sagosago blog

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職場で女性にのみパンプスを強要することは性差別なのか?

「動きにくいパンプスを女性にのみ強制するのは女性差別だ」

「男だって革靴で動きにくい!!女性が抱く不満を何でも差別と謳うな」 

このような意見の飛び交いをSNS上で見つけた。

 

 

 2019年6月に日本で「#KuToo」という言葉を持って、職場で女性がハイヒールやパンプスといった靴を着用することを強要することに対して異議を唱える動きがあった。俳優の石川優美さん(当時32歳)を中心に当件に関して改善を求めるネット著名が厚生労働省に提出した。彼女らが開催した集会では、「健康上や事故のリスクを高めるこが科学的に実証されているものを習慣として強要されることはおかしい」「社会通念を前提としている限り、社会は変わらない。おかしな社会通念は変えていかなければならない」といった声が挙がった(*1)。彼女らの意見には理解できる部分が多くあり、僕自身もこのような動きは必要だと考える。

 

 

 しかし、彼女の主張の中で僕自身がすぐに納得できなかったものが1つあった。それは「ヒール着用強要は性差別である」という主張である。この主張に対しては、女性差別ではないという意見もSNSを中心に伺え、僕自身もすぐに女性差別に当たるか否かは結論付けることが出来なかった。結論から述べると、自身の中で整理することで主張を解釈した。今回は、その思考整理プロセスに関して述べる。

 

 

 

 そもそも性差別とは何だろうか。簡易的に調べると「性別を理由とした差別」という説明を発見したが、これでは曖昧な部分があるため、ここでは「性別という理由のみで一方が利益または不利益を被ること」とする。

 

 いくつか例を挙げて考えてみる。会社で職位・勤務時間・成果が全く同じのある男女2人が勤めているにも関わらず、男性の方が女性よりも給与が高いケースがあったとする。これは性差別にあたるだろうか。会社から給与を受け取るに重要な事実として、「労働契約に基づき労働者の労務に対して使用者は賃金を支払うこと」である。そこに性別の差は重要でなく、労働者の労務が重要とされる。したがってこのケースは、職位や勤務時間、成果(総合的に労務と考える)が全く同じにも関わらず、男女の違いという性別の理由のみで一方に利益(不利益)を被らせる状態といえ、性差別に該当するといえる(実際は手当等で給与差が生じ得るが、今回は基本給に絞って考えた)。

 

 

 パンプス強要は性差別に当たるか考えるにあたり、まずパンプス強要の背景を確認した。その背景には、職場・職務に適した服装が好まれる環境が影響している。パンプスを着用するようなフォーマルといわれる服装は、成り立ちは諸説あるが、日々の歴史の中で少しずつ成り立ってきたもので、場面や状況に応じて「この服装ならふさわしいだろう」と人々が感じてきたものが形になったものである。もてなす心や敬意の心、また、慈しみの心などを服装で表そうとした、昔の人々の知恵が詰まった結果といえる(*2)。会社が女性社員にパンプスを強制する理由の一つには、特にサービス業では顕著だが、顧客や業務に関わる人々に誠実さ、尊敬を服装で間接的に伝えることがある。保守的な表現で言い換えれば、「服装で失礼がないように気を配る」ことを指す。

 

 

 企業側は場や状況に不適切と相手に思われ、取引や契約に不都合が生じることはリスクとして捉えるため、そのリスク排除の策として、男性ではスーツやネクタイ、女性ではパンプスといったフォーマルな服装を社則として強制している所もあるだろう。それに関して彼女らは、男性は平らな革靴であるのに対して、健康上や事故のリスクが革靴によりも高いパンプスを女性にのみ強制するのは性差別であると主張している。パンプスやハイヒールを履く現代のメリットとしては、足元のファッションを際立たせるほかに目立ったものはなく、デメリットとしては、不安定性、事故リスク増加、健康上の問題の誘発など様々存在する。つまり、企業側のリスク回避のために、女性にのみデメリットの多い靴を強制している状況にある。さらに、女性がパンプスから男性同様の革靴に着用変更させた際のリスクが定量化された資料も確認できない。以上から、パンプスを着用しない際に生じるリスクが不明瞭な状態で合理的な理由がなく、女性という性別のみでデメリットの高い靴を強いられることは、性差別に該当するといえる。

 

 

 パンプスからより機能的な靴にシフトする見込みはハイヒールの歴史が物語っている。ハイヒール誕生は紀元前400年のアテネに遡るが、17世紀ごろではルイ14世をはじめとして男性もハイヒールを愛用していた。その後のナポレオン戦争で男性が国民軍として参加するにあたり、戦場を駆けるのに機能的な靴を選択するようになり、現代のハイヒールは女性を象徴するものへと変化した。ここから、合理的な理由があれば機能的な靴にシフトする見込みは十分あるということが言える。

 

 

 これまでで、彼女らの主張が妥当であることが理解できたが、世間では反論も少なからず存在する。しかし、彼女らの主張に対して論点をズラしたものが数多くみられる。例えば、「そんなに履きたくなければ、履かない職場を選択すればいい」という批判がある。「不利益を被る社会的習慣を改善したい」という主張の反論としては、「不利益を被る」という部分を反論するか、「社会的習慣の改善」という部分を反論するかの二択になるはずだが、この批判は「不利益を被る社会的習慣を避けて生きるべき」と論じており、彼女らの意見が正当なものかどうかに関しては言及していない。このようなものは、よく“階層がズレた反論”と呼んでいる。

 

 

 最後に彼女らの主張が通る具体策を考えた。もう一度整理すると、彼女らの主張は「女性にだけ不利益が大きいの靴の着用を強要するのは間違っている」と纏められる。 大きく分けて方針は以下の三つになる。

 

①不利益の度合いを女性側に合わせる。

例:男性にもパンプス同等の不利益を被る靴の着用を強要する。

②不利益の度合いを男性側に合わせる。

例:女性にも平底の革靴の着用を許可する。

③男女ともに不利益を解消する。

例:男女ともにスニーカーのような機能的な靴に変更する。

 

 ①は性差別の解消にはなるが、言うまでもなく不利益の根本的解決にはなっていないため、適切でない。②と③に関しては、②が直近での改善策、③が将来的な方向性と考える。人々の価値観をすぐに変えることは難しい。例えば、いくら制度で職務における服装にスニーカーが許可されても、サービス業(特に飛行機のファーストクラスなどの接客も重要なサービスの一つに含まれるもの)で着用されたら、フォーマルでなくラフなスタイルの接客に快く思わない人が現れてもおかしくない。②でも「女性が平底の革靴なんて…」と思う人が一定数存在すると思われ、価値観を変えるという点では②と③は近いため、思い切って③から取り組んでもいいかもしれない。

 

 

 不便や根拠のない慣習を改善して働きやすい環境を作ろうとすることは間違っていない。彼女らの運動を機に、少しでも多くの人が心地よく、効率的に働ける環境が男女ともに広がることを願う。

 

 

*1: “職場でのパンプス強要にNO #KuToo俳優らが集会”, 朝日新聞DIGITAL 2019年6月11日記事より引用

*2: “フォーマルとは何か、考えたことはありますか?世界共通のフォーマルの定義から、日本のブライダル特有のフォーマルまでご紹介。”, ブライダルステージ花みやび 2015年9月3日 ドレススタッフブログより引用