世界史は99%、経済で作られる

 

世界史は99%、経済でつくられる

世界史は99%、経済でつくられる

 

世界史を教科書的に追っていくのではなく、重要な産物の流れを負うことで権力の興亡を理解しようという本は多くあります。すぐ手に入る新書を眺めるだけでも、砂糖の世界史、茶の世界史、チョコレートの世界史、コーヒーの世界史、ジャガイモの世界史などなど。これらはもちろん何らかの通貨を用いて取引されるわけですから、貨幣の流出・流入や交易ルートの支配を通して国力に影響を及ぼし、時に政権の崩壊や戦争に発展して世界史に影響を残します。

貿易による国家間の軋轢に限らず、貨幣はあらゆる形で国家の発展を支え、制度が崩壊すればこれを滅ぼします。歴史のほとんどの時点においては最終的に国家を滅ぼすのは軍事的な行動ですが、その原因は必ず経済に求められるということがこの本の趣旨であると言えると思います。

この本では時系列を大きく古代・中世・近世・近代・現代と分け、主にヨーロッパと中国、近世ではイスラム、現代ではアメリカを含めた地域を扱っています。歴史の流れの背後にはどのような経済の動きがあったのかを辿っていくことで、年表の上でしか知らなかった国家がなぜその時代・土地に存在したのかを明らかにしていきます。

 

時代や地域に関わらず同じような流れが現れることもあれば、個別の事情が支配することもあります。実物貨幣を用いれば、それぞれの国や地方における金銀の産出量の違いから交換比率も異なり、商人たちによって金または銀が外国に持ち出され交換されて経済が混乱しました。中世から近世にかけては新大陸や日本産の銀の流入などがあり、ヨーロッパでは価格革命が起こり、明王朝では銀不足が解決に向かいました。

早くから北宋、金、南宋、元、明などの王朝が紙幣を発行していた中国では、国家が紙幣の発行枚数の上限を定めていました。しかしこれら全ての王朝において、官僚の腐敗などによって経済状況が悪化すると紙幣の乱発が起こり、定めた上限の数十倍の紙幣が発行されて過剰なインフレを引き起こして経済を崩壊させ、やがては王朝が滅亡するに至りました。

また大航海時代に名を馳せたポルトガル、スペインはその開拓費用をジェノヴァからの融資に頼りました。これはヴェネツィアとの地中海貿易を巡る争いに敗れたジェノヴァが資金の行き先を求めてこれらの国に投資をしたからですが、ジェノヴァは発達した金融システムによってヨーロッパ各国から低利で融資を集めることができたため、高利で国債を引き受けてもらっていた両国の新大陸からの収入の多くが流出していました。

 

このように、各時代や土地の経済の力学が解説されていますが、書評を書こうと思っていくつか検索してみると、wikipediaなどとの記述が大きく食い違うところが散見されました。例えばこの本では中世のノルマン人による両シチリア王国は、ローマ教皇がノルマン人の優れた造船技術をもって十字軍を支援させるため招き入れたとあります。しかしwikipediaにはノルマン人の南イタリアへの進出は数十年に及ぶ征服の結果であり、途中から教皇の思惑によって支持されることがあったにしても、ノルマン人そのものを招き入れたとすることとは矛盾します。

それでも大筋で現代の視点から歴史上の経済や金融システムの流れを追い、国家の興亡のダイナミズムを記述する試みは自分にとって新鮮なもので、非常に楽しく読むことが出来ました。経済の視点から見る世界史ですから、ヨーロッパ〜中央アジア〜中国のつながりが主軸であり、近代まで極端に発展することのなかった南米やアフリカ、東南アジア等の記述がほぼなかったことは不満点ではありますが、範囲が絞られていることも分かりやすさに貢献していたと思います。

現代の金融入門

 

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

現代の金融入門 [新版] (ちくま新書)

 

金を稼ごう→経済ニュースを見よう→経済の常識がない

ということで経済学の勉強をはじめました。

2016年の頭にKhan Academyでミクロ経済学マクロ経済学、金融と一通り通したんですが、まともなテキストに挑む前にそれぞれ一通り日本語の薄い本を通すところからスタート。

マクロ経済学の方がより理解が浅いかな?と思い、 『マクロ経済学 -- 入門の「一歩前」から応用まで』という本を買ってみました。表題の本は以前から積んでた本で、金融部分に関する副読本として並行して参照して、先に読み終わったので書評を書いておきます。

 

目次的には前半は金融取引の意義から入って銀行システム、中央銀行の役割と紹介していきますが、ここまでは普遍的な説明を心がけているようで具体例が乏しい、というかほぼありませんでした。「一歩前」の方が日本のシステムを例にとって説明していたため理解の助けになりましたが、以前この本を買ったときは自分の中に例を持っていなかったので前半で読むのをやめてしまっていた記憶があります。しかし、信用創造のメカニズムについての説明はより詳しく載っていたり、副読本としてはかなり相性がよかったと思います。

後半は資産価格の決まり方とバブル、日本の企業統治、金融機能のunbundling、金融規制と続きます。最終章以外のそれぞれの章に対応して日本のバブルとその崩壊、バブル以後の企業統治、米国のサブプライムローン問題を事例として取り上げています。各章ごとの構成はよく練られていると感じました。例えば「資産価格とそのバブル」の章では資産のファンダメンタル価値(その資産がもたらすキャッシュフロー流列の現在価値)を導入した後に、ファンド管理者などの代理人と資金提供者である依頼人の立場の違いから発生するインセンティブの歪みや裁定行動の限界によって資産のミスプライス=バブルが発生・持続するといったように、前提知識のないところからバブルやその崩壊の構造が理解できるようになっています。同様に「金融機能の分解と高度化」の章ではIT化により外部組織との分業コストが下がったという背景をもとに、様々なリスクが証券化されたことによって銀行以外のプレーヤーが関わった複雑なリスクの取引が行われ、同時に銀行に対して存在していた金融規制を免れていたことがサブプライムローン問題が全面的な金融危機に発展した原因として説明されます。

2010年初頭に刊行された本なので、リーマンショック後の各国の中央銀行の非伝統的な金融政策などについては記述が薄いですが、全体としてある程度時系列に沿った章立てになっていると言えるので、これらの記述を入れると構成が難しくなるかもしれないですね。

 

自分がたまたまそうしたように、マクロ経済学の入門書の副読本として用いる使い方にはかなり向いている本だったと思います。あくまで(ひとつの経済に関する)金融に関しての入門本なので、具体的な金融商品であったり投資、また為替やそれに関連する中央銀行の行動などについては記述がほぼありません。そういった目的にはまた別の本を参照する必要があると思います。しかし自分の場合にはそういった本やニュースなどから入っていまひとつ理解が進まないという状況があったので、必要なバックグラウンドを身につけるという目的に適う本でした。

マクロ経済学 -- 入門の「一歩前」から応用まで (有斐閣ストゥディア)

マクロ経済学 -- 入門の「一歩前」から応用まで (有斐閣ストゥディア)