作品紹介 「めぐりの星の迷い子たち」 - 作者 陽澄すずめ(すずひめ)
上の「第4回カクヨムweb小説コンテスト」参加作品から、SF群像劇をご紹介。
荒野となり、疫病も蔓延し、生きづらい世界となった地球。
そんな地球で未来に希望を持てないまま生きる人間たち。
半陰陽で生まれた「神の化身」として崇められるナギとナミの双子。
月から地球へと追放された植物遺伝子学者、トワ。
病気の母と二人で暮らす孤独な薬草師、サク。
それぞれの事情を抱えた彼らの行動が、荒れ果てた地球上で交錯し繰り広げられる。
彼らは地球に希望をもたらすことができるのか?
彼らそれぞれの想いは?
当エントリは、第四章の第九話を読み終えた時点で書いています。
心理と情景描写が丁寧で、苛酷な状況に置かれている登場人物たちへの没入感を堪能できる作品です。章ごとに異なる視点で描かれる作品世界への悲壮感や、登場人物たちの人間らしさを味わっているうちに、次話を待ち望む期待でドキドキさせてくれます。
緻密に考えられた作品世界は寂寥感に溢れている。それだけに、登場人物たちが人間らしくあがいている姿が鮮明に心に浮かびあがってくる。温かさ、悲しさ、幼さ、必死さ、それらが一つ一つ胸に染みてきます。
人間像をくっきりと伝えてくる作者さんに素直に感動しています。
作品は佳境に入っています。
どのような結末が訪れるのか? 楽しみでなりません。
作品紹介 「血汐燃ゆるは現世のみ」 - 作者 秋保千代子
上の「第4回カクヨムweb小説コンテスト」参加作品から、和風恋愛作品をご紹介。
魔物や人同士の争いなどで乱れている世。
どうやら権力争いに巻き込まれている、先代将軍の落胤である宇治義高。武に優れ魔物退治で名を知られはじめている。
その義高のもとへ嫁入りした十六歳の娘……気が強く意地っ張りな帰蝶。
夫婦になったは良いけれど、うまくいきそうに感じられない。義高は帰蝶と良き夫婦になろうと模索している。しかし、帰蝶は義高とは必要最低限しか接しようとしない。
この二人の行く先は如何に?
当エントリは九話目「ふみつけるものあおぐもの」を読み終えて書いています。
丁寧に選ばれた語彙や、文のリズムによってとても読みやすい描写と感じます。そして、義高の不器用な実直さ、帰蝶の誇り高い態度が、作品を追いかける魅力になっています。
面倒な軋轢ある宮廷の描写も、二人の個性を魅力あるものに映るよう考えられています。そのおかげで、この先に生じるだろうトラブルを越えたなら、二人は良き夫婦へ近づいていけるのではないかと期待させられます。
また、一話毎のタイトルも凝っていて、雅な和歌の一節のよう。これが作品世界の雰囲気作りにも役立っている。作者さんの細かい神経が感じられ好感が持てます。
まだ九話で25000字程度(2018/12/09時点)。
簡単に最新話まで追いつける分量ですので、是非、義高と帰蝶のこれからを見守っていただきたいです。
作品紹介 「キャラクター監視管理協会」 - 作者 雹月あさみ
第四回カクヨムWeb小説コンテストでは、「カクヨムWeb小説短編賞」という賞もあり、今回はSF・現代ファンタジー部門へ参加されてる作品からご紹介。
短編ですので、ネタバレしないよう、あらすじはいつも以上にざっくりと。
この作品では、キャラクター監視管理協会という、企業・団体等による、イベント、キャンペーンといったPR活動等で使用されるキャラクターを監視・管理する組織の活動の一部が紹介されている。
ただそれだけの作品なのですが、笑みを浮かべてしまう箇所があり、つい最後まで一気読みさせられます。
個人的には、第三話目の「実行部の活動2」がツボでした。
ラストの描写でも笑いましたが、
「チョココロナぁ。ごめんよ、俺が悪かったぁ……」
「あぁそうだ。チョココロナちゃんを買ってくれた人のところには、今もチョココロナちゃんは生き続けているから。削除されても死んだわけじゃない」
人情時代劇風の台詞が作品世界とはマッチしていないのに、違和感なく染みこんできて「プッ」とさせられました。
9000字ちょっとの作品ですが、文字数以上の楽しみを味わえます。
是非、ご覧になってみてください。
作品紹介 「カネサダを北極星へ向けろ」 - 作者 梧桐 彰
上の「第4回カクヨムweb小説コンテスト」参加作品から、現代ファンタジーをご紹介。
ロメロウィルス。そのウィルスに冒された人間は、死にかけの怪物というゾンビのような存在になる。
そのロメロウィルスが世界中に蔓延し、主人公の邦彦の身近にも迫ってきた。
両親や友人が死に、邦彦は幼馴染のユミだけは助けたいと願う。死にかけの怪物がはびこる中、離れた場所にある病院へユミを助けに行こうとする。
邦彦は剣道初段。しかし木刀を持つ彼が一人で行ける状況ではない。
そこへ剣道七段、会津兼定を持つ祖父が邦彦を助けユミを迎えにいこうとしてくれる。
邦彦は、ユミのもとへ辿り着き助けられるのか?
当エントリは、第七話を読み終えた時点で書いています。
ここまで、命のやり取りが見え隠れする緊迫感ある展開と、全体主義的な正義よりも人としての想いを重要視する祖父の潔さ、そしてまだ弱々しさの残る主人公の不安定ながらも幼馴染を助けたいという想いが、読者を惹きこむ内容です。
邦彦は、プロローグで語られているように、幼馴染を救うヒーローになれるのか?
それとも……。
和物の武器、武術で描かれる緊張感ある戦闘シーンも特徴的で、戦いの場面の描写も楽しめます。
2018/12/08時点で七話と、手に取りやすい話数でもあり、是非今後の展開を楽しんでいただきたい作品です。
作品紹介 「ファラオは恋心《きもち》をかくしたいっ!!」 - 作者 安室凛
上の「第4回カクヨムweb小説コンテスト」参加作品から、可愛らしいラブコメ作品をご紹介。
黒土国(ケメト)の女王(ファラオ)アルシノエは、隣国マルトゥから婿にとったティズカールに熱烈に惚れている。
統治者として有能なアルシノエには、凡庸な弟イアフメスがいる。彼は蠍女神(セルケト)にそそのかされ、ティズカールに不穏な企みを抱いているようだ。
その企みから熱愛している夫(ティズカール)を守るため、アルシノエは夫への様々な情熱を抑え、イフアメスが他国へ婿入りする日まで警戒を怠らないよう努めている。
内心は、夫と猛烈にイチャイチャしたくてたまらないアルシノエ。
弱小国からの婿という難しい立場でありながら、妻のアルシノエと良い夫婦になろうと苦心するティズカール。
そして、彼らを取り巻く愉快な神様達。
愛らしく個性的な登場人物が物語を進めていきます。
アルシノエとティズカールは、イアフメスの企みに負けずに幸せな夫婦になれるのか?
アルシノエは、その悶々とした情を解放できる日が来るのか?
読みやすく、テンポ良く進むストーリーを、登場人物の誰かに感情移入させて楽しめる作品です。
当エントリは、第2章が始まったばかりで書いていますが、ここまででもアルシノエの可愛らしさ、夫婦の距離感に悩む二人の焦れったさを十分に堪能しています。
アルシノエとティズカールだけでなく、古代エジプトの神々も面白く描かれている。
幸せを掴もうと悩む二人、迫るトラブル、個性的な周辺人物たちと、ラブコメを楽しむ要素がしっかりと盛り込まれている作品です。
また、一話あたり3000字程度と、スマホで読むのも楽な文字数ですので、移動中などのちょっとした空き時間に読むのも苦になりません。
愛らしく不器用な夫婦の行き先を、是非、追いかけていただきたい作品です。