まちこの読書感想文

日々読んでいる本の読書感想文です。

愛と哀しみのルフラン/岩谷時子

恋人でも家族でもない人に捧げる最大の愛

f:id:swear505:20180529121214j:image

 

 本を読もうと思った経緯

2018年の1月からテレビ朝日系列で放送されていた

越路吹雪物語」を最初から最後までめちゃくちゃ楽しんで視聴した。

ドラマを1話から最終話まで見たのはいつくらいぶりだろう。

そのくらいハマって毎回楽しみにしていた。

 

ドラマの詳細は割愛するとして、、、

内容を簡単に説明すると、

戦前から宝塚歌劇団で活躍していたタカラジェンヌ越路吹雪と、

いろいろな経緯から、越路吹雪の生涯の友として一緒に生きた

岩谷時子の二人の物語。

 

越路吹雪はもちろん有名ですごい人なんだけれども、

この岩谷時子さんて人がとにかくすごい。

そこでこのドラマの原作というかエッセンスの一つとなった

岩谷時子著「愛と哀しみのルフラン」を読んでみたいと思った。

しかし、本の説明をする前にこの岩谷時子さんがどんな人なのか

まずは著者の説明をしようと思う。

 

2つの顔

幼少期から宝塚好きな母に連れられ

生粋の宝塚好きとして育った岩谷時子は、

女学校を卒業した後

宝塚が発行している雑誌「歌劇」「宝塚グラフ」の編集員となる。

その際にまだ若手だった越路吹雪と出会い意気投合し友人となった。

その後、越路吹雪が東京進出の際にお目付け役?マネージャー?として

一緒に上京し、以後ずっと越路吹雪のマネージャーとなる。

 

これが一つの顔。

 

もう一つの顔は作詞家・訳詞家。

越路吹雪の代表曲とされる「愛の讃歌」。

これは、フランスの歌手エディット・ピアフの歌だったため

当たり前だがフランス語の歌詞だった。

それを日本語に翻訳したのが岩谷時子

でも当時はそんなおおげさな話ではなくて、、、

訳詞を誰かに頼むとお金がかかるから自分でやってしまえ。

ということだったらしい。

その後も越路吹雪はじめ、たくさんの人に歌詞を提供することになる。

 

元々雑誌の編集部員として記事を書いていたり、

女学校校では外国語を学んでいたりと

そもそも「物を書く」素質があったから出来たことだとは思う。

 

しかし、その歌のラインナップがすごい。

アラフォーの私でさえリアルタイムではないにも関わらず、

知っている歌がたくさんある。

恋のバカンスザ・ピーナッツ

・君といつまでも(加山雄三

恋の季節ピンキーとキラーズ

・男の子女の子(郷ひろみ

などなどこれでもものすごーーーく一部。

 

他にも有名ミュージカルの訳詞などを多く手がけている。

 

そもそもルフランとは?

ようやく、本の感想に入ろうと思う。

この本は越路吹雪が亡くなった1980年から2年後の1982年に発行されている。

だから、この本を書いたときは、

越路吹雪の不在を受け入れつつも、

まだ気持ちの整理が出来ていないような状況だったのだと思う。

 

最初の章のタイトルは

「誰もいない誕生日」である。

これは岩谷時子の誕生日のことではなく、

越路吹雪の誕生日のことだ。

毎年、越路の誕生日には親しい友人たちがたくさん集まり、

豪華なご馳走が用意され、たいそう賑わっていたそうだ。

しかし、主人がいない今年(おそらく1981年の誕生日)は

誰もいない。

 

楽しかった越路吹雪との当時の思い出の日々と、

越路不在の今を憂いた内容である。

(基本的にこの本は全編に渡ってその内容ではある)

 

そもそもタイトルの「ルフラン」てなんだろう。

と思って調べてみたところ、

英語で言うと「リフレイン」。

日本語だと「繰り返す」という意味らしい。

 

つまりこの本は

愛(越路吹雪存命時の思い出)と

哀しみ(越路吹雪への喪失感)が

繰り返されている自分の気持ちを綴ったエッセイなのである。

 

突然の坂東玉三郎にしびれる

上記にしたように、大部分が在りし日の越路吹雪との思い出を綴った内容で、

おそらく当時は誰も知らなかった越路吹雪の舞台裏などが垣間見れて

とても面白い。

 

が、私としては特に面白く読んだのは

五代目坂東玉三郎の若かりし頃のエピソード。

 

この本には越路吹雪の他に

わざわざ章立て個人について書いている人が3人いる

作曲家のいずみたく

歌手の加山雄三

そして歌舞伎女形坂東玉三郎である。

 

歌舞伎界に明るくない私でも知っているほど、

現在でも坂東玉三郎は有名女形として活躍されているが、

この本には21歳頃の話が書かれている。

その時のことを岩谷時子はこう書いている

 

お化粧を落として詰襟の黒い服を着た玉三郎さんは汚れなき少年の風情だった。

ポリドールのタニさんとディレクターはレコーディングが終わっても「彼は十七歳」と思い込んでいたほどである。

 

今でも柔らかな雰囲気の方だけれど、若い頃はどれだけ美しかったのだろう。

21歳といえば、男性はもうとっくに”男”になっているはずだが、

それにしもまだ少年の雰囲気を持つほど中性的だったのだ。

ちなみに、「坂東玉三郎 マクベス」で画像検索してみてほしい。

そこには女性の私でも到底太刀打ち出来ない、素晴らしく美しいマクベス夫人の写真が出てくるはずだ。

 

また、同じく坂東玉三郎のエピソードとして

こんなことも書いている。

舞台上ではよく人が殺されたり殺したりするもので、舞台役者はそういったことに慣れているような気がしてしまう。

しかし、玉三郎は地方公演などでホテルに宿泊の際は一人が怖くてお弟子さんと一緒に眠っているらしい。

 

それが不思議な岩谷時子は聞いてみた

 

「どうして怖いの?子供のときから 舞台で殺されたり殺したり、さんざんしてるのに」

「だから怖いんだよ、殺される怖さを知ってるからだよ」

 

しびれる回答!!

さすがにこの回答は21歳の時のものではないと思うが

(それにしてもこの本が書かれたのが1981年頃と推測すると、坂東玉三郎はまだ30歳以下だったはず)

この本はエッセイで、出てくる話は現実の人たちの会話なのに、

こんな小説のような会話をしているなんて!

舞台上で本当に生きて、本当に死んだ人でないと出てこないセリフだと思う。

 

岩谷時子坂東玉三郎をこう総評している。

 

玉三郎さんには、泉鏡花久保田万太郎の世界がよく似合う。女の哀しさ妖しさを女以上に表現できる人である。

傲慢な女、意地に生きる女、男のために死ぬ女、そして、お化けもいい。

 

越路吹雪一辺倒の内容であると思って読んでいた中に、

急に若かりし頃の妖艶な坂東玉三郎のエピソードが盛り込まれていて

一気に想像力が掻き立てられた。

 

愛の大きさ

この本を読んで見えてくるのは

越路吹雪岩谷時子の性格の真逆さ。

 

越路吹雪は自由で自分の思う通りに生きている。

その反面、気弱で時子の前では弱音を多く吐く。

 

岩谷時子は内向的で自分に自信がないように見える。

だが、自分の思うことは頑として押し通す。

 

そんな間柄だったようだ。

 

それを象徴するエピソードとして有名なのが

時子が越路からマネージャーとしての給料をもらっていなかったことだと思う。

 

当初は宝塚の社員として越路のマネージャーをしていたので

宝塚から給料をもらっていたようだが、

越路がフリーになってからは

マネージャーとしての給料はもらっていなかったそうだ。

それも越路は支払うと言っていたのを

作詞家の収入だけでなんとかなるから大丈夫。

とずっと断っていたらしい。

 

自分に置き換えてそれが出来るか・・・と考えるが

やっぱり難しい・・・

たとえ自分の夫や家族のマネージャーをすることにしても、

自分が他の仕事をやっているうえでさらにその業務をするとなると、

あまりに自分の負荷が大きすぎて何かしらの対価を欲しくなる。

または無給でやっている仕事のほうが疎かになってしまいそうだ。

 

しかし、時子は越路吹雪のマネージャー業が一番。

二番に作詞家として仕事をこなしていたらしい。

その原動力がなんだったのか、、、

やっぱり「愛」だったのかな…

それも並大抵の「愛」ではないはずだ。

 

時子は生涯独身で通した。

時子の「愛」は越路吹雪に捧げることで使い切ってしまったのかもしれない。

 

 最後に

実はまだまだ書きたいことがたくさんあるが、

あまりに長くなってしまいそうなのでこの辺で止めておく。

 

この本で他にも心に残っているエピソードは

・戦前戦中戦後の宝塚の様子

越路吹雪死後の親族からの金銭横領疑い

・戦後復興期の芸能界の様子

・母親の介護と看取ったときの気持ち

 

また、この本は本屋で探したけれど在庫が見つからず、

図書館で予約して(書架にあった)ようやく読めたもので、

手元には置いておけない。

だから、また読みたくなってしまっても

簡単には読み返せない。

それがとても残念に思えるほどに考えさせられる面白い本だった・

 

 

 

 

はじめまして

はじめまして

まちこ、と申します。

 

小さい頃から読書が好きで

興味赴くままに読み散らかしてきました。

ですが、過去に読んだ本の内容をまったく思い出せず、

再読することも多くなってきました。

 

ちょっと前まではそれでも良かったのですが、

アラフォーになり、

日本人女性の平均寿命から考えるに

人生の折り返し地点も近くなって、

このまま同じ本ばかりを読んでいたら

新しい本との出会いが少なくなってしまうぞ!

と、危機感を感じるようになってきました。

 

そこで、読んだ本を記録する(読書感想文を書く)ことで

本の内容を覚えていこうと思いたち、

このブログを立ち上げることにしました。

 

読んだ本の内容を覚えていない貧弱な記憶力を嘆く気持ちもありますが・・・

まずは読書感想文続けていきたいと思います。

 

どうぞよろしくお願いいたします。