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【ネタバレあり・レビュー】ザ・レジェンド | 伝説の男ニコラス・ケイジがヘイデン・クリステンセンと挑む超アクション歴史映画!

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作品概要

原題:Outcast
製作年:2014年(日本公開:2015年)

監督:ニコラス・パウエル
脚本:ジェームズ・ドーマー
主演:ヘイデン・クリステンセンニコラス・ケイジ

ストーリー

12世紀の極東・中国。
皇帝が死を迎えたことからその跡継ぎとして長男シンが次期皇帝の座に着いた。
しかし、皇帝の死はシンによるものであった。
彼は皇帝の遺言により本来次期皇帝になるハズだった次男ジャオを消すため兵を送り出す。
姉リアンと共に逃げていたジャオは、その道中、元十字軍の騎士であったジェイコブを用心棒として雇う。

内容はこてこてなアクションもの
本作、12世紀の中東での十字軍vsイスラム教徒の戦いから物語が始まり、その後舞台を極東(中国)に移します。
個人的になのですが、この時代の中国文化には少し苦手意識があります。
権力を巡っての家族間のごたごたとかは小難しくて着いていけなくなることがあるからです。

そうして見ると本作は非常にシンプル。
「長男が皇帝になりたいがために父を殺害。本来の後継ぎ候補であった次男を殺そうとする」という分かり易さは、歴史苦手な私でもすんなり呑み込めました。

で、その次男を助けるのが主人公にして元十字軍に所属していたジェイコブ。
偶然、落ちぶれていた最強の騎士が襲撃現場に居合わせるという展開はなんとも都合が良いです。
他にも、ダメージを負っても気合でどうにかしてみたり、敵側が圧倒的に有利なのにボス自ら戦いに赴いてきたり、とアクション映画にはありがちなアレコレが詰め込まれていました。(もちろんヒロインとの恋愛もあり)

それらを見て思ったのが「これ歴史ものじゃなくアクションものなんだな」ということでした。
まあニコラス・ケイジが出演している時点でエンタメ作寄りなのは明確。
それを割り切って見れば楽しめる作品だったと思います。


見どころはやはり大物俳優の二人?
ニコラス・ケイジに惹かれて鑑賞したこの作品。
あらすじとかよく見ていませんでしたが、蓋を開けてみれば彼は主人公ではなく少しガッカリ。
とはいえ、ヘイデン・クリステンセンも『スター・ウォーズ』(新三部作)で名を挙げたなかなかの逸材。彼が主演であったことで、作品に面白さがあったことは事実だと思います。

そんな二人が共演するのは冒頭と終盤くらい。
かつて仲間同士であったことから、悪態を吐きながらもジェイコブ(ヘイデン)を助けるガレイン(ニコラス)のツンデレっぷりがなんだか微笑ましい。

一方で、ガレインは正気を失いつつあるのか、言動が少しおかしくもあります。(ヘビを手に巻きつけながら遊んだりとか)
そこら辺は、ニコラス・ケイジの演技力が発揮されていました。(ツンデレっぷりも合わさると、情緒不安定すぎて心配になるレベルでしたが……)

ジェイコブとガレインの二人は「打倒シン」という目的の合致もあって共に戦うことに。
もはやお約束な展開ではありますが、ヘイデンとニコラスの二人が共闘する展開は自然と盛り上がってしまいますね。
その共闘が少ししか見れないというのがやや残念でした。

とはいえ、ニコラスの扱いはそこまで悪くなかったようにも思えます。
僅かな時間でありながら、友人思い、仲間思い、愛妻家という濃いキャラを見せており、鬼神のごとく敵をなぎ倒す姿は正直カッコよかったです。
主人公を食わないまでも存在感のある活躍をしていたというのは、サブキャラとしては優遇されていたのではないかと思いました。

超荒っぽいアクション
この作品最大の売りはやはりアクションシーンでしょう。
過去に『スター・ウォーズ』でもチャンバラ劇を見せているクリステンセンだけにその実力は十分……なのですが、あちらの作品とはまるで感じが違いました。
というのも、あちらはジェダイ特有の騎士道精神を持ち合わせており、戦い方もなんだかスマートです。
一方、本作は元十字軍という騎士の立場ではあるもののヘロインでヨレヨレ、戦い方も砂を投げつけてでも勝つというスタイルでした。

しかし、その荒くれ者の何でもありなスタイルが個人的にはヒット。
力任せに剣をぶん回し、ダメージを負いながらも気合いで走り、最後には乾拭き屋根の家をクッションに飛び降りるようなスマートさの欠片もないアクションは先の読めない面白さがありました。
なんだかんだで最後には勝ってしまう勢いも良さだったのだと思います。

大味すぎるアクションシーンばかりでしたが、最後までそれを臆することなく貫いていたのが面白かったですね。


中国では問題作?

この作品は中国が舞台。そのため、中国は製作に大きく関わっています。
しかしながら、本作は中国で公開延期の憂き目に合いました。(2014年9月26日⇒2015年4月3日)

今回はその話について調査をしてみた……のはいいのですが、結論から言ってしまうと明確に「これ!」という理由は明示されていないようです。(個人的に調べてみた結果では)

それもそのハズで、この作品は事前に行われた検閲ではセーフの判定を受けていました。
しかし、公開前夜の真夜中に急きょ配給会社である「中国電影集団」が延期を指示。共同製作を行っていた「Arclight」はその理由も聞かされないままの中止に混迷を極めていたらしいです。
実際、監督のニコラス・パウエル、主演のヘイデン・クリステンセンも宣伝のため中国入りをしていたらしく、本当に突然の中止だったのでしょう。

では一体何が原因だったのか、説としては2つあります。

まず1つ目が描写の問題。
この作品、主人公ジェイコブらが敵をバッサバサと剣で切り殺していくアクションが売りとなっていました。
とあるシーンでは投げた槍で兵士の頭をぶち抜くというグロテスクなシーンもあり、日本でも区分はR15+判定を受けています。
そうした暴力的描写が問題視されたのではないかというのが1つ目の説です。
現に、クエンティン・タランティーノ監督作『ジャンゴ 繋がれざる者』では暴力シーン(とヌードシーン)の過激さから、公開後ではあるものの中止される事態が起きていました。(該当シーン削除後に再上映)

2つ目の説が白人の優位性を押しすぎていたことです。
これについては批評家からも指摘されていることらしく、香港では実際、これが理由で公開中止、DVDリリース等もされない事態に陥ったそうです。
たしかにジャオやリアンは守られるだけの存在(助けようとしても逆にジェイコブに助けられる始末)、長男のシンはド悪党と、アジア系のキャラクターに対する扱いは正直微妙でした。(モブキャラはほとんど全滅ですし)
ただ、酷評されるほどかといったらそこまでは思わなかったのも事実です。
割とこれくらいの描かれ方がされている作品はありそうなものですが……
舞台となった国だからこそ許せない点なんてものもあったのかな?と、思いました。
なんにせよ、香港での動きもあったことから有力な説として挙げられていたようです。

以上、2つの説が中国での公開延期の原因として考えられています。
理由がどちらであるにしても、個人的に大きく評価が変わる訳でもなし、そこそこ楽しめる作品であったと思います。

【ネタバレあり・レビュー】モスキート | とにかくデ蚊い!夏場には見たくない蚊映画の決定版!

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蚊、それは人類誰しもが一度はわずらわしさを感じたことがある存在でしょう。
勝手に血を吸われ痒みを残されるという理不尽さ、羽音の不快さを考えると人類の敵と言っても過言ではありません。
「その蚊がもし巨大化したとしたら……」
そんなおバカな発想を1994年の技術力で再現した映画が今回レビューする『モスキート』です。

作品概要

原題:Mosquito
製作年:1994年(日本未公開)

監督:ゲリー・ジョーンズ
脚本:ゲリー・ジョーンズ、 スティーヴ・ホッジ、トム・シャネイ
主演:ガンナー・ハンセン、ロン・アシュトン

ストーリー

ある夜、公園の沼に隕石が落下した。
そこにいたボウフラたちはその放射線を浴びて成長を始める。

恋人メーガンを乗せ、レイは公園へと車を走らせていた。
その道中、彼らは巨大な何かを轢き殺してしまう。
公園へ向かった二人は、そこでミイラ化した死体を見つけ、只ならぬ事態が起きつつあることを知る。

蚊がデカい!ただそれだけのストーリー
この作品、冒頭にも書いたようにおバカだと思います。
なぜなら「降ってきた隕石の影響で蚊がデカくなった!」ってだけでストーリーはほぼ終結しているから。

ただ、おバカだからといって悪いかと言ったらそんなことはありません。
むしろ、「蚊がデカくなる」なんていういかにもB級映画っぽい考え方をしているのですから、その設定もぶっ飛んでいていいんだと思います。
逆に「蚊が大きくなったメカニズムは……」とバカ真面目に説明しても、それはそれでネタっぽくもなるような気もしますが……
結局、蚊がデカくなった時点でおバカ設定なんですよ。

そのぶっ飛んだ設定のおかげか、テンポがいいのも作品の魅力。
銃撃戦、攻城戦、カーチェイスなどなど、やりたいことをしっかりやっていくスタイルは、見ている側としても気持ちのいいものでした。

ただし、蚊が「デカくなった」以外の特徴がないのはやや残念。
「火を吹いたりしろ」とまでは言いませんが、ずっと蚊が襲ってくるだけというのは、時間が経つに連れてマンネリ感が出てきていたと思います。
92分という上映時間は、退屈にさせないギリギリの時間だったと言えるでしょう。

厄介者だけど嫌いになれないキャラクターたち
モンスターパニック映画でありがちなのが、キャラクターが次々に死んでいく展開。
本作も結果的に5人中3人になるわけですが、他のモンスターパニック映画よりもキャラクターが魅力的に思えました。

喧嘩っ早いレイとその恋人メーガン。公園管理者のヘンドリクスに、文句タラタラのパークス、強盗アール。
こうして挙げてみるとロクな奴がいません。けれど見ていると自然と受け入れられるのが面白い所です。

その理由はおそらく蚊との戦いで必死にサバイバルをしているから。
どれだけ変なヤツであっても、蚊に襲われ、必死こいて生き残っている姿を見れば自ずと応援したくなるというもの。要はそれだけ蚊との攻防が楽しめたわけです。
基本的にバラバラな考えの5人ではありますが、「生き残る」という目的のために結託するというのも面白い構図でした。

さて、キャラクターの話で絶対に触れておきたかったのが、アール役のガンナー・ハンセンについて。
彼は『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス役として有名。つまりはチェーンソーとゆかりのある人物なんですね。
で、今作でもそのチェーンソーを使った活躍があるというファンサービスがありました。
しかも「20年ぶりだぜ」とメタ的なセリフも言っており、ファンには堪らないサプライズを見せてくれていました。(『悪魔のいけにえ』公開が本作のジャスト20年前の1974年)
チェーンソーを持たせただけでここまで盛り上がる俳優なんて彼くらいでしょう。

ハンセンは惜しくも2015年に亡くなっていますが、こうして作品内に活躍が残っているというのは嬉しいものです。
悪魔のいけにえ』が好きな人なら彼がチェーンソーを持った姿を見れるだけでも一見の価値ありの作品となるでしょう。

ベストを尽くしてしまった蚊の造形美
この作品で強く印象に残るもの。それは間違いなく、蚊のヴィジュアルでしょう。
我々が想像する蚊の姿をそのままデカくしたかのようなその見た目は、ゾッとするほどキモイ。(誉め言葉)
口器がニュルンと体液を纏わせながら伸びてくるのもいい意味でキモかった。

その見た目だけならまだ耐えられますが、それが飛び回るのですからより恐ろしい……
その飛び回るシーンで生かされているのが1994年という時代の技術。
当時はまだビッグタイトルでもない映画にCGを多用することは難しかったのか、蚊の動くシーンではストップモーション技術が使われているようでした。
現代では逆にあまり見る機会のなくなった技術だけに、その時代を感じると共に、製作陣の苦心が感じられました。

そんなデカい蚊の末路が破壊されることです。
車にはねられペチャンコになったり、銃で撃たれて粉々になったり、チェーンソーで切られたり、炎で燃やされたり……
バリエーション豊富なあの手この手でグロテスクに死んでいく蚊たちの姿はもはや芸術的。そのこだわりようには感動させられました。

じっくり見ると手作り感満載ですが、その粗っぽさが逆に生々しくて気持ち悪さを演出していたと思います。


実在するデ蚊イやつら

巨大な蚊たちが大暴走を見せるこの作品。
「ありえねー」と笑いながら見るのが正解なのでしょうが、果たして本当にあり得ないことなのでしょうか?
まだ見つかっていないだけで、実は私たちの知らない場所で巨大な蚊が存在するかもしれません。
というわけで、今回は実在するデカい蚊についてまとめてみました。

まず大前提として、私たちがよく見る一般的な蚊アカイエカのサイズは5.5mm(0.55cm)
これを前提に、デカい蚊たちの大きさを感じて見てください。

とにかくデカい蚊
巨大な蚊としてギネス記録にも載せられているのが、中国四川省で発見されたミカドガガンボ。
ガガンボ(大蚊)という種類がそもそもデカい蚊なのですが、ミカドガガンボはその中でも最も大きい種とされており、初めて発見されたのは日本でした。

そんなミカドガガンボ、体長30〜38mm(3cm~3.8cm)が一般的とされています。
で、中国で発見された最大のガガンボはなんと体長50mm(5cm)。普通の1.5倍くらいあります。
前足の先端から後ろ足の先端までを計れば258mm(25.8cm)。映画チラシの縦長が25.7cmとちょうどイメージしやすいサイズです。
あれくらいの大きさの蚊が顔に止まろうと飛んで来たらと思うとゾッとしますね。

しかし、コイツらは吸血はしない割と無害なヤツ。しかも体も脆く、足とかすぐもげちゃうそう。
そこで次は吸血能力のある危険なデカい蚊をご紹介します。


世界的に危険なデカい蚊
吸血能力がある危険な蚊が最近になって確認されています。
それが2018年9月ハリケーン・フローレンスの影響で発生した「プロソフォラ・シリアタ」という種類の蚊。
この蚊は、吸血時に1ガロン=約3.8リットル吸われそうなくらいデカいということから通称「ガリニッパー」(gallon + nipper = gallinipper)と呼ばれています。

その体長はおよそ20mm(2cm)前後と確認されているらしく、やはり普通の蚊と比べるとデカい。
1ガロンくらい吸われそうだという認識もあながち間違いではないと思います。

そんなデカい蚊ガリニッパーですが、一番危険視されているのが刺された時の痛みです。
その一刺しは牛の皮膚をも貫くと言われており、その時の痛みは燃えるようなものなのだとか。

現在の所、日本では未確認の種ですが、アメリカを脅威に陥れた危険な蚊としてその名を残しています。

【ネタバレあり・レビュー】アバンダンド 太平洋ディザスター119日 | これってホントにサバイバル?奇跡だらけの119日間!

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海洋サバイバル映画といえば、実話、フィクション問わず、大抵の場合かなりの苦境に陥るものです。
その日数が長ければ長いほど、その苦境は増していき、見るに堪えない惨状に心が痛くなります。
そんな固定概念を覆すのが、今回レビューする『アバンダンド 太平洋ディザスター119日』です。
119日にも及ぶサバイバルを大きな犠牲も出さず過ごした4人の男たちの実話となっています。

作品概要

原題:Abandoned
製作年:2015年(日本未公開)

監督:ジョン・レイン
脚本:ステファニー・ジョンソン
主演:ドミニク・パーセル、ピーター・フィーニー

ストーリー

船乗りのジョンは自作のヨットにより、ニュージーランドからトンガまでの南太平洋横断を計画していた。
その船員としてジム、リック、フィルの三人を乗せ、ヨットは太平洋へと漕ぎだした。
しかし、自身のヨットの力を過信したジョンは嵐の中へと突入し、結果としてヨットを転覆させることとなった。
さかさまになった船内に取り残された4人は、太平洋でのサバイバルを強いられることとなる。

史実だからこそ綺麗に始まり、綺麗に終わらない物語

できる事を増やしていく少し楽しそうなサバイバル
サバイバル映画といえば「間違ってもこんな目にあいたくない」と思いながらいつも見ている気がします。
最終的に助かる映画でも、その過程となるサバイバルは苦しいので当然といえば当然ですね。

ただ、本作はそうした思いがあまりしませんでした。
たしかに、太平洋で辺りに何もない絶望、水がないことによる脱水症状など、状況としてはかなり過酷。
しかし、他のサバイバル映画と比べるとかなり恵まれた条件にいたように見受けられました。
例えば水が無くなれば雨が降りますし、魚が浸水した船内を泳いでいて捕まえられるといった感じ。
とはいえ、それらの食料や水を得るためにジョンたちが努力をしていたのも事実です。
雨水を得るために船体に雨どい的な溝を作ったり、魚を捕まえるための網を自作したりと、出来得る限りの努力を見せていました。

で、この出来得る限りの努力がなんだかワクワク感を煽っていました。
水没しかけの船の中を板を張り合わせて寝床を作ったり、外には船体を足場にした釣り堀を作ったり、色々自作をしており、秘密基地でも作っているかのようなワクワクがあったんですね。

しかもそれが成功しまくるという奇跡。
魚を大量に釣り上げるだけでなくアホウドリまで捕まえて、食には困らない状況を確立できてしまうというのはサバイバル映画ではなかなかお目に掛かれない光景でした。
本人らも結構ノリノリでサバイバルをするようにもなり、「2,3日くらいなら滞在してみたい」と思える、ちょっと過酷なアウトドアくらいのノリは見ていて楽しかったですね。

楽しむべきはギスギスした関係?
こうした楽しいサバイバル要素が見られる一方で、まったく進展を見せないのがメンバーの関係でした。
基本的に騒ぎを起こすのはリックなわけで、その理由は終盤で病気による痛みであったことが判明します。
ジムやフィルのちょっとした行動にキレたり手に負えない男として描かれていました。ただ、個人的に一番問題あったのはジョンだったように思いました。
ヨット転覆の原因を作り、転覆したヨットに傷を付けることを嫌い、やたらと仕切りたがり、なにかあれば神への信仰を押し付けてくる―――そんなウザい行動の数々は、リックがキレるのも仕方がないように思いました。

最終的に助かった4人は喜びもあってか、上辺だけは仲直りと変わらぬ友情を約束しますが、ジョンのモノローグでそれもかなわなかったことが明らかに。
彼は他の3人とは違い、帰る家(船)を無くしており、なんだか最後の最後までリックたちとは分かりあえなかったように感じられました。
とはいえ、サバイバル状況下での行動を見ていると、そこまで感情移入できる人物でもなかったので「へーそうなんだ」くらいの感情しか沸かなかったですけどね。
リアリティを追求したからこそあの人物が生まれたのか分かりませんが、多少脚色してでももっと好感の持てる人物にすれば良かったと思いました。

史実だからこそ残るモヤモヤ感
この作品、サバイバル映画ではあるのですが、救助されてからもドラマがありました。
それが、4人の遭難が話題集めのための偽装であったのではないかという疑惑でした。
これ、トントン拍子で上手くいくサバイバル要素に比べると、皮肉にも実話らしさがあったと思います。
色々と上手くいきすぎていましたからね。水を得るにしても食料を得るにしても。
一部始終を見ていた身としても「なるほど確かに」と思わざるを得ない疑惑です。

で、このドラマが印象に残るかといったら意外とそうでもありません。理由はもの凄く淡々としているからです。
「偽装の疑いがあります」→「調査したら事実でした」という、4人の言い分や苦難は大して描かずあっさり事実として認められるという味気なさ。
実話の体を壊さないのは良かったのですが、ドラマチックさがなさ過ぎて「なんのためのパートだったんだ……?」と、モヤモヤを残す形で終わってしまったように思えましたね。



4人が旅した航路について

この作品、あらすじにも書いたように、4人はニュージーランドからトンガという場所までヨットで向かうことにしていました。
しかし、ニュージーランドは分かってもトンガがどの辺なのかは分からない……そのため、備忘の意味も込めて調べてみました。

まず、ほとんどの方は知っているかと思いますがニュージーランドの位置。
日本の南、オーストラリアより南東側へ少し行った辺りにあります。

では続いてニュージーランドのどこから4人が出発したかについて。
これは作中では語られていませんでしたが、史実という事もあって場所は特定できます。
それはどこかといったら、ニュージーランドのピクトンという町。ここから南太平洋の海を渡って彼らはトンガを目指しました。

で、実際にたどり着いたのはまさかのニュージーランド北にあるグレート・バリア島でした。
たしかにこんな奇跡があるかと疑いたくなるのも無理はないかと思います。

さて、では彼らはどのような航路を取ってしまったのか。
史実であるだけに、その調査はされていました。
で、その経路が以下になります。(手書きです)

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まあ、ものの見事に迂回をして戻ってきたわけです。
とはいえ、一度は南太平洋へと進出していることもあり、戻ってきたとは思わなかったのも納得といえば納得です。
これがもし東側(南アメリカ大陸)に流され続けていたらと思うとゾッとしますね。十中八九助からなかったでしょう。
ニュージーランドから出発して漂流したあげくニュージーランドに帰り着いた」というのはマヌケにも聞こえる生存劇です。
しかし、一歩間違えれば死もあり得たことを考えるとやはり彼らはツイていたというしかありませんね。

【ネタバレあり・レビュー】マンディ 地獄のロード・ウォリアー | 狂気に溺れ、血にまみれ……こんなニコラス・ケイジが見たかった!

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「復讐」それは過去から現在まで、多くの人間が行ってきたであろう罪深い行為です。
しかし、映画ではそれをテーマに、痛快なアクションを見せたりするのですから面白いものです。
今回レビューする『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』では、その復讐心が生み出す狂気が見所になっています。

作品概要

原題:Mandy
製作年:2017年(日本公開:2018年)

監督:パノス・コスマトス
脚本:アーロン・スチュワート=アーン
音楽:ヨハン・ヨハンソン
主演:ニコラス・ケイジ

ストーリー

1983年、カリフォルニアの郊外。
森林伐採を職としているレッドは、妻マンディと慎ましくも幸せな日々を送っていた。
しかしある日、カルト教団たちがレッドらの住居に押し入り、マンディを殺してしまう。
怒りに燃えるレッドは、事件に関与した者を皆殺しにすべく立ち上がる。


ニコラス・ケイジの本領(?)発揮な役どころ
ニコラス・ケイジの当たり役を久しく見ていないな」と思っていた近年。
口コミでこの作品が当たりだと聞いて鑑賞をしてみました。
なるほどたしかにニコラス・ケイジが凄い作品だ……!

彼の役どころは、妻をカルト教団に殺され、復讐に目覚める男レッド。
それだけ聞くと、多くのアクション映画に出演してきたニコラスなら一度は同じでないまでも近しい役を演じてそうなものです。
しかし、本作はそのどれとも違いすぎました。

まず、彼は特に何の力も持っていません。
軍上がりではないし、大量の武器を持ち合わせているわけでもない、ましてや悪魔と契約して炎を噴く骸骨にも変身をしません。
あるとするなら妻マンディに対する愛くらい。そのため、カルト教団に妻を殺され、自身も彼らの気まぐれで生き残ることしかできません。

一つ目の見せ場がここ。
妻の死を前に何も出来なかった無力を嘆く男の悲壮感をこれでもかと表現。
トイレでスピリタスをあおりつつ、泣きわめき、喉を焼くその姿は、正直引くくらい渾身の演技でした。ガチで家族を殺したのかと思うくらいの暴れっぷり。

で、二つ目の見せ場がここから。
妻を失ったレッドは復讐に命を燃やす存在に。マイボーガンを入手し、戦斧を自作し、単身殺人が趣味のバイカー共に特攻を仕掛けます。
それだけでもなかなかに狂っていると思いますが、その入れ込みようがさらにヤバい。
転倒したバイカーに叫びながら車ごと突っ込んでいくわ、敵の喉を引き裂いて噴き出した血を浴びながら笑うわ、とにかく狂気染みています。

ただ、それを違和感なくやって遂げるのがニコラス・ケイジという男。
狂気が似合う……というと誉め言葉になるのか分かりませんが、クレイジーな演技が嫌に様になるんですよね。
それはおそらく、彼がそれまでのキャリアで善玉から悪玉まで多くの役を演じてきたからこそなのでしょう。
改めてニコラス・ケイジって凄いと思いました。

感傷的でありながらクレイジー。そんな彼の表現力の凄まじさは「怪演」と評するほかないものでした。


洗練されたる禍々しきヴィジュアル
この作品、苛烈な復習劇やニコラス・ケイジの演技力に意識が向きますが、ヴィジュアルが作り出す世界観もまた素晴らしいです。
例えば、パンクなファッションを着こなすレッドとマンディであったり、『マッドマックス』に出てくるかのようなイカした風貌をしたライダーたち、チャールズ・マンソンを思わせるカルト教団たちなどなど……
パッと見、ひと昔前の流行を思わせるヴィジュアルは、なんだか昔のホラー映画を見ているかのような懐かしさすら感じさせました。(舞台は1980年代らしい)

で、それらはレッドとバイカーたち(あとカルト教団)を殺すシーンでも発揮。
血のりがドバッーと溢れ出たり、首がゴロンと転がったりといった表現はいかにも昔のホラーっぽい。
冷静になって見ればチープな表現かもしれませんが、そうした古臭さが逆にロマン心をくすぐりました。汚いのもまた魅力となるのがホラーのいいとこです。

他にも、レッドがマンディの死を嘆くトイレの壁紙がうるさいくらいの柄であったり、薬物を注入されたマンディが見ている風景を再現したりと、視覚的に楽しめる要素が満載。
レッドやマンディと同じように、狂気の世界に吞み込まれていく心地で作品を見ていられました。


超楽しいクレイジーな戦い
この作品、面白さの大半をこの要素が握っているかと思います。
噴き出す血、響き渡るレッドの唸り、チェーンソー同士がぶつかる火花、誰もが心の奥底で求めていたクレイジーさがそこにはありました。

そこに理屈なんて必要なし!
ボーガンで射抜かれたのにピンピンしているバイカー、投げた戦斧が頭に突き刺さる超展開、突然「俺がお前の神だ」と言い始めるレッドの異常性、全部本能的に楽しんでしまえばいいのです。
前半にマンディ殺害という劇薬をキメてしまっているんですからレッドと共に狂ってしまうのが正解なのだとしみじみ感じます。

そして気づいたのが、ニコラス・ケイジの適切な使い方。
ボロボロになってもグチャグチャになっても戦い続ける泥臭さ、それこそが私が求めていたニコラス・ケイジ像なのです。
オシャレに年を取る必要なんてなくって、いつまでもモッコリブリーフを着ていても様になるオジサンでいて欲しいと思いました。
狂ってなんぼのニコラス・ケイジ万歳です。

【ネタバレあり・レビュー】堕落の王国

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メキシコといったらタコスやテキーラ、美しいビーチなどの名物、名所が思い浮かびます。
その一方で治安の悪さも有名。
女性が暮らすには危険な場所とも言われています。
そんなメキシコの理想と現実の両方を描いた作品が、今回レビューする『堕落の王国』です。

作品概要


原題:Decadencia
製作年:2014年(日本未公開)

監督:ホアキン・ロドリゲス
脚本:ホアキン・ロドリゲス
主演:ナタリー・ウマーニャ、アレハンドロ・エストラーダ

ストーリー

メキシコでお酒の販売員をしているアナベルは、ある日車に轢かれそうになったことからオスカーと出会う。
顔も良く、性格も良く、お金持ちであった彼に、アナベルはどんどん夢中になっていった。
完璧で恵まれた生活を送る中、彼女はオスカーがある変わった性癖を持っていることに気づく。


ラブロマンスからサスペンスへと展開するストーリー

この作品、序盤から中盤に掛けてはほとんどがアナベルとオスカーのイチャイチャするだけのラブロマンスでした。
ただ、ラブロマンスの基本は抑えており、金持ちのオスカーが見せる羽振りの良さにアナベルがギャップを感じたり、オスカーが抱える過去に何かしら感じ取ったりと、見どころは作っていました。
また、イチャイチャするシーンであっても、メキシコのちょっとオシャレな景観をバックにするようなヴィジュアル的美しさも抑えており、退屈するようなことはありませんでしたね。

そうした甘いラブロマンスの空気が変わるのは後半から。
オスカーの「アナベルが他の男と性行為をしているのが見たい」という発言からだんだんと二人の関係がおかしなことに。
それまで爽やかイケメンだった男が狂気じみた変態に変わるというのは、端から見れば面白いです。
「オスカーを信じたい。けどどう考えてもおかしい」で疑心暗鬼しながらも、アナベルがだんだんと禁断の世界へと飲まれていく様子は丁寧で見ごたえがあったと思います。
そんな本作の見所でもあったエロスについて次は書いていきます。

シチュエーションが燃えるエロティックな展開

エロス映画の醍醐味といえば男女が情事に及ぶシーン。
そんなイメージがありますが、本作はそこまで生々しい表現はなかったと思います。
年齢制限がR-15となっていることからもその認識は間違っていないのでしょう。
しかし、生々しさこそなくてもエロス映画の最低限の魅力は表現されていました。

その大事な要素のひとつ、行為に及ぶシーンのヴィジュアルについて。
他のエロス映画がやっているように、本作でも行為に及ぶシーンで一種の芸術性を尊重。
影の付け方や、照明の色使いなど、工夫を施してあるのは良かったと思います。
上に書いたように、そこまで生々しさがないというのも芸術寄りに見せたかったからなのかもしれません。

こうした中で、個人的に魅力的に思えたのがシチュエーション。
もともと清純で真面目であったアナベルがオスカーの要求に応じる内に、それまでの人生では体験し得なかった背徳の世界へ足を踏み入れていく流れは秀逸でした。
特に魅力的であったのは仮面舞踏会のようなシーン。
アイズ・ワイド・シャット』的なエロスを感じる仮面舞踏会のシーンは、いい意味で卑猥です。
自らの素性が分からないのをいいことに、普段やらないようなことをしてしまう背徳的な行為は、直接的な表現よりもエロスがあったと思います。

堕落した先に待つ結末

この作品、ラストになかなか強烈なものがありました。
オスカーに騙され他の男と性行為をさせられたアナベルは誰とも知らぬ男の子供を妊娠。その現実に絶望した彼女が自殺してしまうという最期は本当に救いがありません。
さらに痛々しいのが残された遺書。「これは貴方がもたらした結末」とオスカーを呪うかのような文面は、事実ではあるもののかなりの重苦しさを感じさせました。

とはいえ、それがメキシコでは起こりうる危険なのだという事を痛感させるにはこの描き方は効果的であったかと思います。
少なくともこの作品において最も印象に残り、ただのエロス映画になっていなかったのはこのラストがあればこそ。
後味は悪いですが、考えさせられる結末でした。

【ネタバレあり・レビュー】エンドレス・エクソシズム | 死体安置所でうごめく悪魔がじんわり怖いホラー!

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遺体安置所と聞けばそのフレーズだけでもなんだか不気味な印象を受けます。
死んだ人を扱う部屋なので、それが本能的に恐ろしさを感じさせるのかもしれません。
そんな遺体安置所ではありますが、意外とホラー映画の舞台には選ばれていないように思えます。
その遺体安置所を舞台に、悪魔の取り付いた死体が大暴れする作品が、今回レビューする『エンドレス・エクソシズム』です。

作品概要


原題:The Possession of Hannah Grace
製作年:2018年(日本未公開)

監督:ディーデリク・ヴァン・ローイェン
脚本:ライアン・シーヴ
主演:シェイ・ミッチェル、カービィ・ジョンソン

ストーリー

警察時代のある出来事がきっかけで、精神的に衰弱していたメーガンは社会復帰のため、友人の紹介で遺体安置所での夜勤を始める。
ある夜、彼女は一人の少女ハンナ・グレースの死体を引き取る。
その遺体を引き取った直後から、メーガンの周りで奇妙なことが起こり始めた。

設定は斬新、内容は手堅いホラー!

怖さはあまりないエクソシストホラー

エクソシストを題材にしたホラーといえば、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』を連想します。
そのため、エクソシストを題材にしたホラーに対するハードルは個人的には高くなりがちです。
で、本作なわけですが、思ったよりも怖くはない……というか、エクソシスト感がありませんでした。

たしかに死体少女ハンナに悪魔は乗り移ってはいます。
恐ろしい形相はするし、獣のような叫び声は出すし、念力的なもので人を殺すし、やることは悪魔らしいです。
けれど、それを見せるのは終盤になってから。
それまで彼女は体の傷を癒すため、登場人物を一人一人殺していくこてこてなホラーを展開していました。
「あ、この人死ぬな」と思った人がグロさも異色さもなく、念力のような力であっさりと殺されていくのはなんだか物足りなさを覚えます。

むしろ、面白かったのは序盤から中盤に掛けてのメーガンの精神を不安定にさせる行為の数々。
閉めたハズのドアを開けたり、転がったボールを拾ったり、廊下を走ってみたりと、やっていることは子供のイタズラレベルなのですが、シンと静まり返ったメーガン一人の死体安置所だといい感じにホラーと化します。
この環境を使ったホラーが個人的に、この作品の魅力であったと思います。
それについては、次の項目に書いていこうと思います。

誰もが辞めたくなる職場環境

作中、メーガンが死体安置所の職に就く際に、雇い主は「あり得ないものを見聞きして辞める人間は多い」というような事を言っていました。
その時は「そりゃ死体を扱う仕事なら精神的に不安定にもなるわな」くらいに思っていましたが、話が進むにつれてその原因が職場環境の悪さにあるように思えてきました。
廊下は奥行きが長く、電気が消えるとすごく不気味。その電気は人感センサーで勝手に点いたり消えたりしますし(消え具合によって十字架の形をしているのが意味深でオシャレ)、遺体が運ばれてきた時のブザー音はやたら大きく耳障りというなんとも心臓に悪い環境です。
オマケにワンマンでの作業。そりゃあ精神的におかしくなる人も出るというものです。
一番問題なのはそうした課題があるのに特に雇用形態やら職場環境に手を加えない雇用主。まあ、ここは映画なのでそこまで深く考えない方がいいのかもしれませんね。
なんにしても、死を扱う現場なのに人を怖がらせるために特化しているかのような職場は映画的には美味しかったです。

ある意味意外なラストシーン

一番最初の項目にて「こてこてなホラーを展開していた」と書きましたが、意外性……とうよりかは予想と反していたのがラストシーンでした。
たいてい、B級ホラー作品だとラストシーンはインパクトを残すためかバッドエンドが多いです。
本作でもそうした下地を作っており、悪魔は精神的に弱った人間を狙う→精神を病んでいたメーガンは狙われているといった描写もありました。

そしてラストシーン。
ここでメーガンのモノローグが入るわけですが、それまでの前フリを見ているとまるで悪魔が次に乗り移ったかのように思えます。
けれどそう思わせておいて、悪魔の象徴ともいえるハエを叩き潰すという形で彼女が人間であることを証明していたんですね。
で、この「精神的に強くなった」という描写も作中ではちゃんと表現されています。
抗不安薬のことを元恋人に打ち明けたり、死体搬入の男に励まされたり、自身のトラウマを克服して悪魔を殺したりと、前フリは十分にできていました。
このどちらとも取れる前フリをしておいての悪魔に打ち勝った描写というのは個人的に上手いなと思いました。それだけでも見た価値があったと思えるくらいには。
基本的にホラーのラストシーンは後味が悪いか、手堅く印象に残らないオチだったりするため、本作の締めは割と好印象でした。

死体役ハンナ・グレ-スを演じたカービィ・ジョンソンとは?

この作品、主演のシェイ・ミッチェルの活躍は然ることながら、目を引いたのが死体ハンナ・グレースを演じたカービィ・ジョンソンの演技でした。
彼女はどういった俳優であるのか、それについて今回は調べてみました。

彼女は、1996年2月12日にフロリダ州のキーラーゴ島という場所で生まれました。
このキーラーゴという場所はダンス文化が有名らしく、彼女は11歳からダンサーとして活動を始め、成功を収めたようです。
本作のハンナ・グレースの動きもダンサーとしての経験が生きたことをインタビューで語っています。

映画界に進出したのは2016年。
『5150』というスリラー映画にメインキャストとして出演したことでデビューを果たしました。(残念ながら日本語で見ることは現在できそうにありません)
この作品で彼女はカミという精神病を患った女性を演じ、姉妹にブチ切れるという怪演を見せ、高く評価されることに。

そうした経験もあってか、2018年にこの作品のハンナ・グレース役として抜擢されました。
冒頭のエクソシズムシーンの狂ったように暴れる姿はもちろん、獣のようにメーガンに迫るシーンなど、鬼気迫る演技を見せていたと思います。
個人的に印象に残ったのは、メーガンがふと目を離した隙にハンナが彼女の方を向いていたシーン。メイクの力もありますが、あの目力は恐ろしさを声もなく表現していました。

カービィは2019年に『VHYes』というコメディ作品に端役ながらも出演。
現在は、YouTubeで恋人であるルーク・アイズナー(Netflixオリジナル映画『トールガール』に出演)と「Kirby & Luke Diaries」というチャンネルで活動をしていたり、インスタグラムで活動をしていたりするようです。

今後の活躍に期待が掛かる注目の若手俳優ですね。

【ネタバレあり・レビュー】隣のヒットマン | ブルース・ウィリスが越してくる!ヒットマンと歯科医が織り成すハチャメチャコメディ!

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殺し屋=ヒットマンといえば、映画やドラマなどでは珍しくない存在です。
しかし、普通に生きていればそんな人間と出会うことはまずないでしょう。
今回レビューする『隣のヒットマン』では、そんな幻の存在とも言えるヒットマンが突然隣に引っ越してくるという純度100%のコメディ作です。

作品概要

原題:The Whole Nine Yards
製作年:2000年(日本公開:2001年)

監督:ジョナサン・リン
脚本:ミッチェル・カプナー
主演:マシュー・ペリーブルース・ウィリス

ストーリー

カナダ・モントリオールで歯科医を開業しているオズ(マシュー・ペリー)は、妻ソフィ(ロザンナ・アークェット)と姑にいびられ続ける日々を送っていた。
ある日、オズは隣に越してきた男ジミー(ブルース・ウィリス)が、マフィアのヒットマンであったことに気づく。
しかし、ソフィはジミーの居場所をマフィアに密告し、懸賞金を貰って来るように命じた。
渋々アメリカに飛んだオズは、そこで待ち受けていたマフィアのボス・ヤンニと会うこととなる。

ウィットに富んだコメディセンス

冒頭にも書いたように、この作品はヒットマンが出てくるけれどコメディ作品です。
殺しすらもコミカルに変える……それにはかなりのセンスが必要だと言えるでしょう。
その高いハードルをこの作品は超えていたと思います。
個人的に好印象であったのは、下品な笑いを基本狙わず、ヒットマン、マフィア、妻に板挟みにされたオズの必死な姿で笑いを誘っていた事です。
ヒットマンたちの狂った常識に振り回されるオズの姿が上手くハマっていたと思います。

その面白さが生きたのはひとえにマシュー・ペリーの存在があればこそ。
気弱で妻に頭が上がらない情けない男を演じつつ、幅広いリアクション芸を見せ、その存在感をしっかりとアピール。
ちょっとしたマヌケさが逆に愛嬌に思えるようなキャラクターを作り上げていました。

こうしたコメディ要素が面白かったわけですが、たまーにコテコテのギャグ過ぎてくどさを感じるシーンもあったと言えばありました。
まあ、笑いのツボは人それぞれ、全部が全部ツボに入る事なんてことはありえないということですね。

ブルース・ウィリスの存在感

最近だと良作、駄作とわず出演していることのあるブルース・ウィリス
本作は個人的に良作扱いなわけですが、アクションの多さやシーンの多さを見ると、駄作と思う作品とそこまで大差ないように思えます。
では、なにが違うのかというと、ブルースの扱いでしょう。

駄作と呼ばざるを得ない作品では、ブルースを安易に殺したり、悪党にしたりと、インパクトを与えるために彼を使い捨ててる感じがあります。(もちろん例外はありますが)
そこを見ると、本作でも悪党といえば悪党なのですが、立ち位置として魅力的な悪党だと言えます。

ヒットマンでありながら、どこかフレンドリー。かと思えばキレやすく、裏に何か隠しているというミステリアスさはなかなかに濃いキャラです。
そんな危ないヤツが主人公の生死を握っているのですからそりゃ魅力的に思えますよ。
ハンバーガーにマヨネーズを入れただけでウエイトレスにボロクソ言い始める辺りも濃いキャラを感じさせました。

派手なアクションを見せなくとも、濃いキャラと威圧感だけでその存在を残すというのは、ブルース・ウィリスならではの役であったと思います。

まさかの歯科医設定
作品冒頭、主人公オズが歯磨きをしているシーンが強烈なインパクトを残しました。
初めの内はオズが歯科医であることに掛けているだけなのかと思ったのですが、この歯が意外や意外、物語のポイントを握っていました。
死体の歯を加工して、ジミーの死を隠蔽する展開は、ありそうでなかった発送でした。
おそらくありそうでなかった理由は「現実的ではない」だと思うのですが、この作品はコメディ。これくらいぶっ飛んでいた方が楽しめるというものです。
ヒットマンの存在に怯えるオズが、患者に恐怖を与えるというちょっとした笑えるシーンなんかもあって、歯科医が主人公という設定をしっかりと生かしていたと思います。

「歯科医は自殺しやすい」は海外では常識?

この作品を見ていて何度か聞くのが「歯科医は自殺で死ぬ」というフレーズ。
日本ではそうした噂は聞いたことがありません。
これに果たして理由があるのか、少し調べてみました。

この話、やはりアメリカでの通説となっているらしく、その起源はかなり昔のこと。
諸説ありますが、始まりは1920年代にメディアが報じたからなのだとか。
慢性的なストレスが原因で歯科医は自殺率が高いという報道がされたそうです。
1960年代には「2.5倍から5.5倍の自殺率」と明確な数字まで主張されるようになり(出所は不明)、アメリカでは「歯科医=自殺しやすい」という説が一般的なものとなりました。

しかし、その説は現在では誤りとされており、1975年に歯科医師会は調査の結果「歯科医が一般人口より自殺しやすいという説を裏付ける根拠はない」としました。
さらに、この医師会の考えを肯定したのがロジャー・E・アレクサンダー医師。(口腔外科医)
彼は1996年に「自殺率が高いのは現在には適用できない、伝聞、般に根付いた認識、仮定がされており、情報に欠陥があった」としました。
また、2001年に彼は歯科医や他の医療従事者の自殺率が高いのが事実か伝聞かについての論文も発表しています。
一部の専門家たちはそれでも歯科医の自殺率が高いことを主張していますが、結局現在に至るまでそれを裏付ける信頼できる情報はないのだとか。

このように「歯科医の自殺率が高い」というのは、過去に挙がった説が根付いて通説とされてしまった、限りなく誤りに近い説でした。
学術的にそれが否定された現在でもその認識は変わらないままというのはなかなか酷い話。
こうした誤った通説が与えた影響により、精神を病んだ医師も存在したかもしれません。

そんな誤った通説を(おそらく)皮肉る形で本作はそれをネタにしていました。
アメリカ人の歯科医師に対する偏見が見られる、ちょっとしたカルチャーギャップを感じるエピソードでした。