『footballista』のWEB記事の補遺―どうしてレッドバードが優位に立てたのか?

ちょうど先週、『footballista』のWEB版に記事を寄稿する機会をいただいた。エリオットという米国のファンドがインヴェストコープというバーレーンのファンドにミランを売却する交渉が進んでおり、その背景を取り上げた。すでにお読みいただいた方には感謝を申し上げるとともに、まだお読みでない方はぜひとも目を通していただけると幸いである(有料会員限定の記事だが、10日間無料キャンペーンもある)。

 

www.footballista.jp

 

だが、記事が公開された2日後の5/5に英国のSky Newsから驚きのニュースが飛び込んできた。米国のレッドバード・キャピタル・パートナーズというファンドがミランの買収レースに参戦したというものである。

 

news.sky.com

 

以降、状況が一変してしまったために、上記の『footballista』の記事を補う目的で久しぶりに本ブログを更新した次第である。インヴェストコープは着々とミランの買収に向けて交渉を進めていたにもかかわらず、現在はレッドバードのほうが有力候補となったようである。以下にその理由を述べていきたい。

 

最大の理由はインヴェストコープの資金調達方法に対してエリオットが難色を示したことにある。まずミランを買収する対価として12億ユーロが必要であると言われており、そんな大金をファンドが自前で用意するのは難しく、インヴェストコープは3分の1にあたる4億ユーロを他の金融機関から借り入れる形で調達することにした。だが、エリオットはそれをミランの負債とする、つまり、ミランが自分のキャッシュフローから返済することに抵抗したようである。ここで交渉にブレーキがかかってしまった。

 

 

www.ilsole24ore.com

 

そうした状況のなかで、借入金もなく買収対価の全額を自己資金で支払うとオファーしたのがレッドバードである。つまり、ミランとしては財務的により健全なオファーである。しかも、最初はインヴェストコープよりも低かった金額をそれを超えるレベルまで引き上げたようで、現在、買収レースをリードするに至っている。

 

www.milannews.it

 

 

ここで一旦立ち止まって考えてみよう。売り手のエリオットの立場として、買い手がどのような資金調達スキームを採用しようとも、ミランを売却してしまえばリターンを確保できるので、そんなことはどうでもいいのではないか。しかし、彼らはそうは考えなかった。最後にエリオットの思惑について考察することで補遺を締めくくることにしたい。

 

仮にインヴェストコープのスキームが通ったとしよう。その場合、ミランは多額の負債を負うことになり、せっかく稼いだキャッシュの一部を毎年、元本の返済と利息に回すことになる。さらなるクラブの成長に向けて、選手、テクニカルスタッフ、フロント、施設等に投資をする必要があるにもかかわらず、その原資を食われる事態に陥る。それではミラニスティをはじめとしたステークホルダーは不満を抱くだろうし、世の中からの評判が悪くなる。それを避けるためにミランに買収資金を返済させるスキームを望まなかったと考えられる。

 

アルゼンチンから債務を返済してもらうために法廷闘争も辞さなかったこと等から、利益のためにはあらゆる手段を追求する強欲なイメージがエリオットについてまわっていたが、そんな印象は薄れつつあるのだろうか。いや、今回はあくまで彼らは自身の最善の利益を追求しているだけであり、幸いなことにミランの最善の利益と一致しているだけなのだろうか。

 

 

 

 

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かくしてromanitàは引き継がれる

フロレンツィがジェノア戦の前にトッティに宛てたメッセージを訳す。今回もイタリア語の練習になるように原文とその下に訳を書く。


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8代目の王よ、永遠なれ

トッティの別れの言葉は、いろんな人が訳しているが、私の場合は彼らのように美しく意訳することはできない。イタリア語とローマ方言の勉強という意味も込めて、彼の生の言葉を書き起こし*1つつ、それをできるだけ忠実に訳したもの、つまり硬い翻訳を提供したいと思う。ローマの公式サイトに掲載されている文を読み始める前に彼が話した部分も掲載する。

 

「ローマ方言は関西弁に似ている」という持論から、ローマの訛りが抜けないトッティの言葉を関西弁にして翻訳するか迷った。しかし、猛虎弁と誤解され真剣に読まれないことが想像できたので、標準語で訳す。トッティのイタリア語がいかにローマ方言に影響されているかは、原文に脚注を付すことで示した。イタリア語を学習している方は読んでみると面白いだろう。

 

*1:そのためにローマの公式サイトに掲載されているものと違う部分もある。

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