魔王の凱旋

オリジナルの小説をちまちま書いていきます。

八話 契約の代わりに

あれから何時間か経過して、俺はまた、村に戻ってきた。イフリートが祀られている祠は、ここからもう少し山奥に進んだところだ。前に祠に来た時はイフリートに会うことなく祠を出てしまったので、イフリートの姿を見たことが無いが、どんな龍なのだろうか.....。
そんなことを考えているうちに、俺は祠の前に到着していた。
祠の中に進んでいくと、水晶が散らばる、少し広めの空間にでた。
イフリートはどこだろうか。
『なんじゃ、久しぶりの客じゃのう』
そう声がしたと思ったら、目の前を激しい光が包み込んだ。
光で灼かれた目が少しずつ慣れてくると、目の前に赤髪の少女がいた。

「.....あんたは誰だ?」
「おぉ、すまんの。この姿だと少しわかりづらいかな。しかし人に名乗るときはまず自分の名を名乗るものじゃ、ほれ、言うてみい」
ディアブロ・イグニールだ。アンタアレか?イフリートの側近か何かか。だとしたら俺はイフリートに話がある。案内してもらえるとありがたいんだが.....」
「まぁそう急ぐでない。それにわしは正真正銘イフリートじゃ。魔力消費が激しいから、あまり龍の姿はとっておらんだけでの」
そのまま少女は俺をからかうような目で、こちらを指さしながら話を続ける。
「そして思いだしたぞ。お主、わしの所へ来る寸前で戻ったやつじゃの?となるとわしへの用件は契約のことじゃろ」
「ああ。話が早くて助かる。今から儀式を行いたいんだ」
「契約はしてやる。が、その前に.....」
いいながら少女は俺の額にてを当て.....。

力の限り目一杯俺を地面に叩きつけた。

「...............ッ!?」
「ちょっと頭の中を見させてもらうぞ。あぁ、力加減を間違えた。すまんの」
そう言って少女は目を瞑る。俺は痛みで何も言えなかった。
「....................。ふむ、お主魔力持ちか。なら契約しやすいどころか他のイグニール族より強くなれるぞ。よかったの」
「それはいいが早くどいてくれないか」
「おお、すまんすまん。よし、たったな。じゃあ目を瞑れ。ちょっと腕が熱くなると思うが、契約に必要な紋章を刻むためなんでの。我慢してくれよ」
そう言って少女からただならぬ気迫が放たれる。ただその気迫も一瞬で収まってしまった。腕に熱さは無い。

「おかしいの。わしの魔力がお主にブロックされとる。お主、もしかして『ギア』かなんか埋め込んどるか?」
「.....あぁ。ギアが埋め込んであるけど、なんかまずいのか?」
「ギアは元々属性魔力を持ってる前提で埋め込むものじゃ。お主の身体は属性魔力を持たずにギアを埋め込んでしまっているから、身体がへんな干渉を起こしてしまってわしの魔力を受け付けん。すまんの。契約は無理じゃ」
「でも俺は魔力持ちだろ?なんで受け付けないんだ?」
「イグニール族の魔力持ちは初めから火属性魔力を持っているものなんじゃがの、お主のは属性を持っていない、言うなれば『イレギュラー』な存在なんじゃ。おそらく世界の理を外れた魔力を持っているから、魔力自体は持っていて微細なコントロールはできても、それを魔力としては認識しなかったんじゃろうて。まぁ、お主のそのイレギュラーな魔力と干渉を起こしたのかもしれんがな」
「..........じゃあ、俺はどうすれば.....」
「別にそう落ち込むことは無い。ギアを作ったのはわしら四龍じゃ。お主にはギアと相性の良い神器をやろう」
少女は右腕を前に伸ばしながら呪文の様なものを唱えた。すると、少女の背丈ほどの大剣が、少女の手に握られた。
「この剣の名はアザゼル。かつてこの山にわしが現象を与えた際に、意思を持ってしまった炎がおってな。人や自然に影響をあたえるもんで、見かねたわしが剣に変えたものじゃ」
そう言って、アザゼルという名の剣を渡される。ずっしりと重く、少女が片腕で握れるものではない。やはり少女の姿をしていても、世界に現象を与えた存在であることをなんとなく思い知らされた。
「使い方を教えるぞ。柄を握って魔力を込めるんじゃ。すると刀身が少し伸びる。すると刃の部分が発熱して、ものが切れるようになるんじゃ。あぁ、普段は刃の部分はなまくらだから、魔力を込めるのを忘れないようにするんじゃぞ。まぁ切るって言うよりは溶かすって言う方が正しいかもしれんがな」

「そしてもう一つ、この剣には大きな特徴があってじゃな。柄の所にボタンがついてるじゃろう。押し込んでみぃ」
「こうか..........。え?」
「そのように剣が手のひらサイズになるのじゃ。お主のギアは土属性じゃろう?形状変化ができるはずじゃ。この剣が出し入れできるスペースを想像してみるんじゃ。腕の中に収納できるように引き出し式にするとなお良いの」
「アンタ難しいこと言うな。ほら、これでいいのか?」
「上出来じゃ。じゃあそこに剣を入れて、腕の中にしまえ」
「しまったぞ。腕の中に剣があるって、何か変な感じだな」
「まぁそう言うでない。それにお主のギアが土属性でよかったわい。その剣は特別製での。お主のギアと相性は本当に良いぞ。何でもいい、物理武器を想像するんじゃ」
物理武器.....か。特に思いつかなかったから腕をそのまま硬質化した。
「ほれ、お主の腕が熱くなっておるじゃろう。これなら契約せずとも一応はお主のやりたかったことができるはずじゃ。じゃがなんじゃ、契約してやれなくてすまんの」
「.....とんでもない。ありがとう」
契約こそできなかったが、この剣があれば充分だ。これで準備は整った。

早く研究所にもどらないと.....!!
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七話 これから

「..........え?なんだって?」
「いや、だから.....魔王軍の幹部だったやつを仲間にして連れてきたって言ったんだよ」
「あ、どうもこんにちはー」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。頭が爆発しそうなんだが.....」
彼を送り出してから一日たったが、どうやら私の想像以上の結末になってしまったようだ。

確か彼は、一日前、村の仲間の仇を打つために魔王軍を殺すのが目的だったようだ。だがしかしこれはどういうことだろう。多少大怪我して帰ってくるかな、とか思っていたら大して怪我もしてないし、あまつさえ変なおまけがついているじゃないか。
唸り声をあげて悩みを顕にしていると、少し困った様子で彼が話しかけてきた。
「先生、少し悩みすぎじゃねーの?.....こいつ、元々人界の生まれらしくてな。自分の身を守るために魔王軍にいたらしいんだ。どうやら別に執着もしてねぇみたいだし、内部状況を知ってるやつがいると心強いから、仲間になってもらったんだ」
..........なるほど、そういうことか。
しかし、人界の生まれか..........。
「ミラ・ヴィータだ。よろしく頼む。ミラか先生とでも呼んでくれたまえ」
「ご丁寧にどうも。ヨル・ストラトフォールです。よろしくお願いします」
「...........お前、そんな名前だったのか」
「あれ、言ってませんでしたっけ。よろしく、ディアブロさん」
...............仲間にした張本人が名前を知らないってどうなんだい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「とりあえず、これからの目的は決めた。俺は魔王軍を潰す。現魔王を殺して、この世界を変えてやる」
さっきの紹介から10分後、今後どうするのかという話になって、ヨルを引き入れた時に決意したことを明確に言葉にしてみた。
「現魔王を殺す、か。それはまた大きく出たね」
「魔王か。僕もあまり情報は持ってないんですよね。それどころか、幹部の中でも魔王を目にしたことがあるやつって数人しかいないらしくて.....」
「とにかく、だ。もう仲間を殺されるのはたくさんだ。俺は、強くなって魔王軍を潰したい。そのために、各地の魔王軍支部を回りながら魔王を殺す」
「強くなるって言ったって、どうやって力をつけるんだい?ギアにたよるには限界があるーーーー」
「先生、ギアって別の能力を使いながら使う事って可能か?」
「あ、ああ。人が1つしか持つことができない属性魔力に、別の属性魔力を追加することができるのがギアだからね」
「じゃあ大丈夫だ。ここに初めて来た時に俺言ったよな。一族に伝わる能力継承の儀の途中で村が襲われたって」
「あぁなるほど。つまりそういうことか..........!!」
「俺はもう一度村に戻る。そこで、俺の能力を手に入れるために」
「あの、僕おいていかれてるんですけど.....」
「悪いけど後で先生に聞いてくれ。急ぐから今から戻る。じゃあな」
そう言って、俺はドアを開けて走り出した。
「..........全く、勝手な男だ。さて、何から話そうか」



六話 戦闘と.....

やれやれ、ちょっと挑発したらこれだ。
僕は彼に殴られた左の頬をさすりながら言葉を続ける。
「話は最後まで聞いてください。僕は実行者直属の上司ですが、この件に関わってはいないんですよ」
「..........なら、何故ここに来た」
あーあ。瞳孔が開いちゃってるよ。これは相当キレてるな。すんなり殺せないじゃないか。
「簡単な話です。部下の尻拭いですよ。イグニール族の殲滅、まだ終わってないんで...............さっさと死んでください」
ポケットに隠し持っていた拳銃を相手に向け、『魔力発生源を首から腕に移し』素早く3回発泡。彼は何が起きたか理解してない様子だ。なんだ、案外楽かもしれない。


...............どういうことだ。奴のマフラーを棚引かせている何かのエネルギーが腕に移った瞬間、弾丸が肩を貫いていた。幸いギアの恩恵で回復はしたものの、早く行動に移らないと敵を取るまでもなく死んでしまう。早く、攻撃を。
「ジェットブーツと、ブレードッ!」
足に想像したジェットブーツの力で、相手の弾丸を紙一重で避ける。そのまま推進力を利用して相手に切迫。右手に想像したブレードを使い思いっきり切りつけた。
「痛いです.....ねえッ!!」
次の瞬間、相手のつま先に移動した謎のエネルギーと、強烈な蹴りをくらって激しく後ろに飛ばされた。
「ぐはッ..........!?」
「あぁもう、早く死んでくれればいいものをォッ!!喰らえ『黒夜流星群』ッ!!」
いつの間にか二丁になっていた奴の拳銃から、何十もの黒い弾丸が空へ打ち出される。太陽光で煌めいたそれが、雨のように俺めがけて降ってきた。
「..........これも防ぐんですか。しぶといですね貴方」
「.....村のみんなの仇がとれてないのに死ねるかよ。『レールガン、マシンガン』。今度はこっちの番だ.....高エネルギーの雨を喰らえ」
何百ものエネルギー弾が、威力の大きなレールガンの弾を取り囲むように相手をめがけて突き進む。光の速さで進むそれを避けきることができず、相手の肩が血だらけになった。
「痛ってェ..........やって、くれますね。大体なんですかその能力。貴方魔法使えないはずでしょう」
「あぁ。あんたの部下とやらに殺されかけたおかげで手に入った能力だ。礼を言っといてくれ」
「本ッ当に.....使えない部下だなァ」
「お前もそろそろ限界だろ。『ジェットブーツ、アサルト』、そろそろ死ねよ」
ブーツの力で一瞬で肉迫、頭を掴んで地面に叩きつけ、銃口を頭に突きつける。
すると、奴の武器に気になるものを見つけた。
「お前それ、人界製の武器だろ。こっちには出回ってねぇはずだ。どこで手に入れた?」
「これですか.....僕は貴方達の言う、人界から迷い込んで来たんですよ.....」
「..........。なら、なんで魔王軍に入っているんだ」
「自分の世界じゃない以上、その世界で一番大きな組織に入るのが一番安全だと考えたんです.....結果人殺しにはなってしまいましたけどね」
「じゃあ、お前が魔王軍に執着する理由や、裏切りに対する罪悪感もないわけだな?」
「..........どういう、ことですか?」



「..........お前、俺の仲間になれよ」

五話 一撃

「やっと見えた.............」
ミラの研究所から出発してから10時間。山までの距離が意外と遠く、夜が明けてしまった。魔王軍と一刻も早く対峙するために夜は寝ていない。元から俺の一族はあまり寝なくても平気なため、あまりコンディションをおとさずに戦うことはできるだろう。
イグニール族.....古の四龍が一角、イフリートを代々崇め、契約している一族で、村人は18になる日に村から少し離れた、イフリートを祀る祠でイフリートと契約するしきたりとなっている。
またこの世界の人は生まれつき1つの属性に特化した魔力をもって生まれてくるが、イグニール族は生まれついて魔力を持たない珍しい人種である。
俺はもう18だが、契約の儀を行う直前に村が襲われてしまったため、属性特化魔力を持っていない。だがしかし、どうやら俺は村に100年に1人生まれてくる『魔力持ち』らしく、魔法こそ使えないが魔力コントロールは可能だ。あっさりギアを使いこなせたのも、おそらく『魔力持ち』だからだろう。
そろそろ村が見えてきたが、魔王軍の姿が見えない。どういうことだ.....?

辺りを警戒しながら歩いていたら、ぬかるんだ地面に足が滑って転んでしまった。だが雨がふった形跡は無い。周りをよく見渡してみる。すると広場の方に"大量の死体の山"があり、そのふもとに"少年が1人"こちらをねめつけるように立っていた。

「あれ、自分からお出ましですか。随分と死にたがりなんですね.....」

「.............ディアブロ・イグニールさん」

「....................は?」

なんだこいつは。何故俺の名前を知っている。そんな考えを少年は表情で感じ取ったようで、話を続けてくる。

「安心してください。僕と貴方は初対面です。何故名前を知っているのかって顔してますね。簡単な話です。僕が魔王軍幹部で、このイグニール族の殲滅を実行した男の上司だからですよ」

言葉が、でなかった。ただ、怒りは全身から滲み出ていただろう。

「...............殺す」

地面を、抉れるほどに強く蹴る。

「..........お前をッ!ぶっ殺すッ!!」

硬質化した右腕で、相手の顔面を強く殴る感触が全身を駆け巡った。

四話 ギアのトレーニング.2そして

いきなり3体の人形と戦うことになった訳だが.....。
「ぐぁっ!」
3体の人形から繰り出されるコンビネーションに、俺は苦戦していた。
武器を想像するにも、しっかりしたイメージが必要らしい。かと言ってずっと攻撃を受け続ける訳にもいかない。
「まずは1体でも片付けないとな.....」
手数は少なくとも、威力が大きければなんとかなるかもしれない。うってつけの武器といえば.....
「やっぱさっきのレールガンしかねぇか」
あれならさっき使ったからいけるはずだ。思い出せ.....!
「.....よし」
右腕がレールガンに変わった。あとは狙いを定めて..........打つ!!
光弾が銃口から打ち出される。光の速さで飛ぶエネルギーが、機械人形を1体、鉄クズに変えた。
「やっと1体.....!」
あと2体もこれで倒せるだろう。そう思ったのもつかの間。
「....................ガハァッ!?」
重い拳が、腹に入ってきた。
体が地面から離れて壁に向かっていく。吹き飛ばされた体が、壁に強く打ち付けられた。
「..........さっきより速くなってやがる」
レールガンは弾を装填するのに少し時間がかかる。
威力はそのままに、できるだけ手数を増やす。そんなことができる武器は.....
「...............マシンガンか」
そう、マシンガン。弾の大きさこそ小さくなるが、あれなら手数は多い。
そうと決まればやることは2つ。
次の攻撃が来る前に集中、想像。
「..............................」
右手が作り変わる感覚。確認する暇なんかない。次の攻撃がやってくる.....!!
集中集中装填装填ほらほら拳が迫ってくるよけろよけろよけろ!!よけ終わったらさっさと攻撃だと自分の体に命令を送りながら人形達から距離をとる、エネルギーは貯まった。次の攻撃が来る前に.....!!
「....................鉄クズに、なれやァッ!!!」
目の前が弾の雨による光で埋め尽くされる。次の瞬間、目の前には鉄クズが2つ、目の前に落ちていた。

「.....終わった..........」
スタミナが切れて床に横たわる。右腕が軽くなったから、能力も切れたらしい。
「お疲れ様。初めてギアを扱うにしては、なかなかの戦いだったんじゃないかな?」
「うる.....せぇよ..........いきなり.....戦わせやがって.....」
「いやいやごめんごめん。まぁ勝てたからよかったじゃないか」
それはそうだけど.....いきなりキツすぎんだろ、コレ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「さて、一応能力には慣れたと思うが、君はこれからどうするんだい?」
「.....そうだな、多分まだ魔王軍の奴等が村に残ってると思うからーーーー」

「ーーーー村に戻って、そいつらを殺す。生き残ったのは俺一人だ。復讐したいと思うのは当然だと思うが」
「うん、まぁ私は別に復讐云々に口を出す気はないよ。ただまあ.....」
少し躊躇った様子を見せながらミラは続ける。
「怒りに身を任せるのだけはやめてくれ。君の力の鍵は想像力なんだ。冷静に、状況を把握しながら戦ってくれたまえよ」
「..............................あぁ。善処するよ」
言いながら俺は立ち上がる。
「早いに越したことはない。今から戻る」
「うん。..........気をつけて」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ディアブロが住んでいた村で、2人の男が対峙していた。月明かりで地面が照らされる中、片方は既に虫の息だ。
「なんで...............お前が俺を.....仲間...............だろ..........?」
「.....なんで、ですか。そうですね、まぁ貴方が任務を失敗したから、ですかね」
「任務は.....成功.....したはず..........村の人間は...............全員.....殺しただろ.......?」
「甘いんですよ。貴方1人逃がしてますね。ディアブロ・イグニール。彼がいないじゃないですか」
「そんな..........俺は確かに.....殺した.....はずだーーーー
グチャッ。虫の息だった男の頭が潰れる。血まみれの土に、新しい血の水たまりができた。
「ごちゃごちゃ五月蝿いんですよ。失敗は失敗。さっさと死ねばいい。」
男を殺したのは17歳くらいの少年のようだ。少年は続ける。
「はぁ。異世界..........、授業で習った限りでは魔界だっけ.....に迷い込んでから3ヶ月。運良くそこにあった大きな組織に入れたのはいいけど、元の世界に戻る方法はわからないし部下も使えないし......」
「...............僕が本気でやるしかないか」
土埃をはらいおとして、少年は決意した。

三話 ギアのトレーニング.1

「....................へぇ。そんな貴重な物を俺なんかに使ってもよかったのか?」
「問題ないよ。私は実験サンプルが欲しかった。そして君は命を取り留めた。お互いに損は無いんだ」
「損.....か。俺にはもう帰る場所が無いから、死んだままでもよかったんだがな」
「ああ、そうかすまない。これはwinwinな関係なんかじゃなかったね」
そう言ってミラは、右手の人差し指をピンと伸ばして続ける。
「私は君に住処と戦いの術をあげよう。だから君は、その能力を使って私にギアのデータをくれ。他に見返りは求めない。悪い条件ではないだろう。私に協力してくれないだろうか」
「..........その提案に乗れば、魔王軍を倒す力は手に入るか?」
「君の潜在能力と、想像力しだいだが、位の低い幹部くらいなら倒せるんじゃないかな」
「...............わかった。協力する」
「よし。君を助けて良かったよ」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「君に埋め込んだギアだが、少し他の物と性質が違ってね。細胞の硬質化の他に、形状変化なんてことができるんだよ」
俺が提案に乗ってから1時間。俺達はミラの研究室の地下にある、だだっ広い空間に移動していた。
「形状変化については君の想像力が必要なんだが、君はキャノン砲を想像できるかな?あぁ、部位については体のどこでも構わないよ」
キャノン砲.....。ぶっといレーザーが出る銃に似たものしか思いつかないが、それでいいのだろうか。
あれ、なんだか右腕からガションガション音が聞こえる。右腕を見てみると、俺が想像した通りのキャノン砲に変わっていた。
「.........................え?」
「へぇ。君はなかなか想像力が豊かなようだね。スマートでかっこいいじゃないか」
ミラが壁を指さして一言。
「ちょっとそれをぶっぱなしてくれるかい?あぁ、壁に当たったエネルギーは電気エネルギーに変換してくれるから問題ないよ」
どんな科学力だそれは。まるっきり表の世界の技術と同じじゃないか。
「撃つぞ」
ッドオォオォオォオォオン。光弾が思いっきり壁に当たって霧散した。壁は無傷だ。
「なるほど。レールガンみたいな感じで想像したのか。硬質化した細胞を無駄に消費せず、更に細胞が硬質化したときのエネルギーを魔力に変換して打ち出してるみたいだね。実に効率がいいよ」
「別にそこまで考えた訳じゃないけどな。それよりこれはキャノン砲じゃなかったのか」
「キャノン砲ってようは大砲だから、でっかい弾が打ち出されるものなんだけどね。まぁこっちの方が効率いいよ。それより、オートで魔力に変換する繊細なエネルギー操作をやってみせたんだ。君にはどうやら非凡な魔力干渉能力が備わっているみたいだね。とても興味深いよ」
なんだかミラは楽しそうな訳だが、俺としては村を襲いったあの下衆を一刻も早く追いかけたい。
「他になにかやるなら早くしてくれないか」
「..........あぁ!すまないね。君は繊細な操作が重要になるこの能力にうってつけな能力を持っていたし、そうだな、ちょっとトレーニングを前倒ししてしまおうか」
そう言ってどこからか取り出したスイッチをカチッと押すと..........。
..........上から機械人形が3体降ってきた。
「今から君にはこの機械人形を、ギアの能力を使って倒してもらうよ。私は上から傍観しているから、頑張ってくれたまえ」
ミラは素早く上の部屋へ逃げていった。
「..........いきなりかよ.....」
.....早く外に出たいんだが。

二話 ギア

「その前に私の紹介をしようか」
目の前の女性は自信たっぷりに胸に手を添え告げる。
「私の名はミラ。ミラ・ヴィータだ。先生とかミラとでも呼んでくれたまえ。さて、もう一度聞こう。君の名前は?」
「.........俺の名はディアブロディアブロ・イグニールだ。教えてくれ、ここは何処で、俺は何故生きている」
「そうだね。君には話を聞く前に、まずは話さないといけないことだらけだ」

「とりあえず、場所を移そうか」

          ************

「まずここが何処かって話だったね」
ミラと名乗った女性はくるっと一回転して話を始める。どうやら大袈裟な仕草が好きなようだ。
「私はこれでも医者でね。ここは、私の診療所、兼研究所ってところかな。君のことは、あの火山が噴火した日の次の日に、その火山で発見したんだ」
「.....俺以外に生きてた住民は?」
「いないね。みんな死んでたよ」
やっぱりか。その話を聞いた途端に、俺の俺に対する怒りが再び込み上げてきた。
「俺があの時ちゃんと村に残っていれば...‼︎畜生ッ‼︎」

「落ち着きたまえ。とりあえず、君に何が起きたか、話してもらってもいいかい?」
「......あぁ、そうだな」

****************
「あの日、俺は村で代々継承されてきた、固有能力を受け継ぐために、村から少し離れた祠にいたんだが、どうやらその能力を狙って、魔王軍が攻めてきたらしいんだ」

「魔王軍...か」

魔王軍とは、この世界を束ねる組織の名前だ。力のある者であふれたこの世界を統治するために、強い武力でもって各地を征圧している。

「奴らは俺がいない間に、山を噴火させ、村を溶岩で囲み、力づくで能力を奪おうとしたらしい。俺が村に戻ったときには、みんな...死んでいた」

「これが俺がここで目覚めるまでの全てだ」

俺は少し間を空けて言葉を続ける

「俺も魔王軍に胸を貫かれたはずなんだが、何故生きているんだ?」

「それについては、どこから話せばいいかな」

「君は、『ギア』って知ってるかい?」

「ギア?...聞いたことないな」

「ギアっていうのは、近年各地で見つかった、『1人につき1つしか無いはずの、どれか1つの属性固有能力に、もう1つ能力をプラスする』といういわばオーパーツなんだ。私は『体の細胞を鉄のように硬くし、また武器などに体の一部を変形させることができる』というギアを持っていてねーーーーー」


「ーーーーーーすまない。君を助けるために、君にこのギアを埋め込んだ」