私がエリクラ谷についたのは夏の終わりで、リンゴの木には実がすずなりで、びわは収穫されず木の上で乾いており、すももの熟した実が数個木に残る時期でした。お宿の中庭の畑ではさやいんげんが実り、とうがらしやポロネギが青くしげって収穫を待っていました。
▼畑の縁取りはマリーゴールド
中庭でひときわ目を引いたのが、宙につるされたような赤い花をつけるチルコ(Chilko) Fucsia magellanicaの茂み。日本にも園芸用にフクシア・マゲラニカとして知られています。フクシアはアカバナ科の低木で、ニュージーランドや中南米が原産とされています。
チルコはチリやアルゼンチンに暮らすマプチェの人びとにとって大事な薬用植物で、花や葉、樹皮を煮だして熱さましや利尿、月経をととのえたり出産を促進するために利用されてきたそうです*1。また、この植物は水の豊かな場所に育ち、原生林でよくみられる植物だということで、実際、エリクラ谷近辺の山でもよく見かけました。深い緑のなかに赤い花が点々と見えるさまは、とても美しかったです。
チリ南部では植林が盛んなのですが、植林でよくつかわれるユーカリ(紙の原料として海外にも輸出される)は特に土地を乾燥させるため、周辺地域では川の水位が低くなったりと影響を受けているとのことでした。森の多様性も以前より失われつつあると、地元の方はとても危惧していました。*2
チルコの茂みに近づいてみるとぶーんというハチの羽音のような音がきこえるのですが、よく耳を澄ますとなんだかちょっと違う音で、それはハチドリの羽音でした。ハチドリはとても用心深く、私が近づくとすぐ隠れてしまうのですが、何日かたつうちに少しずつ近づいてきてくれたような気がしました。チルコの宙につり下がったような花の形をバレリーナにたとえる人もいますが、私には花の蜜をすうハチドリの姿に見えてしかたありませんでした。
そのほか、目を引いたのはアラジャン(Arrayán) Myrtus communisの花です。和名をギンバイカというこの花は、まぶしいほどの白い花をいっぱいにつけ、そこにはいつもハチが集っていました。アラジャンは地中海沿岸原産のフトモモ科の常緑樹で、英語でマートル、イタリア語だとミルトの名前で呼ばれ、地中海沿岸では古くから愛と美を象徴する女神たちに捧げられていたそうですが、この魅力的な姿を見るとそれもうなずけます。ちなみにサンティアゴの空港ではジャムが土産物として売られていたので、いまではこの地に定着しているようです。
エリクラ谷からの報告、まだ続きます。
*1:Centro Cultural Rayen Wekeche Valle de Elikura "Elikurache Kimün Mongen Kimün Guia introductoria" 2019