とあるSaaSにおける「価値共創」の実践について
こんにちは、id:sugiyama88 です。
この記事は「はてなディレクターアドベントカレンダー2016」の14日目で、昨日は id:jusei による「あなたが、世の中で初めてやったことはなんですか?」でした。
はじめに
私ははてなで、SaaS型サーバー監視サービスMackerelのプロデューサー(事業責任者)をしており、顧客との「価値共創」理念を念頭におきながら様々な施策を実践しています。 本エントリーでは「価値共創」にまつわるフレームワークを紹介しつつ、Mackerelのサービスに当てはめながら解説を進めていきます。
サービスを通して顧客が手にする本質的な価値とは何か?「価値共創」という考え方は、様々なサービスのプロデュースやディレクションにおいて、普遍的であり汎用的な概念ですので、少しでも多くの方々の役立ちになれば幸いです。
「価値共創」に関するフレームワーク
従来からの考え方では、価値は企業が顧客に作って提供するという形であり、これはモノを起点とした「グッズ・ドミナント・ロジック」(G-Dロジック)と呼ばれています。 G-Dロジックでは、企業活動の目的が「交換価値」(value in exchange)の最大化となるため、価値の生産と消費が分離される特性を持つことになります。
サービス全盛の時代に、この考え方は実態にそぐわないと考えられ始めました。
そして、対象的な考え方として「サービス・ドミナント・ロジック」(S−Dロジック)が生まれることになります。 S-Dロジックでは、サービスとモノを包括的に捉え、価値は企業と顧客が共に創造する(co-creation of value)ものであると位置づけられています。
この考え方に基づくと、企業活動の目的は「交換価値」(value in exchange)に加えて「使用価値」(value in use)の最大化も含む形となります。 また、効率化を促進するためのナレッジやスキル(オペラント資源)を提供し交換することが、本質的に重要であると定義されています。
S−Dロジックは、SaaSビジネスを展開する上で重要な示唆に富んでおり、ガイドラインとして大いに役立つものであると考えています。
S−Dロジックの公理と基本的な前提(FP)
サービス・ドミナント・ロジック(S−Dロジック)は、5つの公理(11の基本的な前提)からなるサービスやマーケティング観点のマインドセットでありフレームワークです。
公理 | FP | ||
---|---|---|---|
1 | 1 | サービスが交換の基本的基盤である | Service is the fundamental basis of exchange. |
- | 2 | 間接的交換は交換の基本的基盤を見えなくしてしまう | Indirect exchange masks the fundamental basis of exchange. |
- | 3 | モノはサービス提供のための伝達手段である | Goods are a distribution mechanism for service provision. |
- | 4 | オペラント資源が戦略ベネフィットの基本的源泉である | Operant resources are the fundamental source of strategic benefit. |
- | 5 | すべての経済はサービス経済である | All economies are service economies. |
2 | 6 | 価値は受容者(顧客)を含む複数のアクターによって常に共創される | Value is cocreated by multiple actors, always including the beneficiary. |
- | 7 | アクターは価値を提供することは出来ず、価値提案しか出来ない | Actors cannot deliver value but can participate in the creation and offering of value propositions. |
- | 8 | サービス中心の考え方はもともと受容者思考的であり関係的である | A service-centered view is inherently customer oriente d and relational. |
3 | 9 | 全ての経済的及び社会的アクターが資源統合者である | All social and economic actors are resource integrators. |
4 | 10 | 価値は常に受益者によって一意に、かつ現象的に判断される | Value is always uniquely and phenomenologically determined by the beneficiary. |
5 | 11 | 価値共創はアクターが創造した機関や制度上の取り決めによって調整される | Value cocreation is coordinated through actor-generated institutions and institutional arrangements. |
- S-Dロジックのより詳細な解説は書籍や専門の論文などを参照して下さい
- Wikipedia Service-dominant logic
- Evolving to a New Dominant Logic for Marketing Stephen L. Vargo & Robert F. Lusch
- 参考書籍
Service-Dominant Logic: Premises, Perspectives, Possibilities
- 作者: Robert F. Lusch,Stephen L. Vargo
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2014/01/30
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: R.F.ラッシュ,S.L.バーゴ,Robert F. Lusch,Stephen L. Vargo,井上崇通
- 出版社/メーカー: 同文舘出版
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: 単行本
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「価値共創」の実践について
監視サービスという属性からは、未然に障害を予測して対処することでビジネスの機会損失を排除したり、リソース状況を正しく把握することでコスト削減をはかったりすることが顧客との分かりやすい「価値共創」となります。 今回は特に重要と考えるFPに関して、Mackerelで実践している「価値共創」へつながるポイントや施策などを紹介していきます。
FP4:「オペラント資源(無形のナレッジやスキルのこと)が戦略ベネフィットの基本的源泉である」
- Mackerelは、10年以上もの長きにわたり、先進的なインフラを持つはてなの大規模なサーバー管理システムとして鍛え上げてきた仕組みです
- はてなは早くから"Infrastructure as Code"に取り組み、Mackerelを中軸に様々な効率化を実現してきました
- サービスの提供と併せて、これらの知見やスキルも同時に提供できることがMackerelの強みであります
- 公式イベントでの顧客事例紹介やハンズオン
- 公式Mackerelブログでのユースケース公開
- Mackerel UserGroupでの顧客間での知見交換
FP6:「価値は受容者(顧客)を含む複数のアクターによって常に共創される」
FP7:「アクターは価値を提供することは出来ず、価値提案しか出来ない」
FP 10:「価値は常に受益者によって一意に、かつ現象的に判断される」
- 顧客毎に求める価値は千差万別であるが、正しく効率的なベストプラクティスを多く提供していくことが重要です
- 多くのフィードバックを集めることで、より多くの顧客に存在する課題を解決できる可能性を少しでも広げるようにしています
最後に
今後も「価値共創」の理念を大切にし、顧客と共に価値を創造しやすいサービスを提供していきますので、ぜひご期待下さい!
明日はMackerelチームのディレクターである id:Songmu の出番です。お楽しみに。