deep down

暮らしの中で私の心が揺れたものを記す場所

Love balloons

 ある日

 デートで出かけた子供向けの催しで

 宣伝ピエロから風船をもらった

 

 真っ赤なハート型の風船 🎈

 

「ラヴバルーンだね」
 彼が笑った

 

 通り過ぎる人たちが羨まし気に2人を見てゆく
「風船と恋の共通点は?」

 

「(心が)浮いている!」
「色んな色、形がある」
「持っていると優越感に浸れる」
「ウキウキする」
「息(気持ち)を入れると膨らむ」
「抱きしめると柔らかい」
「柔軟性がある」
「幸せが詰まってる!」


 お互い交互に答え合う
 笑顔で答え合う

 


 …ふと風が吹いて風船が揺れた

 

 

「人のモノが良く見える」
「風に吹かれフラフラしている」
「どこへ行くか分からない」

「どんどん萎んでく」

「些細なことで壊れる」
「膨らみ過ぎると破裂する」
「手放すと二度と戻って来ない」

 私達は暫く黙ったまま見つめあった
 

 時間だけが流れた

 ゆっくり、ゆっくりと

 

 どのくらい経ったのか

 私は静かに彼から視線を剥がすと

 思い切り手を伸ばし風船の紐をそっと放した

 

 青い空に真っ赤な風船がとても綺麗

 

 風に乗り風船は高く高く空に昇り

 あっと言う間に点のように小さくなった

 

 私は視線を彼に戻しそして呟いた


「自分の意思でいつでも手放せる」


 その後、また見つめあったけど

 そこにはもう恋人の顔はなかった。

戻らない時間

君を求めてる
遥か遠く失ったもの
明日(昨日)を探す力で
伸ばした両手は空を舞い
残像もおぼろげなのにね

 

愛の形に残った肩の歯型が疼き
その度に
痛むのは心だと気付いたよ、今頃ね

 

素直に
ただ素直になれれば、君は今もここにいた?

 

どうして言えなかったんだろう
こみあげる程に膨らむ想いが涙に変わりそうで

言葉にすると消えてしまいそうで

全てを閉じた

 

本当は

ただ自分を守っただけ
傷つくのが怖かったから
ちっぽけな自分が悲しかったから

 

あれから
月は何度もカケて
星は流れ

私は少しだけ強くなれたけど

今もずっと心は君を求めてる

想いだけどんどん重くなって

重くなってく

 

あの時

素直に
ただ素直に言えれば、君は今もここにいた?

子供の頃 

欲しい物は素直に「欲しい」と言えた

回りが見えなくても前だけ見てても

誰も何も言わないし誰も泣かなかった

 

君からさし伸ばされた手を

何の迷いもなく掴めたら良いのに

 

大人になってしまった私には

抱えるモノが多すぎて

口にする言葉にさえ躊躇してしまう

 

ひとつひとつの想いは全部本当だよ

白い心は大人になれないから

何かを選んだ私は

何かを諦めなくちゃならないの

それが大人なんだって

それが常識なんだって

 

「目を見て話してよ」

目を見て話す私に言った

君は正しいね

目を見て心を閉ざした私は笑うしかなかった

「考えすぎじゃない?」

あの日 そう言って逃げたけど

その通りなんだ

未来のない二人には

始まりだってないんだよね

 

君は正しいね

いつだって正しいから

時々 泣けてくる…

カケラ

小さな欠片

それは平凡な海岸に落ちているような

歪なガラスの欠片

失くさないようにしっかり握っておかないと

どこかに落としてしまうから

「形ある内は大丈夫だよ

 それは温かく君の中にいる

 少しでもよそ見して手を緩めると

 指の隙間から毀れてしまうよ

 二度と戻らない砂のように…」

 

私は必死で守り続けた

雨の日も風の日も雪の日も

ピカピカのお日様の日も

決して指の隙間から 

毀れ落ちてしまわないように

壊れてしまわないように


ある日

夜の海で

とても綺麗な満月の日

月の青さに瞳を奪われた僅か一秒の出来事

それは

サラサラと指の隙間から毀れ

風に乗ってバラバラに吹かれ砂浜に落ちた…

夜の砂浜はとても冷たく

漆黒の海は私の味方では無くなった

しばらく惚けたように立ち尽くして

私はゆっくりと掌を開いた

 

そこには

生々しい傷跡だけが残っていた

かつて大切に大切に握られていたそれの痕が

赤く所々血さえ滲ませて

くっきりと刻まれていた

私は小さく「あっ」と声に漏らしたが

掌は不思議と痛まなかった

痛いのは心だった

何故か胸が痛むのだ

ズキズキと痛むのだ

悲しくて切なくてやりきれないのだ

跡形も無く消えたそれの変わりに残ったのは

掌の傷と胸の痛み

それは

ずっとそれを何よりも大切に握り締めていたと言う確かな証拠でもあった

 

目に見える物は何も無くなってしまったけれど

残った傷と痛みは

誰にも自慢できることでは無いけれど

それの残した傷と痛みがある限り

この先も生きていける気がした