行けるか行けないか
ある場所に行きたいとする。
行けるか、行けないか。
あるとき、ある場所へ行きたかった私は、そこへ行くための航空券を予約した。
直前で、航空会社のサイトから予約したため、割高感はいなめなかった。
でも、どうしても行きたかったので予約しようとして、飛行機は予約できた。
だが、しかし。
その場所へ行く前の日、台風が来て、明日は飛行機は飛ばないことになりそうだと、航空券の払い戻しの手続きが始まってしまった。
あぁ、今は行くときではないのだな、そう思った。
行きたいけれど、行けない。
ここまで来た台風、どう考えても横にはそれないし。
と、私は払い戻しをした。
後日届いたクレジットカードの明細書には、航空券を買った、払い戻した、の数字が並んでいた。
***
ある特別な日、私はある場所へ、新幹線と在来線を乗り継いで、特別な人に会いに行きたかった。
前日には、特別な人の、そのまた特別な人に渡す用の名刺を急ぎで頼み、通常よりも3割増しの値段を支払った。
名刺をオーダーし終えて、特別な人に渡すためのモノを選ぼうと思った。
でも、なんとなく、気が進まなくて、明日の朝にしようと思った。
日付が変わったとき、私は特別な人に、特別なメッセージを送った。
明日行きたい場所にいる人へ。
行きたい気持ちを隠すような、でも隠しきれていない、メッセージ。
どうでもいい写真もつけてみたりして平静を装った。
翌朝。
ていねいに書いてあるけれど、内容は、「来てくれるな」、というメッセージが、私が特別だと思っていたひとから来た。
3割増しの名刺は、この時点で必要がなくなった。
11時にはお店にとりに行くと店員さんに話していたので、予定どおりにとりに行った。
用途を失った名刺。
捨ててしまおうかとも思ったけれど、それでは一生懸命準備した昨日の自分がかわいそうだと、もっとカワイソウな今日の自分が思ったから、そうはしなかった。
特別な人に渡すためのモノを選ぶ時間はいらなくなった。
新幹線に乗ることもその時点でなくなった。
もっと先に言えよ、と私はこころのなかで悪態をついた。
***
ドアをノックして、開いたら行けばいいんだよ。