「イスラム国」使用を辞めると同時に「イスラム過激派」「イスラム原理主義」という報じ方もやめよう

 在日イスラム教徒が困っている。イラクとシリアで暴虐を繰り返している無法者組織が「イスラミック・ステート」と名乗っているものだから、日本のメディアが「イスラム国」と翻訳して伝えていて、それにより、日本でイスラム教徒への偏見と差別が強まっていると訴えているのだ。

 

 

平和を重んじるイスラム教の宗教名を汚すこの「イスラム国」という表記を、卑劣なテロ行為を繰り返す一集団の組織名としてどうか使用されないよう切に願います。

Türkiye Cumhuriyeti Tokyo Büyükelçiliği

 

 

 その訴えに納得するとともに何を今更という感じもする。今までアルカイダだのタリバンだの「国際社会の敵」認定を受けている組織について、さんざん「イスラム過激派組織」とか「イスラム原理主義団体」とか「イスラム武装組織」と伝えて続けていたので、既に日本では「イスラム」という言葉がニュースの枕につけば真っ先に中東の過激派の話題だと思い浮かべることができる状態となっていた。

 

 その一方で別に「イスラム」と「テロ・過激派」がそのままイコールで結びつくわけでもない。イメージの大半が「テロ・過激派」と結びつくだろうというだけで、もう半分は、(おそらく国内在住のイスラム教徒の割合と同じくらいは)、平和で穏健的なイメージも思い浮かべる。そんな状態に今までも置かれていたわけで、特に「イスラム国」が邦人殺害して連日報じられたからといって、イメージがゴロリと変わって「イスラム」=「テロリスト思想」となるわけでもない。(一部のクレーム好きがさっそく在日モスクに対して脅迫しているようだがそういう人はイスラム教だからではなく弱者なら誰にだって脅迫するのだ)

 

 というわけで、普通のイスラム教徒への偏見・差別が広がるから「イスラム国」という訳称をやめようと言うならば、同時に「イスラム過激派」「イスラム原理主義」「イスラム武装組織」という言葉も報道で使用することはやめよう、と提案したい。してほしい。

 

 エジプトの政変で、NHKムスリム同胞団をしきりに「イスラム原理主義団体」と伝えていて、「『原理主義』と伝えられただけで日本ではムスリム同胞団のイメージ悪くなるだろうなぁ」と思っていた。日本ではオウム真理教事件などもあり宗教と結びつく「原理」という言葉にはアレルギーが大きい。「原理主義」と伝えられただけで、「過激派」などと同じく悪いイメージがつくのだ。ネットでもムスリム同胞団への「原理主義」という日本語説明についてはtwitterなどで専門家が批判していたと思う。NHKの場合はムスリム同胞団について「過激派」と対比して「穏健的なイスラム原理主義団体」などと伝えていたが、ここまでするなら最初から「イスラム教保守団体」とか「イスラム右派」とか政治の右と左を当てはめればいいのだ。政治団体でもあるのだから。

 

 「イスラム過激派」という言葉がイスラム教徒、イスラム系国籍外国人への偏見・差別につながっているのは説明せずともわかるだろう。安倍首相の中東演説の場合は「イスラム」という言葉をつけず単なる「過激主義」という言葉を使用した。「イスラム過激派」という言葉がもたらす偏見・差別は、ネット流出した公安警察のテロ捜査情報を読めば分かる。過激派と何のつながりもない中東・アフリカ国籍の在日外国人をテロリスト候補と特定し、イスラム教のモスクやイスラム・アフリカ料理店を「テロリストの集会場」として監視していたのだ。日本警察は「イスラム教徒」=「イスラム過激派」として監視していて、警察のスピーカーとなっているマスコミが「イスラム過激派」という言葉を多用して広めることにより、警察のイスラムコミュニティ監視を正当化させることになっている。マスコミも「イスラム過激派」という言葉は「イスラム国」とともにもう使用することはやめるべきだ。「中東の過激派」「シリアの過激派」「イラク・シリアの過激主義者」と言うだけでいいのだ。なぜ「イスラム」と頭に付ける必要がある。という話である。

 

 「イスラム国」「イスラム過激派」が暴虐繰り返しているからといって「イスラム」は関係ないというロジックを使うのなら……という話のつながりで、「左派系過激派」がテロを起したからといって「左派」はテロと関係ないという話もしたい。公安がイスラムコミュニティをテロリスト候補として監視対象していることは大いに非難されていたと思うが、公安がいまだに左派組織をテロリストとして監視対象にしていることはあまり非難されない。というか安倍首相が国会の場で「殺人を犯している革マル過激派がいた労働団体から民主党の枝野議員が献金を受けてる。問題だ」なんて追及しちゃって右派メディアから賞賛される社会でもあるのだ。その安倍首相賛同者が「イスラム教」への偏見・差別につながるからマスコミは「イスラム国」という訳称を使用するな!と怒り狂っていてなんだかなぁという思いがある。

 

 「イスラム国」という日本語訳自体は「Islamic State」を直訳したにすぎない。マスコミが誤訳しているという話でもない。政府が「State」を国名に掲げる国を「○○国」と日本語で定めている例にそのままならっている。

4.「State of ○○」(○○国)


クウェート国 State of Kuwait
カタール国 State of Qatar
イスラエル国 State of Israel

パレスチナ国(自称)State of Palestine

「Islamic State」「イスラム国」 中東・イスラム国家名称の英語表記と日本語表記まとめ - NAVER まとめ

 「イスラム国」表記の問題は、「イスラム過激派」などとは違って「イスラム」の後ろにつく「国」という言葉にネガティブイメージがついておらず、「イスラム国」という名前が一見すると一般名称のように思えてしまうことだろう。「イスラム国」という名前にはイスラムの中の一部の「過激派」「原理主義」「武装組織」というイメージが湧きにくい。日本語ではイスラム教が国教となっている「イスラム国家」という意味でも「イスラム国」という言葉を使うことができる。報道メディアは「過激派組織『イスラム国』」と書くことで「イスラム国」が持つ一般名称イメージを回避しようとしている。「過激派」と名称の頭にセットすることで「イスラム国」が過激派組織のただの名前であることに成功している。しかし長い。記事冒頭だけ「過激派組織『イスラム国』」と書き、2回目からはカギ括弧付きで「『イスラム国』」またはISIL等の略称を用いることになっている。テレビメディアの場合はカギ括弧を音で表せないので単に「『イスラム国』」と読まれても一般的な「イスラム国」と区別がつかない。パキスタン、アフガン、イランは「イスラム共和国」を名乗っている国家であるが「イスラム共和国」部分は日本メディアでは省略されている。過激派「イスラム国」の名前は省略できる部分がない。ではどう呼ぶか。アルファベットやアラビア語の略称で「ISIL」「アイシル」「ISIS」「アイシス」「IS」「アイエス」「ダーイシュ」と呼ぶことが推奨されている。しかしそのどれもが「イスラム国」という言葉の略称にすぎない。それはいいのだろうか。どうも納得いかない。別の呼び方を考えるべきではないか。「イスラム国」はバグダディをカリフと担いで活動している組織なのだから「バグダディ派」「過激組織バグダディ派」とでも書けば分かりやすくなるのではないだろうか。