ピューマ哀歌(エレジー)

小学生というものは、何処までも呆れるくらい純粋で、その単純機械のような純粋さで、時にトンボの羽を毟ろうとして、本体を真っ二つに裂いてしまう生き物である。

そんな小学生の直情、短絡的な行動原理に基づいた無邪気に人を傷つける行為は、「あだ名」に集約されていたかに思われる。
顔が四角くて、テンパだった女の子はクラスの悪ガキに「ペヤング」というあだ名が付けられていたが、此れなどは、今思えば彼女の人格形成に深刻な影響を与えたかも知れない。

そんな即効直球ど真ん中ネーミングの犠牲者が居た。
私の小学生時代のオフィシャルな格好はジャージであったのだが、このジャージ、油断をすると「おかん」が高確率で偽者を購入してしまうのである。

(例)
 アディダス→アディオス
 スーパースター→スペース・スター
 プーマ→ピューマ

全く、今もってもそういうのが何処で売っているのか不思議なほど、おかん達は微妙な偽ブランドを持ってくる訳であった。
当時のクラスの中には、純正派が台頭していたこともあり、この偽ブランドや訳の分からんメーカーのジャージの持ち主は、粛清の対象となっていた。

そんな中、「ピューマ」を着てしまった者が居たのである。
それはプーマと比べると、全体的に細かったり、尻尾の向きがおかしかったりする、紛れもない「おかんジャージのピューマ」であった。
しかしながら、このピューマジャージの悲劇は、その持ち主の名前が「星」だったことに極まれる。

「星ピューマ」

魑魅魍魎うずまく小学生の脳髄に、この間抜けな語感は十分すぎるほど響いた。
かくして、ドッヂボールの達人だった星君は、真正の「アディダス帽」を被り、キャプテン翼の若林君を気取るまでの1年間はこの不名誉な名前をいただき続けたのであった。

実に20年近い歳月を経て、このネット上に本名を晒された星君は、昨今のコピー商品の蔓延を訴える格好のキャラになれば良いと思ったが、良く考えたら「偽者、かっこ悪い」と云う人間が「星ピューマ」であったら、お前がコピーやんけという誹りを免れず、結局、星君は何で本名をさらされたのかということになり、此処に世の中に数多ある哀歌が一つ増えることとなるのである。

神は、我々を人間にするために、何らかの欠点を与える。
シェークスピア