れぐるすの丘

読書感想文

FACTFULNESS を読みました

有名な自己啓発書はとりあえず読んでおこう。有名であるということはそれだけ多くの人々に共感を得られていているということ、すなわちその他大勢の中にいる自分にも得られるものは多いだろうというモチベーションだ。

本書の副題として「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」とあるように、わたしたちには本能として10の思い込みが植え付けられているようだ。それらによってものごとをとんでもなく勘違いして認識しているという。本書はそれらの説明とわかりやすい対処法を具体的に教えてくれる。

人類の脳は何百万年という進化の産物であり、長い目で見るとそのほとんどの期間を狩猟採集によって生き抜いてきた。現代のような生活ができるようになったのは本当にわずか数千・数百年の話である。厳しい環境で生き残るために培われた本能はそう短い時間で変わることはなく、かつては重要であった本能が現代の社会ではかえって誤解を生む原因となっている。この類の話は Chatter でも出てきたっけ。

たとえば「ネガティブ本能」「パターン化本能」「犯人探し本能」などだ。自分は理性的に行動できてきていると思っていても、思い返せばそうした本能によって動かされていたことばかりだった。特にネガティブに考えがちだったり、1つのケースをすべてに当てはめようとしたりすることは誰しも経験があるだろう。

本書は世界の様々なトピックに対して、わたしたちの本能による間違ったものの見方を明るみにしている。幾分スケールの大きい話に聞こえるが、実際は日々の暮らしで有用なものばかりだ。今日見たニュース、小耳に挟んだ話、SNS で目にしたトピックなど、ありとあらゆる情報にあふれている現代社会の処世術にほかならない。

まずは本能によって気づかぬうちに行動を選択していることに気づくところからだろう。目にした情報を単に批判的に見るというわけではなく「今自分は本能によって意思決定しようとしている」と、自身を俯瞰して見るためのツールとして身につけたい。

とはいえ行うは難しで、おそらく今後も本能によって動かされることは多々あるだろう。でも少しずつ前進すればいい。その進捗はドラマチックではないが、それでいい。ゆっくりとした進捗に目を向けていきたい。

本書で紹介されていたドル・ストリート (Doller Street) だが、とても興味深かった。人々の生活は所得によるところが大きく、地域差はあまりない。また、実はほとんどの人が中間にいて、ものごとはグラデーションしていることがよく分かる。

www.gapminder.org

「アフリカでは1分間に60秒が過ぎています。」という古いネタがあるが、これ実は単に笑えるネタではなく「事実」を見るために大事なことなのかもしれない (?) とちょっと思った。

Chatter を読みました

どうしてあのときあんなことを言ってしまったんだ?なぜ自分の行いはいつもネガティブな方向に働く?いつもこうだ。これから先もずっとこの心配事と向き合って生きていかなければならないのか?————

夜ベッドに入ると過去の失敗や将来への不安が呼び起こされ、まるで諳んじているかのように思考の負のスパイラルから抜け出せなくなり、眠れず、そしてまた翌日のパフォーマンスが悪くなる…… といった経験が過去に何回もあった。

本書によると、「内省」という人類に備えられた素晴らしい能力が、循環するネガティブな感情と思考により呪いに変わり、思考によって思考が救われなくなる状態、それを引き起こすなにかを「チャッター」と呼び、このチャッターをうまく対処し人生をより豊かにする方法や事例が研究結果をもとにまとめられている。

一言で表してしまえば「物は考えよう」だとか「リフレーミング」といった類の話である。

ただ、ネガティブな思考に陥っているときはこれらの難易度が鬼になるのは自分の経験からも明らかで、そうした状況から抜け出すヒントとツールを提供してくれる。

数ある中のひとつ、自分の思考と距離をおいた対話について見てみると、自分を名前で呼ぶ、「わたし」ではなく「あなた」と呼ぶ、友人と会話している想定で話す……などによって、自分の思考を俯瞰して見ることができ冷静さを取り戻せるという。

また、個人の内面の話だけではなく自然の効能などについても話されている。たとえばストレスを感じるとキャンプに行ってひたすら焚き火を眺めたくなったり、威容を放つダムを目の当たりにして自分のちっぽけさを認めたりするのは非常に理にかなっているようだ。

個人的にとても良かったのは、本書は成功した人による生存者バイアスの押し付けではなく、数多くの研究結果から人間の普遍的な特性に着目し、多くの人に効果がある方法が書かれていることだ。研究結果に裏付けされた説得力は大きなプラセボとなる (プラセボの効能については本書にも書かれている)。それはこの人がすごかったからできただけだろう、という天邪鬼が通用しないのがいい。

ストレスや苦難に直面してチャッターが顕現したとき、(実際に効果があるかどうかはさておき) これらのツールや対処法を知っているだけでかなり気が楽になるだろう。もちろんそうした状態に陥らないに越したことはないが、苦難を乗り越えたほうが経験値が美味しい、くらいのポジティブさを維持していきたいものだ。

ひとりアジャイルプラクティスを1年続けた

早いもので2023年もあっという間に終わってしまった。今年は30歳になったのと (厳密には昨年末) 生活が大きく変わったこともあり、これからの自分の人生について考えることが多くなった。
どうやらこれ「クォーターライフクライシス」と呼ばれ、アラサーが陥る自分の人生に思い悩む時期のことらしい。こういう名前がつくってことは、多くの人に当てはまる普遍的な現象なんだろう。

ひとりアジャイルラクティス?

こうした不安や憂鬱を紛らわし前向きになるためにメタ認知をして自己肯定感や自己効力感を養いましょう、という話はよく耳にする。具体的な方法やアクションは人それぞれだと思うが、個人的には「誰に言われるでもないけど自分がやったほうがいいと思えることに取り組み、頑張った自分を自覚すること」だと思っている。
しかしながら、そうした前向きな活動を継続していくことに課題があった。いわゆる3日坊主というやつである。

そこで、普段仕事で使っているアジャイルの考え方をプライベートにも取り入れてみようと思った。活動をフレームワーク化してしまえば、従うだけで少なからず成果は出るだろうという寸法だ。
とはいえ個人的にやるものなので、プラクティス自体が大変になってしまっては元も子もない。そこで「日記」を拡張して日々のなかに組み込んでみることにした。具体的には

  • 日曜夜
    • 今週のふりかえり
    • 次週のプランニング
  • 毎晩
    • 日記

を1週間サイクルで回した。

1年続けてみた感想

日記やりたいなーとは前々から思っていたものの、今までなかなか実行に移せていなかった。
今回日記をつけることに加えて上記のアジャイルラクティスを組み合わせることで、強制的に自分と向き合う時間を作ることができたのは思ったよりも効果的だった。

  • 毎日セルフモニタリングの時間が確保される
  • 週の最初にプランニングにより、自分がやるべきことがブレない
  • 日中のモヤモヤやストレスを溜め込まずに吐き出せる
  • ふりかえりで軌道修正と次週のアクション・目標を定められる

日記やふりかえりを行うことで、不意に感じる不安や焦りと向き合うための時間を確保できるようになった。「このままでいいのかな」をぼんやりと抱えたまま過ごさずに済み、日中の煩悩に振り回されることが少なくなった気がする。そしてプランニングでやるべきことを決めるので、普段はそれを実行するだけ、つまり日々の行動を行う前に雑念や無駄な思考が生まれる隙がないので行動に迷いがなくなった。

また、あえて手書きの日記帳を使うようにしたがこれも良かった。普段の生活で活字を書く機会が全く無いため、ペンを持って紙に書くという非日常の行為によって自分と向き合う時間により集中する特別な行為のように感じられた。

最初は1ヶ月続けられればいいだろうと思っていたが、なんだかんだ1年続けることができた。実際、自己研鑽の習慣化がかなり省エネで実現できたと思う。結果として目標の TOEIC 800点も達成できたし、自己効力感の向上も感じられたように思う。

来年ももちろん続けていきたいし、周りにも広めていきたい。

チームトポロジーを読みました

「チームトポロジー」といわれても、どうやらそういう本があるらしいくらいの認識だったが、 今回実際に読んでみて、現在の組織に関する課題やあるべき姿について改めて一考する機会を持てた気がするので紹介したい。

きっかけは、以前、InnerSource Commons の主催する「DevOps組織論から学ぶ組織間連携のあり方とは?」というイベントで、チームトポロジーについての説明を見たことに始まる。 現代の組織が抱える課題と、それを解決するためのチームトポロジーのメカニズムについて非常にわかりやすく説明されており、今自分が感じているぼんやりとした課題についてまさに言い得て妙であった。 特にチームの認知負荷に対して問題があると感じていたものの、何がどう負荷になっているのか現状を把握できていなかった。
なので、チームトポロジーに対する理解を深めて現状を知り、組織の環境を良くしていく方法について知りたいと思った。

本イベントのアーカイブYouTube にアップロードされているので、チームトポロジーについて知りたいという方はぜひ見てほしい。


www.youtube.com

チームトポロジーとは

現代のソフトウェア集約型企業における組織デザインのモデルであり、開発チームやビジネスのパフォーマンスを向上するため

  • コンウェイの法則
  • 認知負荷の制限
  • チームファースト思考

に重点を置き、これらの実現のために4つのチームモデルと3つのコラボレーションというチームの関係性を整理した概念とメカニズムを提供するものである。

詳しくは上述した資料を参照してもらうのが良いと思う。

感想

率直な感想としては、結構難しい印象だった。自分が組織論・組織デザインなどの分野についての基礎知識がほとんどなかったので、読み進めて理解するのに時間がかかったうえ、1周読んだだけでは20%も理解できなかった気がする。 特に概念的なものに対する適切な日本語訳が無いため必然的に横文字が多くなり、仕方ない部分ではあるが内容が入ってこない部分が多々あった。これは自分の読解力の問題かもしれない。。
その後読書メモを作成する上で何回か読み直し + InnerSource Commons でのセッションを見直しながらようやくある程度理解できたなという感じ。

また、いくつかケーススタディが取り上げられていたが、日本の企業カルチャーと乖離している部分が多く、今の組織や JTC ではそのまま適用するのは厳しそうという印象を受けた。

一方で、チームファースト思考における認知負荷をもとにした責任範囲の制限、チームが扱うドメインの種類の制限などの内容に対してはかなり参考になった。

  • 現状チームが抱えている認知負荷にどのようなものがあるのか
  • それらの認知負荷が何に該当するのか
  • チームが持つドメインの複雑度は何に分類されるのか

を認識することが重要だと感じた。

今まではなんとなく「認知不可が高いな」と感じていたものの、それを言語化するのが難しく実態が見えていなかったが、チームトポロジーを読んでこのあたりが明確になった気がする。

ただの一般社員がいきなり組織構造を変えようとするのは無理があるので、チームトポロジーの考えを共有しすることで各チームや組織が持つ認知負荷を明確にし、ドメインの適切な状態を考えるきっかけを作り出せたら良さそうだ。