鶴屋開店休業回転ベッド

あたしの創作世界の基盤。だけどとてつもなくフレキシブルでヨレヨレにブレてる。キャラが勝手に動くんだ♪

夜のドラッグストア

美瑛はバイトからの帰り

ドラッグストアに寄り道した。

新しいリップを買おうかと思った。

淡いピンクのグロスを雅也はとても

褒めてくれたのだが、美瑛自身は

少し印象が派手になるので

普通のマットな感じのベージュ系の

リップも仕入れようと思った。

キスをすると雅也の唇にもうっすらと

色が移る。それがなんだか可愛くて

美瑛はいつも笑ってしまうのだけど。

 

 

おかしいな。

こんなこと、渉とはなかった。

外でメイクをきちんとするようになってから

渉とはあまり関係をもっていなかった

気もしてきた。そう、大学が別々になり

デートは月2回か3回。

ホテルに入っても冷静にシャワーを浴びて。

お互いの近況なんかポツポツと話しながら

ベッドに入って。やっと、キス。

雅也とはデートで顔を見た瞬間に

まず、どこか人目を盗んでキスできる

ところはないだろうかと目が泳ぐのだ。

車に乗れば即、唇を吸い合う。

ホテルに入れば、靴を脱ぐより先に

抱き合って貪るようにキスをする。

体を預けると嬉しそうに肌をまさぐる。

つき合いはじめて大分たつのに

まだ、雅也は嬉しそうに囁く。

愛してるよ。美瑛。可愛い。たまらないよ。

くそ、どうにかなりそうだよ。

お前が、好きすぎて。

思い出すと、くすぐったい。

はじめて味わう感覚だった。

 

 

そんな甘い気持ちを胸で転がしながら

ドラッグストアの自動ドアをくぐる。

そんな美瑛の目の前に飛び込んできたのは

見慣れた後ろ姿だった。

右手にはオムツのお徳用増量パックを

持っている。

少し猫背になっている。

あ。奥さんはあたしより

背が小さかったものね。

妊婦さんはヒールも履かないし。

渉は、きっとこの猫背で奥さんを

守るように見つめて寄り添うのだろう。

どうしよう。帰る?それとも

 

 

声かけちゃう?

 

 

あたしだって今、すごく幸せよなんて

アピールしちゃう?

そう、そちらの奥さまにも教えてあげて。

元旦那さまはすごくすごく私と愛し合って

幸せに暮らしているから。

心配ないわよって。

 

 

 

 

 

入り口で立ち止まる美瑛を

後から入ってきたおばさんが

邪魔にして避けて通る。

美瑛は押し出されるようによろよろと

店内に足を踏み入れた。

 

あ。オムツ持っている、ってことは。

 

「あ。美瑛。」

 

気づかれた!

何故だか美瑛はちょっぴり悔しかった。

こうなると話をしなきゃいけない。

冷静に世間話のひとつも出来ないのは

負けた感じで嫌。

でも、それだけなのも悔しい。

美瑛は渉を負かそうとしている。

こんな感覚も初めて。

 

「バイトあがり?」

 

渉はすごくナチュラルだ。

もう気まずくもわだかまりも

ないといった風である。

うわあ。負けてる。

美瑛はどうしても、正面から渉を見る

ことが出来ずにいた。

 

「もう遅いから、帰り気を付けてな。」

 

渉はにっこりしてレジへと向かっていく。

 

 

 

 

「う、生まれ、たんだ。」

美瑛はやっとのことで口から出した。

これは言わなきゃ。

あたしの最後のプライドだ。

「おめでとう。良いパパになれ。」

 

渉はなんともだらしない笑顔になり

「ありがと。女の子なんだけどさ。

すっっっっごく、かわいい。」

なんて訊いてないことをしゃべった。

 

「先、越された。」

美瑛は羨ましかった。

これは、純粋に羨ましかった。

歪んだ気持ちは不思議と湧かない。

 

「お前も、幸せそうだし。越されたとか

そういうんじゃないだろ。」

渉は。こういう男だ。

自分と人を比べない。

相手のありのままを見て、否定しない。

この男が否定したのは

あの頃の母親だけだ。

皮肉なものだが、それは愛の裏返し。

 

「頑張ってね。」

「ああ。」

 

切なかった。

渉はいい男だ。

自分がずっとこの男に抱かれていたなんて

もしかすると、夢だったのかも。

 

美瑛はコスメコーナーで

やはりグロスを手に取る。

この間はベビーピンクだった。

今日はこのジューシーオレンジにしよう。

雅也とのキスを思い出した。

美瑛はレジに向かう間に雅也に

LINEをした。

 

会いたいよ。

 

雅也からはすぐに返事が来た。

 

今どこ?迎えにいく。

 

打てば響くとはこの事だ。

 

雅也はもうアパートに帰っていたようで

店内をしばらくぶらついている間に

本当にあっという間に

美瑛の腰を抱きに来た。

内緒話をするように顔を寄せてきて

耳にキスをした。

この男はなせが違和感なくこんなことを

やってのける。近くに他の客もいるのに

そんなにジロジロ見られない。

 

二人は店を出て、車で雅也の部屋に向かう。

美瑛は、雅也の部屋にお泊まりします

と、母にLINEをした。

 

努と歩 大昔のアイデアラフ4コマ

昔のラクガキやらラフやら

描きかけ原稿やら

出てきたものを整理してます。

努ははじめ姉の彼氏に片思い。

それを容赦なくけしかける

鬼畜、歩(笑)


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この太古の昔の設定では

この後、努は女の子と恋をします!

あらためて見直すと色々違うところが

あって面白いです。

 

父として2

大学4年の娘が
男と同棲したいという。

我が家から娘の大学まで一時間弱。
都心のベッドタウンとして発展してきた
この土地ならば、この先就職してからも
家から通わせてやれる。
家から嫁がせるくらいの気持ちで
娘を育ててきたのだが。
なんのおつもりですか?
彼氏と片時も離れたくないとかいって。
そういやここんとこ娘の帰りが遅いとは
思っていたのだ。
家に帰ってくる時間がもったいない?
夜もずっと彼と一緒にいたいってか?!
ダメに決まってんだろうが!!

「同棲くらい、どんな子でもしてるよ!」

「美瑛っ!!」

もちろん美瑛も説得力のある話なんか
できやしないので、勢いで思いっきり
盾ついてくるのだが。

「男と女がひとつ屋根の下に暮らすって
どういうことかわかってるのか!
家庭を持ってお互いに自立してはじめてだな」

「古くさい!結婚するならいいってこと?
大学出たら結婚するもん!それで文句ない
でしょう?屁理屈親父っ!!」

はあ?美瑛は自分が一番の屁理屈をこねている
ことには全く気づかぬふりをしている。

「プロポーズされたのか?そっちの報告の
方が先なんじゃないのか??」

「赤ちゃんが出来たらすぐにでも一緒になるし
これでもかってくらい幸せにしてくれるって
言ってくれたもんッ!」

俺は美瑛の子どもっぷりに
こめかみが針金を通されたように
キリリキリリと痛み始めた。
瑛子は俺の肩をそっと撫でると
こめかみにふわっとくちづけてくれた。

「美瑛。落ち着きな。」

「だって、ママ!」

「主張と我儘は別物だよ。しっかりおし。」

瑛子は前もって話を聞いていて
ある程度話し方のヒントも授けてあるのだろう。
暴走し始めた娘を諌めながら
最善の方法をその都度模索することに
したらしい。

「ねえ。忍?」

「だめだ。許さない。」

「パパのけちんぼ!!」

「あーんもう!呼ぶよ雅也を!!」

雅也、だ?
確か、彼氏のことだよな?
瑛子はもう美瑛の彼氏を呼び捨てに
しちまうくらい仲がいいってことなのか?

「忍。少しは二人の話も聞いておやりよ。」













美瑛の彼氏を家に呼ぶことになる。
わかったよ。
俺がどれほど人を見る目があるか
見せてやろうじゃないか。
俺は正直、渉は美瑛とは合わないと思っていた。
いや、渉が男としてダメなやつだとか
一人の人間としてどうこうとケチをつけようと
いうわけではない。
ただ、こいつはなりふり構わず美瑛を愛して
くれるわけじゃない。そう予感しただけだ。
自分を愛してくれる女をありがたく大事にする
それはけじめをつけていたと思う。
だが、あいつから本当に美瑛を愛していたかと
言えば決してそんなことはなかったのだ。
その雅也とかいう男にもそんな様子が欠片でも
見えたら、叩き出してやるさ。
なんなら、俺の職場である実家の道場に
来てもらってもいいぜ?

「大丈夫よ?雅也さん柔道三段だし。」

美瑛は女の子だし、あまり実家の道場側には
出入りしていない。武道のなんたるかも
よく知らないし、俺がやっているのが
合気道で師範というものがなんなのかも
実はてんでわかっていないのである。
美瑛は強い彼氏が大好きで、自分の前では
無敵だと思いたいのだろう。
ちなみに俺は柔道も空手も剣道も三段だ。
それでも俺は別にそいつを叩きのめそうとか
考えているわけではない。
美瑛を粗末にすれば、俺の兄貴である
二人の道場主や隠居してなお盛んな
親父やお袋、弟子たちがただでは置かんと
わからせてやりたいのだ。
市内でも一二を争う規模の緒形道場を
丸ごと敵に回すのだ。
それを肝に銘じてほしい。
40を目前にした分別盛りの男に
襟をただすよう促したかっただけなのだ。

「パパって割と権力好きなのね?」

そういうんじゃないったら。







「俺が柔道やってたのはもう20年近く
昔の話だよ。それに真面目に鍛練していた
わけでもない。そんな俺が道場にお邪魔する
なんて、申し訳なくてできないよ。」

と、雅也は言っていたらしい。
家に呼ぶからね?来週の日曜。
やつは仕事らしいから、夜をうちで
食べたらゆっくりできるだろ?
嬉しげに瑛子が言う。

思っていた男と違うな。
最近の美瑛が変わったのは
この男に安心して甘えられているから
少し子ども帰りしているくらいに見えるのだ。
我儘を言えているのは、美瑛が自分から懸命に
アプローチして繋ぎ止める必要がないからだ。
なんだか俺は安心したと同時に寂しくなる。
娘がほかの男としあわせになっても
すぐに親子の絆が消えてなくなる訳じゃない。
わかってはいても、娘がその男の色に染められ
自分から遠くなっていくのは寂しいものだ。

「雅也はいいやつだよ?」

「瑛子がそんな風に言うとそれはそれで」

「ん。何ヤキモチなの?」

「や、違う。違うよ。」

「うそ。」

「うそ。」

俺は瑛子の肩を抱いて耳たぶを弄ぶように
キスした。

「ねぇ。忍ぅん。」

色っぽく迫る妻に、身体中で脈打つように
ズキズキと興奮した。















「はじめまして。ご挨拶遅くなりまして
申し訳ありません。蒲生雅也といいます。」

雅也は普通のサラリーマンというには
少し体格が良すぎた。
165の俺は大抵の男を見上げる小柄な男だ。
兄貴たちも180を越えるやつらなので
ガキのころからバカにされ育ってきた。
173だったという渉は気を使ってか
俺と話すときに猫背になっていた。
あいつは自分より小さかった頃を
知っているので、何だかかわいいと
可笑しくなったが
こいつはちっともかわいくない。
娘より自分と年の近い男を娘の彼氏として
認識するのは少し難しいと思った。

「君は柔道やってたんだって?」

「お恥ずかしい。大学で遊び半分でしたから
大きな声で言えたものではないですよ。」

「こんなこと聞くのはどうかと思うんだが
美瑛のどこがよくて一緒にいるんだい?
かなり年も離れてるしさ。」

「関係ないですよ。綺麗事に聞こえるかも
知れませんけど。彼女が何を言っても
何をしても、かわいいです。」

雅也は鼻の下を確実に1㎝弱は伸ばして
美瑛に目線をやる。

「同棲したいなんて言い出したのは
俺の我儘です。美瑛はそれに応えようとして
くれてるだけで。もし、お父さんに生意気な口
きいてるようなら、俺からも話しますし。」

「正直、美瑛はまだ大学生だし。同棲なんて
どうかと思う。悪いけどね。」

「そう仰るのも当然だと思いますから。
いらぬ波風立ててしまって済みませんでした。」


「もう!パパはどうして自分の意見ばっかり
通せると思ってるの?家長だから?
我が家の法律?人の話を聞けないのは
大人としてどうかと思うんだけど?」

俺と雅也が先にリビングで話をしていると
お茶を持ってきた美瑛がかなり好戦的に
理論武装して(かといって子どもの喧嘩の域を
出ないのだが)突っ込んできた。

「美瑛。俺はご両親が反対したらこの話は
無しだって言ったろ?仕方ないよ。」

美瑛は初めてみるくらいに頬っぺたを
膨らませて雅也を見上げていた。

「わかったわ。」

え?わかったの?

あっけなく同棲話は消えた。






雅也という男は不思議なやつだった。

俺が聞いてもいないのに

「俺はね。妻が他の男に恋してることにも
気づけないでいたんですよ。7年もね。」

などと自らの恥部をさらけ出す。

普通、こっちから

君は前の奥さまとはどうして別れたのかね
君は男として、なんだ、何か足らないものが
あるのではないのか?そんなやつに娘を
任せるわけにはいかんなあ。ん?

なんてネチネチ意地悪するような
ネタを自分で語るんだもん。

「そんなささくれた俺を癒してくれたのが
美瑛です。」

なんつうか、親相手にのろけんの
やめてくんねえかな。

俺は、こいつなら大丈夫だなって思った。

こいつは、何をおいても美瑛を一番に
愛してくれるだろう。

父として

「え?!17歳も年上だって?」
忍は思わず声を荒らげた。
美瑛にも新しい彼氏が出来て
家でもニコニコしていることが多くなった。
渉とつき合っていた頃より随分と顕著に
明るく笑うのだが、忍は今までに見たこともない
娘の表情に、逆に何が起こっているのか
不安になってしまう始末だった。
「パバはどんな彼を連れてきても
気に入らないんじゃない?渉は美月ちゃんの
息子だったから表立っては言わなかったけど
良い顔もしてなかったじゃない。」
何だろう。娘の口数が明らかに増えた。
今までは何か言う前に自信なさげにモジモジ
していたが、最近はキッパリと言いきる。
上目遣いであまり目線が合わないように
話をする娘だったのだが
真っ直ぐに正面から自分と目を合わせる。
なんだ!この変わりようは。
美瑛にはもう少し堂々と人前でモノの言える
娘になってもらいたいと、常日頃考えていた。
考えていたんだけどどうしてこんなに急に
なったんだろうね、俺びっくりしちゃったよ
最近の変化と言ったら違う男とつき合い始めた
ってことくらいしか思いあたんねえもん。

そいつ、大丈夫なのか?!
変なやつじゃねえだろうな?!
気になるよそりゃ!
でもパパは誰彼構わず喧嘩売ろうとは思って
ないんだからな。わかるか?美瑛。

「わかんないわよ。」

口うるさい父親だといわんばかりの
表情を作り、横目で俺を見る美瑛。
そもそも、お前が17も上の男と知り合う
シチュエーションが思い付かんよ!
大学の助教くらいしかいないだろ?!
それかバイト先の店長くらいだ!

「雅也さんは、あたしがナンパ野郎に
ちょっかい出されてるところを
助けてくれたのよ!通りすがりの普通の人。」

そんな街中でちょっとした親切を受けるたびに
親密な中になってたらお前、きりがないだろ!

「パパなんかママにカツ上げされたのが
出会いの癖に!カッコ悪ぅい。」

俺はソファに座って少しセクシーに足を組み
こっちをみて投げキッスをする妻をみた。

「瑛子だな。余計なことを。」

「あん。強い男は余裕があるものだって
美瑛に教えて上げただけだよぅ。」

この母娘は性格は違うが、舌足らずな
喋り口はそっくりである。
もう妻に至っては唇の動きを見ているだけで
犯したくなってしまう。




美瑛はすでに小学生のころから
セクシーの片鱗を纏い
それを余すことなく渉に注いでいた。
俺にはどうも美瑛の一方通行のような気がして
仕方がなかったのだが、かといってあの美瑛の
瑞々しく甘い色気に抗いきれるはずもないと
思い、半ば諦めていた。
今になって。渉が美瑛を裏切りいともあっさり
別れてしまうとは。

美瑛には渉のときのように
押しの一手で落とすのではなく
多少の駆け引きをもってしてでも
男から熱く追いかけられるくらいの
関係に持っていってもらいたい。
俺があの頃、瑛子が好きで好きで
あいつのためなら何でもする!くらいの
勢いで追いかけてたみたいに。

「女は、男に想われて護られるのが
一生のしあわせなのよ。美瑛?」

さすが俺の妻。わかっている。

「大丈夫よ。ママ。雅也さんはそういう人。」

お。美瑛も満足げにしてるじゃないか。
だが17も歳上というイレギュラー物件なのを
忘れてはならない。
とんでもない事故物件だったら
どうするつもりなんだよお前!!

「バツイチ」

「月の半分は出張で家を空けてる」

却下!
十分な事故物件じゃん。

「でも前の奥さまとの間に子どもはいないわ」

何を嬉しそうに語るかこのバカ娘はっ!
もしかして子種がないのかもしれんだろ!






あら?







うちの最強ツートップの母娘が
そろって黙りこんでしまった。

えー。

もしかして俺、地雷踏んだ?


「ひどいこというのね、パパって。
父親とか言う以前に人間としてどうかと思う。」

うわー!娘からこんな切り口で冷静に
攻められると思考停止するな!

「忍?謝って。」

妻はこんな俺の様子に苦笑したいのを
こらえてくれているのだが
この情況助けてくれないのは
ケチ臭いなと思うよ?

「軽はずみなことを言ってすまない。」







で。
なんで美瑛の彼氏の話をこんな
延々としているのだったっけ?


そうだ、美瑛がその彼氏とのことで
話があるといったのだ。

話?








「一緒に暮らしたいの。」








ダメに決まってんだろう!!

ちょっぴり拗ねただけ

「美瑛、綺麗になってたね。あたしは
学園にいた頃に見かけたことがあるくらいで
話したりしたことないけど。
女として見ればあの娘の方が、レベルが
いくつも上だもの。」

浅海は台所で洗い物をしながら
居間でお茶をすする渉に話しかけた。
渉は不機嫌な顔で一言だけ返した。

「何拗ねてんだよ。勘弁してくれ。」

正直、期待していた返事とは
程遠いものだったためか
浅海もすこしばかり意地になる。

「そうよね。あたしみたいな女は。」

あなたよりだいぶオバチャンで。
高齢出産で、まだ大学生のあなたを
振り回しているし。
一緒に歩いていて華がある容姿でもなく
お腹は大きい、体のあちこちに余計な肉は
ついてきた、マイナスポイントだらけだもの。

はじめの一言だけ
口から出した。
あとは心の中で、自分に唱え続ける。
自虐的になるのを止められない。
渉に止めてほしいけど
これ以上面倒な女にはなりたくない。
自分のコントロールがきかないのは
単に妊婦ゆえの不安定さだけなのか
浅海にはわからなくなっていた。
確かに、雅也とはこんなことはなかった。

「浅海?」

いつのまにか涙が出ている。
顔がくしゃっとして
しゃくり上げながら肩まで上下している自分に
もうすべてが嫌になった。

でも、これで渉は私を慰めてくれる。
いつものように甘いキスをくれる。
そう思った浅海は、せめてしゃくり上げて
みにくく歪んだくちもとだけは何とかしようと
懸命に泣き止もうと努めた。

「お前だって、こんな頼りないガキ
どうして相手にしたんだよ。
あんなガッチリして優しそうな
旦那さんがいたくせに。」

「え?」

浅海は渉が何を言いたいのか
さっぱりわからなくて
一発で涙が止まってしまった。

「俺なんかよりずっと背は高いし
細マッチョ系で足長くて包容力ありそうで
男としてずっと上の旦那さんがいたんだろ?」

浅海はエプロンを外しながら手を拭くと
渉の隣に腰を下ろした。

「俺は、ずっとお前が好きだった!
言えなかったのはお前が結婚してた
からだろう?何いってんだよ!
俺にはあの頃からお前が一番だったんだ!」

浅海は堪らなくなって
渉を押し倒し、ズボンのベルトを壊すくらいの
勢いで外してパンツごと膝まで剥いた。
五分勃ちの竿を迷わず口にくわえて
吸ったり舐めたり甘噛みしたり
ありとあらゆる責めを繰り出した。

「ど、あ、浅海ぃ。」


浅海は渉の精液を飲み込むとまた
残りを吸いだすかのように
渉をしゃぶりつくした。
渉からは残り、というより
次の射精がお見舞いされたのだが
浅海は相変わらずノドを鳴らして
飲み下した。

「も、もう、やめろよ。」

渉の少し冷静になった声が
浅海を制する。

「渉ぅ。」

渉は体を起こして、自分の下半身にあった
浅海の顔を両手で包んだ。
大事そうに自分の側にもってきて
口に口を吸い付けた。
唇で唇に愛撫をする。
浅海は全身が痺れるくらいに
苦しいくらいに感じた。

「大好き。愛してるわ、渉!」
「お前は誰よりも綺麗だし、誰も敵わない
すごいいい女だよ。バカだな。」

渉は今度は浅海を押し倒してゆっくりと
身体中を愛撫し始めた。

笑っちゃう

「クッション買ってもいい?」

珍しく甘えた声でおねだりする美瑛に
雅也はウインクしながら頷いた。

「でもクッションなんか使ってる暇あんのか
俺はお前を即押し倒すぜ。」

ニヤニヤという表現がぴったりの雅也。

「んん。クッションがあった方が便利な体位
だってあるんじゃない?」

美瑛は雅也の二の腕に乳房を深く浅く
押し付けながら微笑んだ。










確かに、オトコに追いかけられるのは
とても新鮮だった。
セックスを始めるとき、自分から誘わなくても
求めてもらえるなんて。
美瑛は雅也の眼に疑いを持たなくなってからは
本当に安心して待っていられた。
しかも待つ間もなく、いつだって奪うように
抱いてくれたし、焦らしてくれた。
焦らすのだっていつも自分から降参するような
短気爆発その分激しく感じさせてくれる。




「こんど実家出るから。」

雅也がそんなことを言い出したのは先週の
ことだった。
雅也は離婚してそろそろ一年になるようだが
別れてすぐ実家にもどっている。
久田学園のすぐ近所で白い塀の高く続く
大きな家が雅也の実家だ。
当時から同居しようと思えば出来たが
月の半分を札幌から大阪まで飛び回る雅也は
妻を気遣い別居することにした。

「美瑛と、もっとふたりっきりで
いられるようにな。」

雅也というオトコはこんなことを
すっぱりと口にして
耳にキスしたりするやつなのだ。

「俺は帰ってこられる限り、部屋に帰る。
お前に逢いたいからだ。」
「あん。雅也さぁん。」
「お前は実家暮らしだ。無理にとは言わんよ。
俺がこっちにいるときは、一緒に居てくれ。」

美瑛は大学にも雅也の部屋から行こうと
思った。それは何ら問題のないことと
考えていたのだが。


デートでは始めに家具を選びに行くのが
恒例となり、美瑛は自分のものを買いそろえる
ようになっていたのだった。
大きなカートを押して広い店内を回る。

「マグカップ見てくるね。待ってて。」
美瑛は本当に楽しそうに
花畑のモンシロチョウのように
商品棚をフワフワ舞っている。





「美、瑛。」

ボーンチャイナのシンプルな
カップ&ソーサーを見ていた美瑛の
すぐ横に、懐かしい気配があった。

「渉。」

美瑛の楽しげな表情がみるみるうちに
収まっていく。
渉はガッカリしながらも
これは当然のことなのだと思い直す。

「買い物?」

渉はこんな必要のない会話を
こんなに気詰まりに美瑛に仕掛ける日が
くるとは夢にも思っていなかった。

「うん。渉も?珍しいわね。」

美瑛は家のことには無頓着な実家暮らしの
渉が何故カトラリーコーナーで
ステーキナイフなんか見ているのかが
不思議だった。

「渉!こんなところにいたの?」

通路を挟んだ向こう側からカートを押した
妊婦が渉に近づいてきた。

しあわせオーラが半端ない。
美瑛はすこし慌てた。
渉の表情が見たこともないものに変わった。
物心ついたころから一緒にいて
自分にはむけられたことのなかった
やさしくて、高揚感のある、なんとも言えない
慈愛あふれる顔になったのだった。

「あ。女房。」

にょ?

美瑛の頭は再度混乱した。







「美瑛!いつまでカップ見てんだよ。」

そこへがらがらと荒っぽい音をたて
雅也がカートを押して現れた。

「浅海!また腹でかくなったなあ!
順調そうじゃねぇかあ!」

雅也はそうがなりながら
美瑛の腰を抱いて斜め後ろに
匿うように引っ張りこんだ。

雅也はすべてを知っていた。

美月と話をしたときに
自分の新しい彼女が、
別れた女房の腹の赤ん坊の父親
元カノで。

まさかこんな四人顔突き合わせる羽目に
なるなんて思わなかったが。

「雅也。あの鼻の下伸ばして話してくれた
新しい彼女さんね?」

浅海は美瑛と直接話をしたことはないが
高校の卒業式の日に
見かけたことがあった。
渉と一緒にいた。
その時、浅海は密かに勝ったと思った。
美瑛はオンナとして申し分のない
綺麗な色っぽい娘である。
そこは敵うべくもなかったが
渉が向けてくる表情が、自分の方に
分があると思った。
醜い感情だが、浅海は嬉しいと思ったのだ。

いま、あらためて本人を目の前にすると
やっぱり客観的にいいオンナなのは
美瑛の方だ。浅海は思う。

とたんに怖くなる。
渉は、美瑛の美しさにあらためて気づいて
残念に思ったりはしないか。
こんな体型も崩れ動きも鈍くなった自分に
幻滅したりしないか。

面白いと思ったのは
雅也に対する感想がひとつも
頭を過らなかったのだ。

四人はすぐに別れた。










「今のオトコの人。親戚?」

渉は自分も挨拶したほうがよかったかなと
カートを押しながら話しかけた。

「元旦那」

「え?」

「不思議な縁ね。」





美瑛は少し苦しかった。

あんな年上の女性と
見たこともない表情を見せて
照れる渉。
あの口から「女房」なんて言葉が
出るなんて。
ていうか、もう、孕ませて結婚したの?
渉はまだ大学に行ってるはずだ。
学生結婚?

えーーー………………。

めちゃくちゃ!
あんなやつだっけ?
それにあんなオバチャンが
相手だったの?
あたし、あのオバチャンと
両天秤かけられて
負けたんだ?
エゲツナッ!!
ひどい、ひどいよ!















そうね。美瑛。
別れてよかったの。
できるなら、あたしから
手放せたらよかった。
うすうす気づいてたのに。
バカだったなあ。
ほんと、美瑛はバカ。




「そういえば。」

ん?渉のことを考えてグルグルしてたら
肝心なことを忘れそうだったのに気づいた。



「雅也さん?あのオバ…いえ女性と
知り合いなの?」

妊娠していることも
知っていた口ぶり。
つい最近にも会っているくらいの間柄。

「あ、ん。同級生。」

顔に書いてある。
嘘のつけない男だ。
普段の無邪気な言動を見ていればわかる。
隠し事なんかできない。

「元の奥さまね?」

「い、いや、うん。そう。」

「雅也さんはよくあんなに
平気にお話しできたわね。
大人だから?」

美瑛は自分が少し意地悪な物言いを
していることは承知していた。

自分の奥さんがもう他の男と結婚して
お腹も大きくて幸せそうにしてる
それを見てつらくないのかしら。

「どうしたんだよ。美瑛。」

雅也はまっすぐに美瑛を見詰めた。
やさしく口元が微笑む。


「あんなオバチャンとあいつが
あんなに幸せそうにしてて
やっぱりショックか。」

雅也の顔はとてもやさしく、でもどこか
悲しげで美瑛は胸を締め付けられた。

「ち、ちがうわ!確かにびっくりしたけど。
あんな大きなお腹で。」

「俺とは。できなかったんだ。」

雅也は中学生からずっとつき合って結婚した
あの女性とは子どもを残せていない。

「渉は、だいぶ前から私よりあのひとの方が
好きだったみたい。私に隠れて何度も
逢いに行ってたのよ。」

美瑛はそれを感じていながら
渉を手離せなかった。
渉から言ってくれたら諦めよう
そう思っていた。
でもいざ振られてみれば
醜い感情に支配されて
渉を責めながらも渉を忘れられなかった。

雅也と出会い、愛されて、もうとっくに
忘れたと、傷は癒えたと思っていたのに。

「俺は、全然わかんなかったんだ。
自分の女房の次の恋なんて、欠片も
見えなかったよ。」

離婚のきっかけも生活のリズムの合わない
いわゆるすれ違いと、子どもが出来なかった
ことだったから。

「美瑛。俺もすごくショックだったよ。
お前と男と女になった頃に偶然知ったんだ。
あいつの新しい男がお前の元カレだって。」

「雅也さんは。裏切られて悲しくないの?」

「悲しいけど、しかたない。」

「私、そんな風に思えない。」

「美瑛。落ち着けよ。」

「私と別れてすぐだわ。あっという間に
妊娠させて結婚までして。渉はまだ大学生よ!
あんなだらしない人だったなんて!」

「美瑛。じゃあ、お前も妊娠するか?
俺がお前を孕ませて嫁にもらって
これでもかってくらい幸せにしてやるよ!」















「やっぱり俺、子種ねえのかなあ。」

あの日から毎晩、さんざん中出しをして
おかしくなるくらいセックスした。
深く入る体位で何度もした。
美瑛は夜遅くに部屋に戻ると、雅也の精液が
流れ出てきて、たまらない気持ちになった。
膣にそっと指を挿し入れてみる。
愛液に混じって白い澱みが指に光った。
美瑛は夢の中でさえも雅也に抱かれていた。