また春に

卒業式のあとわたしの部屋まで袴姿を見せにきてくれた、次の日だった。
卒業旅行の、ツーリングだった。晴れて、海も山も見えて、とても充実していたそうだ。白浜に、行きたかったんだろうな。

生きていたら、わたしはあの子の結婚式とか行っただろう。きれいだったろうな。
12の頃からクラスや大学の寮まで一緒だったから、むかついて言いたいこと言いまくってケンカもしてたけど、心が膨らむような良い話をたくさんできたなぁ。いつも。そんな話は、他の人とはできない。
一緒にいた、あの光や匂いや会話や空気感を、今でも、何度でも、細かく、再現できるのは、なんでだろう。法律の条文は、いくら勉強しても覚えられないのに。脳っておもしろいね。そんな話も一緒にしたよね。そんな記憶に、思い出すたび、わたしは今でも生かされている。

友達は、居なくなっても、ずっと友達なんだろうな。心の中で、ことあるごとに、対話している。そんな存在でずっといてくれることに、本当に感謝したい。本当に、出会えて良かった。

どこに今いるかわからない。でも、会いたくなったら、いつでも近くにいてくれるような気がする。もう、この世界では触れないけど、そのことに涙することもしばしばあるけど、彼女のことが好きだから、彼女は元気なわたしのことが好きだから、わたしは毎日生きるし、そんなわたしの友達に、またわたしは、何度も何度でも、出会うんだろう。

また、春が巡ってきた。

最悪でいい

クライマックスで、期待してる音を、外す。外しまくる。イライラする。拍手なんかしない。

こんなんで一万円か?時間もお金もかけて来ているのにこれか?N響の若手や実力者がすごい妥協して伴奏してるのがわかる。わたしでもわかる。ゲストの外国人の指揮者も、老人のお世話配慮をするような感じで指揮してる。こんなんで、お年寄りで、昔すごかったから、ネームバリューがあるから、高いお金取ってこんだけ広い場所で、こんだけ人集めてコンサートするのか。若いキレキレの演奏家のキレキレのノーミスの演奏の方が優れていて、価値があり、将来性もあり、聴くに値するのではないか?なんで楽譜も見ないで、楽譜アシスタントの人が、ここだよ、こっちだよって教えてあげているんだ。こんなブラックな音楽業界おかしい。健全じゃない。若い人育たない。
でもカンパネラは凄みがあって、凄かった。泣いた。ドビュッシーも。

間違えたことなんか、本人が一番わかってるよな。

最後に衣装の白いスカーフがひらひらして去っていくのが、ひらひらが目に儚く美しかった。この人もやがて死ぬんだなと思った。ピアノを弾いて、苦労して、人を感動させて。完璧じゃなくていいのよ、こんなんでいいのよ、人生こんなもんよ、老いるとはこういうことよ、だからがんばって、がんばらなくていいのよ、なるようになるのよ、と言っているような気がした。そんなことを説得力を持って、体現して言える人がどれだけいるだろうか。わたしもそんな人になれるだろうか。

ずっとキレキレで、ピークでいることができる人なんていない。だから、トライして、失敗して、それでもトライすることを見せ続ける。誰に何を言われてもいい。

失敗をするだろう。これからも、繰り返し。ひどく、派手に。

その影の努力を、誰も知らないけど、わたしは知っている。そんなたった1人の人になれるだろうか。わたし自身に対しても、他人に対しても。なりたいものだ。

わたしだけじゃない

相続の手続きまた失敗した。郵便局で住所変更が必要と言われたので、用紙に記入して、窓口の受付番号をきれいで優しいお姉さんの誘導でもらって、窓口に用紙を提出したら、印鑑が無いと言われた。それじゃ今日できませんと幽霊のように無感情に言って、わたし立ち去った。前回は怒りを感じたが、今回は冷たい、最悪な感じ。自分がこういう手続き苦手だし準備する時間も無いし、もう最悪な気持ちで。空を見た。澄んでいてよかった。昨日のこと。東京の空は高いビル低いビルに切り取られて、多角形だ。360度。どうやったら描けるかな。パラボラアンテナの切り取る部分だけが、曲線だ。東京は空までカクカクして厳しい。

父を亡くし、親族の調整をし、相続の手続きを取りまとめ、手続きをする。仕事もある。勉強もある。自分の人生を歩みたい。できれば自分らしく。楽しいこともしたい。ぜいたくだ。わたしはぜいたくだ。わかっている。でも、なんでうちの母がこれやらなかったんだ。それか、父があの韓国人の恋人と結婚していれば。わたしもっと自分のこと集中できたのに。なんで他のきょうだいはちゃらんぽらんだったり、お金のことで信頼できないんだ。一部の、たぶん一部の、最悪のわたしが、ブーブー言う。ちょっと忙しすぎて、疲れてる。pmsだろうか。サチってる。冷静にならなきゃ。落ち着かなきゃ。神経が参ってる。

わたしがこれを開示するのは、おなじような状態に置かれた人にあなただけじゃないよ、わたしもそうだったよ、と言いたいから。

いろいろと辛いし、夢みたい。嘘みたい。空が嘘みたいにきれいで、飛べそう。

変化

(これは数週間前にメモしてあった文章なんだけど)

押入れの中は先月までは無かったような服たちで充満し、部屋にはなぜか布団がもう一枚敷かれ、見たこともなかった男が隣で寝ている。見慣れぬ半生のバラがちゃぶ台に飾ってある。難しい仕事ばかりたくさん押し付けられる。1人新しい人を採用したから、わたしはいつでも事務所を辞められる。いやそんなことはないが。父はこの世におらず、わたしは生きている。盗撮犯を逮捕する。勉強は圧倒的にビハインドだ。お風呂屋が言いふらすからわたしのこと知らない人までわたしのことを知っている。連絡が来る。さあどうする。

冷蔵庫の中に山陰のあごちくわと三角形の油揚げがある。城崎産とある。かつおだしと砂糖しょうゆで炊く。

わたしは変わらない。わたしはこどものころから変わらない。勉強しよう。学ぼう。本を読もう。遊ぼう。ひとと話そう。働こう。おいしいもの食べよう。なにか作ろう。失敗しても、なにかやってみよう。

指輪を作る

わたしは普段アクセサリーはほとんどしない。でも一軒だけアクセサリーを買う店があり、わたしの持ってるアクセサリーはもらったもの以外ほとんどそこで買っていて、そこで閉店後に耳にピアスの穴まで開けてもらったこともある。もちろんその後、ピアスをしこたま買った。一緒にカフェでお茶したり、物々交換したり、仲良し。わたしが学生から会社員になって働く間、小さかった工房はより広々した場所に移転し、お弟子さんも増えた。その成長を見るのも楽しかった。わたしは新卒で大きな会社に入社したが、その報告をした時、「すぐ辞めそうだよね」と話していたら、案の定辞めた。いろいろあって、その職人さんに今回結婚指輪の製作をお願いしようとしている。

わたしのことをよく知っている、付き合いの長い、信頼できる人に、大事な物を作ってもらう仕事を発注でき、自分の人生に関わってもらえるのは、ありがたく幸せなことだ。

自分らのプライベートなことをたくさん話しあえて、信頼できる人に、仕事をお願いし、お金を巡らせることは気持ちがいい。お互いのことをよく知っている、顔の見える人に。その人に継続的に良い仕事をしてもらいたいし、その人の生活を支える顔の見えるひとりでありたいと思うのだ。
お金のことはよくわからないし、そもそもあまり持っていないが、そういう使い方と仕事の仕方の方が、わたしは生きている実感がするし、この世界を好きになれるのだ。こういう生態系を守り続けたい。信頼できるひと、良いひと、好きなひとと仕事したいし、好きな人からものは買いたいし、お金を払いたい。お金という顔のない名前のないものの使い方としてはちがうのかもしれないけど、お金だけじゃない、関係性や安心感を繋げるから、そういう風にしたいんだと思う。そんな信頼や安心感は、お金では買えないから。好きなひとと継続的に支え合って生きていたいのだ。わたしの人生でどれだけこういうサイクルを続けられるかが、お金に関わる人生の質を決めていると言っても過言ではないかもしれない。
逆に自分もそういう風に仕事をお願いしてもらえたら、それに越したことはない。

パートナーとは、ひ孫にも受け継いでもらえるようないい指輪作ってもらいたいね、職人の腕がなる仕事をしてもらいたいねと話している。

明日楽しみだな。

父眠る

父が夢に出てきて眠れない。そんな夜が続いてた。日中の仕事の質が悪過ぎ、耐えられず、上司にも正直に伝えて、おばあちゃんに相談に行った。離婚した後実家に戻った父が生前足繁く通っていたラブホテルのスタンプカードを見せられた。

感づいてはいたが、父に恋人がいたことを深く知り、楽しそうだった実態を知った。おばあちゃんも言っていたが、父が幸せだったことを知って、心が落ち着いた。

うちの両親はわたしらが幼少の頃から夫婦関係は険悪で、子供らが成人してから離婚したのだが、そんな父に、人を愛せ、人を愛したら幸せになれるぞと言われた気がして、またいつでもすぐ会えると思って別れた、簡単にまたすぐ会えるはずだった、父と、死後はじめて会話したような気持ちになった。
幼少の頃から仲の悪い両親を見て育ったわたしには、良い夫婦とはどのようなものなのか、さっぱりわからない。母が父の悪口を言い続けるから、わたしは中立になってみたり、悪ければ父を罵倒してみたり。良き父、良き娘というものも、さっぱりわからない。父の相続金に関し、恋人の方は法的に相続者とはならないため、とりあえずわたしの持ち分だけでも受け取ってもらった方がいいのでは、と気が急いた時期もあった。父の心が残っているひとに渡したかったし、彼女は日本人じゃなかっし、暮らし向き大変そうな気もしたから。

でも、わたしは、そのお金を自分の恋人に会う旅費に充てることにしたのだった。

愛というものが何なのか、わからない。両親から、ひとを生涯愛するとはどういうことなのか、学びたかった。

わたしは相手の骨を拾いたい。相手をお墓に入れるところまで一緒にいたいと思う。人として、そうありたいと思う。そして、自分のこどもにそんな姿を見届けてもらいたいと思う。相手に幸せになってもらえたら、最高だ。そんな人生がいいな。

今日からはよく眠れそう。

ここに消えない会話がある

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「ここに消えない会話がある」山崎ナオコーラ

誰にも気づかれずに朝起きて、夜寝る。

生きたい。
自分の大嫌いな価値観で充満した世界を捨てて、自分で歩くのだ。
ごはんが食べたい。あたらしい友だちがほしい。空の青や花が好き。
自分の仕事は誰からも評価されなくてもプライドを持つ。自分のミスは自分で謝りたい。

登場人物がここでかわした他愛ない会話は、永遠に消えない。
なぜなら、わたしの心にそれは残ったし、会話を抱えて誰もが生きていくのだから。
それは響きあい、伝わって、ずっとつながっていくのだから。

来週からまた仕事だ。あったかくして、出かけよう。