小児科医からこれだけは言わせて

写真が趣味の小児科医が小児臨床の現場のことやカメラのことを記載していく

医療情報に関してのブログを開設してみたら、Google検索での医療情報が特別扱いされていることに気付いた話

 

軽い気持ちで始めたブログ

 小児科医となってからまだ3年と少ししか経っていない、新人にわずかに毛が生えたようなキャリアですが、小児科一般臨床について、良い師のもと、勉強させていただいています。自分の学んできたこと、経験してきたこと、疑問に感じたことや患者さんやその家族の皆さんに知っていただきたいなと思うことを発信しようと思い、2019年6月から本ブログを開設しました。

 

f:id:shounikaiakira:20200219182114p:plain

- Adobe stock

 ブログ開設にあたって、患者さんの不利益があってはならないため、医療情報の取り扱いには本当に注意しなければなりませんでした。エビデンス(証拠)レベルの低い内容などは取り扱わず、統計に関しては厚生労働省や国立感染症研究所などの情報や、ガイドラインなど、一般的な内容をまとめ、慎重に記載をしています。

 

医療情報をブログで取り扱う難しさ

 医療情報の取り扱いで問題となった過去の事例を紹介します。

 WELQ事件をご存知でしょうか。2016年までWELQというDeNAが運営していた美容・健康・医療サイトがありました。その運営及びPV稼ぎの手法が非常に悪質だったのです。格安でライターを募り、誤った、あるいは歪曲された情報を、本当であるかのように発信し、検索流入からのPVを増やし、アフィリエイトで運営していたことが大きく取り沙汰され、結果的に閉鎖に至るという騒動がありました。

 

 詳細に関してはこちらまとめがわかりやすいため、ご興味があれば御覧ください。

-幻冬舎ウェブマ!WELQ問題からネット上の医療情報はどう変わったのか 

WELQ問題からネット上の医療情報はどう変わったのか | 幻冬舎ウェブマ

(参照年月日2020/02/17)

 

 確かに数年前までは疾患名でGoogle検索をかけると、アフィリエイト目的の個人ブログや医学的根拠のはっきりしないキュレーションサイトが散見されました。

しかし、その一件を経て、現在では検索ができる内容に関してGoogleは下記のように記しています。

Google で利用できる医療情報は、信頼性の高いウェブサイト、医療関係者、検索結果から得られたものです。

  • Google ではまず、信頼性の高いサイトに掲載されている医療関連の情報をウェブ全体から検出し、分析します。
  • 次に、医師チームがその情報を慎重に確認し、質の高い情報にします。認可を受けたメディカル イラストレーターが画像を作成します。

 

support.google.com

 (参照年月日2020/2/17)

 

 このように、現在のGoogleで医療情報にアクセスしようとすると、ブログやキュレーションサイトは検索上位にみられず、厚生労働省や感染症研究センターのサイトや、製薬会社の情報サイト、直近の大手誌のニュースや、フリーアクセスの学術論文などに直接アクセス可能となっています。

 

 ブログを始めた当初はGoogleからの流入で沢山の人に見てもらえたらいいな、と安易に考えていました。しかし、症候や病気について検索している方は、より切羽詰まった、つまりは症状や病気に罹患して困っている人なわけで、そういった方たちにとって信頼度の高い間違いの少ない情報にアクセスできることがより大事となると考えられます。ブログ記事だけをみて「理解した気分」になってしまってはいけないな、と深く反省しました。

 

 以降、ブログでは外来や病棟で患者さんに説明するように、一般的内容に関して、信頼度高い論文や、教科書などから読んでくださっている人に有用となるような情報を誤解の内容にピックアップすることを意識してブログを継続しています。医学的知識がない方にわかるように説明する能力は医師にとって必要な能力であると考え、ブログを継続しています。

最後に

 今後も診療をしていく中で調べた情報や、学んだことの中で患者さん本人や保護者の方にとって有用となる情報を共有していきたいと思っています。しかし、一番信頼しなければならないのは、患者さんを直接診察している担当医、かかりつけ医であることに変わりありません。少しでも不安に思うことあれば、かかりつけ医を受診したり、入院中であれば担当医に不安に思っていること、わからないことは相談するようにして下さい。

 もしよければ今後も記事を読んでいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいいたします。

風疹の予防接種を受けて、これから生まれてくる赤ちゃんを守ろう。

はじめに

40歳〜57歳男性の方、もしくはご家族でその年齢の方がいる場合に読んでいただきたい記事です。
 今回は風疹に関しての記事です。
風疹とは風疹ウイルスによって生じる感染症で、患者のくしゃみ、咳によって飛び散ったウイルスを吸い込んだりすることで感染し、2-3週間の潜伏期間の後に発生します。
 

症状

先程述べたような咳などの上気道症状に加えて、発熱発疹リンパ節腫脹関節痛などの症状が出る場合がありますが、すべての症状が揃わなかったり、自覚症状がほとんど出ない場合もあります。
 

危険性

ではなぜこの疾患の予防接種が大事なのかに関してご説明します。
妊娠中の女性に風疹を感染すると、生まれてくる赤ちゃんに先天性風疹症候群と呼ばれる先天異常が生じてしまう可能性があります。
目:白内障・緑内障・色素性網膜症
耳:先天性難聴
心臓:先天性心疾患
その他:紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、骨病変、黄疸
 
新生児にこれらの臨床症状があった場合、先天性風疹症候群を疑い、抗体検査やウイルス遺伝子の検査で確定診断します。ここ10年間で51人がこの先天性風疹症候群の診断に至っています。

成人でもワクチンを接種することの重要性

この疾患は予防可能です。妊婦さんが風疹に罹患しなければこの先天異常が出現することはありません。妊婦さんは妊娠中に予防接種を打つことができないため、周囲の人たちが予防接種を受け、風疹の蔓延を防ぐ必要があるのです。
 

流行

国立感染症研究所の「感染症発症動向調査」によれば、風疹もしくは先天性風疹症候群に罹患した患者数が2018年に2917名、2019年には(11月の時点で)2263名とそれまでの4年間と比べて格段に罹患者が増加していることがわかります。

f:id:shounikaiakira:20200202184107p:plain

国立感染症研究所 感染症発症動向調査
 
40-57歳(昭和37~昭和53年度生まれ)の男性は風疹のワクチン接種がなかったため、風疹の抗体を持っている割合が低いことも報告されています。1)
 
 
 
これらの世代の男性に対して抗体検査・ワクチン接種を原則無料で実施できるクーポン券を配布していますが、接種を受けた方はまだまだ少ないという状況にあります。
2019年度にクーポン券を配送された646万人のうち、抗体検査を受けたのは(昨年11月までの時点で)97万人であり、まだ検査を実施していない方が大半を占めている状況にあります。1)
市区町村からクーポンが既に届いている場合には、まずは抗体検査を受けましょう。検査は健康診断に併せて実施しても近隣の医療機関でも受けることができます。
検査の結果で、十分な抗体がついていないことがわかった場合には予防接種を受けて下さい。
この年代の方でクーポン券が届いていない、もしくは無くしてしまった場合には、お住いの市区町村にお問い合わせ下さい。
 
今夏、東京オリンピック・パラリンピック開催が控えており、風疹対策としてワクチン接種が急務となっている状況にあります。会社で実施する定期検診に抗体検査を導入するなどの対策強化も厚労省から企業に要請しています。
風疹対策強化 企業に要請へ 五輪・パラ前に 厚労省 | NHKニュース   https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200131/k10012266511000.html

最後に

繰り返しになりますが、先天性風疹症候群は予防可能な疾患です。
風疹の流行を防ぐため、40-57歳(昭和37~昭和53年度生まれ)の男性、妊娠を控えた女性はまずは検査を受け、必要な場合には風疹のワクチンを受けて下さい。
出生した赤ちゃんが先天性風疹症候群となってしまった場合には上記に示した先天性障害が発生し、治療は対症療法とするより他はなく、根治療法は困難です。
社会をあげて風疹感染を予防することが非常に重要であると考えられます。
 
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
小児科医あきらでした。
 

参考リンク

1)風疹流行に関する緊急情報:2020 年 1 月 22 日現在 国立感染症研究所 感染症疫学センター

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/2020/rubella200122.pdf

2)昭和37年度~53年度生まれの男性の皆さんへ 風しんの予防接種にご協力ください! 政府広報オンライン

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201406/3.html

3)風疹Q&A(2018年1月30日改訂)国立感染症研究所

https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubellaqa.html 

 

ここ4年間で日本国内の感染報告数が20倍以上増加した疾患【麻疹(はしか)の症状・検査・治療に関して】

アキラです。

前回記事の続きです。

 

www.akirano.work

 

麻疹の臨床症状

麻疹ウイルスは麻疹患者の咳やくしゃみで空気中に飛び散り、空気感染で気道から体内に侵入します。また、麻疹患者の気道分泌物を粘膜に接触させることでも感染が成立します。

感染力は非常に強く、潜伏期間は6-21日、平均13日と言われています。

発疹出現7日前

徐々に上皮系の細胞でウイルスが増殖します。

発疹出現3日前

発熱・鼻汁・眼球結膜充血など、風邪のような症状が出現します。この時期は「カタル期」と呼ばれます。

このときに既にくしゃみや咳嗽、鼻汁には大量の麻疹ウイルスが排出されています。

発疹出現

はじめに口腔粘膜にコプリック(Koplic)斑が出現する場合が多いです。

この所見は麻疹に特徴的で、麻疹を早期診断するために有用となります。

一時的に解熱経口となりますが、すぐに高熱となり、全身に発疹が広がります。紅斑性丘疹と呼ばれるタイプで、まずは耳介後部や顔面から出現し、1-2日の経過で全身に広がっていきます。

ところどころ健康な皮膚面があることも麻疹の特徴です。

発疹出現4-5日後

徐々に解熱し、発疹は色素沈着を残し軽快していきます。

 

検査 

臨床診断例、検査診断例に分けられますが、

①麻疹に特徴的な発疹

②発熱

③咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状

これら3つをすべて満たす場合、検査未実施でも届け出が必要となります。追って検査を行います。

検査診断の方法としては、咽頭拭い液や血液、髄液、尿から分離同定による病原体の検出、検体から麻疹遺伝子の検出、血液検査での麻疹ウイルスに対しての抗体値の測定により行われます。

 

治療・予防

麻疹に対しての特定の治療方法はありません。合併症に対しての対症療法を行っていきます。細菌感染を合併することが想定される場合には抗菌薬投与を行います。感染が人がってしまう可能性があるため、隔離が必要となります。(解熱してから3日経過するまで)

予防に関しては前回記事で記載した通りです。ワクチン接種が極めて重要となります。もし感染者と接触してしまった場合には、曝露後72時間以内に麻疹含有ワクチンの緊急接種をすることで発症を予防できる可能性があります。6日以内であれば免疫グロブリン製剤を使用することでも予防効果、症状軽減効果があると言われています。もし麻疹患者さんと接触した可能性がある場合には必ず近くの医療機関にご相談ください。また、感染者と接する際には普通のマスクでは感染してしまうリスクが有るため、N95という特殊なマスクの使用が必要となります。

 

最後に

前回記事でも記載しましたが、麻疹は合併症の悪化により、後遺症が残ったり、死に至る可能性がある疾患です。

ワクチンの投与をすることにより抗体は95-98%の方で陽性化します。海外を訪れる方や、不特定多数の外国人と接触がある方、小さいお子さんとお住いになられている家族の方など、前回記事のリストに挙げた項目に当てはまる方は、積極的ワクチン接種をおすすめします。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
アキラでした。
 
参考文献
小児感染症マニュアル2017
year note 2019
 

ここ4年間で日本国内の感染報告数が20倍以上増加した疾患【麻疹(はしか)の予防に関して】

こんにちは、アキラです。

恥ずかしながら私は麻疹の患者さんを診療した経験がありません。

私だけではなく、卒後5年目前後の小児科医のほとんどは、麻疹を日常診療で診る機会が殆どなかったと言えると思います。これから増える可能性があるこの疾患に関して再度確認が必要と感じ、今回まずは麻疹の予防についてまとめていこうと思います。

麻疹の罹患報告数

麻疹ワクチンが1978年に定期接種となり、2006年から2回接種となりました。2008年に10000人を超える報告数があったこともあり、3期、4期の追加接種が実施された影響から(3・4期は2013年に終了)、2015年には日本全体で報告された麻疹の報告数が35件まで減少しました。

しかし、その後は165人186人282人と増加傾向となり、2019年は12月15日までに742件の麻疹発生が報告されています。国立感染症研究センターの報告によると2-12歳はやや少ないものの、0歳から50歳以上まで幅広く感染していることがわかります。

麻疹 発生動向調査

ワクチンがなかった時代は、数年後ごとに麻疹が流行し、ほとんどの人が罹患していました。一度罹患すれば終生免疫が獲得できるため、それ以降罹患することはありません。

麻疹の危険性

昔はみんな罹っていたのか、なら大丈夫ではなのではと思われるかもしれませんが、麻疹に罹患すると一時的に強い免疫抑制が生じ、細菌による二次感染を合併することがあります。細菌性の中耳炎、肺炎、喉頭炎などを生じることで、死亡することもあります。細菌感染だけでなく、頻度は0.1%程度と低いものの、中枢神経系の合併症として、急性期に脳炎・脳症を発症する場合があります。致死率は15%に達し、軽快したとしても後遺症を残す例が多いです。罹患後10年経過してから亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる神経疾患を呈することもあり、この疾患も致死的な経過を辿ります。

海外での流行

麻疹は、海外でも多くの国で流⾏しており、ヨーロッパでは 2019年8⽉29⽇にイギリスを含む4ヶ国が麻疹排除国の認定を喪失しています。現在29歳から46歳の方はワクチン1回接種の世代であり、今年はオリンピックも開催されることもあり、海外から麻疹が持ち込まれて感染者が増加する可能性も考慮しなければなりません。

南太平洋の島国サモアでは2019年末に麻疹が大流行しました。5600名が感染し、81名が死亡しています。

www.abc.net.au

 

麻疹は命に関わる病気です。感染・流行を防ぐことが命を救う最初のステップとなります。

ワクチン接種が何より大事

麻疹は発症すると特異的な治療法がなく、感染力が極めて強い重篤なウイルス感染症ですが、ワクチンが非常に有効です。ワクチン接種に関して国立感染症研究所がガイドラインを提示しています。

【定期接種対象者】

第1期定期接種対象者(1 歳児)

 第2期定期接種対象者(小学校入学前 1 年間の幼児:今年度 6 歳になる者)

 

【定期接種対象者以外】

 1 か月以内に海外旅行・国内旅行を予定している者(可能な限り 2 週間以上前に接種を済ませる。旅行直前 に接種する場合は、接種後 5~14 日の体調変化に注意が必要)

 医療関係者(救急隊員、事務職員等を含む)

 保育関係者

 教育関係者

 不特定多数の人と接触する職業に従事する人

 近隣で麻疹患者の発生が認められる、生後 6-11 か月児(緊急避難的な場合に限る)

 0 歳児の家族

 麻疹抗体価陰性あるいは低抗体価の妊婦の家族

 麻疹抗体価陰性あるいは低抗体価の麻疹含有ワクチン接種不適当者の家族

 2 歳以上第 2 期定期接種対象期間に至る前の幼児で、麻疹含有ワクチン未接種あるいは接種歴不明者

 小、中、高、大学、専門学校生等で、麻疹含有ワクチン未接種あるいは 1 回接種あるいは接種歴不明者

●麻疹患者と接触あるいは空間を共有した感受性者*(生後 6 か月以上に限る)に対する緊急接種は、定期、 定期外に関わらず、速やかに検討する。

●生後 6-11 か月で接種しても、第 1 期、第 2 期の定期接種は忘れずに接種する。(0 歳での接種は接種回数と してはカウントしない。)

●MR ワクチンは、通常、1 歳以上で 2 回接種する(接種記録は大切に保管する)。

●1 歳以上第 2 期定期接種対象期間に至る前の幼児で、麻疹含有ワクチン1 回接種者については、麻疹患者との接触の程度、状況に応じて、緊急避難的な場合に限って検討する。

 

*感受性者:麻疹に対する免疫が不十分な者(麻疹未罹患あるいは罹患歴不明で、かつ、ワクチン未接種あるい は 1 回接種あるいは接種歴不明の者、あるいは、麻疹に対する抗体価が陰性あるいは低抗体価の者)

https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/MRvaccine_20180417.pdf

普通に定期接種を受けられているお子さんであればそのまま定期ワクチン接種を継続していただければ問題ありません。定期接種対象外の方は上記の項目に該当する場合、接種が推奨されています。今後さらなる増加をきたす可能性がある疾患であり、自分だけでなく、周囲の大事な人を守るためにも自分に接種の必要があるかどうかを確認してください。

 

次回の記事で麻疹の一般的概要に関して記載していきます。

ここまで読んでくださってありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。
 
参考文献 
日本小児感染症学会 編 日常診療に役立つ小児感染症マニュアル2017

下痢と嘔吐が辛そう!何を目安に受診すべき?【ノロウイルス】【ロタウイルス】

こんにちは、アキラです。

お久しぶりです。

 

今回は日本において冬に流行するウイルス性胃腸炎の原因の多くの割合を占めるロタウイルス、ノロウイルスに関して記載していこうと思います。

ロタウイルス、ノロウイルス共に急性胃腸炎をきたします。

まずは急性胃腸炎を疑ったときに、受診したほうが良いと思われる徴候をご確認ください。

 

f:id:shounikaiakira:20191226011231p:plain

 

これら項目に該当する場合、急性胃腸炎に続発する脱水をきたしている可能性があります。医師の診療を受け、適切な対応を受けることが望ましいと思われます。

また、下記の項目に該当する場合には急性胃腸炎ではなく、別の疾患の可能性もあります。こちらの場合も速やかに医療機関の受診をおすすめいたします。 

f:id:shounikaiakira:20191226011238p:plain

小児急性胃腸炎診療ガイドライン 2017 年版より改変

 

いつ頃流行するの?

ノロウイルスは11月から3月に、ロタウイルスは2月から4月頃に流行すると言われています。しばしば大流行を引き起こすため、感染対策に留意する必要があります。

 

以降はそれぞれの疾患に関してまとめていきます。

 

・ノロウイルス感染症

予防について

ノロウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、このタイプのウイルスはアルコールで除菌不可能です。食中毒として集団感染を引き起こすこともあり、汚染された二枚貝やウイルス保有の調理者による食材汚染が感染の原因となります。

感染者の便1gにつき、10^8~10^12個と大量に含まれますが、このうちウイルス100個でも別の人の体内に入れば感染が成立すると言われています。感染経路としては経口感染(食中毒、糞口感染)、飛沫感染があり、殺菌するためにはアルコールではなく、次亜塩素酸という消毒液が必要ですが、十分な流水と石鹸での手洗いで菌を洗い流すことは可能です。

ノロウイルスは遺伝子変異が発生しやすく、組織培養が困難であるという背景から、ワクチン開発が困難であり、実用化には至っていません。

下痢嘔吐症状があるお子さんとの接触がある場合には十分な手洗いと、ノロウイルス感染をきたすような二枚貝の生食などは控えることが大事です。

 

感染後の経過に関して

12-48時間の潜伏期間を経て突然の嘔吐で発症することが多いです。他に嘔気、下痢、腹痛を示し、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒を伴うことが多いです。

基本的には特別な治療を要することなく1−3日程度で回復しますが、乳幼児、免疫不全の患者さんは症状が遷延したりや重篤化します。

また、下痢症状改善後も3日程度感染力が残存するため、十分な感染対策を行う必要があります。

 

・ロタウイルス感染症 

予防について

ロタウイルスは、二本鎖RNAウイルスであり、こちらもアルコール除菌はできません。

ノロウイルスと同じように経口・飛沫感染し、感染者の便1gにつき10^10~10^13と多量のウイルスがおり、10-100個のウイルスにより感染が成立してしまいます。

ロタウイルス感染症は母親からの移行免疫があるため、新生児期の感染は稀ですが、6ヶ月から2歳の初感染が多く、5歳までにはほぼ100%のお子さんで感染の既往があると言われています。

ロタウイルスに対してはロタウイルスワクチンが非常に有用です。ロタウイルス感染全体の80%、重症ロタウイルス感染症の95%を予防することができます。有効性は高いものの、それに伴って価格が高かったこともあり、なかなか定期接種に移行することができませんでした。しかし、令和2年8月出生のお子さんからは定期での接種が可能となることが決定しました。それまでに出生されたお子さんに関しては費用が発生します。完全に自己負担でワクチン接種する場合、およそ2-3万円の接種費用がかかります。

 

感染後の経過に関して

2-4日の潜伏期間の後、発熱と嘔吐が出現します。ついで水様性下痢が1-2週間続き、自然に治まります。白やクリームの便色であることが特徴ですが、普通の茶色い便であることもあります。他のウイルス性胃腸炎より重篤化しやすく、急性胃腸炎で入院する約半数がロタウイルス感染症であると言われています。

また、合併する症状として、けいれんや脳症、心筋炎、肝炎、急性腎不全などを生じることがあります。

 

治療

ノロウイルス、ロタウイルスだけでなく、その他も含めたウイルス性胃腸炎に対して、特別な治療はありません。脱水を生じないようにすること、発熱に対して解熱を試みるなど、対症療法(出現した症状を軽快させるための治療)しかない状況です。

市販のOS-1をごく少量ずつ(5mL程度) 5分ごとに飲ませるなどすることで脱水を防ぐことが大切になってきます。スポーツドリンクはナトリウム濃度が低く作られており、糖濃度も高く、あまり適切であるとは言えません。

体重が普段と比べて9%以上も減少する場合には点滴が必要となります。

最初に示した脱水を疑わせる項目に当てはまる場合には医療機関を受診する必要がある状態であると思われます。胃腸炎の際には急激な症状の進行が予測されるため、早めの受診をお勧めします。救急相談センター(♯7119)にコールすることで受診が必要か否かに関してアドバイスを受けることができますので、夜間現状受診するべきか判断できない場合には利用することも検討してみてください。

 

受診や相談をする際には、

✓いつ頃からどんな症状が出ているか

✓どの程度の頻度で嘔吐下痢症状があるか  

上記の内容を伝えていただければスムーズに診療が進むと思われます。

 

■文献

佐々木美香, 佐々木朋子,  米沢 俊一: 各 論 (4)腸管ノロウイルス,ロタウイルス感染症 ─ 小児における診療の注意点 INTESTINE volume 23, number 2, 2019.

五十嵐 隆(編集):小児科診療ガイドライン-最新の診療指針-第3版 p.81-84 2016

ノロウイルス感染症とは (国立感染症研究所: 令和2年12月26日)

ロタウイルス感染性胃腸炎とは (厚生労働省 : 令和2年12月26日)

インフルエンザの予防についてのまとめ

こんにちは。東京都のホームページから都内のインフルエンザ流行の情報を2週間ごとに確認することができますが、11/8の報告ではまだそれほど流行は見られていません。http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/flu/
例年の報告では12月に入ってから徐々に患者報告数が増加し、3月頃まで流行は継続しているようです。あと1-2週間で流行時期似突入することが想定されます。
 
「インフルエンザの予防接種打った方がいいよ」と言われていますが、実際にどのくらいの予防効果があるのか、有害事象(副作用)はどんなことが挙げられるのかなど、今回はインフルエンザ予防に関してまとめてみました。
厚生労働省のHPに詳しく記載があるのですが、今回は予防についてフォーカスして確認していきましょう。
 

インフルエンザの症状について

前々回の記事でも触れていますが、まずはインフルエンザの症状に関してご説明します。

 

www.akirano.work

 

インフルエンザは、「インフルエンザウイルス」に感染することで生じる疾患です。38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が急に出てきます。
 
また、咽頭痛、鼻汁、咳嗽など、普通の風邪でも出るような症状も伴うことが多いです。
小児では急性脳症と呼ばれる中枢神経症状を伴ったり、高齢者や免疫力が低下している方では肺炎をきたす場合もあり、いわゆる重症インフルエンザと呼ばれる状態で入院が必要となることもあります。
 

インフルエンザワクチンの有効性について

予防接種が有用といわれる根拠となる研究は、「ワクチンを摂取しなかった人が病気にかかるリスクと比較して、摂取した人が病気にかかるリスクがどの程度減少したか」という指標で示されます。
 
6歳未満の小児を対象とした2015/16シーズンの報告では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は60%と報告されています。「インフルエンザ発病防止に対するワクチン有効率が60%」とは、下記の状況が相当します。 
・ワクチンを接種しなかった方100人のうち30人がインフルエンザを発病(発病率30%) 
 
・ワクチンを接種した方200人のうち24人がインフルエンザを発病(発病率12%) 
→ ワクチン有効率={(30-12)/30}×100=(1-0.4)×100=60%
 
ワクチンを接種しなかった人の発病率を基準とした場合、接種した人の発病率が、「相対的に」60%減少しています。すなわち、ワクチンを接種せず発病した方のうち60%(上記の例では30人のうち18人)は、ワクチンを接種していれば発病を防ぐことができた、ということになります。 現行のインフルエンザワクチンは、接種すればインフルエンザに絶対にかからない、というものではありません。しかし、インフルエンザの発病を予防することや、発病後の重症化や死亡を予防することに関しては、一定の効果があるとされています。
 
 

副反応について

インフルエンザワクチンの接種後の副反応は皆さん気にされる点だと思われます。一番多く現れる副反応としては接種部位の発赤・腫脹・疼痛が挙げられます。(10-20%)
全身性の反応としては、発熱・頭痛・寒気・だるさなどがあり、これらは5-10%に見られると言われています。これら症状は通常2-3日でおさまってきますので、特に心配する必要はありません。
その他に極稀ではありますが、一部重い副作用が出現する場合もあります。
アナフィラキシーや急性散在性脳脊髄炎、脳炎脳症、痙攣、脊髄炎、ギラン・バレー症候群、視神経炎、血小板減少性紫斑病など、様々な副反応が出現する可能性を指摘されています。
普段と様子が異なる、今までできていたことができなくなる、発疹が気になるなどワクチン接種後に出てきた場合には早めにクリニックを受診していただいたほうが良いかと思われます。
 
 

ワクチン以外の予防方法

・外出後の手洗い
・適切な湿度の保持
・十分な休養とバランスのとれた栄養摂取
・人混みや繁華街への外出を控える
 
気道粘膜の防御機能を保つため、マスクによる保湿や、加湿器などを使用して適切な湿度を保つことが有用とされています。
仕事をしていたり、学校へ行ったり社会生活を営むにあたって人との関わりは避けられません。
流行期に入る前から適切な対応をするよう心がけることが重要です。
 

最後に

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。
 
 
参考文献
1)平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷齊(国立療養所三重病院))」
 
2)平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究(研究代表者:廣田良夫(保健医療経営大学))」

虐待かもしれない!小児科医が外来で児童虐待を疑ったときにすること【5選】

f:id:shounikaiakira:20191030001056p:plain

悲しいことに児童虐待のニュースが絶えません。児童虐待の頻度(児童相談所への報告件数)は毎年上昇傾向にあります。
平成2年からの報告数が厚生労働省のホームページに載っています。平成2年に集計が開始され、その年度は1,101件/年でした。しかし、平成30年には159,850件に増加しています報告件数が減少している年度はありません。
増加要因としては心理的虐待に係る相談件数の増加や警察などからの通告の増加が挙げられています。
 
割合としては、心理的虐待が半数以上を占め、続いて身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順に多いです。
すべての項目で、毎年報告件数が増加しています。
 
死亡者数に関しては、平成19年の142人をピークにしてその後は毎年60-100人で推移しています。 3−6日に一人ずつ、虐待によって幼い命が亡くなってしまっている計算になります。
 

虐待後に小児科へ連れてくる保護者

 
そんな親いるのか、と思われるかもしれませんが、実際にそんな保護者はいます。虐待は再発率が高く、繰り返されるごとに致死率が上がっていきます。
児童虐待はもはや重症な小児疾患として扱われます。そして診断は困難です。
 

ポイント1:とにかく、子供の安全のため、まずは入院させる

 
虐待は身体的なものだけでなく、心理的なものや性的虐待もあります。なにより子供の安全を確保する必要があるため、虐待に対しての最も有効な対処は、入院ということになります。
しかし、児童相談所の所長の判断によって一時保護委託に至るまでは親権者の同意が子供の入院には必要となるため、なんとかして子供のために入院を進めていく必要があります。
 
「疑わしいその疾患を検査するためや、経過観察をするために入院が必要となります。」などと、入院の同意を得て入院させることが望ましいとされています。
 
 
虐待を疑われていることを知った親は、子供を監禁したり、脅したりして口止めする、家族と口裏を合わせる、証拠を隠蔽するなどの工作を行い、虐待の証明をすることが困難となる場合があるため、現行の法制度ではこのような対処をせざるを得ません。
 

ポイント2:子供が2歳8ヶ月以上である場合には一度保護者に診察室から出てもらう

 
この年齢を過ぎていると、大人と同じようにとまではいかないものの、子供は話が通じます。保護者が近くにいることで、話すことができない、言葉が出ないことがあります。
それ以下の年齢なら、親子分離せずに外傷の経緯や、痩せなどの原因に関して十分な聴取を行います。
 
 

ポイント3:全身を診察する

虐待を加えられた部位が服で見えない場合があります。
全身をくまなく診察して、所見があれば写真を取ります。
保護者から、「この傷はもともとのものです」など誤魔化すような発言があった場合には必ず証拠を残しておく必要があります。
 

ポイント4:全身骨のレントゲン撮影を行う

特に言葉を話せない小児では全身骨のレントゲンを撮り、十分に疎通が取れるようなら、「痛いことをされたのはどこか」確認し、その部位のレントゲン撮影を行います。
頭部外傷があれば頭部CTも実施します。
 

ポイント5:病歴聴取や検査の後、児童相談所に通告する

これは児童虐待防止法第6条、児童福祉法25条に記載されています。
虐待と「思われる」子どもを診療した医師は、児童相談所または福祉事務所に通告する義務があります。
ここで重要な事は、虐待の事実を確認する必要はないという点です。
虐待の事実確認は、児童相談所によってなされます。医師は、疑わしい症例を報告すること、身体的心理的障害を負ったお子さんを安全に保護し、診断・治療することが大事になってきます。
 

最後に

アメリカの児童虐待研究の第一人者であるC.Henry Kempe医師は
「虐待でないのに間違って保護してしまった子どもには謝罪することができる。しかし、虐待であるにもかかわらず判断を誤って保護せず、命を落とした子どもには謝罪することができない」
と言葉を残しており、これは現在の小児科診療、救急診療においても非常に重要な考え方であると考えられます。
 
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。

そろそろ流行時期!インフルエンザについてのまとめ [2019/2020シーズン]

こんにちは、小児科医あきらです。

最近はインフルエンザの流行の噂が流れてきています。流行が加速する前に、一度情報を整理していきましょう。

ではよろしくお願いいたします。

 

感染経路

インフルエンザの感染経路は、飛沫感染及び、接触感染です。

飛沫感染の対策としては、咳鼻水などの症状がある方はマスクを着用して、咳をする場合にはティッシュやハンカチで口を覆ったりすることです。実際はインフルエンザ予防でマスクはあんまり意味がないです。厚生労働省もそのことを公にしています。要は症状がある人が他の人に移さないようにするためにマスクをすることは有用だけど、症状がない人がマスクをしても予防効果はないということがポイントです。

接触感染に対しては、手指衛生を徹底するより他ないと思います。外出した後など、症状がある人と接触したり、不特定多数の人たちとの接触があった後には必ず手洗いをしましょう。

 

上記の経路でウイルスが鼻や口から侵入して気道粘膜で増殖することで発症します。

 

症状

なにより呼吸器症状がまず出ますが、これはよく知られたことではありますが、高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感などの全身の症状が強く出る場合が多いです。健康成人・小児の多くは無治療で1-2週間の経過で軽快します。

 

リスク

2歳未満の小児、65歳以上の成人、もともと肺や心臓、代謝、神経疾患があったり、発達遅滞や免疫抑制状態であったり、妊婦さんだったりする場合には重篤化する場合があります。

また、川崎病や心血管疾患などに伴って、19歳未満でアスピリンを長期内服されている方はインフルエンザ罹患に伴い、Reye症候群と呼ばれる状態に陥る場合がありますので、アスピリンを飲んでいる方でインフルエンザを疑う症状や、意識状態が悪くなったり、嘔吐を繰り返した場合には速やかに医療機関へご相談ください。

 

治療

季節性インフルエンザに対しての抗インフルエンザ薬は「有熱期間の短縮」「早期投与による重症化予防効果」が報告されています。

幼児であったり、基礎疾患があるなど、前述の重症化リスクが高い患者さんには投与が推奨されます。

発症後48時間以内の使用が原則です。しかし、重症化のリスクが高いと判断した場合にはそれ以降でも使用します。

基礎疾患を有さない患者さんでも48時間以内にインフルエンザの診断に至った場合には投与を考慮します。

ポイントとしては、普通の一般成人、小児がインフルエンザにかかった場合、必ずしも抗インフルエンザ薬が必要ではない、というところです。(積極的に処方しない医師はあまり出会ったことはありませんが)担当医師の判断では自然軽快が望めると判断した場合には処方しない場合もあります。

 

登園・登校

出席停止期間が決まっています。(発熱後5日、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまで)を遵守してください。インフルエンザの診断に至った場合、学校もしくは幼稚園にそのことをお伝え下さい。

 

抗インフルエンザ薬

  • オセルタミビル(タミフル®):吸入での抗ウイルス薬使用が難しい、4歳未満の小児にも使用可能です。
  • ザナミビル(リレンザ®)ラニナミビル(イナビル®):吸入ができる5歳以上の小児に使用します。
  • ベラミビル(ラピアクタ®)上記の仕様が困難な場合に、点滴で本薬剤を使用します。

以前タミフルでの異常行動が問題になっていた時期もありましたが、必ずしもタミフル®使用で異常行動が引き起こされるわけではないことが既に示されているため、インフルエンザに診断された場合には、異常行動を起こす可能性があることを知っていただければ幸いです。

 

インフルエンザワクチン接種

インフルエンザワクチンは、発症予防には効果があり、欠席日数を減らす効果も報告されています。1)

また、入院を減らした報告もあります。2)

13歳以上の人は1回接種が原則です。ある文献では1回と2回で同等の抗体価上昇が得られると報告されています。

しかし、医師の判断で2回の接種が必要と判断した場合には2回打つ場合もあります。

13歳未満は2回接種です。2回打った場合のほうが抗体価の有意な上昇が得られます。

しかし、「摂取すればインフルエンザにかからない」というものではありません。その点はご理解頂く必要があるかと思われます。

 

以上がインフルエンザのまとめでした。

ここまで読んでくださってありがとうございました。 もしよければブックマーク登録、ブログのシェア頂けると幸いです。 これからも小児の疾患に関して、シンプルにわかりやすく記事を書いていこうと思います。 よろしくお願いいたします。 小児科医あきらでした。

 

参考文献 

1)Jefferson T., Rivetti A., Di Pietrantonj C., et al.: Vaccines for preventing influenza in healthy children. Cochrane Database Syst. Rev., 2012 Aug 15; 8:CD004879. doi: 10.1002/14651858.CD004879.pub4. 

2)Talbot H.K., Zhu Y., Chen Q., et al.: Effectiveness of influenza vaccine for preventing laboratory-confirmed influenza hospitalizations in adults,2011-2012 influenza season. Clin. Infect. Dis. 2013;56(12)1774-1777.

ライフラインが絶たれているとき、赤ちゃんへの授乳ってどうしたらいいの?

今夏の台風15号、台風19号の被害は甚大なものとなってしまいました。
大雨、洪水に伴う被害に合われた方には、心よりお見舞い申し上げます。
各地の水害状況が連日報道される中で、気になることがありました。
 
ライフラインが絶たれ、電気もガスもなく、清潔な水が十分に手に入らないとき、赤ちゃんたちが低栄養になってしまうリスクがあるはず。どんな対応されているのか?実際に災害時にどのようなことが想定されて、どういった対策があるのか?
 
そんな疑問を持ったため、ちょっと調べてみました。

今回はIFEコアグループが作成した、「災害時における乳幼児の栄養」、「赤ちゃん防災プロジェクト ~JAPAN PROTECT BABY IN DISASTER PROJECT~ 災害時における乳幼児の栄養支援の手引き」を参考文献として記載していきます。ネット上に公開されて誰でも見ることができるため、原文を読みたい方は下記のリンクからご確認ください。
 

災害時に赤ちゃんをまもるには

 
まず第一に赤ちゃんにとっての最良の栄養源は母乳です。お母さんが疲れてしまって母乳が少なくなったり、一時的に止まってしまうこともあります。特に災害時には避難所などの自宅以外の落ち着かない場所で不安な気持ちがある中そのような事態となってしまうことは自然な反応かもしれません。
とにかく、周りの人で協力してお母さんと赤ちゃんにとって少しでも安心して授乳できるプライベートな空間を確保しましょう。
 
どうしても母乳不足や疲労が溜まってきてしまった際には粉ミルクや液体ミルクを使うことも大事になってきます。
 

①災害時の栄養問題

 
妊婦や授乳婦には食事をしっかり食べてもらうことが大事です。
これまでの報告からは、
①食事回数が減る
②摂取エネルギーが減る
③食材の偏りがでる
④脱水症状
これらが問題となってきます。
 
避難所ではビタミンやミネラル、食物繊維やタンパク質が不足する場合があります。
栄養ドリンクや調整食品(バーやゼリーなど)野菜ジュースや雑穀米、ビタミン剤での補充も重要です。意識的に上記のものを摂取し、水分も十分に飲んでください。
 
また、塩分が多くなってしまう傾向にあります。むくみなどの症状が出る場合には、塩分摂取量を控えることも大事です。
 
食中毒も問題となりえます。食物には直接触れず、袋ごと持って食べたり、清潔な食器での食事を心がけてください。
 
 
エコノミークラス症候群について
足の太い静脈に血栓ができて、それが肺に飛び、詰まることで呼吸障害をきたし、生命の危機に至ることもあるエコノミークラス症候群にも注意が必要です。
ずっと座っていたり、足を動かさないと血栓ができやすいです。こまめに歩いたり、ストレッチをしたりすることは非常に重要となります。
 
 

②乳児の栄養

 
感染症の予防の観点から母乳が進められています。母乳栄養をもともと続けていた場合には、継続することが大事です。
一時的に出なくても、おっぱいを吸わせることで母乳が再度出てくることもあります。
 
赤ちゃんとのスキンシップ、ストレスの軽減にも授乳は大事です。ただ、お母さんにとって負担が大きかったり、体調が悪くなってしまった場合には無理しないようにしてください。
赤ちゃんの元気度、尿便の回数を確認してください。おむつがしっかり濡れるような尿が①日⑥回以上出ていれば母乳は十分です。
 
 
お母さんから見て、赤ちゃんの様子に元気がなくなってきたり、尿回数が減ってきてしまった場合には、母乳代替食品(粉ミルクや液体ミルク)の使用を考慮します。
もともと母乳栄養だったお子さんにいきなりミルクを開始すると心身に影響が出る場合もあるため、安易にミルクを進めることは避けるほうが良いと記載されています。
液体ミルクは災害時に保存している自治体も多いとのことです。調乳の必要がなく、清潔に飲ませることができるため、災害時には非常に有用な乳児の栄養となります。
 
  • 粉ミルク
飲料水(軟水)が必要です。ミネラルウォーターであれば国産のものを使用し、給水車からの水はできれば当日のものを使用してください。
水が沸騰したあと70度以上のお湯で長入することが勧められています。
調乳後の粉ミルクはすぐに飲ませ、余ってしまった場合にはすぐに処分してください。
 
  • 哺乳瓶と乳首
炊き出しの調理が可能となったら、哺乳瓶・乳首の洗浄、熱湯消毒を必ず実施しましょう。赤ちゃんの安全を守るため、この操作がとても大事となります。災害時のため、使い捨て哺乳瓶や乳首を使用することも選択肢の一つです。
 
  • 液体ミルク
2018年から、日本国内での液体ミルクの製造販売が可能となっています。
期限表示、包装の破損などないか確認し、赤ちゃんに飲ませる前に製品音色味や匂いを確認してください。哺乳瓶がなければコップ、スプーンでも授乳可能です。
カップフィーディングと呼ばれる、縦抱きで飲ませる方法もあります。時間は哺乳瓶よりかかりますが、哺乳は不可能ではないことを知っていただけると幸いです。
こちらも飲み残しは必ず処分してください。
 

③乳幼児の栄養

離乳食は避難所で最も困る問題かもしれません。
月齢に応じて対応が変わります。
5-6ヶ月:ミルクで対応
7-11ヶ月:お粥で対応
12-18ヶ月:ご飯で対応
普段食べさせていた離乳食と同じような硬さのものを与えましょう。
食器の消毒にも注意が必要です。
 

④特別栄養食品ステーション

災害時などには、特殊栄養食品ステーションという、非常時の食事を届けるためのエリアを設置するそうです。
アレルギー食品や母乳代替食品、離乳食を被災者へ届ける仕組みです。こちらが設置されているエリアに関してを報道などを通じて確認することが大事です。ぜひ相談してみてください。
 

最後に

何より大事になってくるのは、「母乳栄養のお子さんは、母乳栄養を続けられるようにする」ということです。避難所の中でも妊婦のためのプライベートエリアを設けたり、周囲のサポートが非常に大切となってきます。
また、「災害時のための備蓄を行政が整える」ということも重要です。ミルクが不要な子に無理に飲ませる必要はないことは留意しなければなりませんが、備蓄しておくことで乳児の安全を確保することができるのであれば、準備するに越したことはありません。
 
東京都からも紹介動画が上がっています。
1分間の短い動画です。 気になる方、是非チェックしてみてください。
 
ここまで読んでくださってありがとうございました。
もしよければブックマーク登録、ブログのシェア頂けると幸いです。
これからも小児の疾患に関して、シンプルにわかりやすく記事を書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。 
小児科医あきらでした。

危険!生命に危機を与えうるアナフィラキシーについてのまとめ

はじめに 

アナフィラキシーとは「アレルギーの原因となる、アレルゲンと呼ばれる物質の侵入によって、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過剰反応」と定義されます。簡単に言えば「アレルギーの重症例」と知っていただければ良いですし、みなさんもこのように捉えているのではないでしょうか。アレルギーの診断は難しく、発症初期には進行の速さ、重症度の予測は困難です。重篤なアレルギー反応が疑われた場合にはすぐに救急要請が必要となる場合があります。以前、ハチに刺された時の対処に関して書きましたが、今回はアレルギーの中でもアナフィラキシーとよばれる状態に関してまとめています。

ハチ毒に関しての記事はこちら↓

 

www.akirano.work

 

では、実際にどんな症状なのか、どんな治療があるのかに関して順番に紹介していきましょう。
今回は、日本アレルギー学会が発行している「アナフィラキシーガイドライン」「今日の診療指針2019年度版」をもとに記載していきます。

疫学

後程記載しますが、皮膚症状つまりは蕁麻疹だけであれば、アナフィラキシーの診断にはなりません。アナフィラキシーの既往をもつお子さんの割合は小学生で0.6%、中学生0.4%、高校生0.3%と報告されています。大体200人に一人くらいの割合ですね。食物アレルギーによるアナフィラキシーにより死に至る確率は患者10万人あたり1.35~2.71人0〜19歳では3.25人である。と報告されています。

病態

アナフィラキシーは何らかのアレルゲン(抗原)となり得る物質の体内への侵入により、複数臓器に、全身性に、アレルギー症状が惹起され、生命に危険を与える過敏反応です。
原因物質として、医薬品、血液製剤、ラテックス、昆虫、食物などがあげられます。
症状が出うる主な臓器は①皮膚・粘膜、②呼吸、③循環、④消化管です。
症状が落ち着いてから1-8時間後に遅発反応として症状が再燃することもあります。
 

診断

アレルゲンに暴露してから数時間以内に皮膚症状(蕁麻疹、紅斑)に加えて、気道(嗄声、喉頭浮腫)、呼吸(喘息)、循環(ショック)、消化管(下痢、嘔吐、腹痛)などの症状が中等症以上で出現した場合、アナフィラキシーと診断します。
 
原因となりうるイベントから、数分から数時間以内に
  1. 皮膚症状+呼吸器症状もしくは循環器症状が出る場合
  2. 皮膚症状、呼吸器症状、循環器症状、持続する消化器症状のうち、2つを満たす場合
  3. 急激に血圧が低下する場合
以上の3つのうち一つに該当すればアナフィラキシーの診断となります。
小児であれば11%で二相性のアナフィラキシーという、数時間経ってから症状再燃を引き起こす可能性がありますので、アナフィラキシーと診断した場合には原則経過観察入院となります。

 鑑別しなければならない他の疾患

喘息:共通する症状として、喘鳴、咳嗽、息切れがありますが、喘息発作では皮膚症状や腹痛、血圧低下は生じません。
不安発作/パニック発作:切迫した破滅感、息切れ、皮膚紅潮、頻脈、消化器症状など生じますが、こちらも皮膚症状、血圧低下、喘鳴を生じることはありません。
失神:血圧低下により、失神をきたすことがあります。失神であれば臥位をとると軽減され、通常蒼白と発汗を伴います。蕁麻疹や皮膚紅潮、呼吸器・消化器症状は呈しません。
 

 初期対応

速やかに救急車を呼んで、下記の対応を行いましょう。アドレナリンの自己注射薬(エピペン®)が処方されている場合には大腿外側投与してください。気道・呼吸症状には、座位、循環症状には仰臥位で下肢挙上、意識障害なら回復体位(側臥位)が推奨されています。
症状悪化の可能性があるため、急に座ったり、立ち上がったりしないよう注意しましょう。現場で出来ることはここまでだと思います。とにかく、可能な限り早く人を集め、救急要請をしましょう。
 
以降は医療資源がある救急車の中であったり、病院に到着してからどのような対応をすべきかに関してお示しします。
 
  • 呼吸評価・原因物質の除去・酸素投与
気道の評価を行い、喉頭浮腫などで気道閉塞が生じているあるいは生じうると判断した場合には気管挿管を行い、酸素投与を開始します。
原因と思われる物質の投与が行われている場合には必ずその投与を中止します。
 
  • 輸液 
急速輸液を行い、血圧低下への対処とします。
 
  • アドレナリン
アナフィラキシーショックとなり、血圧が保てなくなることが何より危険です。
アナフィラキシーの診断に至った場合には、アドレナリンを筋注します。用量は体重(kg)あたり0.01mgです。。体重が20kgであれば、0.2mgとなります。部位は大腿外側が推奨されています。筋注後10分で最高血中濃度となり、40分で半減するため、16-35%の症例で症状が再燃し、2回目の投与が必要となると言われています。
 
  • ステロイド
ステロイドは、アドレナリンの反応性増強、症状遷延化の抑制のために投与します。 遅発反応抑制効果は認められていないため、ステロイドを使用しても二相性のアレルギー反応を抑制するわけではないことに留意します。
 
  • 心肺蘇生
血圧が保てず、全身への血流が保たれなくなる場合もあります。必要に応じ、心肺蘇生が必要となります。
 
  • バイタルサイン
頻回かつ定期的にバイタルの測定を行い、血圧、脈拍、呼吸状態、酸素化の評価を行います。
 
  • その他薬物治療
まず、覚えておいていただきたいのは、何より第一選択薬はアドレナリンであるということ。アナフィラキシーの診断→アドレナリン筋注は自然な流れです。

H1抗ヒスタミン薬は呼吸器症状には無効ですが、掻痒感、紅斑、蕁麻疹、血管浮腫、目・華の症状を緩和します。β2アドレナリン受容体刺激薬の吸入は、気管支拡張を促進し、喘鳴、咳嗽、息切れを軽減させます。

 

予防

 

過去にアナフィラキシーを起こしたことがある児童については、その病型を知り、学校生活における原因を除去することが不可欠です。
リスクが高いと考えられるお子さんの場合には、エピペン®を処方されます。嘔吐を繰り返したり、持続する強い腹痛があるなどの消化器の症状、のどが締め付けられたり、ひどいせきこみが始まったり、呼吸がぜーぜーし始めたりするような呼吸器の症状、爪や唇が青くなったり、意識がもうろうとしたり、尿失禁便失禁をきたすなどの全身の症状が出現した場合には迷わずエピペン®を使用しましょう。
アレルギーの診断がされた場合には、保育所や学校における除去物質などの指示をしなければなりませんので、診断を受けたクリニックや、かかりつけの先生に「生活管理指導票」の記載をお願いしてください。
 
ここまで読んでくださってありがとうございました。
もしよければブックマーク登録、ブログのシェア頂けると幸いです。
これからも小児の疾患に関して、シンプルにわかりやすく記事を書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。 
小児科医あきらでした。
 
 
 

*1:Umasunthar T et al.Clin Exp Allergy 2013;43:1333-41

#インスタ医療団 というハッシュタグについて

正しい情報を発信しようと、Instagramで多くの医師がこのタグつけて情報を発信していますが、中には医師なのかもよくわからない人物が根拠のない情報を流布しています。

 

InstagramTwitterでは誰でも好きなタグをつけることができることが大きな問題です。誰でもパブリッシュできるため、明らかに根拠がないことも多くの人の目に触れてしまいます。本当に注意していただきたいと心から思っています。

 

  • 情報の出どころが明記されていない
  • 既存の治療を否定する内容を繰り返し訴える
  • 自分のセミナーに来訪を促す

 

こういった発信者の情報は疑ってかかってください。

 

間違った民間療法に流れて悲劇的な経過を迎えた症例は数え切れません。

医療は今現在まで、そしてこれからもエビデンスに基づいて進歩していきます。新しい治療が必ずしも良いというわけでもありません。日々基礎研究、臨床研究を行い、世界中の文献を分析してよりよい治療を選択しています。ネットは非常に便利で、まとまった情報を得るのにはとても良い手段です。そこで生じた疑問は、必ずかかりつけの医師に直接聞いてみましょう。信頼できない、納得できないなら、セカンドオピニオンを依頼するというのも手段の一つです。

 

 

この記事を読んだ皆様が、間違った情報に惑わされず、きちんとした診断のもと、よりよい治療を受けられるよう祈っています。

 

このブログでは基本的に教科書やエビデンスレベルの高い文献、UpToDateなどから情報を引用し、噛み砕いてまとめていきます。自分の経験だけで語らないように気をつけています。しかし、すべての情報が正しい、と私から読者の皆様に言うことはできません。詳細は固定ページの免責事項をご一読ください。また、難しい言葉が混じってしまうこともあります。疑問に思うことや、これ間違ってる!といった内容があれば、コメントや問い合わせフォームで記載いただけますと幸いです。必ず目を通して回答します。

 

皆様に、シンプルに、わかりやすく、情報を提供できるようこれからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。

 

小児科医あきら

こどもが頭を痛がっている 小児の片頭痛についてのまとめ

こんばんは、小児科医あきらです。

頭痛は診断に苦慮する症候の一つです。 痛みは定量的に評価することは難しく、痛がり方も人によって異なります。例えば、本日来院された片頭痛のお子さんは「電動ドリルで頭の内側から穴を開けられるような痛み」と表現していました。

 

 

今回は片頭痛についてお話します。最初にお伝えしますが、本記事だけをみてこれは片頭痛だから痛み止めで対応して病院に行かなくてもいいか、と判断するのは絶対にやめてください。頭痛が続く場合には必ず医師の診察を受けてください。この記事は「片頭痛の診断にすでになっている人に対して、確認のために」記載しています。

疫学、病態、症状、診断、治療、予後に分けて記載していきます。

どんな人がなるの?疫学について

日本の小学生と中学生を対象に行われた頭痛の調査によると、片頭痛の有病率は2.5%〜19.5%であり、歳を重ねるごとに有病率は増加傾向にあります。思春期を超えると男児よりも女児の方が有病率は上がります。また、大部分に家族歴があることもわかっています。

 

どうして痛くなるの? 病態について

三叉神経と呼ばれ、顔面の感覚を司る脳神経の繊維が刺激を受けて、血管拡張や神経原性炎症が引き起こされ、片頭痛を引き起こされる、セロトニンも、片頭痛の病因に重要な役割を果たす可能性がある、などの説が挙げられていますが、現時点ではっきりとした原因はわかっていません。

 

どうやって診断するの? 主要症状・診断について

片頭痛では、拍動性の頭痛を繰り返します。発作は2~72時間続き、日常生活動作で頭痛が増悪します。悪心、光・音過敏などの随伴症状が出る場合が多いです。診断はいくつかの項目があり、前兆のない片頭痛とそうでないものに分けられ、特徴的頭痛発作を聴取し、診断します。常に感染症や高血圧性疾患、耳鼻科眼科的疾患、脳腫瘍、脳血管障害など、器質的疾患があって頭痛症状を出現させている可能性も考慮し、精査を行う必要があります。頭部MRIやCT、髄液検査、血液検査、脳波検査などを器質的疾患が疑われる場合に実施します。

 

痛みにはどう対処したらいいの? 治療について

先ずはストレス、睡眠週間、食生活、天候の変化、特定の食物などを評価し、頭痛を引き起こす環境を改善していきます。頭痛症状が出現したら、暗く静かな部屋で休みます。小児の場合にはまず急性期に有効な薬物として、NSAIDSアセトアミノフェンなどを使用します。トリプタンなど、成人で使う薬は12歳を超えていた場合には使用を検討します。その他、予防薬として、抗てんかん薬を使用する場合もあります。

また、嘔気嘔吐を伴うことがあり、そういった症状に対しては制吐剤も使用します。

 

おとなになっても片頭痛は続くの? 予後について

気になるのは、診断されたお子さんがどの程度症状が持続するか、という点かと思われます。 UpToDateから拾ってきた3文献をまとめると、下記の通りになります。

イタリアからの報告では、片頭痛のある81人の患者(6〜54歳で発症)が10〜20年間追跡されました。頭痛の頻度は、症例の54.4%で大幅に減少し、25%で増加しました。頭痛はそれぞれ36.2%と5.5%で軽度または重度になり、11.1%で完全に解消していました。 

スウェーデンの縦断的研究では、約6歳で発症した重度の片頭痛のある73人の子供を追跡しました。23%は25歳までは頭痛がありませんでしたが、30歳以上および50歳で片頭痛が半数以上報告されました。女の子は男の子よりも再発する可能性が高いという結果でした。

スペインで片頭痛の子供181人を対象に10年の追跡調査が実施された。発症時期を二群に分け、6歳前または6〜10歳でそれぞれ24%および57%でした。患者の88%で臨床経過は良好でした。残りは予防処置を受けました。この研究では、他とは対照的に、良好でない経過は片頭痛の早期発症と関連していた。

*1

掻い摘んで話すと、長期的に経過を追った文献は少ないですが、症状の経過は文献によって異なっており、傾向として、若年発症の片頭痛では症状が持続しやすい傾向にある、ということが言えるかと思われます。

とにかく、日常生活に支障を及ぼす頭痛のコントロールが大事です。診断に至ったら内服薬で対応しましょう。服薬の選択肢はいくつかあります。主治医の先生と相談して治療を進めていきましょう。

 

まとめ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。

 

 

参考文献

UpToDate Preventive treatment of migraine in children

小児科診療ガイドラインー最新の治療指針ー第三版

*1:Bille B. Migraine in childhood and its prognosis. Cephalalgia 1981; 1:71. Cologno D, Torelli P, Manzoni GC.

Migraine with aura: a review of 81 patients at 10-20 years' follow-up. Cephalalgia 1998; 18:690.

Bille B. A 40-year follow-up of school children with migraine. Cephalalgia 1997; 17:488.

Hernandez-Latorre MA, Roig M. Natural history of migraine in childhood. Cephalalgia 2000; 20:573.