縁廻る企画

出会ったひと、お話ししたこと、感じたこと、その記録。

第7回 ネガティヴを見つめる 2/2

 

shubonbon.hatenablog.jp

 

☝こちらの記事の続きです。 

 

【もくじ】

 

▼理系の文章が好き

か:本好きという薄井さんですが、オススメの本はなんですか?

薄「雑誌ですけど、TOKYO GRAFFITTYですね。オススメです。最近、いろんなひとの部屋の特集っていうのがあって、ナンバーワンホストの部屋とか、パンクロッカーカップルの部屋、ラブドールと暮らす人の部屋ミニマリストの部屋……などなど、たくさん部屋の写真が載っていて、面白いんです。TOKYO GRAFFITTYはいろんな人に取材するのが多いから楽しいですね。ギャル会話、オタク会話っていう回もよかったです。専門用語に注釈がつくんですよ(笑)」

TOKYO GRAFFITI WEB|東京グラフィティ

*ここに出てくる、「部屋の特集」をやっていたのは136号。アプリをダウンロードすれば、まだ¥240でバックナンバーが読めますよ。わたしもダウンロードしちゃいました!


薄「小説では、江國香織さんが好きです」

か:そういえばしらすさんも、江國香織さんが好きだと言っていましたね。やっぱり人気なんですね、江國さんは。

薄「あ、わたしがしらすさんに薦めたのかもしれません」

か:なるほど!わたし、江國香織さんってまだ読んだことないんですけど、オススメはありますか?みなさん好きな作家に挙げるので、そろそろ読んでみたいな、という気になってきました。笑

薄「きらきらひかるですかね。ゲイの旦那と結婚した、精神疾患のある女の人の話……とだけ言うと、壮絶そうですけど(笑)あんまりギスギスした感じじゃないですよ。女性は、旦那さんと旦那さんの恋人と仲良くしたくて、でもご家族はそういうことを許さなくて、そこに葛藤がある。そういう、社会のしがらみからちょっと離れたような三人の仲良しな感じと、親御さんの齟齬が対照的に書かれています。途中で"羊羹のような闇"って表現が出てくるんですけど、そこが好きなんです。笑」

か:羊羹!やはり自分で書くひとは目の付け所がちがいますね。文章にはこだわるほうでしょう?笑

薄「そうですね(笑)私「はい。」みたいなカギカッコの中の最後の文章に"。"がついてるのは嫌なんです。ダメ!違う!みたいな。そこじゃない!みたいな。許さないです!笑」

か:あ、めちゃくちゃわかります。わたしも嫌なんですよ、それ。笑

薄「文章の改行にもこだわっちゃいますよね」

か:わかります!改行がなるべくキリのいいところになるように、平仮名にしたり漢字にしたり、文字数を調整したり。笑

薄「私、理系の人の文章が好きで」

か:わかります……わかりますよ……。

薄「すごく端的なんですよ。理系の人って簡潔な文章ですよね。あった物事を正確に伝えるってことを求めてるから。単語を多く使うんですよ。その感じが!よくわかんないけど!凄く好きで!文系とは違う、小気味いいリズムがありますよね」

か:本当にそうです。わたしは簡潔な文章が好きなので、たとえば論文とかでも、文学系のものより理系のもののほうが読んでいて文章が好きだなって思います。

薄「作家で言うと、茂木健一郎さんとか。森博嗣さんも工業大の学者さんなので、理系よりの文章ですね」

か:そうなんですか!知らなかったです。たしかに森さんは理系っぽい……。


▼意味がわからない文章を書きたい

か:まさか文章トークでこんなに盛り上がるとは思いませんでした。

薄「でも私、文章に意味があるのが嫌になる時があるんです」

か:意味があるのが嫌……と言いますと?

薄「うーん、みんな文章でなんでもわかろうとするじゃないですか。あたりまえに、文章で感情が伝わることが嫌で。たまに、読み心地はいいけど、意味がわからない文章、を書きたい時があるんです」

か:なるほど。アジカンのひともそんなこと言っていました。あえて歌詞から意味を失くした、言葉遊びみたいな曲を作っていたんですよ。


All right part2という曲です。詳しくはこちらを☟

アジカン新曲2曲収録のコンピレーション。新曲のテーマとは? | スペシャル | EMTG MUSIC

 

薄「いろんなものに意味を持たせるのは大変ですよね。文章なんか、ただの道具だって思う時があるんです。何か伝えたい、けど、伝えたいことは必ずしも文章化するわけじゃない。なんとなく文章の言外にある雰囲気を受け取ってほしい。こう書いてあるからこう、じゃなくて、文章全部をなぞってふわっと受け取ってほしい時があります」

か:その点では、絵みたいな、アートのほうが良いですよね。文章というか、言葉って、具体的すぎるんですよね。

薄「そうですね。絵は、どんなに正確に描いてもどこか抽象的になると思います」

か:何か伝えたい、と言っていましたが、薄井さんが伝えたいことというか、表現したいことはなんですか。

薄「私、暗いものばっかり書いてるんですよね。これでもすごいポジティブになったほうで、高校のころはもっとネガティヴでした。人間、点滴とか、泥水すすってなんぼ、みたいな気持ちがあって。私の意見ですけど、楽しいとか、明るいっていうのは深みがないような気がするんです。悲しい、苦しい、憎いっていうのはすごく深いから、そういうのを体験するのは好きですね。そっちのほうが、表現しがいがあるし。だからネガティヴ寄りの感情が好きな部分はありますね」

か:ネガティヴな感情を体験するのが好き……!そんな感じ方もあるんですね。深いです。

 

▼目を逸らさない強さ(総括に代えて)

薄井さんはとてもおっとりしていて、お話ししていると薄井さんワールドに引き込まれていく感じがしました(!)ほわんとしていながら思想の深い方で、お話ししていておもしろかったです。薄井さんは「楽しいとか、明るいっていうのは深みがないような気がする」「悲しい、苦しい、憎いっていうのはすごく深い」と仰っていましたが、だからこそ、看護師さんとして働いていらっしゃるのかなと後から考えていて思いました。病気や死といったネガティヴなことを、きちんと見つめることができる、とても勇敢で強いひとなのだと思います。

ちなみに、このインタビュー後、一緒に本屋さんへ行き、わたしは『きらきらひかる』を購入しました。すぐに読みました。美しくて、優しくて、ちょっと涙しそうになってしまうくらい、素敵な小説でした。みなさんもぜひ読んでみてください。笑

きらきらひかる (新潮文庫)

きらきらひかる (新潮文庫)

 

 

第7回 ネガティヴを見つめる 1/2

2016/08/20

 

薄井さんとお会いしてきました。

薄井さんは、看護師・20代・女性。しらすさんのご紹介でこの企画に参加してくれました。

さて、この企画も第7回ということで……ここで(突然ですが)今までの経過を整理してみたいと思います。

 

こんな感じです。ご覧のとおり、本来は「友達の友達の友達……」と辿っていく企画だったのですが、「友達の友達」より「友達」が増え続けています(笑)まあ、これはこれでおもしろいので、ヨシとしましょう!

 

では、第7回いきます。

今回の記事はすこし長いので、ふたつに分けてみました。

 

【もくじ】

前半

・看護師というお仕事(1/2)

後半

・理系の文章が好き(2/2)

・意味がわからない文章を書きたい(2/2)

・目を逸らさない強さ(総括に代えて)(2/2)

 

▼看護師というお仕事

かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします。

薄井(以下、薄)「薄井です」

か:薄井っていうのは、PNなんですよね?

薄「はい。本当は、"背骨ぐちゅぐちゅ薄井"だったんですけど……」

か:な、なぜ?!

薄「語呂が良かったからですかね……響き?」

か:響き。

薄「職業は看護師です」

か:看護師さんって、具体的にはどういうことをするんですか?

薄「えーと、先生の指示に従って、点滴とか内服とか。治療関係ですね。私たちの業界では、よく"安楽"っていう言葉を使うんですけど。患者さんが"安楽"に過ごせるように、そのお手伝いをしています。寝たきりの人が多いので、お風呂とか、お身体を拭いたり、おしもを洗ったり……ということもします」

か:大変そうです。

薄「やってる側は、大変って感じしないですよ」

か:そうなんですか? 薄井さんは、なぜ看護師さんに?

薄「元々、向いてるって家族とかにも言われていて。高校のときは生物の授業が好きだったし、人の身体の仕組みとか、覚えるのが好きで。そういう関係の仕事に就きたいって思ったんです。それに、看護師って慢性的な人員不足なので、辞めてもまたすぐ就職できるんですよ。手に職をつけられるというか、資格があるところもいいなって。自宅でする仕事にも憧れていたので、小説家とかもいいな、と思うんですけど……」

か:小説家にはならないんですか?

薄「たとえば、ファンタジー小説は世界観を作らなきゃいけないですよね。そういうのが苦手なんです。私は短編しか書けないし、小説に対する熱意が持続的じゃない。書けるときに書きたいんです。小説家になりたいって気持ちもちょっとは、ありますけど、新しいのを出せって言われて出せる自信がない。今はネットでアマチュアでも活躍できるし、アピールする場所が増えているので、そういうやり方のほうがいいかなって。最果タヒさんみたいな、ネットで作品を出してっていうのもひとつのやり方だと思います」

か:わかります。わたしも自分のペースで気ままにやるのがいいな、と思って、ネットでこんなことをしています。笑

か:お仕事は楽しいですか?

薄「そうですね。扱っている内容が面白いです。神経内科というところなんですけど。たとえば、心臓とかお腹なら、ここが痛んでるからこの症状が出ているんだ、ってわかりますよね。でも、脳はそうじゃないんです。一筋縄ではなくて、脳のあるところが傷ついているのに、全然違うところが痛んでいたりします。開けて見ることもできないから、そこも面白いんですよね」

か:へえ……!ということは、あえて神経内科を選んだのですね。そこに興味があって。

薄「もともと精神科に興味があったので、ジャンルが近いから、興味を持ったのかもしれないです。鬱病も脳味噌の病気って言われたりしますからね」

か:鬱病にも興味が?

薄「中学の時、好きな小説家がいて、そのひとのサイトをよく見ていたんですが、そのひとは統合失調症で。すごくつらそうなんだけれど、すごくいい小説を書くんです。つらそうだからこそ、いい小説を書けるんでしょうね。そういう風につらそうな人の手伝いをしたいと思ったのがきっかけで興味を持ちました。才能があるのに活かせないのはもったいないですから」

か:そうですね。才能のあるひとほど、病んでしまったりしますよね。

か:神経内科には、どのような患者さんがいらっしゃるのですか?

薄「ご高齢の方が多いですね」

か:みなさん、何かご病気があって、それを治すために入院しているのでしょうか? それとも、入院しないと生活できない……という状況なのですか?

薄「ええと、長く生きていると、なにかしら痛いところが出てきますよね。ご高齢の方は、だいたい何かしら、ベースとなる疾患を抱えています。たとえば慢性の脳梗塞で体が麻痺している、とか。そういうのは治らない疾患ですね。でもそれって、他人の手助けは必要だけど、状態としては安定している、と言えるんです。だからそれだけでは入院しなくていいんです。でも、その状態が急変した時、つまり、もともと寝たきりだけど肺炎になっちゃったとか、脱水になっちゃったとか、なにかプラスで急変した事態が起きると、入院になるんですね」

か:なるほど。やはり入院というのは"異常事態"なんですね。

か:ところで、ご高齢の方が多いということは、人の生死をたくさん見るわけですよね。それもそれで心理的な負担が大きそうというか、……やっぱり悲しいですよね。

薄「そうですね。歳をとるとどうしても、周りに迷惑かけちゃったり、家族に見放されたり……そこまでして生きたいかな?とか、なんでこの人を生かしてるんだろう、って思う時もあります。この人、生きてる意味あるのかな?って。でも、ご家族からしたらもちろん、生きてる意味があるんですよね。そういうの見てると、30代で死にたいって思いますね(笑)死なないけど。でもだんだん、そういう感慨も薄れてきてる感じがします」

か:「ナースのお仕事」にそういう話がありましたね。
ナースのお仕事 - Wikipedia

薄「もちろん、病院で亡くなる人もいて。私はまだ立ち会ったことはないですけど、ある日病室がからっぽになっていて。あー死んじゃったんだなーって思ったんですけど、それだけだったんです。でも、本当はそれだけじゃなくない?って思ったりとか」

か:慣れてきてしまうんですね。でも、慣れないとやってられないお仕事でもありますよね……。

薄「癌の人も、結構いるんですよ。癌って、症状の変化が激しいんです。副作用も大きいし、あっという間に病状が進行してしまったりもする。ある患者さんがいて。だいたいの日常生活はふつうにできるけれど、食べることだけできない、って方だったんです。飲み込むのが痛くて。そのひとが抗がん剤の副作用でどんどん食べられなくなってしまって、この前仕事に行った時には、とうとう鼻から栄養をいれられていたんです。それがすごく衝撃的だったなあ。その人の気持ちを思うと、歩いたりできるのに、鼻から栄養って、すごく情けなく感じるだろうなって……。直視できなかったな。あ、もう、とうとうここまで来ちゃったのかって。癌は、看護師側としても、感じるものは多いですね」

 

☟後半に続きます!

 

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第6回 感動のなかではたらく

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2016/08/03 

 

あやさんとお会いしてきました。

あやさんは、幼稚園教諭・20代・女性。

明るく元気なお姉さんで、"楽しい"という仕事のことや、ご自身の持つポジティブな価値観について、興味深いお話をたくさん聞かせてくれました。

 

【もくじ】

 

▼社会人になるのは怖くない!

 

かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

あやさん(以下、あ)「あやです。幼稚園の先生をしています」

 

か:あやさんはなぜ幼稚園の先生になられたんですか?

 

あ「小学生くらいから、自分より小さい子が好きだったんです。幼稚園の先生も好きだったし……それで、そういう資格が取れる大学に行こうかなって。大学では、幼稚園教諭と保育士の資格を取りました。実習も楽しかったな(笑)」

 

か:仕事が楽しいっていいことですね。きっと天職なんですね……!

 

あ「でも、はじめはほかの仕事もいいなって思ってたんですよ。音楽が好きだからレコード会社とか……あとは、ふつうのOLさんにも憧れてました。丸の内の交差点で、お財布を持ってランチに向かう、とか、そういう生活がしてみたかった(笑)かっこいいですよね」

 

か:あ、なんかわかります(笑)なぜ、そこから「先生」に決めたんですか?

 

あ「うーん、自分でやってて、いちばん楽しいのは先生だと思ったんですね。仕事は、思っていたよりずっと楽しい。同期ともすごく仲がいいんです。わたし、"同僚"って、大学の友達みたいに仲良くなれないのかな、って思ってたんだけど、全然そんなことなくて。一緒に旅行に行ったり、土日も遊んだりするんです。だから楽しいのかな(笑)」

 

か:わたしは、いま就活を前にして社会に怯えているんですけど(笑)そういう楽しい職場もあるんだって思うと元気が出ますね……!

 

あ「ぜんぜん怖がることない!社会人って、楽しいよ!学生も楽しかったけど、なによりお金があるから、余裕が出るの。だからこそ、休みはあんまりないけど、そこで思いっきり遊べると思う。学生と違って、ひょいっと新幹線にも乗れるし、弾丸旅行だって行けちゃうよ!」

 

か:なるほど……!休みが少なくなるのは嫌だなあってばかり思っていたけど、そういう考え方もあるんですね。ちょっと元気出てきました(笑)

 

▼感動のなかではたらく

 

か:「仕事が楽しい」と仰っていましたが、"幼稚園の先生"というお仕事には、具体的にはどういう楽しさがありますか?

 

あ「子どもって、1年でめちゃめちゃ成長するんですよ。入園したてのころは一日中泣いてた子が、毎日にこにこして過ごせるようになったり……そういう成長をずっと見ていられるのは、本当にすごいことだと思うな」

 

か:子どもの成長は見ていて面白いですよね。できることが増えると、こっちもうれしい。

 

あ「そう。毎日ね、感動することがいっぱいあるの。仕事中に大笑いしたり、めちゃくちゃ泣くほど感動することが起きるんだよ。それがこの仕事の楽しいところだなって思う。子どもだけじゃなくて、同僚とか、親御さんとか、いろんな人との関係があって、そのなかで感動することがいっぱいある。はじめて担任を持った子たちが卒業するのを想像して、いまから泣いたりするの(笑)」

 

か:わあ、それってたしかに、すごいことですね。淡々とこなしていく仕事にはない、面白さですよね。

 

あ「あと、生徒に好かれるのもうれしい!幼稚園の先生ってさ、お父さんとお母さんの次くらいに好きになってもらえるんだよ?!それってすごいよね。でも、こんなふうに好いてくれるのも幼稚園くらいまでなのかな(笑)」 

 

か:小学生にもなってくると、ちょっと生意気になりますもんね(笑)

 

あ「そう、小学生はもう怖い(笑)」

 

▼子ども・子育て新制度?

 

か:逆に、お仕事について大変なことや悩んでいることはありますか?

 

あ「大変なことと言えば、わたしがいま働いているのは幼稚園なんだけれど、"子ども・子育て新制度"っていう制度ができたので、近いうちに"子ども園"に変わってしまうんです」

 

 か:"子ども・子育て新制度"って、なんですか?

 

あ「かんたんに言うと、幼稚園と保育園を一緒にしていこうっていう動きのことかな」

子ども・子育て新制度

www.hatarako.net

 

か:幼稚園から子ども園になると、どんなことが大変なんですか?

 

あ「はじめに話したとおり、わたしは幼稚園で働く資格も保育園で働く資格も持っているんだけど、なんで幼稚園にしたかっていうとね、0歳児とか1歳児の子どもが、あんまり好きじゃないの(笑)」

 

か:えっ、そうなんですか!笑

 

あ「もちろん子どもはみんな可愛いよ!でも、仕事としては苦手なんだよね(笑)わたしは子どもとおしゃべりするのが好きだから、ほら、赤ちゃんって言葉も話せないし、話せたとしても何言ってるかよくわからないでしょう、すぐ"なんだ?なんだ?"ってなっちゃうの(笑)それに赤ちゃんはちょっとしたことがすぐ命の危険につながってしまうから、気を張ってなきゃいけないしね。

だから幼稚園のほうが自分に合ってるな、と思ったの。保育園は0歳児から入れるけど、幼稚園は3歳からだから(笑)」

 

か:なるほど(笑)

 

あ「でも、もし"子ども園"になったら、もちろん0歳児から預かることになるからね……! あとはシフト制になる、とか、勤務形態も変わってくるかな。子どもを預かる時間が幼稚園より長くなるからね」

 

か:いろいろと大変なんですね……。うーん、仕事を選ぶのって難しい。そういうふうに、いちばん希望していたところに就職ができても、あとから問題が起きるってこともあるんですね。なかなか思い通りにいかないなあ。

 

あ「そうだね。幼稚園のままがよかったけど、でも、性格的に転職はできないかなあと思うの。冒険できないから(笑)

だから前向きに捉えてがんばる!お給料も上がるしね!」

 

か:そうやって前向きに考えられるの、あやさんのいいところですよね。

 

あ 「就職すると学生に戻りたいって言うひとは多いけど、わたしはそうは思わないんだ。今が楽しいしね。でも、同業の友達にも、辞めたいってひとはいっぱいいる。幼稚園なんて、どこでも仕事内容はだいたい同じはずなのに、なんでだろうって思う。私が前向きなのかな。笑」

 

か:同じ環境でも、捉え方ひとつでよく思えたりわるく思えたりするのかな。仕事を続けるには、もちろんスキルも大切でしょうけど、そういうモチベーションというか、楽しんでやれる気持ちも必要なんでしょうね。

 

▼郵便屋さんと結婚したい

 

か:ちなみに、彼氏さんはいないんですか?

 

あ「いません!!いまは仕事も遊びも楽しいし、なかなか(笑)でも、今年の目標は彼氏を作ることなんです!」

 

か:口に出すのは大事ですよね!口に出すと叶うかんじがします。

 

あ「そう!わたし『まあ日頃の行いがいいからね』とか、『ぜったい晴れるよ!』とかすぐに言う(笑)お母さんがそういうタイプなんだよね」

 

か:性格ってけっこう親に影響受けますよね。でも、前向きに育てるってすごいことですよ。ネガティブ・ポジティブの話はこの企画でも度々出ているんですが、「わたしポジティブなんです!」っていうひとは初ですね(笑)

 

あ「ね、どうやったら前向きになるんだろう?わたし自分の性格がすごく好きで、自分の子どもにも自分みたいになってほしいの(笑)わたし絶対鬱病とかにならないと思うし。

ちなみに、同じ親に育てられたのに、弟はわたしほど前向きじゃないんだよね。けど代わりにすごく優しいの。すごいなあって思う」

 

か:優しいって才能ですよね。ある程度は身につけられるけど、先天的なものが大きい気がします。わたしはなかなか優しくなれないです(笑)

 

か:じゃあ、もし結婚するとしたらどんなひとがいいですか?

 

あ「郵便屋さんと結婚したいな。なんか、手紙を届けるなんてすてき、って思う!笑 本屋さんでもいい。手堅いひとがいいんです。きちんと稼いできて、クビにならないひと」

 

か:結婚してもお仕事は続けたいですか?

 

あ「仕事は辞めたくないですね。やっぱり、自分で自由に使えるお金って大事だと思うから」

 

か:お金の余裕はこころの余裕ですね。

 

▼イメージは力になる(総括に代えて)

 

この夏、あやさんとの出会いは特に重要なできごとのひとつでした。とにかく衝撃だったのです。たった数時間お話ししただけで、あやさんはわたしの社会人に対するイメージをがらっと変えて行きました。笑 それまでわたしは、社会に出ることにも、社会人にも、ネガティブなイメージばかり抱いていました。だけどあやさんはパワフルで、生き生きとしていて、本当に楽しそうに仕事のお話をしてくださいました。「やりがいがある」って、本当はこういうことなんだろうなとしみじみ思いました。

就活を前にして、憂鬱な気分になっていた、ちょうど今のタイミングで、あやさんにお会いできてよかったと思います。こんなふうに働いているひともいるんだ、という事実に励まされたし、いいイメージを持って就活に臨めそうです。いいイメージを持つことって、難しいけど、力になりますよね。プラシーボ効果じゃないですけど、ほら、スポーツ選手だって、試合の前にはできる自分をイメージするっていうじゃないですか。

わたしもあやさんのように前向きに!楽しく働く自分をイメージしてがんばろうと思いました。

 

余談ですが、あやさんはまっすぐに目を見て、はっきり、ゆっくり話すので、ああ、先生なんだなあと思いました。笑

第5回 色で捉える



2016/08/01

むむむちゃんとお会いしてきました。
むむむちゃんは、学生・10代・女性。
この企画で3人目(!)の美大生さんです。でもさすが美術系は個性的というか(笑)、前のおふたりとはまた違った、面白いお話をたくさん聞かせてくれました。



【もくじ】




▼「むむむ」について


かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします。

むむむ(以下、む)「むむむです。美術系の大学に通っています」

か:なんで「むむむ」なの!?笑

む「ツイッターを始めるときに、名前を何にしようって考えてて…考えてるときって、ムムム、じゃないですか。笑 だからむむむになりました」

か:(笑)むむむちゃんは、なぜ美大に進んだんですか?

む「小学校から高校までずっと、私立の女子校に通っていたんです。親や担任には美大に行けば?って言われていたんですけど、受験が怖くて…。でも、いざやってみると楽しかったですね。美大の学科は簡単だし、絵を描くのは好きなので苦になりませんでした

か:すごい!わたしのまわりで美大受験していた子は、みんなけっこう苦しそうに絵を描いていたな…。やっぱり何事も、楽しんで取り組めるひとは成功しますよね。

か:ちなみに、絵を描くのはいつから好きだったんですか?

む「私、小学校受験をしたんですけど、『あなたがいつも遊んでいることを絵にしてください』っていう課題があったんですね。そのとき親に『絵描いてる絵描いちゃだめだよ』って言われたのを覚えています。笑 だから、幼稚園の頃にはもう好きだったと思いますね」

か:やっぱり、絵や工作が好きな人って、小さいころからずっと好きですね。(第3回を参照)

▼女子校とすいかわり


か:ちなみに女子校出身の子も3人目なのですが、女子校生活はどうでしたか?

む「楽でした!恋愛系のいざこざがないし、やりたいことをやれるし…たとえばキャンプにすいかを持ってくる子がいたり、水鉄砲もってくる子がいたり(笑)みんなですいかわりしました

か:楽しそう!いじめとかなかったですか?

む「あんまりなかったです。無視とか、ちょっとハブられるとはあったかもしれないけど…そんな激しいいじめはないです。たぶんみんな、それ(いじめ)をしたら自分がどうなっちゃうか、わかっていたんじゃないかな。ちっちゃい頃はそういうこともありましたけど、中・高に入ってからは全然」

か:女の子は精神年齢が高いですもんね。協調性というか、波風を立てないようにしようという意識はたしかに男子よりあるかもしれない。良くも悪くも、とりあえず仲良いフリをしておくのもじょうずだしね。笑

か:わたし、ずっと「女子校=いじめヤバそう」ってイメージがあったんですけど、これはそろそろ改めないとですね(第1回第3回を参照)。

む「中学から外部進学の子が入ってくると、派閥争いが起きたりしましたけどね。笑」

か:やっぱり怖いかも。笑

▼たい焼きと告白


か:ところで、小学校から女子校だと、男子と全く関わりなく育ちますよね。

む「そうなんですよ!男子はもうよくわからないです。笑バイト先の男の子とか、どうしゃべっていいかわからないですね。女子だと思って話しかけてます…!」

か:(笑)ちなみに彼氏さんがいるそうですが、そんな状態からどうして付き合うに至ったんですか?笑

む「うーん、話しやすかったし、ノリがいっしょなんですよ。雰囲気が女子に近いんです。かわいいスタンプにくいついてきたり(笑)喋り方もふわふわしてて、ちょっと犬みたいな感じもあります」

か:可愛い系男子!いいですな。

む「むこうが、たい焼きが好きなんですけど、一緒にたい焼きを食べに行って、その帰りに告白したんですよ。笑

か:たい焼きってところがまた可愛いね。笑

む「最近は忙しくてあまり会えないんですけど、ラインはずっとしてて。使ってくる顔文字とかも可愛いんですよ。ほんと、女の子みたいなんです」

か:女の子っぽいからこそとっつきやすかったのかもしれないですね。

▼美術館が苦手な美大生、絵を描くのが嫌いな美大


む「私、美術館は苦手なんです。どこを見れば良いかわからないし、みんながじっと見てても、私は素通りしちゃいますね」

か:え!意外!美大生だからって美術館が好きなわけじゃないんですね。

む「そうなんですよ!苦手な人もいるんです(笑)でも、ある時『美術館をしっかり見てまわるのが難しかったら、ぱっと見たときにいいなって思ったものを見ていればいいんだよ』と人に言われてからは、少し気が楽になりましたね」

か:それがいいよね。わたしは美術館好きだけれど、グッときたの以外はけっこう流し見ですね。

む「逆に、私の彼氏は、絵を見るのは好きだけれど、描くのは嫌いなんです。3時間が限界らしくて(笑)それ以降はとつぜん、歩き出すんですよ!教室のまわりを、こう、ぐるぐると。はじめは周りもぎょっとしてたんですけど、いつもそうなのでみんな気にしなくなりましたね」

か:なんと!美大生だからって、絵を描くのが好きなわけでもないんですね。

む「そうなんです。笑 でも、絵を描くの、嫌いなのにうまいんですよ」

か:天才型なんですな……。

▼色へのこだわり


か:ところで、わたしむむむちゃんのtumblrのヘッダーが好きなんですよ。


△これがむむむちゃんのヘッダーに使われていた画像。プールなんだそうです。色がキレイ!

む「あ、あれ、ちょっと編集してるんですよ。ほんとうはもっと暗くて濁った色だったんですけど、彩度をあげてます」

か:!そうだったんですか。わたし、結構アイコンとかヘッダーがキレイという理由でフォローするので、だからこの企画に来てくれる子も美大生が多いのかも…?そういう些細なこだわりって大事ですよね。

む「ちなみに、アイコンのネコも自作のキャラクターなんですよ」


△むむむちゃんが生み出したネコのキャラクター、お友達がぬいぐるみにしてくれたそうです。

か:これもかわいいんですよね。

▼形は言語、色は抽象


か:部活は何かやっていましたか?

む「聖歌隊に入っていました」

か:すごい!聖歌隊のひとって、ほんとに歌うまいですよね。

む「もともと、歌うことは嫌いじゃなかったけど、すごく音痴だったんですよ。練習したので、今はだいぶ直ったんですけど。前は思いきり音を外して、皆からおいって顔されることもありました(笑)私、声がでかいから、外すとすぐバレるんです」

か:それでも恥ずかしがらずに、大きい声で歌えるってすごいことですよ。堂々としてていいね。

む「出したいだけ出してるんです。自分が気持ちいいって思うまで出す。笑」

か:上手く歌うコツはありますか?

む「それが、私ぜんぶ感覚でやっているので、ぜんぜん伝えられないんですよ…。後輩とかにもよく聞かれたんですけど、いつもうまく教えられなくて」

か:感覚派なんですね。笑

む「そうかもしれないです。計画できないし、人と話してるときもいろいろ考えられない。そのとき思ったことをぱっと言ってるというか…なかなか言葉では伝えられないですね。言葉は好きだけど、苦手です」

か:でも、だからこそ、絵が描けるんじゃないかな。うまく言葉にできないことが、絵とか、音楽になると思うんです。

む「絵も、描けるけど、描けないんですよ(笑)一枚の絵が描けないんです。漫画になるか、落書きみたいになっちゃう。練習したので技術はあるんですけど、自由に、なんでもいいから描いてっていうのは難しいですね。あ、でも、色だけで埋めろっていうのはできます

か:色!

む「色で大体のことを覚えているので、形では描けないんですよ。洋服も形が覚えられなくて

か:それって本当に感覚派ですね。形って、とっても言語的じゃないですか?線とか、点とかって。記号的というか。色は抽象的ですよね。言語的なものより、抽象的なもののほうが得意なんですね。

む「そうだと思います。同じ言葉でも、小説は書けるけど、批評は書けない(笑)」

か:作詞とか向いてるんじゃないかな。笑

▼感覚的に生きるということ(総括に代えて)


感覚的に生きるには、もちろん感覚をするどくしていなければならないんだと思います。むむむちゃんはとても豊かに、いろいろなことを感じとりながら生きているんだなということが伝わってきました。しかもただ感じとるだけではなく、あ、これ、いいな!と思ったことに、えい!と飛び込む行動力を持っているのがすごい。これは自分の感覚を信じていないとできないことだし、ごちゃごちゃ理由を探して言い訳しないところもいいですね。いいアーティストになりそうです。わたしはかなり理屈っぽいので(笑)、こうやって感覚的なひととお話しするのはいい刺激になりました。

第4回 愛することと変わること

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2016/07/30

 

hmatsuzakさんとお会いしてきました。

hmatsuzakさんは、社会人・40代・男性。 

当企画初の男性です。

 

【もくじ】

 

 

▼ものを細かく分けていくと何が残るか?

 

かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

hmatsuzak(以下、h)「hmatsuzakです。ソフトウェアを開発する仕事をしています。」

 

か:お仕事は楽しいですか?

 

h「忙しい時や、自分で工夫して考えている時は楽しいですね。忙しいと言っても、ある時間の中で集中してやる、という感じなので、大変ではありません。暇を持て余すよりはいいですね」

 

か:わたしは今大学生なのですが、学生時代はどうでしたか?

 

h「大学生でいる、ということ自体が楽しかったように思います。部活はソフトボールをやっていました。授業が終わってからクタクタになるまで部活をやって、そのあと友達の家で朝まで麻雀して……そういうのが楽しかったですね(笑)」

 

か:いいですね、そういう遊び方は若いうちしか出来ないですよね(笑)大学では、何を専攻されていましたか?

 

h「専攻は物理でした。物理は面白いですね。いまでもノーベル賞が出ますしね」

 

か:わたし、ド文系なので高校の時とか物理の面白さが全くわからなかったのですが……どこが面白いですか?笑

 

h「うーん、たとえば、ものを細かく細かくわけていくと何が残るか?ということを考えるんですよ。いまのところ、"クオーク"という物質が残るって言われているんですよね。原子もクオークで出来ているんですよ。そういうのがわかるって、面白くないですか?笑」

 

か:なるほど?笑

 

h「好奇心が満たされますね」

 

 

▼素敵な奥さん

 

か:以前よりhmatsuzakさんのブログを拝見していたのですが、ときどき奥様が出てきますね。奥様とは仲が良いですか?

 

h「良い方だと思います。いざいなくなると困るので(笑)、やっぱり好きだな、と思いますね」

 

か:奥様はどんな方ですか?

 

h「おっとりしているかな。寛容というか、優しいというか、あまりイライラしませんね」

 

か:hmatsuzakさんはイライラするほうですか?

 

h「人にはイライラしませんが、順番待ちとか、行列に並ぶのが嫌いなので、そういう時はイライラしますね」

 

か:私もイライラしやすいほうですが、イライラしやすい人やせっかちな人は、逆におっとりしている人と付き合った方がうまくいく気がします。お互いイライラしていると、ギスギスしちゃいますもんね(笑)

 

 

愛することと変わること

 

h「結婚をして、かなり自分の生き方が変わったと思います。妻は初めて出来た彼女で、僕はそれまで20年近く一人暮らしをしていたんですよ」

 

か:そこから結婚に踏み切るのは、大きなご決断だったでしょうね。

 

h「そうですね。自分は、こんなに人に気を遣うことができたんだ、と自分でも驚きました。たとえば妻が疲れていそうだったら、『大丈夫?』と声をかけたり……『そろそろ寝ない?』とか、『頑張りすぎたら体に悪いよ』とか……自分にも、そういう言葉が言えるんだ、と。そんな自分は想像できなかったんですよ。やってみないとわからないですね」

 

か:"やってみないとわからない"、先が見えないというのは不安なことでもあると思いますが、それでも、"やってみよう"という気持ちになったきっかけはありますか。

 

h「僕と同じように、長いこと一人暮らしをしてから結婚した後輩がいたので相談したんですよ。『ずっと一人で暮らしていたのに、急に二人で暮らせるかな?』と聞いたら、彼は一言、『すぐに慣れますよ』と言ったんです。笑」

 

か:すぐに慣れましたか?

 

h「すぐに慣れました(笑)」

 

か:結婚してよかったな、と思うことはなんですか?

 

h「苦しいときに支えになってくれることですね。自分がきつい時は話を聞いてくれたり。逆に、こちらも彼女を支えよう、と思うので、気持ちにハリが出るというか、頑張ろうって気持ちになります。そうやって頑張って、仕事に結果が出ると気分がいいし、好循環ですね」

 

 

▼時計の修理もできる!

 

か:趣味はありますか?

 

h「夫婦でボウリングによく行きます。ちょっと自信がありますよ」

 

か:すごい!私はスコアを100切ります……。

 

h「それは……(笑)」

 

か:他には何かありますか?

 

h「野球は大好きですし、ソフトボールは今でもやりますね。TUBEのコンサートにもよく行きます。

 

h「ところで、かいじゅうさんのその腕時計、ダニエルウェリントンですよね。時計屋を自営でやっていたことがあるんですが、ダニエルウェリントンは一番はじめに扱ったブランドでした」

 

か:なんと!時計もお好きなんですね。

 

 h「今でも簡単な修理はできますよ(笑)」

 

か:hmatsuzakさんのその時計は?

 

h「これはインビクタというダイバーズウォッチです。そうそう、ダイビングも好きで、スキューバのライセンスも持っていますよ。放浪の旅でフィリピンに行ったとき、初めてやってみてハマりました。日本近海では見られないような、きれいな魚がたくさんいるんですよ。ニモとか。笑」

 

か:へえ〜。本当に多趣味なんですね。

 

h「なんでも、すぐやってみたくなるんですよね。すぐやめちゃったりもしますけど」

 

 

▼愛がいっぱい(総括に代えて)

 

hmatsuzakさんの言葉の節々には、奥様を想う気持ちが伝わってきてほっこりしました。ほんとうに素敵なご夫婦だと思います。写真は「妻の一存で飼った」というインコさんです。

 

第3回 ピピッときたらすきになる

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 2016/07/28

 

渋谷にて、とぅーこちゃんとお会いしてきました。
とぅーこちゃんは、学生・20代・女性。
ハ子ちゃん(http://shubonbon.hatenablog.jp/entry/20160712/1468335446 )の紹介で当企画に参加してくれました。

 

【もくじ】


▼マルの描きかたについて考える

 

かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

とぅーこ(以下、と)「とぅーこです。美術系の短大に通っています」

 

か:たまたま、前回お話ししたのも美大の方で、映像をつくっているとのことでした。とぅーこちゃんは、どんなものをつくっているんですか?

 

と「私は、つくるというよりは、追求したり、研究するのがメインですね」

 

か:追求……理論的なことが多いですか?

 

と「うーん、でも実技も多いですね。考えて、実験して、作品にする、ところまでやるんです。最近では、マルの描きかたについて考えなさい、っていう課題が出されました。体やもの、何をつかってもいいから、マルの描きかたについて考えなさい、って言われるんです。私は、まずコンパスをつくって、それでマルを描いたり……あと、ボールにバスロマンをつけて、しゅわしゅわさせながら描いたりしました。笑」

 

か:楽しそう。笑 つくったり、描いたりするのはずっと好きでしたか?

 

と「はい、工作はずっと好きでした。3〜4才の頃にはもう、切って、貼って、っていうのが好きでしたね」

 

か:つくるのが好きな人って、小さいころからずうっと好きって人が多いですよね。これってちょっと不思議じゃないですか?

 


▼コラージュのこと

 

か:短大というと、そろそろ将来について考えなければならないですよね。将来はどんな仕事がしたいですか?

 

と「今のところ、広告とかデザイン系を考えています。ポートフォリオには、今までつくったコラージュをまとめたりしていますね」

 

か:コラージュがすきなんですか?

 

と「はじめは課題で出されてつくってみたんですけど、それが楽しくて続けています」

 

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 △とぅーこちゃんのコラージュ。

 

と「うちの大学では、実際に2年で卒業して就職してって人は少ないんですよ。別の専門学校に入り直したり、別の美大や4年制大学に編入する子もいます」

 

か:へえ〜!再入学や編入が多いとは知らなかったです。

 


▼女子校について

 

か:ハ子ちゃんの同窓生ということは、とぅーこちゃんも女子校出身なんですよね。女子校生活はどうでしたか?

 

と「楽しかったですね!いじめもそんなになかったし、みんな仲睦まじかったです」

 

か:ハ子ちゃんも同じこと言ってました。本当にいい学校だったんですね。

 

と「ただ、共学だったらもっと違ったものが吸収できたかもしれないな、とは思いますね。男の人とも関わることで、自分の視点や表現の幅がもっと拡がるのかもしれない、という気はします」

 

か:なるほど、芸術家らしい視点ですな。異性ってたしかに価値観拡げるものね。大学生になってからは、男性との関わりは増えましたか?

 

と「とりあえず人脈を拡げようと思って、ときどきお笑いライブのスタッフをしているんです。それで、スタッフ同士で仲良くなったりとか、小さいライブだと芸人さんとも仲良くなったりとか……っていうのはありますね!あとは、バイト先の人とか」

 

か:どこかにときめきはないんですか?笑

 

と「私、おじさんが好きなんですよね…笑 30代でもいいです。だから、バイト先で同年代の子としゃべってても、あんまりですね。笑」

 

 

▼「好きセンサー」はありますか?

 

か:何か好きなもの……趣味とか、ものとか、はありますか?

 

と「喫茶店に行くのが好きです。おじいちゃんが1人でやってるような。笑 あと、お買い物も好きだし、古着も好きだし、本も好き……古本屋さんも好きですね」

 

か:いっぱいありますね。好きなものが多いのはいいことです。

 

と「昭和っぽいというか、レトロなものが好きなんです。昔の雑誌に使われているようなフォントも好きだし、骨董市で「平凡」を買ったこともあります。笑」

 

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 △これを買ったそうです。右に映っているのも気になりますね。笑

 

と「ちょっとダサいのがいいんですよね。笑」

 

か:とぅーこちゃんのなかには「好きセンサー」みたいなものがある感じがするな。それがピピッ!ときたら「あ、これ好き!」ってなるんだと思う。笑 好きになるのに抵抗がないというか、直感的に好きになれるというか。そういうのって、とても素直な感性ですよ。よく考えてみないと、自分がそれを好きなのかどうかわからない場合もあるからね。

 

と「たしかに、好きかどうか、ははっきりわかる気がします」

 

か:だからコラージュも性にあってるんじゃないかな。あれって、ピンときたものを集めるっていう技法だもんね。好きなものが多くないとうまくできないですよ。笑

 


▼新宿は怖くない

 

か:ところで、好きな場所はありますか?

 

と「やっぱり新宿ですかね。東京で育ったので、田舎も好きだけど、都会じゃないとやってけない、とは思います。笑」

 

か:上京してきたひとなんか、新宿は怖いってひとが多いと思うけれど、怖くはないですか?笑 キャッチとか、ヤバそうなひともいるじゃない。笑

 

と「全然怖くないですよ!今は歌舞伎町も夜まで賑やかだし、安全です」

 

か:ええー!歌舞伎町が怖くないのはすごいなあ(わたしは未だに怖いです)。

 

と「池袋のほうが怖いですよ。笑」

 

か:そうなの!? 東京育ちならではの感覚ですね。笑

 

 

▼好きだと言えるということ(総括に代えて)

とぅーこちゃんのように「好きセンサー」を持つというか、直感に基づいて「好き!」と言えるのはとても大切なことだと思う。「よく考えてみないと、自分がそれを好きなのかどうかわからない場合もある」と自分で言ったけれど、自分にはわりとそういう時がある。ついつい理屈を探してしまう。だけど「好き」とか「嫌い」とかは、きっと本当は理屈じゃないんだよね。それって人間関係や、恋愛も同じだと思いませんか?

第2回 紅茶がのみたくなる

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2016/07/25

 

渋谷にて、しらすさんとお会いしてきました。

しらすさんは、学生・20代・女性。

アーティスティックでユニークなお話をたくさん聞くことができました。

 

【もくじ】

 

▼動いているものにときめく

 

かいじゅう(以下、か):まずは簡単に自己紹介をお願いします」

 

しらす(以下、し)「しらすです。美術系の大学に通っています」

 

か:美大!専攻はなんですか?

 

し「映像をつくることが多いですかね」

 

か:映像の魅力は、どんなところですか?

 

し「一度写真の授業があったんですけど、自分は写真に向いていないと思うんです。全然ハマらなくて。一瞬を切り取る、っていうのが難しいし、動いているものの方がときめくんですよ」

 

か:動いているものの方がときめく!いいですね。笑 私は、逆に写真は好きなんですが、映像は苦手です。良し悪しがいまいちわからないんですよね。

 

し「映像は、”感触”がつたわれば勝ち、ですね。かたい、とか、つめたい、とか、やわらかい、とか…そういう”感触”がわかる映像は評価が高いです。たとえば、ここにゴマアザラシがいるとするじゃないですか」

 

か:(ゴマアザラシ!)笑

 

し「やわらかそう、ってつたわればこっちの勝ちです」

 

か:なるほど。笑

 

 

美大と就活

 

し「リクルートスーツがいやなんです。なんか、みんな同じ感じになっちゃうじゃないですか。選ぶ方も大変だろうなあって思います」

 

か:それ、すごくわかります。 

 

し「入学式の時、教授に『桜の下で花見をするような人間にはなるな』って言われたんですよね。『人と同じことをしてちゃダメだ。僕たちはドクダミで花見をしなきゃダメなんだ』って」

 

か:さすが美大ですね。しらすさんは、やっぱり美術系の就職をめざしているんですか?

 

し「はじめは映像制作系がいいなって思っていたんですけど、映像は体育会系のところが多いんですよね。空気があんまり合わない気がして。今は手を動かす職よりも、頭を動かす職をさがしています」

 

か:美大に進学するひとはみんなアーティストになりそうなイメージがありますけど、案外、そうじゃないんですよね。どんなに才能があっても、つくることが好きでも、さまざまな理由で「アーティスト」を諦めなければならないときがある。世の中には、じつは素晴らしい才能がたくさん、たくさん埋もれているんじゃないかな、と思うことがよくあります。

 

か:芸術ってむずかしいですね。

 

し「美大生のなかにも、いざ美大に来てみたら、ぜんぜん絵がうまく描けない、やっぱり苦手だったのかもって人もいますよ」

 

か:そんなことあるんですか!?美大にまで行く人は、みんな絵が大好きで、得意なものだとばかり…!

 

し「それがね〜、あるんですよ。笑」

 

 

▼文章には、しみこんだものが、にじみ出る

 

し「かいじゅうさんの文章は、なんというか等身大で、いいなって思います。嘘をつけない方なのかな、と感じました」

 

か:ありがとうございます。そうなんですよね。笑

 

し「でも、素直に書けるっていうのは武器になりますよね。高校のとき、おじさんを主人公にした小説を書いてみたことがあるんですけど、あんまりうまくいきませんでした」

 

か:想像だけで書くのは難しいですよね。ある意味、それはウソな訳ですから。

 

し「美大生の書く文章は、視覚に訴えてくるような、まどろっこしいのが多いですね。笑 逆に、音楽をやっている方の文章は耳ざわりが良いのですぐわかります」

 

か:あ、なんか、その感覚わかります。文章って、どんなに隠しても、自分に深くしみついたもの――性格とか、考えとか、雰囲気とか、そういうものが出ちゃいますよね。

 

し「以前、頭の中で映像を浮かべて書いた小説は、映像が生まれる以前の、テレビやビデオの無い時代に書かれた作品を超えられない、という言葉に衝撃を受けました。たしかによく考えると、小説のなかにも、自然とカメラロールが意識されているんですよね」

 

か:言われてみれば、そうですね。そういう映像的な感覚は、普段何気なく見ているドラマやアニメや映画、それにCMなんかから、私たちのなかに自然としみついているものなんでしょうね。

 

 

江國香織を読むと、紅茶がのみたくなる

 

し「私、江國香織さんが好きなんですけど、読み終わった後に紅茶をのみたくなるんですよね。今でも覚えているんですけど、初めて江國さんの小説を読んだのは、家に帰る電車に乗っているときで…あ、紅茶のみたいな、って思って、地元のカルディで紅茶を買ったんですよ。笑」

 

か:紅茶がのみたくなる…ふしぎな感覚ですね。

 

し「かいじゅうさんの文章を読んだときも、紅茶がのみたくなります。かいじゅうさんて、ちょっと江國さんに似ていますよね。もしかしたら凛とした女性=紅茶、というイメージがあるのかもしれません」

 

か:江國香織さんに似ている、とは初めて言われました。なんだかうれしいです。(照)

 

 

▼細くて、折れそうなものが好き

 

し「江國さんは、憧れの女性像に近いんです。女性作家の方が好きだし、私はやっぱり女なので、そっちの方に感性が反応するんですよね。逆に、女性作家ばかり摂取していたら、女性的なものに反応する感性しか発達しなかったので、そういう点では男性が羨ましいです」

 

 か:自分が女であることを、嫌だと思ったことはありませんか?

 

し「うーん、昔は反骨精神?で、嫌だなあと思っていたこともあるけれど、今はあんまりないですね。反骨している方が疲れちゃって。笑」

 

か:笑。では、自分のここは女性らしい、と思うところはありますか?

 

し「折れそうなものが好きなところ。か細くて、折れてしまいそうなモチーフが好きなんです。高校生と、フュギアスケートと、鹿の角と、魚の骨と、あと、ピンヒール…これは、私の中ではぜんぶ同列なんです。細くて、折れそうな。華奢なもの。作品でも、そういうモチーフに惹かれます」

 

か:面白いですね。母性本能なんでしょうか。笑

 

し「うーん、でも、そういうものが好きなのって、女性だからというよりは、日本人だからなのかな? あっ、それに、よく考えたら、男性も華奢な女性が好きですよね…? そしたら、むしろ男性的…?笑」

 

か:確かに。笑

 

 

▼ポジティブな恋人

 

か:彼氏さんは、どういうひとなんですか?

 

し「同じ大学の先輩です。でも、あんまり美大生っぽくはないかな。合コンの幹事とかやりそうな。私とは正反対なんです」

 

か:正反対のひととお付き合いすることになった経緯が気になりますね。笑

 

し「はじめて告白されたときは振っちゃったんですけど、あんまり何度も言ってくるから、考えてやるかなって思ったんです。笑 私は、相手に『好き』って言われても、なんだかよくわからなくて。でも、それって自分の思う『好き』の基準だけで計っていたんだな、と今では思います。」

 

か:なるほど。深いですね。

 

し「それに、私だったら、1回振られたらあきらめちゃうな、と思って。何度も言えるってすごいですよね。でも、『まあ俺は運命変えられるって信じてたんだよね〜』とか言われるのはめんどくさいですね。笑」

 

か:彼氏さん、けっこう自信家なんですね。笑

 

し「一度、思いっきり不満をぶつけたことがあるんですけど、彼は落ち込んだりしなくて、『いや〜びっくりしたよ〜!そこまで言ってくれるのは君だけだよ〜!』って言うんですよ。それで、こっちも力が抜けちゃって。笑 あと、しばらく放っておいたこともあるんですけど、久しぶりに会ったら『もう〜びわちゃんがいないとつまんなかったよ〜』って言ってくれて。それは可愛かったですね。笑」

 

か:すてき!そういうポジティブなひと、いいですね。 笑

 

し「私はネガティブなんですけど、はじめて根が明るい人間といっしょにいますね。私が『友達が少ない気がする』ってしょんぼりしていたとき、彼は『そもそも友達って言葉で定義するものじゃなくない?』って言ってくれたんです。『あ、そっか、考えなければいいんだ』って思いました」

 

か:自分と考え方の違うひとは、思わぬヒントをくれますよね。でも、そういう彼の言葉をすんなり受け入れられる蒼井さんは、とても素直でえらいと思います。本当のネガティブは、「でも…」「だって…」って言いますからね。

 

し「頑固なネガティブはよくないですね!」 

 

 

▼しなやかな女性(総括に代えて)

 

実際、しらすさんは、素直な方だなという印象を受けました。たぶん、見たものや読んだもの、感じたことを、スポンジみたいに吸収できる(そういう感受性は芸術家にとって重要なものだと思います)。そして、折れないけれど、硬くもない、とてもしなやかな女性だなと思いました。ゆらゆらゆれる、長いピアスがすてきでした。 貝殻の先には真珠がついていました。