近頃日本の政経関連の新書をいくつか読んでいて大変なやましいこととなっています。というのも著者によって評価が大きくわかれる事柄があるからです。それは安倍内閣というよりは安倍晋三元首相の政治的姿勢・思考と民主党政権についてです。
日本デフレ期概略
安倍政権と民主党政権はときに対比されて取り上げられていますが、その評価は著者によってまちまちではあるものの、その可否ははっきりと表明されています。「安倍政権はよかった・民主党政権はわるかった」「安倍政権はわるかった・民主党政権はわるかった」「安倍政権も民主党政権もわるかった」と各著者三様の見解がみられますが「安倍政権も民主党政権もよかった」という意見だけはありません。
こうなってくると政治経済にうといものには混乱をきたすばかりで評価のしようも意見の持ちようも難しくなり、猜疑心ばかりが強まります。
意見の食い違いとともに際立ってくるのが、論拠資料の質量や論証の程度に差はあれど、共通項・共通認識となっているところです。要は各論者の主張の違いにではなく同内容を抽出してみれば、事実とまではいかないまでも的を外しはしないのではないかと思ったのです。
早速、各著者の主張で共通しているところを大まかに抽出してみると…
- バブルがはじける
- 橋本龍太郎政権下の緊縮財政政策より健全財政主義と呼ばれた財政均衡主義が始まり日本の長いデフレ期がスタートする。消費税率を5%へと引き上げる。
- 小泉純一郎内閣の竹中平蔵大臣により基礎的財政収支の健全化(PB黒字化)という思想が持ち込まれる
- 野田佳彦政権下において任期中に首相の財政政策についての思考が突如転向する
- 種々の発言、歳入庁を創設しようとしたり内閣人事局を設置する等々により財務省への抵抗姿勢を見せた安倍晋三政権ではあったけれど第二次安倍内閣において消費税率が8%、後に10%へと引上げられる
- 岸田文雄内閣は安倍さんが矯正しようと試みた財政至上主義からの脱却という路線から脱却して元の歪んだ道へと舗装し直している
…といったところです。
これをさらにざっくり言うと…『緊縮増税路線からデフレ爆誕。PB黒字化思想で拍車をかける。これに並走してきたのが消費税増税』。
財務省+経済学=緊縮増税教→デフレーション
野田さんの思想転向は財務省の洗脳によるもので安倍さんの消費税増税は財務省に抗しきれなかったためだといった主張もちらほらみられました。このようなちらほらのなかでさえ常に現れる「財務省」の三文字。
どうも諸悪の根源は財政均衡主義を信奉しPB黒字化目標を打ち立てて邁進してきた財務省のようです。
本のタイトルでも財務省を批判するものが割と目につきます。
時期や状況におかまいなしに緊縮増税インフレ怖い一辺倒の弾力性のない不気味で独特な経済理論を構築しているようです。
理論や数字を至上として実情や実社会を論拠や根拠薄弱な曖昧で不確かなものだと軽視する本末転倒をみせる頭のよい愚か者となっているようです。
純粋な理論を全うするために現実は外れ値程度に捉えて実験結果を理論に沿うように歪曲または改ざん・捏造しているようなもので、純粋も度が過ぎれば気色悪く純真も行き過ぎれば甚だ迷惑なものです。
日清・日露戦争時の脚気対応のように東大閥のエリート官僚は同じ轍を踏むつもりなのでしょうか。
自国通貨建て国債において(中央銀行に買い取らせればいいだけなので)デフォルトはありえない。これは財務省も海外の格付け会社宛書面においても主張していることで、わかっていてなおPB黒字化を主張するのではただの盲信者なのか工作員なのかわからない。
財務省といっても省内勢力は東京大学法学部卒が握るもので、知縁や学閥で後進を取り立てて盤石の権勢を築いているようです。また緊縮や増税、たとえ世論や国益などに反してはいても省益に適った行いをした者は出世するという歪んだ省内文化があります。
経済学部出身だからといって経済通であるとは限らず、また反対に専門教育を受けていなくとも経済感覚の鋭敏であった先人もいたのですから「法学部卒の経済素人」という誹りは一概には言えないと思います。
しかし、財務省批判や糾弾する声を天下りや財務省外局の国税庁、そしてまたその管轄下にある国税局、税務署を通してメディア等に婉曲な圧力をかけて思想統制に及ぶのであれば単なる狂信者にすぎないでしょう。
新自由主義やPB黒字化などの理論や思想を至上のものとして盲信する姿勢はもはや狂信者。しかしていくつかの経済理論・思想は確立された学問や科学でも対応策や処方箋を示すことがないばかりか毒となり、反面、信者にだけは救いの光とみえる宗教となっています。この点が宗教なのです。もはや経済学ではありません。
過度な円安では日本企業が安く買い叩かれてしまいます。安く買い叩かれることも問題ですが買い尽されてしまうことが問題の本質です。安く買い取らせて国力の低下を図る行いは売国に等しい。自分たちだけがよければよいというのは行き過ぎた個人主義ですし、新自由主義の教理に任せているというのでは責任転嫁した放任主義か一周回って思考停止した教条主義といったところでしょう。
自分たちの生活には変わりがない(ばかりかむしろ地位がやや下がるため)から単に想像できない・しないためにわからないのか、新自由主義や財政均衡主義の熱烈信奉者なのか、徴税を国民支配の道具とするために意図的にPB黒字化を唱道しているのか、純朴無関心なclownなのか純真狂信クラウンなのか権謀術数crownなのか、はたまたその複雑複合共存組織なのか、極めてかしこ集団であるがゆえに真相は闇の中。
道路族や自民一党優位も財務省一強に比べれば多少はましなのではないかと思わされました。もうこうなると誰の発言も鵜呑みにはできなくなってきます。「財政の健全化」という言葉も素直に聞けば今はPB黒字化のことを言っているのですが、穿ってみれば「PB黒字化なんてものはある程度無視して実社会の状況を鑑みて健常な経済政策を行う」と明言してしまっては財務省に目をつけられて危ういので首相就任までは濁した言い方をしているのかもしれないと考えてしまいます。
強権盤石な財務省一強体制に対して国民ができることは財務省を不人気職へと世の雰囲気なんかで貶めてその力を削いでゆくぐらいのものではないでしょうか。そのためにはまずは”知る”ことなのでしょうが、それがまたむずかしい。
論拠も筋も資料もみやすかったのがこちらです。
本書では他にもこのような興味深いこともいわれています。
- 少子高齢化社会において若者四人で一人の高齢者を支えるというのは介護費用の負担といったお金の問題ではなく実際にケアする、介護にかかわる人員の問題なのだ。
- 消費税は間接税ではなく第二の法人税ないし付加価値税であるがゆえに直接税である。
- 国債(国庫債券)の償還ルールを設けているのは日本ぐらいのものだ。