「遺産相続弁護士 柿崎真一」第4話
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第4話をみました
危急時遺言
泉谷しげるさんが救急車で搬送される最中、「危急時遺言」を作成すると言います。
危急時遺言というのは、民法976条に定められています。
その要件は、以下のとおりです。
①疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者であること
②証人三人以上の立会いがあること
③遺言者が証人の一人に遺言の趣旨を口授すること
④口授を受けた者は、筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押すこと
⑤遺言の日から20日以内に、家庭裁判所に請求してその確認を得ること
ドラマを見る限り、①から④の要件は満たしていそうです。
ただ、実際にその遺言が法的に有効になるためには、家庭裁判所で確認を得ることが必要とされています。
危急時遺言というのは、実際にはあまり目にすることはありませんが、最近では、やしきたかじんさんの遺言がこの危急時遺言であったといわれています。
なお、泉谷しげるさんの相続人は娘だけであり、遺言内容も娘にすべての財産をわたすというものでしたので、遺言があってもなくとも、娘の取り分に変更はありません。
目が見えない場合に遺言を作成する
泉谷しげるさんは、目が見えないようでした。
目が見えない場合、危急時遺言の他にどのように遺言を作成することができるでしょうか。
まず、自筆証書遺言による方法があります。この場合、目が見えずとも、字を書くことができれば、全文を自筆で記載することによって、遺言を作成することができます。
また、これ以外の方法として、公正証書遺言による方法があります。公正証書遺言の場合も、遺言者が遺言内容を口授し、公証人がこれに基づいて作成した遺言を読み聞かせることによって作成することができます。
短いですが、今回はこの程度です。
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第3話の感想
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第3話をみました。
気になった点を挙げます。
相続放棄できない!?
弟には、遺産が土地家屋約2000万円で、その他に清水綋治さんからの借入金4500万円があります。
そして、妻であった烏丸せつこさんは、相続放棄をしようといいます。
しかし、清水綋治さんは、遺産である車を売却してしまったから、相続放棄はできないといいます。
これはどういうことでしょうか。
前回述べたとおり、相続放棄は相続開始のときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
しかしながら、3か月を経過する前であっても、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。」には、単純承認をしたものとみなされてしまうため、相続放棄をすることはできなくなっています(民法921条1号)。
今回のケースでも、遺産の一部を売却しており、これが「相続財産の処分」にあたるため、相続放棄をすることができないということになります。
ただ、烏丸せつこさんは、葬式代のために車を売却したと述べています。
この点、大阪高決平成14年7月3日では、貯金を解約して葬儀費用に充てたケースで、これは単純承認には当たらないと述べています。
今回のケースは、貯金の解約と車の売却ということで違いますが、葬儀費用という点では同じであり、単純承認には当たらないという解釈もありうるものと思います。
相続放棄するとどうなる!?
清水綋治さんは、相続放棄をすると、借金は回収不可能になるといいます。
しかし、これはいまいちピンときませんでした。
妻と子どもが相続放棄をした場合、(次順位の相続人である両親はすでに死亡していると思いますので、)相続人になるのは兄である清水綋治さんだと思います。
この場合、相続財産も相続債務もすべて清水綋治さんが取得しますが、相続債務については清水綋治さんは債権者なので、混同により消滅します。
そうすると、清水綋治さんは土地家屋約2000万円を取得できることになります。
ですので、4500万円全額の回収は無理ですが、2000万円の回収はできるわけです。
また、仮に清水綋治さんが相続人ではないと考えて、誰も相続人がいなくなったという場合でも同じです。
弟の相続財産と相続債務を誰も承継する人はいないということになると、法律上、相続財産管理人の選任をしたうえで、債権者は、相続財産から回収をすることが可能です。
このように、どう考えたとしても、清水綋治さんは2000万円の回収は可能だと思われます。
そのほかにもありますが、とりあえずはこんなところです。
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第2話の感想
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第2話をみました。
また、気になったところをいくつか書いてみます。
遺言を破く
冒頭、酒井若菜さんは、遺言状をみると、別の人が受取人になっていたということで、破ってしまいます。
前回の放送で、三上博史さんは、遺言状の名前を訂正したことについて、遺言の「変造」にあたり、相続欠格にあたると指摘していましたが、破く行為も「破棄」ですので、相続欠格にあたります。
前回述べたとおり、相続欠格になるためには、「相続に関して不当な利益を目的とすること」が必要ですが、今回の酒井若菜さんが破いたのは、他の人に遺産を受け取らせないようにするためですので、今回破いたのは、この目的もあると言えそうです。
ただ、相続欠格になるのは、別の遺言で、酒井若菜さんが受取人になっているだけです。なにも遺言がない状態では、相続人でない酒井若菜さんは、相続欠格というまでもなく、遺産を受け取ることはできません。
なお、今回の遺言状のように自筆で遺言が書かれていると、発見することができなかったり、破棄されてしまうこともあります。
そして、実際に、遺言が見つからなかったり、破棄されてしまうと、遺言内容を実現することは難しいでしょう。
このような事態を防ぐためには、公証役場で公正証書遺言を作成する必要があります。
遺骨は誰のものか
篠井英介さんと西原亜希さんとの間でトラブルが生じているところに、三上博史さんと森川葵さんが遭遇します。
ここで、篠井英介さんは、「化石が私有地から見つかったから、化石は自分のものだ」といいます。
一方、森川葵さんは、「民法239条があるから、発見者のものだ」といいます。
それから、篠井英介さんは、「話し合いによって決めたり、法廷で決着をつけることもある」といいます。
化石が誰のものかについては、不勉強で申し訳ないのですが、よく分かりません。
一般的にいって、私有地だから土地所有者のものだとは言えないと思われます。
例えば、土地を借りて作物を育てるということもありますが、この場合、もちろん、作物は土地を借りた者のものです。
今回化石を見つけるに際して、田野良樹さんも、篠井英介さんから了解を得て発掘作業をしていると思われますが、化石をどちらがしゅとくするかもどのような経緯で発掘作業をしていたかによるように思われます。
これが、「話し合いで決着をつける」とか「法廷で決着をつける」ということの意味のように思われます。
相続放棄
岡山天音さん(一人息子)は当初、「相続放棄をする」といい、これに対し、妻である西原亜希さんが反対します。
ここで、相続放棄をするかどうかは重要です。
今回のケースだと、相続放棄をしない場合、土地と建物3000万円と、銀行からの借入れ4000万円で、マイナス1000万円です。化石に1000万円以上の価値があれば、プラスになりますが、そうでない場合には、マイナスが上回ってしまいます。
そして、相続放棄をしないと、この負債を、一人息子の岡山天音さんはこれを返済しないといけなくなります。
逆に、相続放棄をした場合には、土地と建物と化石を受け取れない代わりに、借り入れを返済する必要もなくなります。
相続放棄を行う場合には、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
今回のように、借入れを知ったのが、相続開始より後であり、それがやむを得ない場合には、借り入れを知ったときが起算点となります。
そこで、今回のようなケースでは、3か月以内に、化石に価値があるのかを見極め、相続放棄をするかどうかを判断する必要があります。
なお、どうしても3か月以内に判断ができない場合には、事前に家庭裁判所に申立てをすることで、期間を延長することができます。
今回はとりあえずこんなところです。
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第1話の感想
「遺産相続弁護士 柿崎真一」第1話をみました。
いくつか気になったところを書いてみます。
なお、実際はこうだ、などということも書きますが、ドラマは面白いのが一番です。ただでさえコメディ色が強いですし。
ドラマを見て相続問題とか弁護士に興味をもった人の参考にしてもらえれば幸いです。
遺言状を訂正すると無効か?
ドラマの冒頭、三上博史さんが墓地(元町なので外人墓地でしょうか)から遺言状をみつけます。
それを酒井若菜さんに渡すと、酒井若菜さんは名前が「水谷美貴」となっており、「貴」が間違っているということで、×をつけて「樹」に訂正してしまいます。
これをみて、三上博史さんは、遺言の「変造」だから、相続欠格になり、遺産を受け取れない、といいます。
「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」とあり、
民法では、これに該当すると、遺産を受け取れない、となっています。
このうち、「変造」というのは、遺言書の内容に加除訂正を加えることをいいます。
名前が誤字だから書き換えるのは、加除訂正していますので、「変造」にあたりそうです。
以上からすると、民法の条文からいえば、三上博史さんがいったように、民法891条5号に該当し、遺産は受け取れない、ということにもなりそうです。
ただ、良かれと思って誤字を正したくらいで、遺言書が無効となってしまうのもどうも納得しづらい点があります。
ちなみに、民法891条1号から4号にも相続欠格事由(相続人になれなかったり遺言を受け取れない事由)が書かれているのですが、こちらは、被相続人や相続人を殺害して刑に処せられた、など、極めて重い事情ばかりです。こういった事由と、誤字を正した程度のことが同じ結果となるというのも不釣り合いな気がします。
そこで、変造などの5号の行為については、単にこれらの行為を行ったというだけではなく、これら行為を行うに関し、「相続に関して不当な利益を目的とすること」があってはじめて相続欠格事由にあたる、との考えがあります(5号の破棄や隠匿については、判例もあります)。
不当な利益を目的とすることが必要だとすると、良かれと思って誤字を正した場合には、このような目的がなく、相続欠格事由にあたりません。
したがって、酒井若菜さんは遺産を受け取れる可能性があります。
ですので、実際にこのような相談があれば、「変造」だからといって、すぐにあきらめることはせず、「変造」には当たらない可能性があることを伝え、「変造」には当たらないことを認めてもらいましょう、とアドバイスするように思います。
6時間妻は無効か
奥菜恵さんは、婚姻届を提出して6時間後に夫である螢雪次朗さんを亡くします。
そして、遺産目当てで結婚したとか、朦朧とする意識の中で無理やり婚姻届を書かされたから結婚は無効だ、などと螢雪次朗さんの子である紫吹淳さんに言われてトラブルになります。
これに対して、三上博史さんは、螢雪次朗さんに結婚する意思があったことを証明しなければ、といって調査を行います。
婚姻意思とは
法律上、結婚が有効であるためには、単に婚姻届を提出する意思だけではなく、「社会観念上夫婦と認められる関係を設定しようとする意思」が必要といわれています。
社会通念上夫婦と認められる関係というのもなかなかわかりづらく、遺産目的の結婚だからただちに婚姻意思がないということでもないように思います(逆説的ですが、遺産目的であればなおのこと、妻は夫が亡くなるまで懸命に夫に尽くそうとする気もします)。
特に、奥菜恵さんは、螢雪次朗さんの生前、老人ホームに足しげく通って、入れ歯掃除までしてたとのことですので、婚姻意思がなかったということにはなりづらい気がします。
おそらく、紫吹淳さんの不満は、亡くなる直前に婚姻届を提出されたために、遺産を半分もとられた、という感覚のような気がします。
夫の財産を前妻が協力して形成していたのであれば、なおさら、子供たちの納得いかない感覚は強いように思います。これは、高齢で再婚する場合に、多かれ少なかれ生じる問題です。
この点については、現在、相続法の改正でも議論となっている問題で、婚姻期間の長短や夫の財産の形成の寄与によって、相続分を調整する仕組みが考えられています。
判断能力
婚姻意思とは別に、そもそも婚姻するだけの判断能力がない、という場合にも無効になります。高度の痴呆状態の場合などが典型例です。
紫吹淳さんが、「意識のない中で婚姻届を書かされた」とも言っていますが、もしそうであれば、婚姻は無効となります(婚姻届提出時点でも原則として判断能力は必要です)。
実際上、判断能力があったかどうかを確認する際には、まずは、死亡直前の夫の状況について、病院(カルテ)や老人ホーム(日誌)に確認することになると思います。
そして、臨終前で、意識がなかったとか、正常な判断能力がなかったという立証ができれば、婚姻が無効になる可能性がありえます。
なお、三上博史さんは裁判を嫌がっていましたが、婚姻が無効かどうかでトラブルになり、歩み寄りが出来ないのであれば、通常は裁判をして決着をつけることになります。
2億4000万円を手に入れられる?
ドラマの最後に、入れ歯の箱の奥にメッセージカードと貸金庫の鍵があり、2億40000万円を奥菜恵さんが手に入れて解決、ということになります。
いかがわしい2人組が3億円もの大金を下ろそうとしたら、銀行は止めるだろう、という点は置くとして、ここでのポイントは、奥菜恵さん名義の通帳に3億円が入っていた、ということだと思います。
これがもし、螢雪次朗さん名義の通帳だと、テレビや週刊誌のネタにまでなってることからすると、螢雪次朗さんが死亡していることを銀行も知り、預金口座は凍結されているはずです。
預金が凍結された場合、銀行が預金の払戻しに応じるには、遺言書や相続人全員の同意書などが必要になります。
そうすると、また、紫吹淳さんとのトラブルが再燃することになります。
ですので、3億円をすぐに引き出すためには、奥菜恵さん名義の通帳であったということが大事だと思います。
ドラマの筋的には、奥菜恵さんが螢雪次朗さんに資産運用を依頼したときに通帳を預けた、などということが考えられるでしょうか。
他にもいろいろあるのですが、とりあえず、以上気になったことを書きました。
本当は純粋にドラマの部分の感想も書きたかったのですが、法律的な話ばかりになってしまいました。
「遺産相続弁護士 柿崎真一」がはじまります
「遺産相続弁護士 柿崎真一」
平成28年7月7日より、三上博史さん主演の「遺産相続弁護士 柿崎真一」が始まります。
平成28年4月期にも、松本潤さん主演の「99.9-刑事専門弁護士-」や竹野内豊さん主演の「グッドパートナー 無敵の弁護士」といった、弁護士を題材とするドラマがありましたが、遺産相続に携わる弁護士にスポットをあてたドラマは初めてのような気がします。
弁護士を題材としたドラマはあまり見ないのですが(最近だと見たのは「リーガルハイ」くらいです)、今回のドラマは、自分の仕事ともかなり近いところにあるようですので、来週から見てみたいと思います。
ちなみに、いまのドラマでは、「真田丸」が面白いです。
遺産相続にはドラマのような話が多い
今回のドラマは、遺産相続がテーマです。
実際にも遺産相続にはドラマのような話はたくさんありますので、興味深い話がたくさん描かれることを期待しています。
仕事がら相続問題に接していると、相続問題というのは家族の問題であり普遍的な問題であると感じます。
家族の悩みは、経済的な成功や社会的地位とは関係なく、誰しもが多かれ少なかれ感じている問題だと思います。そして、この悩みが遺産相続をきっかけに、大きなすれ違いとなって現れると、相続問題として先鋭化するのだと思います。
法廷シーンがない
今回のドラマでは、法廷シーンがないようです。
実際に弁護士が相続事件を取り扱う場合、裁判所を利用しないで解決することもなくはないのですが、多くの場合は、裁判所を利用します。
遺産分割事件の場合、まずは家庭裁判所の「調停」手続を利用します。
「調停」手続は、お互いの合意のしどころを探るという手続きですので、いわゆる法廷シーンで白黒つけるというのとは少しイメージが違います。
調停手続を行う部屋も、裁判所ではありますが、法廷ではなく普通の会議室のようなところですし、法服を着た裁判官もいません。
通常は、2人の調停委員が担当しますし、当事者同士が顔を合わせないことも珍しくありません。
このように、調停手続自体はドラマにするには地味な気がしますので、法廷シーンがないというのは納得ですし、それ以外での見せ場に期待したいと思います。
横浜が舞台
今回のドラマの舞台は横浜ということです。
ドラマには出てきませんが、横浜で遺産分割事件を行う場合には、「横浜家庭裁判所」で行います。JRの関内駅と石川町駅の間にあります。
http://www.courts.go.jp/yokohama/about/syozai/yokohamakatei/index.html
一方、家事事件以外を取り扱う裁判所は「横浜地方裁判所」です。こちらは、みなとみらい線の日本大通り駅のすぐ近くにあります。
http://www.courts.go.jp/yokohama/about/syozai/yokohamatisai/
横浜地方裁判所は、目の前が「日本大通」で、よくドラマやCM撮影に利用されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E9%80%9A
一方の横浜家庭裁判所は、だいぶ雰囲気が違います。