【Review】片岡 義明:こんなにスゴイ! 地図作りの現場

 

こんなにスゴイ! 地図作りの現場 (NextPublishing)

こんなにスゴイ! 地図作りの現場 (NextPublishing)

 

 タイトルの通り地図作りの現場について書いた本です。

普段何気なく使っている地図ですが、「作って終わり」ではなく更新し続けなければならない情報量の多いコンテンツであり、その維持には多くの手間がかかっています。その手間のかけ方には各社の色が出てきます。例えばよく知られていることですが、ゼンリンは全国の調査員が一軒一軒足で調べ上げてあの住宅地図が作られますが、インクリメントPではネットの情報収集を中心に現地調査で保管するというスタイルが取られていて随分と違った印象を受けます。

グーグルマップはじめ私たちの仕事は彼ら地図作りを担う人たちのおかげでだいぶ変わったし、助かっているのでそういった観点から一度読んでみてもいいのではないでしょうか。

【Review】木下 彩:「庭のホテル東京」の奇跡 世界が認めた二つ星のおもてなし

 

「庭のホテル東京」の奇跡 世界が認めた二つ星のおもてなし
 

 最近野村不動産に買収されましたが、独立系ながら近年高い評価を受けていた庭のホテル東京の社長が体験記です。実家の日本旅館が高度経済成長期の時流に乗りビジネスホテルに業態転換した1970年代、社長になりバブル崩壊と競争の激化にさらされた90年代、このままでは先がないとビジネスホテルから再度業態を変えた2000年代と独立系ホテルの立ち位置の変化が自慢する風でもなく静かに書かれています。

 

コンセプトには拘りを感じさせる一方、何か派手なことをやったわけでもなく、淡々と積み重ねていって今の評価を手にしたのだと感じさせる筆致です。現実的な事業展開をするためにホテルを一棟売却して、その翌月にリーマンショックが来るという展開には幸運というものを考えさせられるものがありました。

 

www.hotelier.jp

【Review】湯浅 太:プロフェッショナルホテルマネージャー

 

プロフェッショナルホテルマネージャー

プロフェッショナルホテルマネージャー

 

 主に宴会場やレストラン施設を持つ宿泊特化ではない独立系中小規模ホテル向けに「赤字にならない体質のホテルづくり」の心得を説いた本。著者は現場のホテル総支配人経験もあるホテルコンサルタントで、現在(2019年4月)は『週刊ホテルレストラン』で「F&B部門の改善こそがホテル再生のカギ」という連載もしています。

 

書かれた時期が今ほどインバウンドが騒がれる前なので、若干情報が古いかもしれませんが、経営管理の本の考え方を中小ホテルの現場に落とし込んだような内容で「部門ごとのGOP(営業総利益)」をスタッフレベルに至るまで重視し、売上中心の思考から脱却せよという主張が繰り返し述べられています。ほかにもレストランの収益改善などは得意分野と見えて、配膳のテクニックなど具体的な施策が書かれています。

また、強い組織の作り方、スタッフの教育などにも言及されており、想定された読者層でなくてもホテルビジネスに関心のある人なら一読してみてもよいのではないでしょうか。

【Review】田中 智仁:警備ビジネスで読み解く日本

 

警備ビジネスで読み解く日本 (光文社新書)

警備ビジネスで読み解く日本 (光文社新書)

 

 ビル賃貸業に携わっていると避けて通れないですが、いまいちわかりづらい「警備業」。本書はその警備業の法的根拠、歴史、課題などをわかりやすく論じています。

 

日本における警備業は「守衛の系譜」、「寄せ場の系譜」、「幡随院長兵衛に代表されるヤクザの系譜」が絡み合った存在であると論じています。警備業が実態に反して楽な仕事と思われやすいのは「守衛の系譜」、工事現場に人を送るのは「寄せ場の系譜」を引き継いでいることの反映と理解されるべきという解説されます。

 

個人的には現在警察にべったりでその天下り先という側面を持つ警備会社が、もともと荒くれ者たちの集団だったためにどの官庁も管轄したくないために警察に押し付けられたという話、「警備保障」というのは「警備業務を行うだけでなく、それに保険のサービスを付加した仕組み」という警備業との区別、機械警備業務とビルなどの施設にあるローカルシステムは明確に違うものであるという話が学びでした。

 

また、アイドルの握手会イベントは「施設警備(手荷物検査等出入管理)」「雑踏警備(来場者誘導)」「身辺警備(アイドルを守る)」という全く違う警備業務の束なので、厳密に運用する(業務別教育をしていく)と警備費が増大して中止になる可能性するすらあるという話も考えさせられるものでした。

【Review】魔夜峰央:翔んで埼玉

 

翔んで埼玉

翔んで埼玉

 

 言うまでもなく、ネットで話題になった埼玉(主に所沢)をおちょくった短編ギャグ漫画。描かれたのが1983年なので今の感覚で考えるのが難しいしそんな深いこと考えずに読むべきものだと思いますけど、埼玉が肥料の臭いがするというのは、"黄金列車"西武池袋線の揶揄なんだと思いますけど、今よりもそのイメージが生々しかったのかもしれません。また、東北新幹線が開通したのが1982年、それが都内(上野)とつながったり、埼京線が開通したのが1985年なので、今よりも東京から見た距離"感"ってあったのかなって気もします。話自体は30分くらいで読めます。

 

15年以上前、当時付き合いのあった方から「埼玉の本質は"難民キャンプ”」と言われたことを思い出しました。

 

【Review】中島 恵:日本の「中国人」社会

 

日本の「中国人」社会

日本の「中国人」社会

 

 近年「爆買い」などで日本国内でも急激に存在感を増した中国人。観光だけではなく、コンビニなどでは既に彼らなしでは立ち行かなくなっており、問題があろうともその現実は如何ともしがたい状況になっています。本書はそんな彼らの姿に迫った本になります。

 

不動産業的観点から注目する部分として、これも近年話題になっている西川口(+蕨)が取り上げられています。人口60万人に対して2万人の定住中国人がいる川口氏は既に新興中華街が形成されています。そこに住む中国人は別に犯罪集団ではなく、IT技術者などのビジネスマンが目立つようになっているそうです。

 

西川口(+蕨)を選んだ理由も詳しく書かれていて「2つ隣の赤羽(都内)よりもずっと家賃が安い」「池袋まで電車で20分」「日本語学校が近い」「床に座る習慣がないので畳の部屋は避ける」「保証人が要らない(UR芝園団地)」「既に中国人コミュニティがある」など地位といった先入観ない動機が興味深いものでした。やっぱり純粋に経済的な観点だけなら川口悪くないものな。

 

その他に子供のことを考えると日本の教育はゆるすぎという悩みは考えさせられるものがありました。

 

それほど肩の力を入れずに読める本なのでお勧めです。

【Review】鈴木 昭徳:地主の家に生まれて、跡取り息子と呼ばれて ~地主として、親からの資産を守り、今後も豊かに過ごす方法~

 

 決意表明みたいな内容の本で、不動産の本としてみるとそれほど大したことはないんですが、序盤の地主として生きてきた階層の部分がその心情をよく表していて引き込まれます。

 

"地主は、現在持っている資産をどのように守っていくかを考えていけば、充分資産活用は出来ます。"

"地主とは、先祖代々受け継いでいる土地を持っている人のこと。~『家を守る』義務を負い、『次世代に引き継ぐ』宿命を負った人でもある"

"地主は『家を守る』と同時に『地域貢献』の義務も果たさなければならない"

"好んで地主の家に生まれたわけではないのに、心ないやっかみを受けることも日常茶飯事でした"

 

この辺りが「あるべき地主」とか「地主の宿命」を表しているように感じました。一番好きなのは最初に働いたコーヒーメーカーは体を壊してリストラされたけど、「地主の息子」ではなく個人として見てくれた人ばかりだったので悪くはなかった、という部分です。