君は僕の話を知らない

不毛な恋はやめよう、と、
勝手に諦めた

何度も口に出して言う
「どうせ届かないから、諦めたんだ!」
そう笑って、言う

それなのに君は、僕に笑いかけるのだ
アーモンドのような瞳を細くして
形の良い唇を、弓のようにして
ああ、うん、すてきな涙袋

去っていく君を目で追いながら
胸の高鳴りを込み上げるのに必死だった
目の奥が熱くなった
半開きの唇が震えた
負けるものかと、颯爽と歩く。


消えかけの笑顔を塗り潰すには
まだ時間がかかりそうだ

僕の中で、確実に君は根をはり、生きている。



(君の中に僕は育たないのに!)

だから僕は静かに目を閉じた。

いつからだったか、君を追うようになったこの目は
今は己を傷つけまいと、君を視界にいれなくなった

君に触れると、皮膚が熱いよ
君と話すと、喉がつまるよ
君を見ると、胸が痛いよ
君を思うと、涙が出るよ。


うそ。そんなのは大袈裟だ。

たぶんはじめから諦めてたんだよ

追いかければ追いかけるほど
遠くなるのは慣れっこだったはずなのに

君が遠くにいってしまうのは、
どうにも、
どうにも耐えられなかった。

君の瞼にそっと口づけをしたように

夏が終わる。


蜩のなき声をききながら、寝入ろうとする太陽に目を細めた。


そういえば君と出会ったのも、こんな息苦しい夏だったっけ。
初めて君に触れたのも、こんな生き苦しい夏だったっけ。

真っ白な光を浴びて眩しそうに瞼を閉じた君の睫毛の影が、
頬に細い影を落とすのを、
スローモーションで見ているような気分だった。

君に、恋をしていた。
恋をするしかなかったのだ。



もうすぐ、夏が終わる。
いつもこのなき声には慣れない。

(ひんやりとした空気を胸にしまって)
(あたたまった空気を惜しむように吐き出して)

もうすぐ、夏が終わる。

(また僕は瞼を閉じて)


(もう一度息をした)

凛として夏

息が止まるくらい、美しかったのだ。

「背筋を伸ばし
艶やかな黒髪を靡かせ
すらりとした長い脚で
地を掴み歩く君の姿」

心臓が止まるくらい、美しかったのだ。




(それは夏の始まり、実らない恋の季節。)

<無題>


なにかにつけて諦める君がきらいだった

そんな君に反抗して強がる僕もきらいだった


だって
だって

こんな、
現実ばかり見なきゃならない世界なら、
夢が、空想が、馬鹿にされるなら、

少しくらい希望をもったっていいじゃないか


どうせみんないつか死ぬんだろう
うさぎのように体温を求めるんだろう
ディッシュをごみ箱に捨てるように要らなくなるんだろう

そういうことなんだって

だから諦めるなって

そんなつまんない人間でいいのかよ


なんて


寝言だって、

そんなの、


わかってたよ