは自分次第であるということを教えてくれる作品なのかなと思いました。

 

わかしょ文庫『うろん紀行』

 

うろん紀行

うろん紀行

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感想

 

書評と日記、両方の側面が本書にはありました。

 

本書は、作品にまつわると定義した場所へ実際に赴き、作品について思考をめぐらしたことを文章にまとめています。

その場所で起きたことや見たものも文章にされているため、書評ともエッセイともとれますし、どちらにせよ取り上げられている作品を読みたくなる文章だなと思いました。

私は本書に出てくる作品をほとんど読んだことがありませんでしたが、関係なく楽しめました。

 

また、連載は一番初めに緊急事態宣言が発令される前から開始しており、徐々にコロナ禍を意識させられるところもありました。

WEBでの連載をリアルタイムで追いかけていたら、もっと臨場感たっぷりに読めたかもしれません。

 

 

鶴谷香央理『レミドラシソ』

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鶴谷香央理『レミドラシソ』を読む。


デビュー前後に発表された作品を収録した短編集。

ある高校の吹奏楽部の日常を描いた「吹奏楽部の白井くん」、幼児の姉妹の生活を表現豊かに描いた「おおきな台所」、調香師を父に持つ女子高生の学校での交流を描いた「ル・ネ」。


「メタモルフォーゼの縁側」のエモさが好きな人は買って読んでみてほしいです。


この作者の良さは、ちょっとぼんやりしている子と大人びた子、両方とも魅力的に嫌味なく描けてしまうところだと思いますが、本書は自身のスタイルを確立する過程がわかる構成になっています。

「ル・ネ」は収録作の中で一番最新ですが、

読後の余韻は「メタモルフォーゼの縁側」に近いものでした。

なんてないエピソードが、かけがえのないものであると読者に感じさせてくれる。

この余韻も、作者独自の魅力だと思います。





村上春樹『騎士団長殺し』

 

あらすじ

妻に別れを告げられ居場所を失った肖像画家の「私」は、かつて名画家が住んでいた家に暮らすことになる。そこには「騎士団長殺し」という絵が隠されていて…。

 

感想

魅力的な登場人物と、謎が謎を呼ぶストーリー展開にどっぷり浸ることができて幸せな1か月でした。 

この小説の良いところは突っ込みどころがありすぎるところで、村上春樹が好きな人も嫌いな人も、読書会を開いて検討するとより楽しめそうな気がします。

 

色んな視点、色んな解釈で語る余地のある作品。気になるところをいくつかあげてみます。

 

主人公のもとに集う女性達について

主人公、これでもかというくらいもててました。妻と別れた後に二人の女性と不倫するし、謎の少女、秋川まりえも主人公にだけ心を許すし、読んでるこっちが腹たってくるくらい。

典型的な村上春樹的主人公ですね。

 

創作の考え方

肖像画家という設定上、主人公は物語の過程で絵を描いていくのですが、村上春樹の作品作りの考え方に重なるところがあるのかな、と思いました。その点は、ファンにとって読みごたえのある作品だと思います。

 

謎の回収について

最後まで解決していない事柄がいくつかありました。例えば秋川まりえの父親が盲信している宗教団体や、「顔のない男」の絵を描くという約束について。

書評をいくつか読みましたが、そういった謎が残っている以上、みなさん続編を示唆されていました。

個人的には、続編はないだろうと思います。

謎は謎のまま回収しないのも、村上春樹お家芸だからです。 

 

 

 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 

 

 

 

 

近藤聡乃『うさぎのヨシオ』

 

 

作品説明

この本はウサギの青年、ヨシオの日常を描いた四コマ漫画です。

 

主人公は喫茶店のアルバイトで生計をたてながら漫画家を目指すヨシオ。

制作がうまくいかなくて悩んだり、気になる女性に対しても自身が「ウサギ」である負い目からアプローチできずはなからあきらめたり、冴えない日常を送っていました。

 

ある日ヨシオが働く喫茶店にきれいな男の子つばさ君がやって来ます。

 

実のところ、彼は喫茶店の店長メリーさんが「美形」を見込んで呼び寄せた「客寄せパンダ」なのでした。

 

つばさ君もミュージシャンとして作品を生み出すアーティスト。

ある時、つばさ君が何気なく作ったプロットをヨシオが気に入り、二人は合作で漫画を描くことになります。

そこからヨシオの生活と、彼を取り巻く人達の気持ちが大きく変わっていくのでした。

 

感想

四コマ漫画といっても、全てゆるくつながっていて、ストーリー漫画として楽しめます。

恋愛要素も大いにあるので、実る恋もあれば実らない恋もあり、読後感は少し切ないです。

 

また、絵もすごく良い。近藤聡乃さんの漫画はこれまで何冊か読みましたが、線がきれいだなあ〜といつも思います。

四コマ漫画という決められたコマの形で描かれているからとくにそう見えるのかもしれません。

一コマ一コマ見ごたえ(読みごたえ)があって、漫画の単行本としては薄めですが、大満足でした。

  

 

うさぎのヨシオ (ビームコミックス)

うさぎのヨシオ (ビームコミックス)