線路は続くよどこまでも
ママ、あの列車どこに行くの?
「あの列車はどこにもいけないの」
常温の声でママは言う。
そうなんだ、かわいそうだね。
窓に顔をくっつけて
列車を見た。
誰も乗っていない列車のことを、
乗客は誰も見ていなかった。
行き場の無いやるせなさに
困惑して
車内のライトが点滅していた。
…………………
起床。
ベッドの周りは物とゴミで覆われ、
テーブルの上には片付けなくてはいけないレポートやら支払い用紙やらが積み重なっていた。
私は母親のことをママと呼んだことはないし、なにより地元に列車なんて走っていなかった。
…母親はもう十何年前に男を作って出ていったし。
背の低いアパートの二階、
汚れた窓から見えるのは廃ビルの壁だけ。
ああ、どこにもいけないのは私か。
部屋の隅で昔家族で行った旅行で使った土日限定乗り放題の列車の切符が泣いていた。