ちいさな哲学のおはなし

清水将吾のブログ

宇宙の終わりのバッハ

 

ものは、ただ存在するだけで、意味があるのだろうか。

 

誰にも知られずとも、存在するだけで、意味があるのだろうか。

 

宇宙を漂うボイジャーには、ゴールデンレコードが乗っている。

 

ゴールデンレコードには、バッハの音楽が刻まれている。

 

それはもちろん、未来の人類が聴くためではない。

 

ボイジャーは、とうに太陽系を遠く離れてしまった。

 

それどころか、人類はすでに絶滅してしまった。

 

ボイジャーのバッハは、もう宇宙の誰にも聴かれることがない。

 

宇宙の膨張を加速させるエネルギーが星々の重力を上回り、ボイジャーはもうどこにもたどり着くことがないのだ。

 

ボイジャーのバッハは、誰にも聴かれることなく、宇宙の暗闇を漂いつづける。

 

それでも、ボイジャーのバッハは、宇宙に存在することで、宇宙をより美しいものにしつづける。

 

自然界がけっして存在させえないであろうバッハの音楽、それを存在させつづけることが、つまり、宇宙を自然のまま以上に美しくさせつづけることが、ボイジャーの意図されぬ使命だったのだ。

 

宇宙の膨張を加速させるエネルギーが、物体を崩壊させるほどにまで強まるとき、ゴールデンレコードもまた崩壊していく。

 

そのとき、素粒子たちの波動は生き生きと振動し、宇宙の終わりにバッハを演奏する。

 

 

 

銀杏の青

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青色と黄色を混ぜると、緑色ができます。

 

ということは、緑色から青色を抜くと、黄色ができるはずです。

 

秋、銀杏の葉は、緑色から黄色に変わります。

 

青色が、どこかへ飛んでいくのでしょうか。

 

どこへ飛んでいくのでしょうか。

 

秋空の青になるのでしょうか。

 

 

 

夢に出てきたのは誰?:カヌーとフェリーのおはなし9

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大きな耳のカヌーと、

大きな目のフェリーが、

おはなしをしています。

 

 

カヌー「夢にフェリーが出てきたよ。」

フェリー「へえ。なにしてた?」

カヌー「トランプで手品をしてくれたよ。」

フェリー「手品はしたことがないなあ。だからそれは私ではないよ。」

カヌー「え。あれはフェリーじゃなかったの?フェリーにそっくりだったよ。」

フェリー「私にそっくりだっただけで、私ではないよ。」

カヌー「うーん。でも、フェリーはいつか手品をするかもしれないよね。」

フェリー「ふむ。そうだね。そのときになったら、カヌーが夢で見たのは私だったということになるかもしれない。」

カヌー「じゃあ、僕が夢で見たのはフェリーだったのかどうかは、まだわからないってこと?」

フェリー「そうだね。カヌーが夢で見たのは私だったのかどうか、それは私がいつか手品をするかどうか次第。ふふふ。」

カヌー「そんなあ。あれが誰だったのか、気になっちゃうよ。トランプもってくるから、手品をしてくれない?」

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カヌーとフェリーにどこか似ている2人が登場します。

楽しんでいただけるとうれしいです!

先のばしをやめるには?:カヌーとフェリーのおはなし8

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大きな耳のカヌーと、

大きな目のフェリーが、

おはなしをしています。

 

 

フェリー「今日はかなりすずしいね。」

 カヌー「そうだね。すこしさむいくらいだね。」

フェリー「まきわりは、もうすんだかい?」

カヌー「そうだ。冬がくるまえに、まきわりをすませなきゃいけない。」

フェリー「まだすませていないんだね。」

カヌー「へへへ。」

 

カヌーは、はずかしそうに笑いました。

 

カヌー「やらなきゃいけないのはわかってるんだけどね。今日じゃなくてもいいやって、思ってしまうんだ。」

フェリー「そうやって、ずっと先のばしにしているのかい?」

カヌー「そうなんだ。でも、しかたないんだよ。」

フェリー「しかたない?」

カヌー「今日じゃなくてもいいや。明日にしよう。そう決心することはあるんだ。ところがね。」

フェリー「ところが?」

カヌー「一晩ねむって明日になると、明日だった日が今日になっていて、今日じゃなくてもいいやって、また思ってしまうんだ。」

フェリー「なるほど。そんなことをくりかえしていたら、ずっと先のばしになるわけだよ。」

カヌー「どうすればいいのかな。」

 

カヌーもフェリーも、

こまった顔になりました。

 

カヌー「思うんだけどさ、今日なんていう日は、なくなってしまえばいいんだよ。」

フェリー「今日が?なくなってしまう?」

カヌー「うん。今日がなくなってしまえばさ、今日じゃなくてもいいやって思うことだって、なくなるんだから。」

フェリー「ううーん、どういうことかな。」

カヌー「とにかく、どんな日でも、はれの日でもあめの日でも、出かける日でも出かけない日でも、それが今日になるから、やりたくなくなるんだよ、まきわりをさ。」

フェリー「だからって、今日という日をなくせばいいっていうのかい?」

カヌー「そう。今日という日さえなければ、まきわりなんて、とっくにすませてるよ。」

 

カヌーはうれしそうな顔で笑っています。

フェリーはますますこまった顔になりました。

 

 

ポストのたくさんある街

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この街に住む人々は、

手紙を書くのが大好きです。

 

毎日、たくさんの人が手紙を出すので、

街にはたくさんのポストがあります。

 

あるとき、

こんな意見を言った人がいました。

 

「ポストの背をもっと高くしよう。

そうすれば、どこにいても、

すぐにポストを見つけられる。」

 

そう、この街では、

公園へ行っても、カフェへ行っても、

手紙を書いている人が

あちらこちらにいます。

 

そんな人たちが、

さあ手紙を書き終えたというとき、

ポストの背が高ければ、

すぐに見つけて、

手紙を出せるではありませんか。

 

街の人々は、この意見に賛成しました。

そして、街のポストの背をぜんぶ、うんと高くしました。

 

ところが、人々は気づきました。

 

「ポストがすぐに見つかるのはよいけれども、

 手紙の入口に、手がとどかなくなってしまった。」

 

それでも、私にとっては便利になったのです。

家のそとへ出なくても、

窓から手紙を出せるようになりました。

 

アパートの4階に住んでいるからです。

 

おや、今日もまた来ました。

窓から手紙を出しておいてほしいという人です。

 

それでは、またお便りしますね。