とがめも

巨人の肩に立つ。民間病院の看護師、大学院生。すぐ忘れるので、学習置き場として

入院患者に対する栄養管理に関する大規模RCT2019

栄養リスクがある入院患者に対する、プロトコルガイドによる個別栄養管理RCT2019
Lancet
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/31030981/

 

D:スイス多施設RCT
P:栄養リスク(NRS2002≧3)がある入院患者2088名
I:プロトコルガイドによる個別栄養管理は、
C:通常ケアと比較して、
O:30日間の複合アウトカムを低減した(7% vs 10%, ajusted OR0.79[95%CI0.64to0.97],p=0.023)
栄養管理による副作用発生に差があるとは言えない(16% vs 14%, ajusted OR1.16[95%CI0.90to1.51], p=0.26)
30日間でのBarthel indexは改善した(86±26 vs 85±30, OR3.26[0.93to5.60],p=0.0006)
30日時点での健康関連QOLは高い。

10%以上のBarthel index低下を抑制した。

 

 

プロトコルガイドによるカロリー及びタンパク質ゴール定義は、管理栄養士及びNSTによって、初回評価は入院48時間以内に行った。
・カロリーは、Harris-Benedictの式を用いて算出した。

http://www.peg.or.jp/care/nst/sanshutu.html

 

・タンパク質は、1.2-1.5g/kg/dayで算出した。

 

 

カロリー及びタンパク質ゴール到達率は、介入群で75%程度、対照群で55%程度であった。

 

感想

対照群のゴール到達率が低い。外的妥当性の問題はあるが、先進国の急性期病棟の世界的な現状を示唆する結果ではないだろうか。
管理栄養士、NST、低栄養が、さらにフォーカスされそう。

 

 

せん妄スクリーニングツール(ICDSC)開発論文

ICUにおける、せん妄スクリーニングツールICDSCの開発論文を紹介します。
せん妄のスクリーニングツール論文を読んだことがなかったので、とても勉強になりました。

特に3チームでの評価がよかった。

 

↓日本語版

http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/e-ccm/_src/343/ICDSC.pdf

 

↓日本語版信頼性・妥当性評価論文

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ymj/63/2/63_103/_pdf

 

以下原著を読んだ。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 ICDSC開発論文2001
Intesive Care Med
IF15.0

 

 

D:尺度開発、横断研究
P:ICU患者93名において、
E:せん妄発生した15名(16.1%)は、
C:せん妄発生なしの患者と比較して、
O:
ICDSC≧4点である割合が高い(14名(93%) vs 15名(19%))。
後者のせん妄発生がない15名のうち、14名は、精神疾患認知症、器質的神経学的異常を有していた。
せん妄陽性における、ROC曲線のAUCは0.9017
ICDSC4点をカットオフ値にした時の、感度は99%、特異度は64%であった。
クロンバッハα係数は、0.79(許容範囲0.65-0.90)。
とても使いやすいツールという印象。

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詳しく
・背景
ICUにおけるせん妄は、臨床評価は難しい、特にIPPV患者では。
スクリーニングツールが、せん妄の区別を改善する可能性がある。

・研究対象
1998-1999年の3ヶ月間、16床の外科ICUに、24時間以上在室した重症患者を対象として、無作為抽出した。

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・ツール開発
IPPVが80%であることから、言語に依存する回答を求める項目を除外した。
意識障害がある可能性が高いことから、複雑な回答を求める項目を除外した。
鎮静されていることから、質問紙への回答を制限した。
透析や医学的安定が難しい可能性があることから、長時間を有する評価は、非実践的であると考えた。
他にもあるが…
以上を考慮して、十分に認識されている心理学的な分類に基づくスクリーニングツールを作成した。
容易に、担当医や看護師がベッドサイドで、すべてのICU患者に対して、最小限の時間で評価することができる。


・ツールでの評価方法
3つのチームで評価を行った。
1)Checklistチームの担当看護師が、毎朝、過去24時間(もしくはシフトごとに過去8時間)の情報収集に基づいて、ツールにより評価を行った。(構成員は4人の研究ICU看護師、認定内科医、1人のフェロー、1人の精神科医)
2)Studyチームがせん妄発生を診断した。(構成員はICU担当医、研究ICU担当医)
3)Psychiatryチームがスケール評価を盲検して、それぞれの患者を評価した。(構成員は認定精神科医)
サンプルは2人の独立した調査者が無作為抽出した。


・せん妄診断
以下のDSM-ⅣによるA-Dの項目に基づいて、せん妄診断を行った。
A)Disturbance of consciousness 􏰀i.e., reduced clarity of awareness of the environment) with reduced ability to focus, sustain or shift attention.
B) A change in cognition 􏰀such as memory deficit, disorientation, language disturbance) or the development of a perceptual dis- turbance that is not better accounted for by a pre-existing, esta- blished, or evolving dementia.
C)The disturbance develops over a short period of time 􏰀usually hours to days) and tends to fluctuate during the course of the day.
D)There is evidence from the history, physical examination, or laboratory findings that the disturbance is caused by the direct physiological consequences of a general medical condition.

・注意
級内相関によると、Q1意識障害が、その他の設問とr=0.78-0.85を示した。
意識障害の状態が、合計スコアへ影響を与え、診断が難しくなるかも

ICU看護師の職務負担軽減のための多様式研修に関するRCT、JAMA2018

ICU看護師の職務負担に対する多様式研修が有用であったという2018年の多施設RCT
JAMA(J Am Med Assoc). IF47.6

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

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結果は、
D:8施設RCT
P:フランスICU看護師198名(少なくとも6ヶ月のICU経験者)を対象として、
I:2週間で5日間研修を行った群は、
C:記載なし(参加しない群?)と比較して、
O:
6ヶ月時点での職務負担あり割合が54%低下した(13% vs 67%, mean defference:54, 95%CI[40-64],p<0.001)
欠勤割合が7%低減した(mean defference:7%, 95%CI[1-15%])

 

少し詳しく読むと、
・割付について
施設からの研修参加者抽出は、Chief nurseが行っている?
PCによる1:1比のブロックランダム割付(ブロックサイズ4-8)
盲検化ではない、個人レベルでのランダム化ではない

・介入について、
内容は、
ICU看護師がストレスを感じる状況対処(CPA、呼吸不全、終末期)、
②組織に関連するストレス対処(座学、ロールプレイ、職務負荷分布?)
③職務状況(コミュニケーション欠如、自律性欠如、違和感を感じること)
期間は、1週目連続3日間、2週目連続2日間
費用は、5日間の研修費€2000(約26万!?(124円/ユーロ))
研修デザインは、developed by a team at the simulation center of the Faculty of Medicine and Health Sciences, AixMarseille University, which comprises physicians and qualified nurses (each held a degree in simulation teaching)。

 

詳細をSupplementalを確認したところ、 呼吸不全、循環不全、脳神経障害の座学とシミュレーション(特にデブリーフィングに力を入れたスケジュール)であった。

 

 

・データ収集
2人の訓練された看護師調査者が一貫した方法で3時点で収集した
①介入前時点、②6か月時点、③12ヶ月時点

職務負担評価は自記無記名質問紙、調査IDで識別した。
主要評価項目は①JCQの職務負担あり
①Job Content Questionnaire(JCQ):26項目、4件法
スコア幅(職務負担閾値)、psychological demand: 19-25(≧21)、decision latitude:59-81(≧72)
同質問紙によるフランス労働者24,000人の調査結果では、職務負担あり率は23%

日本語版もありますね。JCQについて


②psychosocial factors at work (Copenhagen Psychosocial Questionnaire(COPSOQ):46項目、9件法?
スコア幅、0-100。高スコアが良好な結果
フランス調査結果では、52±20点。


・サンプルサイズ推定が主要評価項目に準じて行われている。


・統計解析について
ITT解析(割付に基づく解析)であり、中間解析も計画され、解析計画はSupplementとして提出されている。
モニタリング組織の記載あり。
主要評価項目解析は、6か月時点のJCQ職務負担あり割合をχ2検定
副次評価項目解析は、JCQ・COPSOQ総スコア、JCQサブスコアををMann-Whitteney検定
それぞれの多変量解析は、ロジスティック回帰モデルを用いて、調整因子はベースライン特性で有意差を認めたものを設定した。
感度分析も計画されている。
施設間による効果に関する感度分析は、GLIMMIX(?)を用いて混合モデルを用いた。

食事・生活習慣の変化と、長期間の体重増加(NEJM2011)

今回はNEJMに掲載された壮年期における体重増加に関する論文を振り返り。

WHOでは、Health topicとして肥満や過体重が挙げており、慢性疾患の主要なリスクファクターとして先進国だけでなく、途上国においても健康問題として取り上げています。http://www.who.int/topics/obesity/en/

 

私も医療従事者でありますが、私自身の体重増加が気になっています。

テレビ鑑賞が長くなることが、体重変化と正の関連を示したことは興味深い結果であった。さらに、食習慣・生活習慣の変化が、テレビ鑑賞の中間因子であること、これによりテレビ鑑賞の効果量が過小評価されていることが指摘されている。私自身の生活を振り返ると、納得させられる結果であった。

 

 

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https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1014296

 

NEJM's Impact Factor at 2018=79.258

 

-要約

目的: 非肥満者における、多様な生活習慣の変化と長期的な体重増加について、独立した関係と相加的な関係を検証すること

Design: cohort study

P: NHSⅠ・Ⅱ、HPFSの3つのコホートから、合計120,877名(包含率:41.0-43.8%)

E: 20年間の経過観察

C: none

O:1,570,808人年観察した。

*4年毎の体重増加率は2.4(5% to 95%タイル値:-3.0 to 8.4)%。(20年間で平均7.54kgの体重増加)

 

*食事習慣について

・体重増加と正の関連を示した要因は、ポテトチップス摂取、ポテト摂取、清涼飲料水であった。

・体重増加と負の関連があった因子は、ヨーグルト、ナッツ、フルーツ摂取であった。

 

*生活習慣が体重と独立して関連してる因子

身体活動量(5分位点当り、-0.79kg)、

飲酒(1杯/日当り、+0.18kg)、

喫煙(新規の禁煙で、+2.3kg)

睡眠(6時間未満もしくは8時間以上で、体重増加)

テレビ鑑賞(1時間/日当り、+0.14kg)

 

 

-背景

体重増加は、様々な疾患を発生する可能性が高くなる。

体重減少への挑戦は、凄まじい努力を要する。

体重増加を一次予防することが世界的に再優先事項となっている。

体重減少の研究の多くは、典型的な肥満・過体重者を対象としていることから、長期的に徐々に体重増加する非肥満者に対して一般化可能性は制限されている。

 

-対象

 

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The Nurse's Health Study(NHS)

NHSⅡ

http://www.nurseshealthstudy.org

 

Health Professionals Follow-Up Study

https://sites.sph.harvard.edu/hpfs/

3つのコホートは、全て医療職者である。

 

-方法

・登録初年度に、食事、身体活動、喫煙歴について詳細な情報を評価した。

・2年毎に、妥当性を確認された自記式質問紙を用いて、医学的既往歴、生活習慣、健康実践を評価した。

・体重評価は、2年毎の評価に併せて、質問紙を用いて評価した。質問紙の妥当性は、質問紙評価とスタッフによる測定の相関係数r=0.96、平均値の差は1.45kgであった。4年毎の体重変化量を絶対値と総体変化量として算出した。

 

-結果

・全体と対象者基本特性

1,570,808人年観察した。

4年毎の体重変化量は、+1.5(5% to 95%タイル値: -1.8 to +5.6)kg、

変化率は、+2.4(5% to 95%タイル値: -3.0 to +8.4)%。

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・食事と体重変化

体重変化と正の関連を示した要因は

ポテトチップス摂取(+0.76kg)

ポテト摂取(+0.58kg)

清涼飲料水(+0.45kg)であった。

 

体重変化と負の関連があった因子

ヨーグルト(-0.37kg)

ナッツ(-0.26kg)

フルーツ摂取(-0.22kg)であった。

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・生活習慣と体重変化

食習慣が悪さが、体重変化と正の関連した。

身体活動の多さが、体重変化と負の関連を示した。

睡眠時間は、6時間未満もしくは8時間以上が体重変化と正の関連を示す傾向にあった。

喫煙習慣は、新規の禁煙が体重変化と正の関連を示した(2.3[95%CI:1.8 to 2.8]kg)。

テレビ鑑賞は、1時間/日増加当り、体重変化と正の関連を示した(0.14[95%CI:0.1 to 0.19]kg)。

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・食事と運動の相加的な関係と、体重変化

食事と身体活動がどちらも良いDecileは、どちらも悪いDecileと比較して、2.47[95%CI: 1.8 to 3.11]kg体重が増加した。

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-吟味というか感想というか…

イアン・K・クロンビーによるコホートのチェックリストに基づいて

・正直なところ、誰を研究しているか

大部分が白人、きょうくされたアメリカ人であり、健康情報に最も近い女性看護師と男性医療職者(詳細は不明)

 

・統制群を用いているか、用いるべきだったか

統制群はない。

非肥満者を対象としたローリスクアプローチであることから、用いる必要はないと考える。

職業による体重変化の差を検証することを目的とした場合は、一般的な壮年期を対象として、第一次産業第二次産業、医療者を除いた第三次産業を層別して統制群とすることが適切か?

 

・追跡調査はどのくらい適切か

除外基準に関する詳細な除外数に関しては、情報が公開されていない。しかし、ベースラインにおける欠損値がない者を対象としていることからコンタミや自記式体重評価によるアウトカムへの影響は小さいと考える。

観察期間は20年間であり、十分であると考える。NHSでは52.2±7.2歳→72.2歳、NHSⅡでは37.5±4.1歳→57.5歳、HPFUSでは50.8±7.5歳→70.8歳であり、壮年期の観察を観察している。

 

・デザインは適切か

生活習慣と長期的な体重変化を検証することを目的としていることから、コントロールを伴わないコホート研究は適切である。

 

・曝露/介入は正確に測定されているか

説明変数に関する評価は、妥当性のある質問紙をを用いたことが示されているが、詳細は示されていない。

 

・適切なアウトカムの尺度が見落とされていないか

目的変数は体重変化である。評価方法は、質問紙を用いている。質問紙の妥当性は、質問紙と身体測定との相関係数r=0.96、平均値の差は1.45kgと示されている。しかし、体重評価のため質問紙の妥当性に関する根拠は示されていない。

 

・分析は時間の経過を考慮に入れているか

20年を終了として、4年毎の食生活・生活習慣と体重変化について、多変量解析を用いて分析が行われている。

 

・その他、観察されたアウトカムに影響を与えたものはあるか

食習慣と摂取内容、身体活動、睡眠時間、喫煙習慣、飲酒習慣、テレビ鑑賞時間が、説明変数と交絡因子として評価されている。

婚姻関係は評価しても良いかもしれない。

 

-その他の吟味

・バイアスについて

測定バイアスは、身体測定は行われていないこと、質問紙評価で身体測定との相関係数r=0.96であることから、致命的な問題はないと推察する。但し、食事・生活習慣評価と体重評価は、それぞれの質問紙によって行われているが、これを独立しているかどうかの解釈は、わからない。

選択バイアスは、ランダム抽出でないことが問題と推察する。一方コホートの全体から、生活習慣に関する質問項目が完全でない者、一般集団である非肥満者・慢性疾患保持者を除外した壮年期を対象としていることから致命的ではないことが推察される。

想起バイアスは、2年毎の質問紙評価で、どの程度振り返って質問紙へ記載を行うかについての詳細が記載されていない。

 

 

-今後の課題

分析方法について、Table3のQuintile、Figure2のDecileによる量反応性の分析や、この分析に対する感度分析が、読めない。

1時間位でかけるようにならないものか…

 

慢性心不全患者における筋消耗-SICA-HF結果から(EHJ2013)

心不全患者における併存疾患に関する国際的調査SICA-HFについて論文を読みましたので、振り返り。

 

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23178647

 

 

・感想

SICA-HF2013論文の生理学的な考察として、心不全に限らず慢性疾患を有する患者において、muscle wasting(筋消耗)は、炎症性サイトカインの影響による異化亢進によって発生すると示されていました。
個人的な感想として、慢性疾患急性増悪の初期対応としての安静による骨格筋量・筋力低下に加えて、目に見えない全身炎症性疾患としての骨格筋への影響が相加効果的にADL低下に寄与している可能性があることを感じる論文でした。

心不全を含む慢性疾患では、目に見えない影響で骨格筋が変性して、ADL低下し得る。

基礎と臨床がMixedされているSICA-HFの今後の結果が、筋消耗のメカニズムを更に明確することが期待されており、運動や栄養に大きな示唆を得る可能性があると、勝手に思っております。

こういったヒトの動きに関する論文を読むのは、好きだなと思いました。

 

 

心不全における骨格筋変性に寄与する因子

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 ↓引用元は、SICA-HF論文のEditorial commentから。

academic.oup.com

 

 

・論文アブストラクトの紹介

【背景】

慢性心不全患者における骨格筋減少の有病率と臨床的影響を検証することを目的とした。

 

【方法】

デザイン:横断研究

P:ドイツ単施設から、200名の慢性心不全患者を前向きに登録した。

骨格筋量はDEXAを用いて上肢と下肢を合計して評価し、筋力は上肢と下肢を測定した。

全ての研究対象者は、6分間歩行試験と4m歩行試験、トレッドミル(修正Naughtonプロトコル)によるCPXを行った。

筋消耗の定義は健常者における筋消耗診断の指標である(Morley JE, et al.J Am Med Dis Assoc.2011;12:403-409.)、18-40歳成人における骨格筋指数平均値-2標準偏差以下を用いて、健常加齢による筋消耗(Sarcopenia)と診断とした。

変数については、連続変数は平均値と標準偏差もしくは中央値と四分位点で示し、カテゴリカル変数は度数と割合で示した。血清データ(IL-1、IL-6、TNF-α)は非正規分布であることから、Logへ変換して正規分布とした。

解析はStatviewを用いて、ANOVA、対応のないt検定、Fisherの正確検定、ピアソンの相関分析、ロジスティック回帰分析を適切に行い、両側検定、有意水準は5%とした。

 

【結果】

筋消耗は39名(19.5%)の研究対象者に認めた。

E:筋消耗を認めた対象者(年齢70.8±8.3歳、男性94.9%、BMI24.5±4.5kg/m2、HFpEF34.9%)は、

C:筋消耗がない対象者(年齢66.0±10.6歳、男性75.6%、BMI29.9±4.7kg/m2、HFpEF34.9%)と比較して、

O:

握力と大腿四頭筋筋力が有意に低く(p<0.05)、PeakVO2(1173±433 vs. 1622±456 ml/min, p=0.005)も有意に低く、運動時間が短かった(7.7±3.8 vs. 10.22±3.0分, p=0.001)。加えて、筋消耗群で、6分間歩行距離(p=0.005)と4mのGait Speed(p=0.002)は低かった(Figure1,2参照)。

血清インターロイキン6(IL-6)は、筋消耗群が非筋消耗群で明らかに上昇していた(2.6±4.0 vs. 4.4±5.4, p=0.001)。

「PeakVO2が中央値以下であること」を目的変数としたロジスティック回帰分析(調整因子:年齢、性別、NYHA、ヘモグロビン、LVEF、6分間歩行距離、併存疾患の数)によると、筋消耗(OR:6.53, 95%CI:1.56-27.437)が独立して関連していた(Table4参照)。

 

【結論】

慢性心不全患者において、筋消耗は併存疾患として頻度が高い。筋消耗を有する対象者は、運動耐容能と筋力の減少、重症な患者を呈していた。

 

 

・SICA-HFに関するその他情報

SICA-HF研究デザイン(Stefan von Haehing, et al.JCSM.2010;1:187-194.)を読んだところ、この調査は心不全患者の併存疾患に関する6カ国多施設における4年間のコホート研究であり、脂肪組織や骨格筋組織を生検して解析する基礎研究学者が加わっているという点で、とても新規性豊かな研究だと思います。研究グループはJCSMの編集委員の方々の共同研究ですね。

臨床研究登録データベースを確認したところ、2015年に主要アウトカムに対する患者登録が完了しているようですので、そろそろSICA-HFのCohort Studyとしての結果が公開されるころかもしれませんので、個人的にかなり注目しています。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01872299…

 

 

加えて、登録完了報告もありました。

cordis.europa.eu

登録患者は、

慢性心不全1462名以上

2型糖尿病199名

健常者173名

 

生検は、

骨格筋生検127件

脂肪組織生検92件 

以上です。

お読みくださって、ありがとうございました。

 

農村地域における心不全患者の、日記帳使用と生存に関する前向き研究

心不全患者の、日記帳使用と生存に関する前向き観察研究を読みましたので、振り返り。

心不全診療ガイドライン2017年改訂版において、体重測定や症状出現の記録などのセルフモニタリングは重要視されていますが、根拠が示されておらず、私自身も有効性を示した論文は読んだことがありませんでした。

http://www.asas.or.jp/jhfs/pdf/topics20180323.pdf

 

 

この論文は農村地域在住を対象とした、REMOTE-HFのサブ解析として行われた研究です。

 

アメリカにおける農村地域在住の人口は約20%である。

ちなみに農村地域の定義は、①Town<2,500人、②Metropolitan center<50,000人、③Open townでした。

Michael Ratcliffe, et al. ACSGEO-1, U.S. Census Bureau, Washington, DC, 2016

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同じ定義を用いた、日本における農村地域在住の人口は約16%くらいです。

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総務省, 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成2911日現在)

 

 結構多いんですね。

僕の生まれは30,000人程度の市ですので、農村地域です。

 

 

大元のREMOTE-HFの要約はこんな感じでした。

P:農村地域在住の慢性心不全患者(614名)を3群にランダム割付すると、

I:患者教育(50分程度)と録音テープを渡すor電話でのフォローアップ群は、

C:AHA心不全冊子を渡す群と比較して、

O:死亡と再入院による複合アウトカムでは差はなかった(P=0.167)、一方死亡は有意に低かった(P=0.01)

 

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f:id:shintarotogashi:20180720150801p:plain

circ.ahajournals.org

 

 

 

 

このうち、介入群2群では日記帳使用を指導しており、この実施割合と生存に関する検討が本調査目的である。

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circheartfailure.ahajournals.org

除外基準は以下の通り。

・重度の併存症(余命が12ヶ月以内の疾患)

・他の心不全疾患管理プログラムへの参加

認知障害がある→評価方法は不明、MMSE?過去の診断?

 

【Study Flowchart】

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研究開始3ヶ月後に実施割合を評価し、

No Use:0%

Low Use:1-50%

Medium Use:51-70%

High Use:71-90%

Very High Use:90-100%

で割付けて、研究開始2年目まで追跡した。

割付けの根拠は不明であり、逆の因果関係を防ぐことを意図していた様子。

 

 

【患者特性】

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全体的に、BMI>25は74.3%、Sedentaryな生活習慣は46.3%、ヘルスリテラシーが十分は63.9%、HFpEFは50%であった。

 

 

【死亡や再入院に関するアウトカムの群間比較】

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全死亡率が、No Useで27%と高く、Very High Useで10%と低い。

 

 

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【全死亡を目的変数としたCOX比例ハザードモデル】

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心血管死は、男性で低い(HR0.48[95%CI:0.24-0.99)。

全死亡は、High Use(HR0.51[0.30-0.89])、Very High Use(HR0.32[0.14-0.77])が低く、Sedentaryな生活習慣(HR1.65[1.02-2.60])が高い。

 

 

【日記帳使用を目的変数とした順序ロジスティック回帰モデル】

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交絡因子を調整した結果、Sedentaryな生活習慣(OR0.66[0.46-0.95])が日記帳使用低減と関連していた。

 

【考察】

都市部における日記帳使用と臨床アウトカムの改善が関連していることは既に明らかにされている。(Eastwood CA, et al. J Cardiovasc Nurs, 2007;22:382-389.)

本調査結果、先行研究から、Settingにかかわらず、全ての心不全患者に対して、生存時間を改善するために、体重や症状を記録する日記帳使用を推奨すべきである。

 

 

【限界】

日記帳使用をする要因として、健康志向の高さを測定していないことが限界であると考える。

 

【感想】

健康志向の高さを客観的に測定するってどうやるんだろう?

この健康志向が交絡因子である可能性は高い。

【RCT予備調査】日本における入院心不全患者に対する心不全セルフケアプログラムの効果

入院心不全患者に対する心不全セルフケアプログラムの効果に関するRCTを読みましたので、共有します。

 

【要約】

①入院心不全患者に対する包括的チームによる心不全セルフケアプログラムを開発した。

②このプログラムによって、主要アウトカムである心不全セルフケア行動については、研究開始時期と比較して、全体として影響はなかったが、減塩食に関して改善した。

心不全知識については、6ヶ月間以上改善を維持する傾向にあった。

④心血管死や心不全再入院の発生については、6か月時点において、介入群で有意に低かった。

 

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東京大学の加藤尚子先生の2016年公表の論文。

IF:2.4

 

【PICO】

D:単施設RCT

P:20歳以上の附属病院に入院した心不全患者

I:心不全セルフケアプログラム群(入院中の介入)

C:通常ケア群

O:心不全セルフケア行動、中長期的にはなし

心不全知識、中長期的に改善する傾向を示した。

心血管死/心不全再入院率、2(0.6-2.0)年間のフォローアップで介入群で有意に少なかった(HR0.17, 95%CI:0.03-0.90, P=0.04, Ajustment by age, sex, BNP, Cox回帰分析)。

 

【研究開始時における患者特性】

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【介入群の心不全セルフケアプログラムの項目】

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教育プログラムと教材は、Kato N, et al. Nurs Health Sci, 2012, 156-164.から。

プログラムに関わった職種は、薬剤師、管理栄養士、看護師である。

看護師の指導時間は、68±32分間、1〜2回。

 

【結果】

・主要アウトカムである心不全セルフケア行動尺度(EHFScBS)

(自記式による12項目の質問紙。回答選択肢は1〜5で、1が良い、5が悪い。合計点数範囲は12〜60点。点数が高いほど、セルフケア行動が悪いことを示す。)

研究開始時に、両群間に差はなし

1ヶ月後は、両群とも、スコアが改善している。

6ヶ月後は、介入群ではスコア改善が継続しているが、対照群ではスコアがベースラインに戻っている。

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心不全セルフケア行動尺度の推移

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・二次アウトカム

心不全知識スケール

(自記式による15項目による質問紙。回答選択肢は「はい」「いいえ」「わからない」。合計点数範囲は0-15点。点数が高いほど、心不全に関する知識は良好。)

研究開始時に、有意差はあるとはいえないが、差があるようにみえる。

1ヶ月後は、介入群が、研究開始時及び対照群と比較して、点数が有意に高い。

6ヶ月後は、両群間に差があるとはいえない。対照群では、研究開始時と比較して点数が高くなっている。

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②心血管死/心不全再入院率

心不全セルフケアプログラムは、心血管死/再入院率を有意に低減させた。Cox回帰分析結果から、HR0.17, 95%CI:0.03-0.90, P=0.04(年齢、性別、BNPで調整済)。

 

3名が他の病院に入院したので、除外。

2(0.6-2.0)年間の観察期間において、介入群から2名(14%)、対照群から7名(48%)が、心不全増悪による再入院が発生した。

入院期間中に、対照群から1名が死亡した。

全死亡に関しては、対照群から1名が、癌による死亡が発生した。

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【感想】

・著者について

著者自身が開発したプログラム、教材(Kato N, et al. Nurs Health Sci, 156-164, 2012.)、心不全セルフケア行動尺度(Kato N, et al. Eur J Cardiovasc Nurs, 284-289, 2008.)、心不全知識スケール(Kato N, et al. Int Heart J, 228-233, 2013.)を用いたRCTの予備調査であった。

EHFScBSを開発したスウェーデンのPro. Jaarsma Tにリサーチフェローに赴いていた経歴をもつ。日本における心不全・看護の領域では今後も注目される方だろう。

 

・β遮断薬、ARB/ACEIの処方率が高い。

2000年代後半の心不全疾患管理プログラムが死亡や再入院に関してネガティブスタディが見受けられるという指摘がある。しかし、薬物療法が死亡/再入院率への影響が大きいことも考慮が必要だろう。薬剤処方率は、1998年(Ekman I, et al, Eur Heart J, 1998. Cline CMJ, Heart, 1998.)でβ遮断薬10〜20%、ARB/ACEI15〜40%であることに対して、本調査(2010年)はβ遮断薬80〜90%、ARB/ACEI85〜95%である。

心不全における患者教育関連のIFが2点台が多いこと理由として、上記の如くハードエンドポイントを主要アウトカムとして設定しづらいことではないかと愚考する。

下図:薬物処方率と経時的変化

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〈Oyanguren J, et al. Rev Esp Cardiol, 900-914, 2016.から引用〉

 

高齢者、認知障害合併、MCI合併を検討すべき

入院心不全患者を対象としていることは、とても参考になる論文である。しかし、心不全の有病率は加齢とともに増加し、認知障害の合併も多い。

今後は、高齢者、認知障害合併、MCI合併患者に対する調査が求められると考える。

下図:AHAによる心不全有病率と加齢の関係

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〈Benjamin EJ, et al. Circulation, 361-376, 2018.から引用〉

 

下図:心不全と非心不全患者での認知障害有病率に関するForrest Plot

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〈Cannon JA, et al. J Card Fail,464-475, 2017.から引用〉