南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

(2024.4.20『続・プレイボール』最新話更新!)【野球小説】『続・プレイボール』『続・キャプテン』 ~各話へのリンクその他~ <ちばあきお『プレイボール』『キャプテン』二次小説>

【野球小説】続・プレイボール

 

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【目次】

 

1.あらすじ 

(1)続・キャプテン

 ちばあきお「キャプテン」の”もう一つの”続編。

 物語は近藤キャプテンを主人公として、春の選抜大会で敗れた直後から始まる。「来年さらに強くなる」ことを目標に再スタートした現チーム。しかし”夏”もあきらめたわけじゃない。近藤流チーム作りとは!? 

 

(2)続・プレイボール

 ちばあきお「プレイボール」の”もう一つの”続編。

 物語は、あの谷原との練習試合に大敗した直後から始まる。キャプテン・谷口タカオ率いる墨谷高校野球部は、夏の甲子園出場を果たすことができるのか!?

 

2.目次(各話へのリンク) ※2024.4.20最新話更新

<『続・キャプテン』>

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<『続・プレイボール』>

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3.その他関連リンク

①感想掲示

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②小ネタ集(※ギャグテイスト)

 

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ちばあきお『プレイボール』『キャプテン』関連批評記事

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【野球小説】続・プレイボール<第79話「九回ウラの攻防戦!の巻」>――ちばあきお『プレイボール』二次小説

 

 

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【目次】

  • 【前話へのリンク】
  • <外伝> 
  •  第79話 九回ウラの攻防戦!の巻
    • 1.九回裏
    • 2.土壇場の攻防
    • <次話へのリンク>
      • ※感想掲示
      • 【各話へのリンク】

  

 

【前話へのリンク】

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<外伝> 

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 第79話 九回ウラの攻防戦!の巻

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1.九回裏

 

 九回裏。三塁側ベンチにて、聖明館監督は控え選手の一人に指示した。

「おい。ブルペンの有原(ありはら)を呼んでくるんだ」

「は、はい」

 その選手はすぐにベンチを飛び出し、ブルペンへと走る。

(うーむ)

 三番手投手を待つ間、監督はしばし思案する。

(高岸はノーヒットとはいえ、ここにきて何度もいい当たりをされてる。もし出塁を許せば、墨谷は確実に勢いづくだろう。したがって、ここは継投するのが定石だが……)

 ほどなくブルペンより、有原という細身の投手が、先ほどの控え選手と捕手を伴い駆けてきた。そして監督の前で直立不動の姿勢になる。

「有原、肩はできているな?」

 監督の問いかけに、有原は「はい」とやや緊張した表情で答える。

「高岸達にも言ったが、三点のリードを使って逃げ切ればいい。ヘンにおさえようと力むな。きちんとコースを突いていけば、あとはバックがしっかり守ってくれる。いいな」

「はい!」

 有原がマウンドへ向かうと同時に、監督もベンチを出て、アンパイアに投手交代を告げる。やがてウグイス嬢のアナウンスが流れてきた。

―― 聖明館高校、選手の交代とシートの変更をお知らせいたします。ファーストの福井君に代わりまして、有原君が入りピッチャー。ピッチャーの高岸君がファーストに、それぞれ入れかわります。

 監督はベンチ奥に戻ると、渋面で腕組みする。

(打てる手は打った。だが危険でもある。有原は予選でリリーフは慣れてるとはいえ、甲子園とはレベルがちがう。しかもプレッシャーのかかる九回だ)

 フウ、と一つ吐息をつく。

(なんとか首尾よく、一つ目のアウトを取れたらいいが……)

 やがてマウンドに上った有原は、サイドスローのフォームから投球練習を始めた。

 

 

 一塁側ベンチ。墨高ナインはキャプテン谷口を中心に円陣を組みつつ、マウンド上の三番手投手有原の投球練習を観察する。

「右のサイドスローか。片瀬と同じだな」

 倉橋の言葉に、横井が「む」とうなずく。

「おれたちゃ片瀬のタマを練習で打ってるし、そのイメージでいけば攻りゃくできるんじゃねえの」

 ええ、と島田が同調した。

「片瀬のようなクセ球がない分、あっちの方が打ちやすいかもしれません」

「それだけじゃありませんよ」

 冷静に言ったのはイガラシだ。その視線の先では、ファーストに戻った高岸が内野陣のボール回しに参加している。

「見てくださいよ、相手の内野。二番手だった投手をファーストに残してます」

「というと、どういうこったい?」

 丸井の質問に、イガラシは「あ」とずっこけた。それでもすぐに表情を引き締める。

「あの三番手投手が本当に信用できるのなら、ベンチに引っ込めてもよさそうじゃありませんか。それを残してるということは……」

 隣で井口が「なるほど」と、口を挟んだ。

「継投になにかしらの不安があるってこったな」

 ああ、とイガラシは首肯する。

 円陣の中心で、谷口はナイン達の様子を頼もしげに眺めていた。

(悪くないムードだ)

 そう胸の内につぶやく。

(あと一イニングしかないというのに、みんなの士気は落ちていないし、焦りも感じられない。これなら、なにかひとつきっかけさえつかめば、十分逆転できるぞ)

 その時、倉橋が「さあキャプテン」と発言を促してきた。うむ、と谷口はうなずき、全員を見回してから口を開く。

「いいかみんな。相手がなにをしてこようと、われわれの野球をやるだけだ。これまで培ってきた自分達の力を、いまこそ信じよう。いいな!」

 ナイン達は「オウヨッ」と、力強く応えた。

 そして谷口は、一人の人物の名前を呼ぶ。

「井口」

「は、はい」

 突如呼ばれた一年生は、戸惑ったふうに目をぱちくりさせる。

「この回代打いくぞ。おまえの一振りで、向こうの出鼻をくじいてやるんだ」

「分かりました。まかせといてください!」

 井口は意気込んで返事した。

 

 

 ホームベース奥にて、規定の投球を受け終えた聖明館のキャッチャー香田は、素早く二塁へ送球した。そして立ち上がり、マウンドへと駆け寄る。

「調子は悪くなさそうだな」

 声を掛けると、有原は「あ、ああ」とやや引きつった表情で応えた。

「おい。緊張してるのか?」

「な、なに。すぐ落ち着くさ」

「ったく。しょーがねえな」

 香田は右手でポリポリと頬を掻く。

「いいか有原。監督も言ってたが、三点のリードがあるんだ。おまえがいつもどおり投げりゃ、おさえられないことはない。それにいざとなりゃ、高岸も控えてるんだし」

「分かってるって」

 やや強がるように、有原は笑みを浮かべる。

「墨谷の下位打線なんざ、ひとひねりしてやるよ」

「そうだ、その意気だ!」

 香田はそう言って、リリーフ投手を励ました。そして一人ポジションに戻り、マスクを被り直す。

(七番からだったな)

 その時、甲子園球場にウグイス嬢のアナウンスが流れてきた。

―― 墨谷高校、選手の交代をお知らせいたします。七番サード岡村君に代わりまして、井口君。バッターは、井口君。

(ほう、代打を使ってくるのか)

 香田の視線の先で、代打を告げられた井口がネクストバッターズサークルにて、マスコットバットをブンブンと振り回す。

 フン、と香田は鼻を鳴らした。

(墨谷にしては、けっこういいガタイしてるな。だが、いまさらバッターを代えたところで、どうにかできると思うなよ!)

 ほどなくアンパイアが「バッターラップ!」とコールする。そして井口が左打席に入ってきた。

「さあこい!」

 バットを長めにして構え、気合の声を発す。

(左か。しかし、えらく鼻っ柱の強そうなやつだな)

 しばし思案の後、香田はサインを出した。そしてミットを内角に構える。

(こういう打ち気にはやってるやつは、インコースの変化球で詰まらせてやれ)

 マウンド上。有原はサインにうなずき、サイドスローのフォームから第一球を投じた。

「うっ」

 次の瞬間、香田は顔をしかめた。内角を狙ったはずのカーブが、ど真ん中に入ってしまう。井口はためらうことなくフルスイングした。パシッ、と快音が響く。

 一塁側ベンチの墨高ナインとスタンドの応援団から「おおっ」と歓声が上がる。

「ライト……いや、センター!」

 指示の声を飛ばした香田の眼前で、鋭いライナー性の打球が右中間を深々と破った。ツーバウンドでフェンスに達し、跳ね返る。

 打った井口は大きな体を揺すりながら一塁ベースを蹴り、二塁へと向かう。

「くそっ」

 センター鵜飼がようやく打球を拾い、中継のセカンドへ投げ返す。この間、井口は二塁ベースも蹴り、さらに三塁へ向かって突進する。

「く……」

 ボールを受けたセカンドはサードへ送球しようとするも、すでに井口はベースに頭から滑り込んでいた。スリーベースヒット。

「どうだ見たか!」

 三塁ベース上で、井口は左こぶしを突き上げる。

「ナイスバッティングよ井口!」

 一塁側ベンチより、キャプテン谷口が快打の一年生を称える。

「この鈍足め。よく走ったぞ」

 丸井は皮肉を交えながらも嬉しげに声を掛けた。

「よし、これで向こうの出鼻をくじいたぜ」

 横井の言葉に、戸室が「む」と同調する。

「イガラシの言ったとおり、出てくるピッチャーがみんな調子いいとは限らないものだな。これで流れがくるかも」

 盛り上がる墨高ナイン。それに呼応するかのように、スタンドの応援団も大声援を送る。

―― ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ……

 一方、聖明館のキャッチャー香田は、アンパイアに「タイム」と合図しマウンドへと駆け寄った。

「おいおい有原」

 険しい表情で三番手投手に声を掛ける。

「緊張してるからって、ありゃねえぞ。ど真ん中に投げちゃ打たれて当たり前だ」

「す、すまん」

 有原は引きつった表情で応える。

「どしたい、いつものコントロールは」

 今度はなだめるように、香田は言った。

「いいか有原。いくら墨谷がねばり強いからって、打順は下位だ。おまえの力をもってすりゃ、おさえられんことはないんだからな」

「わ、分かった」

「うむ。たのんだぞ」

 それだけ言葉を交わし、香田はポジションに戻る。そしてホームベース手前に立ち、今度は野手陣を見回して言った。

「いいかみんな! 三点あるんだ。ランナーは気にせず、アウトをひとつひとつ取っていこうよ!」

 聖明館ナインは「オウッ」と、快活に応える。

 香田がホームベース奥に屈むと同時に、次打者の八番加藤が左打席に入ってきた。こちらはバットをやや短めにして構える。

「加藤! 思いきっていけよ」

 キャプテン谷口の声掛けに、加藤は「はい!」と力強く返事した。

(ミートのうまい八番か)

 一方、香田は配球に悩む。

(有原は球威のあるタイプじゃないし。ちゃんと構えたところに投げてくれなきゃ、リードのしようがないんだよな)

 悩んだ末、ミットを外角低めに構える。

(ひとまずココよ)

 む、と有原はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。

 外角低めの速球が、構えたミットをズバンと鳴らす。「ボール、ロー」とアンパイアのコール。それでも香田は、ホッと安堵の吐息をつく。

(やっと構えたトコに投げられたか。これで配球を考えようがあるってもんだ)

 今度はミットを内角低めに移動させる。そしてサインを出す。

(つぎはココよ)

 有原はサインにうなずき、サイドスローのフォームから第二球を投じる。

 内角低めの速球。アンパイアは「ボール!」とコールする。ちぇっ、と香田は小さく舌打ちした。

(あいかわらず目のいいやつめ。しかしここにきても、きっちりボールを選んでくるとは。めんどうなチームだぜ)

 打者を観察しつつ、香田は次のサインを出した。

(さ、つぎはコレよ)

 有原はうなずき、すぐに投球動作へと移る。シュッと風を切る音。

 内角低めのカーブ。加藤のバットが回る。カキ、と音がした。速いゴロが一塁側ファールグラウンドを転がっていく。

「くそっ、打ちそんじた」

 加藤は顔を歪めた。そして一旦打席を外し、数回素振りする。

(フフ。やはり最終回とあって、少しはプレッシャーを感じているようだぜ)

 周囲からは、なおも墨高応援団の「ワッセ、ワッセ、ワッセ」という大声援が響いてくる。さらに一塁側ベンチからは「力むな加藤!」「思いきっていけ」と声が飛ぶ。

(もういっちょコレよ)

 香田のサインに有原がうなずき、四球目を投じた。

「と……」

 内角低めを狙ったボールが、引っ掛けてショートバウンドする。香田は咄嗟にミットを縦にして捕球した。そして拾い上げ、三塁へ投げる構えをする。飛び出しかけていた井口は、すぐに帰塁した。

(まったく。オメーまで力むこたあねえんだよ)

 香田は有原に返球して、肩を上下させジェスチャーで力を抜くよう伝える。

「ほれ。リラックスするんだ」

「う、うむ」

 指示された通り、有原は肩を上下させる。

(まずストライクを入れてもらわねえと。四球でランナーをためでもしたらコトだからな)

 また思案の後、香田は五球目のサインを出す。そしてミットを真ん中に構えた。

(さあさあ。バックを信じて)

 有原はうなずき、しばし間を置いてから、五球目の投球動作へと移る。サイドスローのフォーム、その指先からボールを放つ。

 真ん中低めのカーブ。ボールが内寄りにくくっと曲がる。

「それっ」

 加藤は強振した。パシッと快音が響く。センターを大飛球が襲う。おおっ、と一塁側ベンチとスタンドから歓声が上がる。

「せ、センター!」

 香田の指示の声よりも先に、センター鵜飼が背走し始めていた。やがてフェンスに右手が付いてしまう。

「くっ」

 しかし鵜飼は、フェンスに片足を掛け左手のグラブを精一杯伸ばし、辛うじて捕球した。

「アウト!」

 二塁塁審のコール。

「とられたか」

 唇を噛みつつ、井口が三塁からタッチアップする。その間、鵜飼から中継のショート小松へボールが送られる。

「無理するな!」

 香田の指示により、小松はバックホームせず。井口がホームベースを駆け抜ける。スコアボードに、墨谷の得点が「2」と示された。

 二対四。墨高が二点差に詰め寄るも、ランナーがいなくなってしまう。一塁側スタンドから「ああ……」と溜息が漏れる。

「くそっ、もうひと伸びたりなかったか」

 加藤は肩を落とし、ベンチへと引き上げる。

「ドンマイよ加藤。あれをとられちゃ、しかたねえよ」

 横井が後輩を励ます。

「しかし、いまのアウトはいてえな」

 正直な思いを口にした戸室に、一瞬ベンチがシーンと静まり返る。

「な、なにを言うんスか!」

 丸井が声を上げた。

「最後まであきらめないのが墨高じゃありませんか。ここからスよ」

「そ、そうだったな」

 戸室そして他のナイン達の表情に、笑顔が戻る。

「さあ。つなげよ久保!」

 丸井の声援に、久保はネクストバッターズサークルにて「ハイ!」と力強く応えた。

 

 

2.土壇場の攻防

 

 三塁側ベンチ。

「やつら士気が落ちないな」

 聖明館監督はベンチ奥に立ち腕組みしたまま、相手ベンチを見つめていた。

「並のチームなら、ここまで追い詰められれば普通ガクンとくるものだが。これが兄さんの言ってた、谷口という男の怖さか」

 そしてメガホンを手に取り、選手達へ檄を飛ばす。

「おまえ達、最後まで気を抜くんじゃないぞ!」

 聖明館ナインは「はいっ」と快活に応えた。

 

 

 ホームベース手前に立ち、香田はフウと一つ吐息をつく。

(どうにか最初のヤマはこえたな。ちと危なかったが、打ってくれて助かったぜ)

 マスクを被り直し、ホームベース奥に屈み込む。

(あとは残りのバッターを、一人ずつ打ち取っていくだけだ)

 ワンアウトランナーなしとなった状況で、九番久保が右打席に入ってきた。こちらはバットを短めにして握る。

(有原の調子も戻ってきたし、こいつでカウントを稼ぐか)

 香田はサインを出し、ミットを内角に構えた。有原はサインにうなずき、ワインドアップから投球動作へと移る。

 内角のシュートが、打者の手元でくくっと曲がる。久保はこれを強振した。カキッ、と乾いた音が鳴る。ライナー性の打球が、しかし三塁側アルプススタンドに飛び込む。

「ファール!」

 三塁塁審が両手を掲げコールする。

(もういっちょコレよ)

 香田はサインを出し、再びミットを内角に構えた。有原が「む」とうなずき、テンポよく二球目を投じる。

 初球と同じく内角のシュート。久保はこれを強振した。しかし打球は、またも三塁側アルプススタンドに飛び込む。二球続けてファール。ツーストライクとなる。

「しまった」

 久保は唇を歪めた。

(ボールになるシュートを打たされた)

 一旦打席を外し、数回素振りする。その傍らで、香田はフフとほくそ笑む。

(いまさら気づいても、おせーんだよ)

 その時、一塁側ベンチより「落ちつけ久保!」と、キャプテン谷口が声を上げた。

「いつものように、じっくりボールを見ていくんだ」

「は、はいっ」

 久保は「そうだ。落ちつかねば」と自分に言い聞かせてから、打席に戻る。そしてバットを構えた。

(フン。落ちついたくらいで打てるほど、こっちは甘かねーぜ)

 香田は三球目のサインを出し、今度はミットを真ん中低めに構えた。有原がうなずき、すぐに投球動作へと移る。

 スピードを殺したボールが、ホームベース手前ですうっと沈む。

「うっ」

 久保は上体を崩すも、辛うじてバットの先でボールに当てた。ガッと鈍い音。打球は三塁側ファールグラウンドを緩く転がっていく。

(あぶねえ。チェンジアップもあるのかよ)

 ファールにできたことに、久保は安堵の表情になる。一方、香田はちぇっと小さく舌打ちした。

(空振りするかと思ったが。運のいいやつめ)

 手振りで「ロージンだ」と、香田はマウンド上の有原に伝えた。投手は指示通り、足下のロージンバックを拾いパタパタと右手に馴染ませる。

(ちと揺さぶってみよう)

 香田は「つぎはコレよ」とサインを出し、ミットを外角低めに構えた。有原はうなずき、四球目を投じる。

 外角低めの速球。久保は振り遅れながらも、はらうようにスイングした。カキッ、と乾いた音。打球は一塁側ファールグラウンドに転がる。

(く。急なまっすぐだってのに、これも当てやがったか)

 香田は渋面になった。

(九番のくせに、なかなかいい反応しやがる)

 捕手の傍らで、久保はフウと吐息をつく。

(だんだん、あの投手のボールが分かってきたぞ。これなら……)

 迎えた五球目。香田は「だったらコレで」とサインを出す。有原はうなずき、サイドスローのフォームからボールを投じた。

 外角低めのカーブ。久保のバットが回る。カキッ、と音がした。速いゴロが一・二塁間を襲う。墨高の一塁側ベンチとスタンドから、一瞬「おおっ」と歓声が上がる。

 しかし次の瞬間、聖明館のセカンドが横っ飛びし、グラブで捕球した。そしてすかさず片膝立ちで一塁へ送球する。

「くっ」

 久保は一塁に頭から滑り込んだ。際どいタイミング。一瞬の静寂。

「あ、アウト!」

 一塁塁審のコール。今度は聖明館の三塁側スタンドから、ワアッと歓声が沸く。

「くそうっ」

 久保は右こぶしを一塁ベースに叩き付け、悔しさを露わにする。一方、香田はホッと安堵の吐息をつく。

(ちとヒヤッとしたが、どうにかツーアウトまでこぎつけたぞ)

 

 

「つ、ツーアウト……」

 ネクストバッターズサークル。次打者の丸井は、束の間呆然と立ち尽くす。

 ほどなく一塁より引き上げてきた久保が、すれ違い際に「すみません」とうつむき加減で言ってきた。その声に、丸井はハッとする。

「て、てやんでえ!」

 思わず大声を上げた。

「まだ試合が終わったわけでもねえのに、そんなしょぼくれたツラすんじゃねえ」

「は、はい」

「ほれ。分かったらさっさとベンチに戻って、仲間を盛り立てるんだ。いいな!」

「分かりました」

 久保を見送った後、丸井は打席へと歩き始める。その時後方のベンチより、キャプテン谷口が「丸井!」と声を掛けてきた。

「たのむ。なんとしてもつないでくれ」

「まかせといてください!」

 丸井は力強く応えた。そして右打席に入り、バットを短めにして構え「さあこい!」と気合の声を発す。

 一塁側スタンドの墨高応援団からは、丸井を後押しするように大声援が送られる。

―― ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ!

(たのんだぞ、丸井)

 打席に立つ後輩の背中を、谷口は祈る思いで見つめた。

(なんとか挽回のチャンスを作ってくれ)

 そして他のナインへ顔を向ける。

「さあ、みんなで丸井を盛り立てていこうよ!」

 キャプテンの掛け声に、ナイン達は「よしきた!」と、一斉にベンチから声援を送る。

「思いきっていけよ丸井。おまえなら打てる!」

「けっして打てないピッチャーじゃないぞ。ひるむな」

「ねらいダマをしぼって打ち返せ」

 一方、聖明館のキャッチャー香田はホームベース奥に屈み、丸井そして一塁側ベンチを観察した。

(土俵際まで追いこまれたというのに、最後まで威勢のいいチームだな。しかし気合だけでどうにかなると思うなよ)

 そして正面に向き直り、マウンド上の有原へサインを出す。

(まずコレよ)

 有原は「む」とうなずき、ワインドアップモーションから投球動作を始めた。シュッ、と風を切る音。

 外角低めのカーブが、半円を描くようにしてコースいっぱいに決まる。「ストライク!」とアンパイアのコール。

 あらら、と丸井は目を丸くした。

(ツーアウトを取ってラクになったからか、ますますコントロールがさえてやんの)

 感心しつつも、丸井はギロッと相手投手を睨む。

(でも負けないぞ。みんなが言うように、けっして打てないピッチャーじゃねえんだ)

 打者の思いをよそに、バッテリーは淡々とサインを交換する。

(つぎはコレね)

「うむ」

 内角に構えた香田のミット目掛け、有原は第二球を投じた。スピードのあるボールが、打者の手元で内側にくくっと曲がる。

「こなくそ!」

 丸井はこれを強振するも、打球は三塁側ファールグラウンドに緩く転がった。これでツーナッシング。

(く。シュートを打たされて、カウントを稼がれちまった)

 さすがに顔が引きつる丸井。その隣で、香田は次のサインを出す。

(さすがに焦ってきたようだし、こいつで誘ってみよう)

 マウンド上。有原はうなずき、すぐに投球動作を始めた。その指先から三球目が投じられる。

 外角高めの釣り球。丸井のバットが回る。ガッ、と鈍い音。

(しまった!)

 丸井は顔を歪める。打球はファースト高岸の頭上に、高々と上がった。墨高の一塁側ベンチとスタンドから「ああ……」と大きな溜息が聞かれる。

「くそっ」

 バットを放り、丸井は一塁へと走り出す。その眼前で、高岸が両手を挙げ「オーライ!」と周囲へ声を掛けた。

 打球は風に流される。高岸は白線をまたぎ、一塁側ファールグラウンドに移動した。

「おっと」

 やがて打球は落ちてくるも、さらに切れていく。高岸はじりじりとスタンド側へ足を進める。

「あっ……」

 次の瞬間。高岸が、足をもつれさせ転倒した。

「くそっ」

 それでも高岸は捕球しようと懸命に左手のミットを伸ばす。しかしボールはミットの先をかすめ、一塁側スタンド手前の土の上で弾んだ。

「ファール、ファール!」

 一塁塁審のコール。甲子園球場に、ワアッとどよめきが起こる。

 

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【野球小説】続・プレイボール<第78話「自分を信じろ!の巻」>――ちばあきお『プレイボール』二次小説

 

 

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【目次】

  • 【前話へのリンク】
  • <外伝> 
  •  第78話 自分を信じろ!の巻
    • 1.キャプテン谷口の決心
    • 2.谷口登板
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 第78話 自分を信じろ!の巻

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1.キャプテン谷口の決心

 

 甲子園球場のスコアボードには、七回表を終了して聖明館が四対一で墨谷をリードと掲示されている。

 墨高ナインの陣取る一塁側ベンチでは、キャプテン谷口を中心に円陣が組まれていた。

「見てのとおり、相手はリリーフを複数用意して、こちらが分析するすべを封じた。しかし臆することはない」

 開口一番、谷口はそう話した。

「あと三イニング。われわれの野球をつらぬけば、必ず好機は回ってくるはずだ」

「しかし正直、痛いよな」

 正直な思いを告げたのは、横井だった。

「いま投げてる二番手にだって手を焼いてるのに、そいつを攻りゃくしかけたとしても、向こうはまたつぎのリリーフを送り込んでくる算段だからな」

 む、と戸室も同意する。

「しかも名門なだけあって、出てくるリリーフもエースとそん色ない力量だ。このままじゃ……」

 三年生二人の言葉に、他のナイン達も押し黙る。

(二人が言うのも、もっともだ)

 谷口も口をつぐんだ。

(このままだと向こうの思うように試合を進められてしまう。本当にもう、打つ手はないのか)

 逡巡を察したのか、倉橋が「谷口?」と怪訝げな目を向ける。他のナイン達も前屈みの姿勢のまま、キャプテンの言葉を待つ。

 しばし思案の後、谷口は胸の内につぶやく。

(こうなったら、そうするしかあるまい)

 そして顔を上げ、再び口を開く。

「なあみんな。われわれはいま、どこにいるんだ」

 丸井がやや戸惑ったふうに「こ、甲子園です」と答える。

「そう、甲子園に来て三回戦を戦っている。だからみんな」

 谷口は微笑んで言った。

「いまこそ、もっと自分の力量を信じようじゃないか」

「キャプテン!」

 意図を察したイガラシが声を上げる。

「それってデータのない相手投手を、正面から打ちくずそうってことですか?」

 真剣な眼差しで、谷口は答えた。

「そういうことだ」

 ええっ、と周囲からざわめきが漏れる。

「データもなしで、あの投手を」

「さすがになあ。ちょっと厳しいんじゃ」

 そんな声が聞かれた。

「みんなが戸惑うのは分かる」

 一旦ナインの戸惑いを受け止めた後、キャプテンは問い返す。

「でも、本当にできないのか?」

 えっ、と丸井が声を上げた。他のナインも目を見上げる。

「思い出してみろ」

 ふっと穏やかな表情になり、キャプテンは話を続けた。

「あの高岸はたしかに厄介なリリーフだが、うちはこれまでも、手ごわい好投手と何度も対戦して、そのたびに攻りゃくしてきたじゃないか」

 やや声をひそめて、さらに付け加える。

「たとえデータがなくとも、あのレベルの投手を打ちくずせるだけの力を、われわれは身につけてきたんじゃないのか」

 墨高ナインは、一様に神妙な顔でうなずく。

 

 

 七回裏。規定の投球を受け終えたキャッチャー香田は、セカンドへ送球した。そしてマスクを被り、ホームベース奥に屈み込む。

(墨高のやつら、ずいぶん長く話し込んでいたようだが。この期に及んで策もあるまい)

 ほどなくこの回の先頭打者、一番丸井が右打席に入ってくる。バットを短めに構え「さあこい!」と、気合の声を発した。

 フン、と香田は鼻を鳴らす。

(気合いで打てりゃ、世話ねーぜ)

 マウンド上では、高岸がロージンバックに左手を馴染ませる。

(こいつで様子を探ってみよう)

 香田のサインに高岸はうなずき、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

 内角低めのカーブ。丸井はバットを強振する。パシッと快音が響いた。大飛球がライト頭上を襲う。香田はマスクを脱いで立ち上がる。

「ら、ライト!」

 香田の指示の声よりも先に、ライト甘井は背走し始めていた。しかしやがてポール際のフェンスに背中が付いてしまう。だがポールの外側に数メートル切れた。

「ファール!」

 一塁塁審が両腕を大きく掲げる。

「フウ。あぶねえ」

 香田は大きく息を吐く。

(こいつ小さいナリして、案外パワーあるじゃねえか)

 しばし思案の後、香田は次のサインを出す。

(コレで誘ってみるか)

 高岸はうなずき、すぐに投球動作へと移る。

 内角高めの速球。丸井は悠然と見送る。ズバン、と香田のミットが鳴った。アンパイアが「ボール、ハイ!」とコールする。

(うーむ。振り回してくるかと思いきや、つりダマにはのってこないか)

 一塁側ベンチより「いいぞ丸井、ナイスセン!」と声援が飛ぶ。

(しかたない。きわどいトコ突いていくしかないか)

 香田は三球目のサインを出し、ミットを外角低めに構えた。高岸はうなずき、しばし間合いを取ってから投球動作を始める。

 外角低めの速球。丸井はバットをおっつけるようにしてスイングした。パシッと快音が響く。今度はレフト頭上を大飛球が襲う。

「れ、レフト!」

 香田がマスクを脱ぎ叫ぶ。

「くっ」

 レフト真壁は全速力で背走し、フェンスの数メートル手前でジャンプする。その精一杯伸ばしたグラブの先に、ボールが収まる。

「アウト!」

 三塁塁審のコール。墨谷応援団の一塁側スタンドから「ああ……」と大きな溜息が漏れた。一方、聖明館の三塁側スタンドからは「助かったぜ」「いいぞレフト!」と安堵の声が聞かれる。

「くそっ、もうひと伸びたりなかったか」

 丸井は悔しげに顔を歪め、ベンチへと引き上げていく。

「ナイスプレーよレフト!」

 好プレーの真壁に一声掛けた後、香田はフウと小さく吐息をついた。

(あぶねえ。おっつけてあそこまで飛ばすとは、なかなかやるな)

 一塁側ベンチでは、墨高ナインの数人が「おしいおしい」「ナイスバッティングよ丸井」と、好打を相手のファインプレーに阻まれた二年生に声を掛ける。

(なにもあわてることはねえ)

 香田はマスクを被り直し、胸の内につぶやく。

(一人ずつアウトを取っていけばいいんだ)

 ほどなく次打者の二番島田が、右打席に入ってきた。こちらもバットを短めに構える。

(こいつはミート重視か。それなら、またきわどいコースを突いていこう)

 しばし考えた後、香田はサインを出す。高岸はうなずき、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

 外角低めの速球。島田は左足で踏み込み、スイングした。ガッ、と鈍い音。

「しまった」

 島田は頭上を仰ぐ。打球はバックネット方向への高いフライ。香田がマスクを脱ぎ、振り向いてダッシュする。

「くっ」

 しかし香田の眼前で、ボールはバックネットに当たる。ガシャンと音がした。

「ちぇっ。打ち取ったと思ったのに」

 香田は小さく舌打ちして、ポジションに戻る。

(だが、こいつは速球に振り遅れてる。このまま力押しでいけそうだな)

 またも外角低めにミットを構え、香田は「もういっちょここよ」とサインを出す。

「む」

 高岸はサインにうなずき、すぐさま投球動作へと移る。

 初球に続き外角低めの速球。島田は「それっ」と、バットをはらうようにスイングした。カキッ、と快音が響く。

 三遊間へ痛烈なゴロが飛ぶも、ショート小松が逆シングルで捕球する。そして素早いステップで一塁へ送球する。

「くそっ」

 ベースを駆け抜けようとした島田の眼前で、ファースト福井が送球を受けた。

「アウト!」

 一塁塁審のコール。打ち取られた島田は、ベンチに戻り「すみません」とチームメイト達に謝る。

「気にすんなって」

 三年生の横井が後輩を励ます。

「あの当たりをとられちゃ、しかたねえよ」

 一方、香田は渋面になる。

(またいい当たりされたな。そろそろやつらも、高岸のタマに目が慣れてきたか)

 その時だった。

「た、タイム」

 マウンドの高岸がアンパイアに合図し、「香田。ちょっと」と呼んできた。香田はすぐにマウンドへと駆け寄る。

「どしたい高岸。調子よくツーアウト取れたというのに」

「ああ。けど続けていい当たりされたのは、初めてだからよ」

「そりゃやつらも、そろそろおまえのタマに目が慣れてくる頃だからな。だが、そう心配あるまい」

 なだめるように、香田は言った。

「まだ三点あるし、いざって時にはリリーフの有原も控えてる」

「うむ。それは分かってるんだが」

 高岸は浮かない顔のままだ。

「なにか気になることがあるのか?」

 香田が尋ねると、香田は「む」とうなずき、ちらっと墨高の一塁側ベンチを見やる。ちょうどキャプテン谷口が、次打者の倉橋を送り出すところだった。

「倉橋も思いきっていけよ」

「おうっ」

 そんな会話が聞こえてくる。

「いい当たりされ出したのもあるんだが」

 声をひそめて、高岸は言った。

「やつらここに来て、ずいぶん思いきりよく振ってくるようになったと思わないか」

 高岸の言葉に、香田ははっとする。

「そ、そういや……」

 その時、アンパイアがマウンドに歩み寄ってきた。

「そろそろいいかね?」

「あ、はい。もうけっこうです」

 香田はそう返事して、高岸に言葉を掛ける。

「とにかくいままでどおり、きわどいコースを突いていこう。そうすりゃ大ケガすることはないはずだ」

「あ、ああ」

 やがてタイムが解け、香田はポジションに戻った。ほぼ同時に、次打者の三番倉橋が右打席に入ってくる。

(こいつはパワーありそうなナリだな)

 む、と香田はつぶやいた。ふとあることをひらめく。

(そうだ。やつらが打ち気にはやってるのなら、また誘いダマが使えるんじゃ)

 香田はサインを出し、ミットをほぼ真ん中に構える。

(ツーアウト取ったことだし、こいつで試してみよう)

 高岸はうなずき、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

 ほぼど真ん中の速球。倉橋は悠然と見送った。ズバン、とミットが小気味よい音を鳴らす。「ストライク!」とアンパイアのコール。

「やはりはええな」

 倉橋はそうつぶやくと、一旦打席を外し、数回素振りした。その姿を、香田は横目で観察する。

(甘いタマを平然と見逃しやがったな。つぎはコレで誘ってみよう)

 二球目のサインを出し、今度はミットを真ん中低めに構えた。高岸はうなずくと、すぐに投球動作へと移る。

 真ん中低めのチェンジアップ。倉橋は一瞬ぴくっと体を動かすも、バットは振らず。ボールは低めに外れ、カウント1-1。

(くそ、のってこねえな)

 香田は渋面で返球した。そして次のサインを出す。

(しかたない。いままでのように、コースを突いて打ち取っていくか)

 高岸はしばし間合いを取ってから、投球動作を始めた。そして外角低めのコースへ快速球を投じる。

 倉橋はまたも手を出さず。アンパイアが「ボール!」とコールする。

(さすが三番なだけあって、いい目してやがる)

 高岸に返球しようとする時、香田はちらっと相手ベンチを見やる。

(しかし監督の言うとおり、大したチームだぜ。普通リードされて終盤をむかえりゃ、バッティングに焦りが見られるものだが、まるでそんな兆しがねえ。こりゃ少しでも気を抜いたら、きっと痛い目にあうぞ)

 束の間思案の後、香田は四球目のサインを出す。

(こいつでタイミングをずらそう)

 む、と高岸はうなずき、今度はすぐに投球動作へと移る。右足で踏み込み、グラブを突き出し、左腕を振り下ろす。シュッ、と風を切る音。

 内角低めのカーブ。倉橋のバットが回る。カキッ、と快音が響く。痛烈なゴロが三塁線を襲う。おおっ、と一塁側ベンチの墨高ナインの数人が身を乗り出す。

 ところが次の瞬間、サード糸原が横っ飛びし捕球した。そのまま片膝立ちになり、素早く一塁へ送球する。

「くっ」

 倉橋は一塁にヘッドスライディングする。間一髪のタイミング。

「あ、アウト!」

 一塁塁審のコール。相次ぐファインプレーに、聖明館応援団の陣取る三塁側スタンドが沸き立つ。一方、墨高応援団の一塁側スタンドからは「ああ……」と大きな溜息が漏れる。

「ナイスプレーよ糸原!」

 好守備のサードに声を掛けてから、香田はフウと一つ吐息をつく。

「やれやれ。どうにか三人で切り抜けたぜ」

 

 

 一塁側ベンチ。惜しくも凡打に倒れた倉橋が引き上げてきた。

「わりい。ねらってたカーブだったんだが」

 悔しがる倉橋を、谷口が「しかたないさ」と励ます。

「ありゃ向こうの守備がよかったんだ」

 その隣で、戸室が「あーあ」と頭を抱える。

「三本ともいい当たりだったのに。ひとつでも抜けてりゃなあ」

「なに。ヒットこそ出なかったが、向こうは面食らっただろうぜ」

 声を明るくしたのは横井だ。

「自慢のリリーフが、あれだけとらえられたんだからよ」

「横井さんの言うとおりです」

 イガラシも同調する。

「それにいくらリリーフの枚数が多いからといって、全員の調子がいいとはかぎらないですし。あの二番手投手が打たれるのを見て、ほんらいの投球ができないってことも」

「なーるほど」

 丸井がポンと両手を打ち鳴らす。

「こう考えりゃ、まだまだうちにチャンスはあるってこったな」

 そしてキャプテン谷口が「みんな分かってるじゃないか」と、朗らかに言った。

「さあ。反撃ムードを消さないためにも、この回しっかり守っていこうよ!」

 谷口の掛け声に、ナインは「オウッ」と快活に応えた。そして守備位置へと散っていく。

 

 

2.谷口登板

 

 三塁側ベンチ。

「香田、高岸。ちょっと来るんだ」

 聖明館監督が、バッテリー二人を呼んだ。

「は、はい」

「なんでしょう」

 香田と高岸は、監督の前で直立不動の姿勢になる。

「二人とも、あまり相手を意識しすぎるなよ」

 監督はまずそう告げた。

「やつらがそれなりに抵抗してくるのは、計算のうちだ。しかし何度も言うように、三点リードしてるうちが優位なのは間違いない。あと三イニング、その三点を使って逃げ切ればいいんだ」

 二人は「はい」と声を揃える。監督はさらに話を続けた。

「いい当たりされ出したとはいえ、おまえ達の攻め方は悪くない。これまでどおり、きわどいコースに投げ込んでいけば、そうそう連打されることはないはずだ。それよりあまりやつらを意識して、ヘタに策を講じようとすれば、ぎゃくにつけ込まれるぞ」

 監督はそう言うと、他のナインにも顔を向ける。

「なあおまえ達。この試合、たった四点で終わるつもりか? もっと点差を広げて、バッテリーをラクにしてやるんだ。いいな!」

 聖明館ナインは「はいっ」と快活に応えた。

 その時、甲子園球場にウグイス嬢のアナウンスが流れる。

―― 墨谷高校、選手の交代とシートの変更をお知らせいたします。ピッチャー片瀬君に代わりまして、岡村君が入りサード。サードの谷口君がピッチャーに、それぞれ入れかわります。

 キャプテン谷口の登板に、墨高の一塁側スタンドが「おおっ」とどよめく。

(なるほど……)

 聖明館監督は、胸の内につぶやいた。

(やつらも勝負にきたか)

 

 

 八回表。軽快にボール回しを行う墨高野手陣の真ん中で、キャプテン谷口がマウンドにて投球練習を始めていた。速球、カーブ、シュートと持ち球を投げ込んでいく。

 谷口登板に伴い、墨高はシートを変更した。ピッチャーの片瀬を下げ、岡村が谷口の抜けたサードのポジションに着く。

 やがて規定の投球数を受け終えた倉橋が、二塁へ送球した。そしてマウンドに駆け寄る。

「見てのとおり厄介な打線だが、どう攻める?」

 倉橋の問いかけに、谷口は「む」とうなずく。

「速球には強いようだし、変化球主体の投球がいいだろう」

「うむ。基本的にはそれでいいと思うんだが、やつらヤマをはってくるぞ」

「べつにかまわないじゃないか」

 キャプテンは気楽そうに答える。

「たとえねらわれても、芯に当てさせなけりゃいいんだ」

 えっ、と倉橋は目を見開く。

「おいおい。ずいぶん強気だな」

「ハハ。さっきああしてナインを鼓舞した以上、キャプテンのおれが手本にならなきゃ示しがつかんからな」

 朗らかに言った後、谷口は表情を引き締める。

「だから倉橋も、強気でリードしてくれ」

「む。分かった」

 そこまで言葉を交わし、倉橋はポジションに戻る。谷口はロージンバックを拾い、パタパタと右手に馴染ませる。

 倉橋はホームベース手前に立つと、野手陣へ声を掛けた。

「しまっていこうよ!」

 ナイン達は「オウヨッ」と、力強く応える。

 アンパイアが「バッターラップ!」とコールした。ほどなくこの回の先頭打者、一番甘井が右打席に入ってくる。

「さあこい!」

 甘井は気合の声を発し、初回と変わらずバットを長めに構えた。

(ほう。相手も気合を入れてきたな)

 横目で打者を観察し、倉橋は「まずコレよ」とサインを出す。

「む」

 谷口はうなずくと、足下にロージンバックを放り、ワインドアップモーションから第一球を投じる。

 内角低めのカーブ。甘井は強振した。しかしチップさせるも、ボールは倉橋のミットに収まる。

「くそっ」

 甘井は顔を歪めた。

(ねらってたというのに。なんて鋭いカーブなんだ)

 打者は一旦打席を外し、数回素振りしてから打席に戻る。

(つぎもコレよ)

 倉橋のサインに谷口はうなずき、すぐに二球目の投球動作へと移る。

 またも内角低めのカーブ。甘井のバットが回る。ガッ、と鈍い音。打球は三塁側ファールグラウンドに転がった。

(く。また……)

 甘井はマウンド上を睨む。

(なるほど、あの谷原が打てなかったわけだ。しかしこのおれが、二球続けて打ち損じるとは)

 打者の様子を、倉橋が傍らで冷静に観察する。

(だいぶムキになっているな)

 そして「つぎはコレよ」と、三球目のサインを出す。

 谷口はうなずくと、今度はしばし間を取ってから、投球動作を始めた。左足で踏み込み、グラブを突き出し、右腕を振り下ろす。

「あっ」

 外角低めの速球。ズバン、と倉橋のミットが鳴った。

「ストライク、バッターアウト!」

 アンパイアがコールし、右こぶしを高く突き上げる。

(しまった。ウラをかかれた)

 見逃し三振に倒れた甘井は、引きつった表情で引き上げていく。一方、倉橋は「やれやれ」とつぶやいた。

(うまくいってくれてよかったぜ。さて、つぎは)

 ほどなく甘井と入れ替わるようにして、二番小松が左打席に入ってきた。こちらもバットを長めに構える。

(きっと変化球が頭にあるだろうから、また速球でウラをかこう)

 倉橋のサインに、谷口は首を横に振った。

(えっ。じゃあ、コレ?)

 サインを変えると、谷口はうなずく。

(なるほど、念には念を入れてってことね)

 投手の意図を理解し、倉橋はミットを内角低めに構えた。その眼前で、谷口が投球動作へと移る。

 速いボールが、内角低めに投じられた。小松のバットが回る。しかし直球と思われたボールは、打者の手元でさらに内側に曲がった。ガッ、と鈍い音。打球は三塁側ベンチへと転がっていく。

「くっ、シュートか」

 小松は顔を歪める。

(フフ。いくら速球が好きでも、まっすぐとシュートの区別もつかないようじゃな)

 倉橋は含み笑いを漏らし、二球目のサインを出す。

(ちと打ち気にはやってるようだし、こいつで引っかけさせよう)

 む、と谷口はうなずく。そしてしばし間を置いてから、二球目を投じた。またも速いボールが、今度は真ん中低めに投じられる。しめた、と小松はスイングした。

 しかし次の瞬間、ボールはホームベース手前でストンと落ちる。

「うっ」

 打者はこれを引っ掛けてしまう。ガキ、と鈍い音。セカンド正面に転がったゴロを丸井が難なくさばき、ファースト加藤へ送球する。

「アウト!」

 一塁塁審のコール。ベースを駆け抜けた小松は、思わず膝に両手をつく。

(やられた。いまのはフォークか)

 うつむき加減でベンチへと歩き出した小松に、次打者の香田が声を掛ける。

「どしたい二番。あれしきのタマを引っかけちゃって」

「おい香田」

 小松は顔を上げ、険しい表情で言った。

「あのピッチャーを甘く見ると、痛い目にあうぞ」

「う、うむ」

 味方の言葉に戸惑いながら、香田は右打席に入る。そしてバットを長めに構えた。

(なんでえ。あいつ自分が打ち取られたからって、けわしい顔しやがって)

 一方、倉橋は打者の様子を観察する。

(あくまでも長打ねらいか。敵さん、あいかわらず強気なことで)

 だが、と胸の内につぶやく。

(この三番は一発がある。まずは慎重にアウトコースを突いていくか)

 外角低めにミットを構え、サインを出した。ところが、谷口はまたも首を横に振る。倉橋は苦笑いした。

(あ、こっちも強気でいくんだったな。それじゃあっと)

 ミットを内角低めに移動し、二度目のサインを出す。谷口が今度はうなずいた。そして投球動作へと移る。

 内角低めのカーブ。香田は一瞬ぴくっと体を動かすも、バットは出せず。

「ストライク!」

 アンパイアのコール。む、と香田は渋面になる。

(すげえカーブだぜ。しかもコースいっぱいか。これじゃ一、二番があっさり打ち取られるわけだ)

 マウンド上。谷口はテンポよく、二球目を投じた。初球に続き内角低めのカーブ。香田のバットが回る。カキ、と音がした。打球は三塁側ファールグラウンドに転がる。

(よし、追い込んだぞ。最後は……)

 倉橋のサインに谷口はうなずき、三球目の投球動作を始めた。そして指先からボールを放つ。シュッ、と風を切る音。

 真ん中低めのフォークボール。香田はこれを引っ張る。打球はまたも三塁側ファールグラウンドを転がっていく。

(くそ。いまのは、わざとファールにしやがったな)

 倉橋は顔を歪めた。その後、カーブ二球とシュート一球を投じたが、いずれもカットされる。

 フン、と香田は鼻を鳴らした。

(そちらが変化球主体でくることは分かってんだ。でもこうしてカットしてりゃ、いずれしびれを切らしてまっすぐを投げてくるだろう)

 その傍らで、倉橋が「そろそろいくか」と、七球目のサインを出す。谷口はうなずき、すぐに投球動作へと移る。

 内角高めの速球。香田のバットが回る。カキッという音。

(し、しまった。打たされた)

 香田が唇を噛む。その眼前で、打球はレフト頭上に高々と上がる。

「オーライ!」

 レフト横井は数歩後退しただけで、余裕を持って顔の前で捕球した。これでスリーアウト、チェンジ。

「ナイスピーよ谷口!」

「上位打線を相手に、よくおさえてくれたぜ」

 墨高ナインはエースに声を掛けながら、足取り軽くベンチへと引き上げていく。一方、倉橋はフウと安堵の吐息をついた。

(どうにか最後はねらいどおり、高めのつりダマを打たせることができたな)

 そしてマウンドを降りてきたエースに「さすがだぜ谷口」と、声を掛ける。

「なーに。これからさ」

 谷口は何事もなかったかのように、淡々と応えた。

 

―― この後も谷口は力投を見せ、続く九回も聖明館打線を難なく三者凡退におさえたのだった。

 一方、聖明館の二番手投手をとらえ出した墨高打線だったが、いずれも相手の好守によりヒットにはならず。

 そして試合は四対一と聖明館リードのまま、九回裏の墨高の攻撃を残すのみとなったのである。

 

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敗戦を次に生かすことができる町田ゼルビア、また同じような負けを繰り返しそうなサッカー日本代表

 

 

1.チームとして問題点を修正できる町田ゼルビア

 

 J1リーグ第6節にて、町田ゼルビアサンフレッチェ広島に1-2と敗れ、今シーズンの初黒星を喫した。しかしこの敗戦は、むしろ町田にとってプラスに働くと思う。

 

 先に断っておくが、次戦以降町田が再び勝ち星を重ねることを保証しているのではない。サッカーは相手があるものだし、そろそろ研究・対策もされてきているはず。町田が良いプレーをしても、相手チームのパフォーマンスがそれを上回ることだってあるだろう。

 

 ただ勝敗は別にして、町田が一つの負けをきっかけにチームとしての歯車が狂い、転落していくことはないだろうと確信する。むしろこの敗戦も一つのデータとして、次戦以降の改善へとつなげていくはずだ。

 

 なぜなら町田には、“立ち返る場所”があるからである。

 

 町田に関する取材記事等の資料によれば、黒田監督は守備等における原則を定め、それをチームにきちんと落とし込んでいると聞く。実際、私が観戦した試合でも、選手達のポジショニングが非常に整備されており、まるでチーム全体が一つの意思を持った生き物のようであった。

 

 これだけ原理・原則が徹底されていれば、エラー(=改善点)を発見するのも容易だろう。少なくとも原理・原則が未整備なチームよりは、次同じようなやられ方をする確率は低いはずだ。

 

2.チームの問題点を修正する術がない日本代表

 

 翻って、日本代表である。

 

 森保一監督が戦術の仕込みをほとんど行わないというのは、すでに知られた話である。「もっと指示して欲しい」「戦術が欲しい」と訴える選手も複数出てきている。

 

 それで勝てていればまだ良かったのだが、周知の通り、日本代表は先のアジア杯にて準々決勝敗退という屈辱を味わった。

 

 さて、日本代表はあの敗戦から“どうやって”改善点を見出すのだろうか。

 サッカーYoutuberとして著名のレオザフットボール氏の言葉を借りれば、今の日本代表は「コンビニのアルバイトのマニュアルがない」状態である。

 マニュアルさえあれば、従業員の接客態度なり業務の進め方なりで何かしら問題点を見つけ、それを改善へとつなげていくことはできるだろう。

 

 しかし、そもそもマニュアルがなかったら? 従業員は何をいつどのようにすれば分からずパニックに陥り、店内はメチャクチャになってしまうはずだ。そしてそんな事態になっても、マニュアルがないのだから、次どこを改善すればいいのか分からない。また同じことの繰り返しになるのは目に見えている。

 

 森保一監督は、日本代表のコーチ陣やチームスタッフは、アジア杯敗退の原因をきちんと分析し、明確に把握しているだろうか。そして、次は同じ失敗を繰り返さないよう、修正すべきポイントを選手達に植え付けることはできるだろうか。

 

 できるはずがない、と私は思う。

 

 そもそもチーム内に原理・原則がないのに、どこが問題だったか等と明確に指摘できるはずがないではないか。またぞろ“個の力”などと曖昧な言葉で逃げるのではないか。それとも三苫薫の不調や伊藤純也の離脱のせいにして、後はほとぼりが冷めるのを待つだけではないか。

 

 すべて私の杞憂ならいい。だが実際は、報道等を見聞きする限り、すでに今述べたような兆候が起こり始めているようではないか。

 

 いや、日本代表の問題が劇的に改善する方法が、実は一つだけある。

 それは現状のベストメンバーが集結し、ベストコンディションで試合をすることだ。そうなれば、あれだけの力を選手達なのだから、あまり監督の力は必要ない。

 もっとも……そんな都合のいいことはそうそうないから、あのアジア杯では屈辱を突き付けられたわけだが。

 

 きちんとした原理・原則を持つチームは、もちろん好不調の波はあるにしても、組織として崩れることはそうそうない。

 

だから私は、町田が広島戦の敗戦を受けてどのように修正し、チームを立て直してくるかが、むしろ楽しみだ。

 一方の日本代表は、その時のメンバーやコンディションで望外の勝利を収めることはあるだろうが、組織として強くなることはほぼ期待できない。また同じような敗戦を繰り返すことになるだろう。

 

※追記 J1リーグ第7節、町田ゼルビアはアウェーで川崎フロンターレを1-0と下した。

【野球小説】続・プレイボール<第77話「打つ手なし!?墨高ナインの巻」>――ちばあきお『プレイボール』二次小説

 

 

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【目次】

  • 【前話へのリンク】
  • <外伝> 
  •  第77話 打つ手なし!?墨高ナインの巻
    • 1.思わぬ采配
    • 2.片瀬対聖明館打線
    • <次話へのリンク>
      • ※感想掲示
      • 【各話へのリンク】

  

 

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 第77話 打つ手なし!?墨高ナインの巻

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1.思わぬ采配

 

「ナイスバッティングよ島田!」

 一塁側ベンチ。キャプテン谷口はヘルメットを被りながら、ヒットで出塁の島田に声を掛けた。さらにネクストバッターズサークルへと移動して、これから打席に向かおうとする三番倉橋とも言葉を交わす。

「倉橋たのむぞ。チャンスでおれに回してくれ」

「おう、まかせとけってんだ」

 倉橋は意気込んで、打席へと向かう。

「さあこい!」

右打席へと入り、バットを短めに構えた。

(墨谷のやつら、みょうに活気づいてきたな)

 聖明館のキャッチャー香田は、横目で打者を観察する。

(さっきの二番も、あの甘いタマをゆうぜんと見逃してきやがったし。もしや、こっちのねらいに気づいたんじゃ)

 束の間考えた後、香田はサインを出す。

(四点ある。いまのうちにたしかめてみるか)

 マウンド上。福井はサインにうなずき、セットポジションから第一球を投じた。真ん中やや外寄りの速球。倉橋は手を出さず、ポーカーフェイスを崩さない。

(マズイな……)

 香田は渋面になる。

(やつらが打ち気にはやってくれないと、打たせて取るのがむずかしくなってくるぞ)

 戸惑いながら「つぎもコレよ」と、二球目のサインを出す。福田はうなずき、すぐに投球動作を始めた。

 またも倉橋は手を出さず。アンパイアが「ストライク、ツー!」とコールする。

(くっ。これは完全に見抜かれたようだな)

 しばし思案の後、香田は三球目のサインを出した。

(だったら、つぎもコレよ)

 む、と福井はうなずき、今度はややボールを長く持ってから投球動作へと移る。

 またも真ん中外寄りの速球。倉橋のバットが回る。パシッと快音が響く。ライナー性の打球が、一塁側アルプススタンドへと飛び込む。

(こいつ、わざとファールにしやがったな)

 香田は打者を睨む。

(そんなにむずかしいタマが打ちたいなら、そうさせてやるよ)

 四球目。セットポジションから、福井が投球動作を始めた。その瞬間、一塁ランナー島田がスタートを切る。

 外角低めのカーブ。倉橋はバットをおっつけるようにしてスイングした。パシッと快音が鳴る。ライナー性の打球がセカンド頭上を襲う。聖明館の二塁手がジャンプするも届かず、打球はライト前に落ちる。

「ら、ライト!」

 マスクを脱ぎ、香田が指示の声を飛ばす。しかしライト甘井が捕球し、中継の二塁手へ送球するが、その間ランナー島田は三塁ベースに足から滑り込んでいた。

 ヒットエンドラン成功、ワンアウト一・三塁。

(しまった。はじめからカーブをねらってたのか)

 香田はほぞを噛む。

「バッテリー!」

 その時三塁側ベンチより、聖明館監督がメガフォン越しに声を掛けてきた。

「苦しまぎれにストライクを集めるんじゃない。ねらい打ちされて当然だぞ!」

 監督の激に、香田は「は、はい」とバツが悪そうに返事する。

 そして四番谷口が、右打席に入ってきた。こちらも「ようし、こい!」と気合の声を発し、バットを短めに構える。

 なるほど、と香田は一人つぶやいた。

(甘いタマをあえて捨てさせたのは、こいつの指示か。なかなか頭がキレるやつだな)

 マスクを被り直し、ホームベース手前に屈み込む。

(それなら、あのタマで誘う必要はない。正々堂々と勝負して打ち取ってやる)

 マウンドにて、福井はロージンバックを右手に馴染ませる。それから足下に放り香田のサインを確認して、セットポジションから投球動作へと移る。

 外角低めの速球。谷口はぴくりとも動かず。アンパイアは「ボール!」とコールした。

(ボール一個分はずしたが、手を出してこないか)

 横目に打者を観察しつつ返球する。そして二球目のサインを出す。福井はうなずき、セットポジションから投球動作を始めた。

 またも外角低めの速球。今度は谷口のバットが回る。パシッと快音が響く。ライナー性の打球がライト線を襲うも、ボールは白線の数十センチ外側に落ちる。ファール。

(いかん。変化球を意識していたせいか、少しふり遅れてしまったな)

 谷口は一旦打席を外し、数回素振りした。一方、香田はそんな打者の姿に、ちぇっと舌打ちする。

(さすが四番だ。ナリはちいせえが、いい目をしてやがるぜ)

 ほどなく谷口が打席に入り直し、再びバットを短めに構える。その傍らで、香田は次のサインを出す。

(コレで引っかけさせよう)

 福田はサインにうなずき、セットポジションから投球動作を始めた。

 内角低めの速球。谷口が「いまだっ」と、バットをスイングする。パシッと快音が響く。

 痛烈なゴロが、広く空いた三遊間を抜けていく。サード糸原が横っ飛びするも及ばず。

「まず一点ね」

 島田がゆっくりとホームベースを踏んでいく。スコアボードに、墨高の得点が「1」と示された。

 レフト前タイムリーヒット。墨高が一対四と三点差に詰め寄る。

(ようし。ついにつかまえたぞ)

 一塁ベース上で、谷口は軽く右こぶしを突き上げる。そしてネクストバッターズサークルの次打者に声を掛けた。

「つづけよイガラシ!」

 イガラシは「まかせといてください」と力強く応え、バットを手に打席へと向かう。

 その時だった。

「タイム!」

 ふいに聖明館がベンチを出て、アンパイアの下へ歩み寄る。そして何事か告げた。ほどなく、ウグイス嬢のアナウンスが流れる。

―― 聖明館高校、シートの変更をお知らせいたします。ピッチャーの福井君にかわりまして、高岸君。ファースト高岸君にかわりまして、福井君。

 えっ、と谷口は目を見開く。

(まさかこのタイミングで、二試合完投したピッチャーをかえるのか)

 

 

 一塁側ベンチ。スコアブックを付けていた半田が「そんな」と、驚いて立ち上がる。

「二試合完投してるエースを、たった一点取られただけで交代させるなんて」

「予選ではどうだったんだろう」

 隣で鈴木が問うてきた。「そこまでは……」と半田は首を横に振る。

「甲子園でのデータをたよりに、練習で対策してきたというのに。これじゃどうすりゃいいんだ」

 後列で、井口が「うーむ」と呆れ顔で言った。

「さすが名門だぜ。エースと同程度の力のあるやつは、一人や二人じゃねえんだ」

 その言葉に、半田は「マズイぞ」と頭を抱える。

 一方、聖明館監督はアンパイアに投手交代を告げた後、再びベンチ奥に引っ込む。

(やはり福井ではふんばりきれなかったか)

 腕組みして、渋面のまま胸の内につぶやく。

(こうなれば、高岸にまかせるほかあるまい。相手をよく研究してくるのがやつらの得意技だ。それをさせないためには、つねに先手先手と打っていくしかないだろう)

 監督の眼前では、キャッチャー香田とリリーフ登板を告げられた高岸がマウンドに立つ。

 

 

「まさかこのタイミングでエースを降ろすとはな」

 マウンド上にて、香田が目を丸くした。

「しかたあるまい」

 高岸は達観したように言った。

「ここまでの二戦からして、やつらの打線はつながり出すと、手がつけられなくなるようだからな」

「おいおい。感心してる場合じゃねえぞ」

 香田は渋面になる。

「こんな急なリリーフは予選以来だが、大丈夫なんだろうな」

「心配すんなって」

 笑って高岸は答える。

「短時間で肩をしあげるのは慣れてるし、墨谷に一発のおそれのあるバッターは少ない。これぐらいどうってことねえよ」

「む。そこまで言うなら、おまえを信じるが。ただつぎは要注意の五番だぞ」

「分かってる。あの五番を打ち取って、やつらの勢いをそいでやるさ」

「そうだ、その意気だ!」

 そこまで言葉を交わし、香田はポジションへと戻る。残された高岸はロージンバックを拾い、左手に馴染ませる。

(やつも左か。いったいどんなタマを投げるのか)

 打席のやや後方にて、イガラシはマウンド上の相手投手を観察する。

ブルペンで肩を作る様子はなかったが……)

 その相手投手高岸は、ロージンバックを足下に放り、投球動作を始めた。セットポジションから、キャッチャー香田へ向かってボールを放つ。

 ピシッ。香田のミットが、迫力ある音を立てた。

(は、はやい)

 イガラシは苦笑いした。

(準備不足でほんらいの投球ができないってことは、なさそうだな)

 一年生打者の眼前で、高岸は速球、カーブ、シュートと続けて投げ込んでいく。

(ただ速いだけじゃなく、根が生えたように重いタマだな。おまけに変化球も切れ味がある。こりゃエースに匹敵するどころか、それ以上の実力と見ていいだろう)

 やがて高岸が既定の七球を投げ終え、香田が二塁へ送球する。そしてアンパイアが「バッターラップ!」と声を掛けた。

(さすが名門だ。エースとそん色ない投手を複数そろえるとは)

 イガラシは打席に入り、ガッガッとスパイクで足元を均す。

(だが、そうたやすく逃げきれると思ったら、大まちがいだぜ)

 そしてバットを短めに握り「さあこい!」と気合の声を発した。

「プレイ!」

 アンパイアがコールした。ワンアウト一・二塁で試合再開となる。

 初球。香田は「まずコレよ」と、サインを出す。高岸はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。

 外角低めの速球。ガシャン、と打球が真後ろのバックネットに当たる。

(いかん、振り遅れてる)

 イガラシは一旦打席を外し、数回素振りする。打者を横目に、香田は「ほう」と感嘆の吐息を漏らす。

(たった一球で高岸の速球に触るとは。やはり評判の高いバッターだぜ)

 二球目。香田は「つぎもここよ」とサインを出す。高岸はうなずき、再びセットポジションからボールを投じた。

 またしても外角低めの速球。パシッと快音が響く。ライナー性の打球が一塁線を襲うが、切れてファールグラウンドに落ちる。

(く。まだ遅れてやがる)

 イガラシはもう一度打席を外し、また素振りする。

(もっと始動をはやくしねえと、詰まらされちまう)

 そして打席に戻ると、バットの握りをさらに短くする。

(さすがに速球にはタイミングを合わせてきたな)

 香田は束の間思案した後、三球目のサインを出す。

(つぎはコレでタイミングを外そう)

 む、と高岸はうなずき、またもセットポジションから投球動作を始めた。右足で踏み込み、グラブを突き出し、左腕を振り下ろす。

「うっ」

 真ん中低めのカーブ。イガラシは上体を崩してしまう。それでも辛うじてバットのヘッドを残し、おっつけるようにスイングした。

 パシッと快音が鳴る。打球はショート頭上を襲う。おおっ、と墨高ナインが立ち上がりかける。

「くっ」

 しかしショート小松がジャンプ一番、伸ばしたグラブの先に引っ掛けるようにして捕球した。

「しまった」

 二塁走者の倉橋が一瞬飛び出してしまう。ショート小松からベースカバーに入ったセカンドに送球されるも、間一髪セーフ。

「フウ。あぶねえ……」

 倉橋は安堵の吐息をつく。相手のファインプレーに「ああ……」と、墨高ナインと応援団の陣取る一塁側ベンチとスタンドから、落胆の溜息が漏れる。

「くそっ」

 悔しげにベンチへと引き上げていくイガラシを横目に、香田はフウと安堵の吐息をつく。

「あの体勢からミートしてくるとは。さすが七割以上打ってるバッターだぜ」

 香田がホームベース手前に屈むと、イガラシと入れ替わるように、六番横井が右打席に入ってくる。やや引きつった表情だ。

(速球だけでなく、変化球も多彩なようだな。ねらいダマをしぼっていくか)

 横井も短めにバットを握る。その時、一塁走者の谷口が目を合わせてくる。手振りでサインを伝える。

(まずコレよ)

 一方の聖明館バッテリー。香田のサインに高岸がうなずき、投球動作を始めた。その瞬間、谷口がスタートを切る。

 内角低めのカーブ。横井はわざと空振りした。谷口は頭から二塁へ滑り込む。

「くそっ」

 香田は慌てて送球するが間に合わず。盗塁成功、ランナー二塁となる。

(やられた。いまのは無警戒だったな)

「気にするなよ香田」

 マウンド上より、高岸が声を掛けてきた。

「バッターさえ打ち取ちゃいいんだ」

「う、うむ」

 香田は気を取り直し、マスクを被り直す。

(さて、得点圏に進めたことだし)

 横井は再びバットを短めに構える。

(つぎはコレよ)

 香田がサインを出す。高岸はうなずき、セットポジションから第二球を投じた。内角高めの速球。横井はスイングするが、バットは空を切る。

「は、はええ」

 横井は目を丸くして、一旦打席を外しバットをさらに短く握る。

(フフ。ただ速いだけだと思ったら、甘いぜ)

 香田は含み笑いを浮かべ、次のサインを出す。高岸はうなずき、三球目を投じた。

「うっ」

 内角低めのカーブ。横井は完全に体勢を崩し、打ち上げてしまう。ガキと鈍い音がした。サード糸原が数メートル後退しただけで、余裕を持って顔の前で捕球する。

「くそっ、やられた」

 悔しさのあまり、バットを叩き付ける横井。その眼前で、ピンチを一失点で切り抜けた聖明館ナインが、足早に引き上げていく。

 

 

(いやなムードだな……)

 一塁側ベンチ。守備へ向かおうとするナイン達の重苦しいムードを感じ取ったキャプテン谷口は「みんな待て」と、声を掛ける。

「どうしたのかね?」

 アンパイアが駆け寄り、尋ねてきた。谷口は「いえ、ちょっと」とだけ答え、ナイン達には円陣を組ませた。

「みんないいか」

 声を潜めて話し始める。

「相手がリリーフを用意してきたのは予想外だったが、こんな時は慌てないことが大事だ」

 ナイン達は前屈みの姿勢で、黙ってキャプテンの話を聞いている。

「かなり力のあるリリーフ投手のようだが、やることはいつもと変わらない」

 そう淡々と告げる。

「できるだけねばって一球でも多く投げさせ、情報を集めることだ。そうすれば攻りゃくの糸口が……」

 その時だった。ふいに半田が「キャプテン!」と口を挟んでくる。

「どうした半田」

「見てください。あれ」

 谷口そしてナイン達が振り向いた視線の先で、聖明館が控え捕手と背番号11の選手に声を掛けていた。どうやら三番手の投手らしい。有原、と監督は投手に声を掛ける。

「いつでも行けるように、急いで肩をあたためておくんだ。いいな」

「はい!」

 有原と呼ばれた投手は、控え捕手を伴いブルペンへと駆けていく。

(しまった……)

 谷口は胸の内につぶやく。

(向こうは、こっちに分析するスキさえ与えないつもりだ)

 丸井に「キャプテン?」と声を掛けられ、ああと我に返る。

「と、とにかく。こうなった以上、我慢比べだ」

 谷口は渋面で言った。

「向こうの思うようにはさせない。しつこく喰らいついて、最後にはひっくり返してやろう。いいな!」

 墨高ナインは「オウヨッ」と、快活に応える。

 

 

2.片瀬対聖明館打線

 

 六回表のマウンドには、前の回に続いて片瀬が上がる。サイドスローのフォームから、一球二球と速球を投げ込んでいく。

(片瀬が淡々と投げてくれることだけが、救いだぜ)

 ボールを受けながら、キャッチャー倉橋は胸の内につぶやく。

(やつらに次々とリリーフをつぎ込んでこられちゃ、こっちとしては打つ手なしだ)

 ほどなく片瀬が既定の投球練習を終え、倉橋はいつも通り二塁へと送球する。

(とにかく、うちが勝機を見出すには、これ以上点をやらないことだな)

 そして聖明館の八番打者が、右打席に入ってきた。

アンパイアが「プレイ!」とコールする。倉橋はすぐに、一球目のサインを出す。片瀬がうなずき、ワインドアップモーションから投球動作へと移る。

外角低めに投じられた速球が、打者の手元で小さくシュートした。打者のバットが回る。ガキ、と鈍い音がした。

「くそっ」

 ファースト正面のゴロ。捕球した加藤が自ら一塁ベースを踏む。

(フン、ほんとに軟投派投手は苦手なようだな)

 倉橋はひそかにほくそ笑む。

(この調子でおさえられりゃいいが)

 続く打者は、ピッチャーからファーストに交代した福井だ。バットを短めに持ち、左打席に入る。

(ほう。握りを短くしたということは、やつらも片瀬のようなタイプの投手が苦手だと、自覚はあるのか)

 倉橋は束の間思案して、サインを出す。

(コレで様子を見よう)

 片瀬はサインにうなずき、テンポよく投球動作へと移る。

 外角低めのカーブ。福井のバットが回る。パシッと快音が響いた。ライナー性の打球がセンター島田の前に弾む。

(ちぇっ、またヤマをはられたか)

 倉橋は苦笑いした。

(ランナーを置いて上位に回したくなかったが、ここはなんとしても、しのがないと)

 そして一番甘井が右打席に入ってきた。こちらもバットを短めに握る。

(ミート重視に切り替えたのか。やっかいだな)

 倉橋はしばし悩んだ後、サインを出す。

(とにかく厳しいコースを突いていこう)

 片瀬はサインにうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。その瞬間、甘井はバットを寝かせた。外角低めの速球。

「なにっ」

倉橋はマスクを脱ぎ捨てる。コンッ。打球はマウンド左に緩く転がった。

「く……」

 サード谷口がダッシュして捕球し一塁へ送球するが、すでに甘井はベースを駆け抜けていた。セーフティバント成功、一死一・二塁。

「くそっ。小技を使ってきやがったか」

 倉橋は腰に手を当て、唇を歪める。その眼前で、片瀬は屈伸した。

「おい片瀬。足は平気なのか」

「あ、はい。大丈夫です」

 後輩の返答に、正捕手は安堵の吐息をつく。

「片瀬」

 今度は谷口が声を掛けた。

「おまえのガッツは買うが、深追いはするな。何度も言うようだが、バックがついてるんだからな」

 はいっ、と片瀬は快活に応える。

 倉橋がポジションに戻ると、二番小松が左打席に入ってきた。こちらは始めからバットを寝かせている。

(やつらめ。投手が代わって、露骨にバントが増えてきたな。いくら片瀬の足が悪いからって、しつこいぜ)

 横目で打者を睨みながら、思案する。

(こうなったら、あえてバントさせて、アウトカウントをかせぐとするか)

 正捕手のサインに一年生投手はうなずき、セットポジションから第一球を投じた。

 真ん中やや外寄りの速球。小松は素直にバントした。マウンドほぼ正面に、打球が緩く転がる。

「無理するな!」

マウンドを駆け下りて捕球した片瀬に、サード谷口が声を掛けた。片瀬はそれに従い、一塁へ送球する。二人のランナーがそれぞれ進塁し、二死二・三塁となる。

「ナイスフィールディングよ片瀬!」

 倉橋が声を掛けると、片瀬は「どういたしまして」と白い歯を見せた。

その時、谷口が「タイム!」と三塁塁審に合図して、マウンドに歩み寄った。倉橋もマスクを脱ぎ、二人の下へ駆け寄る。

「少しかき回されたが、よくツーアウトまでこぎつけてくれた」

 谷口はまず、バッテリー二人をねぎらった。

「とくに片瀬は、バントをよく処理したな。足は大丈夫なのか?」

 はい、と一年生投手は微笑んでうなずく。

「もうバントにやられることがないように、予選の後、毎日足をきたえてたんです」

「ほう。それはたのもしいな」

 後輩の言葉に、キャプテンは目を細める。

「ツーアウト取ったはいいが、この後どうする?」

 倉橋は渋面で言った。

「打順はクリーンアップだ。ランナーの足を考えると、内野の間を抜かれりゃ二点入っちまう」

 む、と谷口は厳しい表情になる。

「追加点を取られたら、正直勝ち目は薄い。だからここは大量点を恐れるより、なんとしても無失点で切り抜けることだ」

「つうことは……歩かせるか」

 倉橋の問いかけに、谷口は「ああ」と首肯する。

「満塁にして守りやすくしよう。あとは片瀬の、相手打線との相性の良さに賭けるんだ」

 そう言って、後輩の左肩をポンと叩く。

「分かってるな片瀬。相手はおまえのボールをいやがってる。おまえが本来の力を出しさえすれば、けっしておさえられないことはないんだからな」

 キャプテンの言葉に、片瀬は「まかせてください!」と力強く応える。

「そうよ、その意気よ!」

 倉橋も一年生投手を励ました。

 ほどなくタイムが解け、谷口と倉橋はそれぞれポジションに戻る。

 そして三番香田が右打席に入ってきた。同時に倉橋は立ち上がり、左打席の後方へとずれ、ミットを掲げる。

 ほう、と香田が挑発的な笑みを浮かべた。

「満塁でうちの四番と勝負とは、いい度胸だぜ。あのボウヤ、腕が縮こまらずに、ちゃんと投げられればいいが」

 なんとでもほざけ、と倉橋は胸の内で言い返す。

 片瀬が山なりのボールを四球投じた。敬遠四球。香田が一塁へと歩き、これですべての塁が埋まる。

「内野! 近いトコで取っていこうよ」

 倉橋の掛け声に、内野陣は「オウヨッ」と快活に返事した。

 そしてネクストバッターズサークルより、聖明館の四番鵜飼がゆっくりと右打席に入ってくる。眼鏡の奥の眼光が鋭い。

(強気で攻めるぞ。片瀬、思い切ってこい!)

 倉橋はサインを出し、ミットを内角高めに構える。片瀬はうなずき、セットポジションから第一球を投じた。

 内角高めに投じられた速球が、鵜飼の手元でシュートする。打者のバットが回る。カキッと快音が響く。痛烈な打球が、レフトのアルプススタンドに飛び込む。

「ファール!」

 三塁塁審が両腕を掲げコールした。

(ハハ、さすが四番だぜ。すげえ当たりしやがる)

 けどよ、と倉橋は一人ほくそ笑む。

(どんな当たりでも、フェアゾーンに飛ばなきゃ意味ないぜ)

 続く二球目。今度は外角高めにミットを構え、サインを出す。投手はマウンド上にて、しばし間合いを取ってから、投球動作へと移る。

 外角高めの速球が、今度は鵜飼の手元でさらに外へ切れていく。打者はこれも手を出し、パシッと快音が鳴る。

 またも痛烈な打球が、さっきとは逆にライトのアルプススタンドに飛び込む。二球続けてファールとなり、これでツーナッシング。

「た、タイム」

 ここで鵜飼がアンパイアに合図し、打席を外して数回素振りした。おかしいな、とつぶやきが漏れる。

(フン。さしもの四番も、片瀬の投球には戸惑ってるようだな)

 倉橋は胸の内でつぶやいた。

(ただでさえ苦手な軟投派なうえに、タマが適当にバラつくだけじゃなく、手元でナチュラルにいろいろ変化する。なにせ、あの谷原でさえ手こずったんだからな)

 手振りで「ロージンだ」と指示し、またしばし間合いを取らせる。そして三球目のサインを出した。

(こいつでトドメだ)

 片瀬はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。サイドスローの指先からボールを放つ。

「うっ」

 外角低めのスローカーブ。鵜飼は上体を崩し、バットが空を切る。

「ストライク、バッターアウト。チェンジ!」

 アンパイアが右こぶしを突き上げコールする。マウンド上、片瀬は「よしっ」と声を上げ、グラブをパチンと叩く。

「おおっ」

「ああ……」

 甲子園球場のスタンドからは落胆と安堵の入り混じったざわめきが起こる。

「ナイスピーよ片瀬」

 セカンドから丸井が声を掛ける。

「バッテリー、よく踏ん張ったな!」

 サードの谷口が二人をねぎらう。そして満塁のピンチを切り抜けた墨高ナインが、足早にベンチへと引き上げていく。

 

 

 三塁側ベンチ奥。聖明館監督は、腕組みしたまま眼鏡越しにグラウンド上を見つめる。

(うーむ、もう一押しだったが。あの一年生ピッチャーなかなかやるな)

 そして守備位置へ向かおうとする、明らかに重い雰囲気のナイン達へ呼びかける。

「おまえ達、気落ちしてるヒマはないぞ!」

 今しがた三振に倒れた鵜飼が「は、はい」と返事する。

「これで分かったろう。墨谷を倒すのは、簡単なことじゃない。何度も言うようだが、やつらに流れを渡さないためには、絶対にスキを見せないことだ」

 そう言って、フフと含み笑いを漏らす。

「やつらの得意技である相手を分析するすべは、こちらが複数のリリーフを用意することで封じた。いま勝利に近いのは、我々なんだぞ。いいな!」

 聖明館ナインは「ハイ!」と快活に応えた。そのこわばっていた表情が、僅かながら和らぐ。

 選手達を送り出した後、監督は一人つぶやく。

「まったく。世話の焼けるやつらだ」

 

―― この後、試合はしばし膠着(こうちゃく)することとなる。

 聖明館の二番手投手高岸は、持ち前の快速球と多彩な変化球を武器に、墨谷打線を寄せつけず。六回ウラを難なく無失点で切り抜けた。

 一方、松川をリリーフした片瀬も力投を見せる。六回に続いて七回もランナーを出しながら得点は許さない。

 そして試合は、四対一と聖明館リードのまま、終盤の攻防へと入っていくのである。

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日本代表が町田ゼルビアのサッカーを取り入れれば間違いなく強くなるが、なかなか他チームには真似できない理由

 

1.勝つために合理的な町田のサッカー

 

 2024年のJ1リーグにおいて、ここまで3勝1分と好スタートを切った町田ゼルビアのサッカーに対して、ファンや関係者の間でなおも賛否分かれる状態が続いている。

 

 以前の記事でも書いたが、サッカーが創造的なスポーツである以上、好き嫌いがあるのは仕方ないだろう(ちなみに私は、無駄なショートパスや横パスばかりの“なんちゃってポゼッション”が嫌いだ)。ただ野球好きの視点で町田のサッカーを見ると、こんな思いが出てくるのである。

 

 町田のサッカーが、異端ではなく日本サッカーの“スタンダード”になれば、間違いなく日本サッカーは数段レベルが上がるだろう、と。

 

 第3節、鹿島アントラーズとの一戦を見た限り、町田ゼルビアのサッカーには次のような印象を抱いた。

 

・各選手のポジショニングが素晴らしく、チームとしての統制がよく取れている

・パスをつなぐことよりも、ボールを前進させることに重きを置いている

・ブロックを作って相手を引き込むか、思い切って狩りにいくか、その判断が良い

・徹底して勝利から逆算したプレーに徹する

 

 こうして一つずつ挙げていくと、町田は何も特別なことをしているのではないと分かる。さらに付け加えると、町田のサッカーは、むしろ「日本人が本来得意とすること」を忠実に実行しているように思える。例えば、チームとしての統制。例えば、状況判断力。例えば、徹底して勝利にこだわる。

 

 野球を例に出すと、日本人のスポーツの長所がより見えてくる。

 いわゆるホームランか三振かといった分かりやすい勝負だけでなく、攻撃時には送りバントや足を絡めた細やかかつ多彩な作戦・パターンを見せ、守備時にはキャッチャーを中心とした堅守を展開し、内野ゴロを打たせて取る。

 

 ここに出てきた「細やかさ」「チームとしての統制」「勝利へのこだわり」等が、日本人の行うスポーツの長所として挙げられる。したがって町田ゼルビアは、サッカーにおいて“日本人の長所”を体現していると言える。

 

2.町田のサッカーを他チームがなかなか真似できない理由

 

 だから好き嫌いは抜きにして、町田のサッカーを複数クラブ、もっといえば日本代表が実践できるようになれば。高確率で日本サッカーのレベルは上がると思うのだが……おそらくその実現は、それこそ黒田監督を日本代表監督の座に据えない限り、かなり難しいと思われる。

 

 その理由は、町田のサッカーがかなり“自己犠牲”を要求されるからである。

以前の記事でも述べたが、サッカーは創造的なスポーツだ。どうせなら見栄えよく、やっている選手も気持ちよくなるプレーをしたくなる。すなわちショートパスをつないで相手よりボールを保持するサッカーの方が志向されるのは当然だ。

 

 しかし町田のサッカーは、見栄えのよい気持ちのいいサッカーを一旦脇に置いて、まず“勝つために必要なプレー”が徹底して求められる。それが勝つために最も合理的だと分かってはいても、気持ちよくプレーすることを脇に置ける選手というのは、(その選手の個人能力が高ければ高いほど)なかなか難しいと思われる。

 

 ではなぜ、町田ゼルビアではそのサッカーができるのか。

 言うまでもなく、黒田剛監督が優秀な指導者であるからに他ならない。細かいポジショニング、ロングパスやロングボール等、ややもすると“つまならい”と言われがちなプレーの必要性を選手達に納得させ、確実に実践させるには、黒田監督の力量がなければ成しえない。

 

 野球で言えば、阪神岡田監督がそうだ。

 昨年日本一を達成した阪神の野球は、確実に四球を選び状況によって小技や足を絡めたいわゆる“スモールベースボール”で、ホームランを量産するような見栄えのよい野球ではない。しかし勝つためには合理的、なおかつ日本人の長所を生かす野球である。結局他球団は、阪神の合理的な野球を最後まで止めることはできなかった。

 しかし阪神のような合理的な野球を実践するには、岡田監督の力量だけでなく、チームプレーを理解しないワガママな選手は獲得しない等、スカウトにおける球団の方針も不可欠である。

 

 ただ、それにしても勿体ない。

 

 野球ファンや関係者で、昨年の阪神の野球を「異端」だと言う者はいないだろう。

ところがサッカー界では、“日本人の長所”を体現している町田のサッカーが異端扱いされてのだ。このままでは、日本サッカーにおいて日本人の長所は、十分に生かされていないということになるのではないだろうか。

 

 WBCで世界一になった野球ファンの視点で見ると、日本サッカーが世界で勝つための大ヒントがそこに転がっているのに、それが生かされないということは、あまりに勿体ない話だと思う。