ケーキについて
クリスマスイブ。
友達の家でクリスマスパーティーをした。スーパーで買い物をして、晩ご飯を作って食べるだけのささやかなパーティー。
あまりにもささやかだったので、もう少しクリスマスらしい雰囲気を味わおうよと、2人でケーキ屋さんまでケーキを買いに行った。バスに乗ってブーンと行った。
バスを降りて角を曲がるとすぐ、キラキラと光る小さな建物が視界に飛び込んできた。ケーキ屋さんのイルミネーションだ。
綺麗だけれど、暗い通りには少し不釣り合いに見えるな。でもそうか、今日はケーキ屋さんが1年で1番輝く日だもんな。
そう考えると、なんだか急に愛しく思えた。
お店のショーケースには小さなケーキがちょこんと行儀よく並んでいて、私が扉をくぐるや否や、僕を買って!私を食べて!と言わんばかりに、みんなしてじっとこちらを見つめてくる。
なんて可愛いんだろう。
仕方ないから食べてやるよ。
さあショーケースから出てこい。
…出てこない。
さんざん待ったけれど誰も出てこないようなので、迷ったあげく、私は雪のように真っ白なフロマージュケーキを選んでお金を払った。
食べて欲しそうにこちらを見つめてきたのはケーキの方なのに、私が選んで私がお金を払わなければならないなんておかしな話だ。
そんな冗談はさておき、イブの夜にバスに乗ってわざわざ買いに行ったケーキは、なんだかすごく特別な味がしたのだった。
ーーー
思い返せば、私がケーキを食べるのはいつも特別な瞬間だったように思う。
甘ったるい生クリームが苦手な私は、食べられるケーキの種類が限られているのだけれど、幼いころは周りだけそれっぽくデコレーションされたアイスクリームケーキで雰囲気を味わったりしていた。
小学校に入学するときには、親戚のおばさんが入学のお祝いにと、本の形をした大きくてスタイリッシュなケーキを買ってきてくれて、「ケーキは丸くなくてもいいんだ」と衝撃を受けたのを今でも覚えている。
極め付けは高校生のころ。誕生日などの特別な日に決まって友達が、私の大好きなふわふわのシフォンケーキを焼いてきてくれた。本当にほっぺたが落ちそうなくらい美味しいので、彼女がお店を出す日がいつかきて欲しいと、今でも密かに期待している。
そんなふうに、私にとってケーキは、特別なときにふさわしい特別なものだった。
…いや、でもちょっと待てよ。本当にそれだけだっただろうか。
そういえば何でもない平日にレストランで食事をしたとき、デザートにバニラアイスの添えられた小さなガトーショコラを頼んでいたような気がする。
そういえば何でもない休日に母と出かけたとき、足が疲れたことを口実にカフェに入り、チーズケーキをむしゃむしゃ食べていたような気がしないこともない。
そう考えてみると、ケーキは私にとって、ありふれた日常に特別な瞬間をもたらしてくれるものでもあったかもしれない。
遠いようで身近な存在。
それがケーキだったのだ。
ーーー
一人暮らしを始めてから、ケーキを口にする機会がめっきり減ってしまった。
20歳を過ぎてわざわざ誕生日にケーキを買って食べるなんて、なんだか滑稽な気がするし。
外食をするにしても、デザートにケーキを注文するほどお金に余裕がない。
そうやってなんだかんだと言い訳をして、ケーキを食べたい気持ちから目を逸らしていた。ケーキを食べるべき大切な一瞬を、みすみす見逃してしまっていたのだ。
私にはもうサンタさんはこない。誕生日だって、だんだん嬉しくなくなっていくだろう。
でも、だからこそケーキを食べればいいんじゃないか。1人でもいい。いくつになってもいい。ケーキを食べたいと思う瞬間こそ、ケーキを食べるべき瞬間なのだから。
そんなこんなで私が星に願うのは、「来年も美味しいケーキが食べられますように」。
メリークリスマス