Stackin' Higher

ウォーゲーム成分入り雑記

GCACW Series Rules v1.3 → v1.4 変更点まとめ

mmpgamers.com

 Hood Strikes North のリリースとともにシリーズルールが改版、v1.4 となり pdf 版も MMP 公式サイトにしっかりアップロードされてたいへんめでたいので v1.3 からの変更点をまとめる。いつもの新モジュール対応、プレイ例の追加(盤面図を掲載するのは基本ルールが標準化されてからはじめてのこと?)や明確化に加え、いくつかなされた変更・追加については以下赤字で示す。もともと差分の分かりやすい体裁のルールブックだけれど、目を通す時間が惜しいとか、「そういえば GCACW、また Lee がナーフされたらしいっスね」みたいなゲーマー同士の会話のネタを探している方はご参考までに。まちがいがあったらごめんなさい。



1.0 INTRODUCTION

・シリーズ一覧に Hood Strikes North (HSN) を追加

2.0 BASIC GAME CONCEPTS

INFORMATIONAL MARKERS
・最大 Manpower Value 表に HSN (11) を追加

2.3 THE MAP

MAJOR TERRAIN
・同一ヘクスに複数地形が描かれている場合の扱いを変更
 v1.3:地形効果表上で最後に定義されている方の地形を採用
 v1.4:シンボルが支配的な(predominant)方の地形を採用

SAMPLE UNITS - MILITARY UNIT (ARTILLERY)
・Tactical Value のカッコ書きの意味を追記

2.5 COMMAND RADIUS

・Command Radius は Restricted ZOCs も通せないことを明記

5.0 ACTIONS

5.1 MARCH

FORCE MARCH
・Wagon は Force March 不可であることを追記
・歩兵の Force March 修整前 dr = 6 のときに損失する MV 数を変更:
 v1.3:つねに 2 MV 損失
 v1.4:現在の MV が 6 以上のとき 2 MV 損失、6 未満のとき 1 MV 損失

5.2 ACTIVATE LEADER

・Leader の transfer と attachment に関する記述を修正

5.5 ENTRENCHMENT

WHO MAY ENTRENCH
・Entrench 可能なユニットの記述を修正

6.0 MARCH AND MOVEMENT

6.2 RULES OF MOVEMENT

Enter Friendly-Occupied Hex
・Wagon も本ルールの適用範囲内であることを明記
・追加 MP は累積しないことを明記

6.3 LEADER MOVEMENT

・全体的に表現を修正
・Leaders and Combat という項を追加
LEADER TRANSFER - Army and District Leaders
・同一ヘクスに複数の麾下歩兵ユニットが存在する場合に関する記述を修正
5.2 項および 6.3 項の修正とあわせ、Leader の位置の扱いについてより厳密な定義を試みているもよう

7.0 COMBAT

7.1 ATTACKS

GRAND ASSAULT
・Assault を成功させた District Leader が Grand Assault も試みられることを明記
・Grand Assault を試みるための要件を追加(AGA, SIV 除く):
 Assault を成功させたユニットの合計 Combat Value = 3 以上

・モジュールごとに Grand Assault に参加できるユニットの制限がありうるという注釈を追記

7.4 COMBAT DIE ROLL MODIFIERS

ARTILLERY MODIFIER
・Entrenchment による防御側 Artillery Value の端数は切り上げると明記
・負の DRM の絶対値は防御側 Artillery Value の額面値にキャップされるように変更:
 額面 Artillery Value = 1 のとき、-2 DRM は -1 DRM へ変換
 額面 Artillery Value = 2 のとき、-3 DRM は -2 DRM へ変換

LEE (NOT IN RTG)
・Lee の Assault ボーナスは 1 ターンあたり 1 個軍団のみ対象にできるように変更
 Assault のダイスを振る前にボーナスを用いるかどうか宣言する
 Assault に失敗しても本制限は有効となる

FLANK ATTACKS
・ヘクスを "cover" できる ZOC について表現を修正
・Final Flank Bonus を求める際の mountain と swamp の扱いについて表現を修正
・ヘクスを "cover" するために必要な 1/4 Combat Value の算出に Entrenchment の効果は含まないことを明記

7.7 CAVALRY RETREAT

PERFORMING A CAVALRY RETREAT
・Cavalry Retreat 中に敵ユニットが占めているヘクスに進入した場合の処理を変更:
 v1.3:除去する
 v1.4:Retreat Priority #5 に則り 3 MV 損失する("Overriding Retreat Priorities" 適用可)

9.0 ENTRENCHMENTS

・Permanent Fort について追記

10.0 BRIDGES, DAMS, AND FERRIES

10.1 PONTOON BRIDGES

CONSTRUCITION DIE ROLL MODIFIERS
・条件文の表現を修正

10.3 REPAIRING PERMANENT BRIDGES AND FERRIES

REPAIR RESTRICTIONS
・Repair を妨げるために必要な Combat Value の算出に Entrenchment の効果は含まないことを明記

Cataclysm | 東海作戦研究会 (2020/10/17)

 先月も東海作戦研究会の土曜例会におじゃました、遠方からお越しになるAMIさんとYENさんとが同会の掲示板で当日プレイするゲームについてすり合わせておられて、しばらくのあいだ「あと1人参加者がいればキャンペーン、そうでなければシナリオを」という状況にあったのだけれど、そのタイトルにふっと触れてみたくなり首をつっこんだ、それというのも GMT Games が2018年に世に放った WW2 戦略級マルチ Cataclysm である、僕はふだん WW2 の戦略級をあんまりプレイしなくて、そこにカテゴライズされるだろう手持ちの作品もウォーゲームをはじめたばかりのころに買ったヒトラー帝国の興亡だけ、というにわかっぷりで、けれどもこの Cataclysm は Web 上の記事を読んだりして発売当時からちょっと気になっていたのだった。
 そういう『ちょっとの気になり』──そのゲームをみずから進んで買ったり遊んだりしてみるほどではなかった規模の『気になり』が満たされる、あるいはもっと大きな『気になり』へ育つというのがウォーゲーマーとウォーゲーマーとが集う場所のあることの僕の幸福の一面だ。僕は根っからのインドア野郎で、生命維持に必要な活動を除き一歩もお外に出ない暮らしをいくらでもつづけられる自信があるけど、非言語コミュニケーションのライブ感が恋しくなるときもあって、とかく人の集まるというのにどうしても諸々の気配りや想定がつきまとう昨今にあってなおこういう場の存続にエネルギーを割いてくださっている方々には頭があがらない。
 ところで Cataclysm である。
 ゲームの概要については、下記のAMIさんの紹介記事に詳しいのでご覧ください:

solger.sblo.jp

 ランダムピックでAMIさんが全体主義陣営(ドイツ、イタリア、日本)、YENさんが共産主義陣営(ソ連)、僕が民主主義陣営(イギリス、フランス、アメリカ)という担当割り当てとなった、粛々とセットアップを進めつつ他のウォーゲームではあんまり目にしない図表類や用語の頻出にわくわくする、と同時にルールブックは当日までに一読したけどそれぞれの要素がどんなふうに絡み、機能するのか想像つかず不安がよぎる(おふたりとも僕にルール上の疑問があればこころよく答えてくださったり一緒にルールブックをあたってくださるのでそういう意味での不安はなかった)。

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 キャンペーンは1933年からはじまる。大戦の火種はすでにそこかしこにあるものの未だ各国かろうじて正気を保っている、けれどもこれが戦争にまつわるゲームであるからには遅かれ早かれ生起する軍事的衝突に備えなくてはいけない……というよりも、そうすること以外の選択肢が、なんにもしないのを除き、もとよりプレイヤーには与えられていない──すなわち僕らが勝利得点を稼ごうとするかぎり cataclysm は確実に世界を席捲する。せつない。

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 国内外へ政治的な働きかけを行うには Flag と呼ばれるリソースを消費する必要がある、ここで「政治的な働きかけ」とはたとえば他国との同盟や宣戦布告による開戦、中小国の支配、自国の Commitment[戦時体制の度合い]を Total War に向けて一段階ずつ上昇させていったり、そうして損なった Stability[政府の安定度]を回復させたりといったアクションを指す、つまりいずれはじまってしまう戦争に備えるにしろ、ついにはじまってしまった戦争を遂行するにしろ、この Flag がなければ話にならない。
 基本的に Flag は1ターンにつき1枚、各勢力へ与えられるが、もちろんこれだけではやりたいことの多さに対してぜんぜん不足で、戦備を推し進める期間においては Provocation[刺激]と呼ばれる現象が主たる Flag 源となる。この Provocation は自分で自分に発生させることはできず、おおむね下記のようなアクションによって敵対勢力を provoke したり敵対勢力に provoke されたりする:

  • 同盟
  • 宣戦布告
  • Commitment の上昇
  • 他国の内戦に対する援助
  • 特定の作戦行動
  • 戦略的奇襲
  • 他国の支配獲得

 きっとお気づきのことと思うけれど、前述の Flag を費やして実行するアクションのほとんどは敵対勢力へ Flag をもたらすのである。また、獲得した Flag はそのターン中に使用できるから、Flag を使っては Flag を与え Flag を使われては Flag を受け取る、という見るからにヤバいやりとりが──いずれかの勢力がどこかで手打ちにしなければ──延々とくりかえされる可能性がある、なんとも地獄なシステムとなっていて、これがとても愚かしくてすばらしい。「軍拡やめてください」「そっちが先に動いたんでしょう」「同盟結んだだけです」「それが脅威なんですよ……あっ、ほら、またウチのシマにちょっかいかけて」──そうこうしているうちにみんな引くに引けなくなってしまい、正気と狂気の境があいまいになって、人類がずるずると二度目の世界大戦へのめり込んでいくという、第1ターンによーいドンでおっぱじめるタイプのゲームにはない平時から戦時のあいだのグラデーションを愉しめる。

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 極細の択をダイスでごり押し、早期に英仏同盟をなしたことによって、両国は着実に戦時体制を整えていく、ただフランスの Commitment を Home Front 判定にマイナス修整を与える Mobilization まで高めたのは失敗だったかもしれない、Effectiveness が最低値の1であることも手伝って、以降、国内の反乱因子にずいぶん手を焼くことになってしまった(ひとたび Commitment を高めるともはや後戻りはできず、総力戦に向かってエスカレートするのみである)。
 ポーランド戦を順当に済ませたドイツは、1941年、奇襲攻撃によって対仏開戦、要塞化されたパリはかわして3つの領地を次々と手中におさめ白旗を上げさせようとする。しかし、フランスの降伏は既定路線であって今後どうして反撃しようか考えながら振った Effectiveness チェック(成功率 1/6)をなんと3回連続でパス、パリ以外の国土をすべて失ってもフランス人はめげなかった。チットのアヤによりドイツがフィニッシュブローを放つ前に増援が到着するという幸運にもめぐまれて、対独戦を乗り切ることに成功したのだった。フランスはのちにもう一度ドイツ軍の猛攻にさらされたが、またしてもサイコロに助けられ土俵際を割らなかった。

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 こう書くと盤面は共産主義と民主主義の覇権争いになっていたようだけれど、実のところ最終盤の1945年まで勝利得点は全体主義がリードしていた、中国に及ぼす日本の影響力の高さや、アメリカがその重い腰を最後まで上げずレンドリースや Flag の供給という裏方に回りつづけていた(僕の手に余ったともいう)ことが要因だ。ゲーム終了が近づき、慌てて、これまで目を向けていなかったポルトガルにつばをつけたり奪われたフランス本土を取り返したりしたあと、いよいよ Ruhr へ踏み込んだ。それに呼応してソ連軍が Silesia を占領すると、ダイス運に見放されてしまったドイツが即座に降伏し、一帯が勝利得点源となった。
 これまで協調路線にあった民主主義陣営と共産主義陣営とは、こうして共通の敵をなくし、直接戦火を交えこそしないが状況はさながらレース・トゥ・ベルリン、戦後の発言権の大小を賭けて焼けただれたパイの奪い合いだ。はたしてチット引きに勝ったソ連は、けれども、ベルリンを守る民兵の意地の抵抗に遭い弾き返される。結局、同都市はどちらの手にも落ちないまま、タイブレークルールで共産主義陣営の勝利となったのだった。

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 発売当時に感じた『気になり』は的中していた。
 戦前から終戦までダイナミックに WW2 を描きながら、プレイヤー全員はじめてのゲームでもキャンペーンを終わらせられるハイ・プレイアビリティ、本文には載せられなかったけれど、どれだけ戦力を集めてもやってみるまで分からない戦闘システムや、各国の行動含めあらゆる出来事を引き起こすチットがひとつのどんぶりにまとめて盛られることによるプランニングの寄る辺なさ、そして史実にコントロールされずいろんなことを試せる自由度の高さ(じっさい、今回のゲームでは日米が戦うことはなかった)がよかった。おなじメンツで再戦しようという話がすぐに持ち上がり、まだちょっと先になりそうだけれど、たのしみにしている。

対戦相手 AMIさんのAAR:
solger.sblo.jp

Ariete - Attack of the 2nd Royal Gloucestershire Hussars (Short Version) | 東海作戦研究会 (2020/09/19)

 先月は東海作戦研究会の土曜例会におじゃました、長い歴史をもつ同会は最近月2回、土曜開催の週と日曜開催の週があり、会場の開館時間の関係で土曜日の方が遅くまで遊べるから「来週は『日曜例会』なんで軽めのタイトルを~」とか「このゲームは『土曜例会』でも終わるかどうか~」といった言い方をする、そういうサークルごとの文化や風習みたいなものを見たり聞いたりするのはたのしい(気安く遠征できない時流になってしまったけれど)。
 プレイしたゲームは Ariete: The Battle of Bir el Gubi, Libya、アレゲなウォーゲームに定評のあるクリエイター集団 The Gamers 擁する Tactical Combat Series (TCS) 最新作である。ここ5年くらい僕は同社の、というより Dean Essig の作品群にのぼせていて、Standard Combat Series (SCS)、Operational Combat Series (OCS)、Battalion Combat Series (BCS)、Line of Battle (LoB) と渡り歩いてきたんだけれどこの TCS だけは現行シリーズの中で唯一未踏だった。とくに食わず嫌いをしていたつもりはなく──以前は頭がこんがらがるから戦術級は Advanced Squad Leader (ASL) に絞る、などと決めていた覚えがある──ただタイミングやノリの問題で、それが新作の発売と、同シリーズを熱心にプレイされているマロンジンさん(ブログ 積読SLGゲーマーの奮闘記 を更新していらっしゃいます)が対戦相手を募っておられたこととによって熟したのだった。
 僕がはじめての TCS ということもあって、もっともお手軽なシナリオ 4.1a Attack of the 2nd Royal Gloucestershire Hussars (Short Version) を選んだ。コマンドルールはもちろん導入。例によって導入せずともゲームシステムは機能するが、

... the Command Rules are one of the main driving elements of TCS games.

なんて Dean が言うなら信者としてはついていくほかない……というのはともかく、Web 上で見かける Op Sheet の見目麗しさにずいぶんぐっときていたのは事実で、あの丸とか矢印とかを自分で描いてみたいという思いが僕に TCS をはじめさせた原動力のひとつだ。

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 攻撃側のイギリス軍を担当した。マロンジンさんのていねいなレクチャーを受けながらまずは Op Sheet をしたためていくとさっそく頭がいい意味でくらくらする感じがした──というのも、このシナリオは Bir el Gubi の戦いの序盤、イタリア軍 132nd Tank Regiment を探して北進していたイギリス軍 2nd Royal Gloucestershire Hussars がその道中に III-8 Bersaglieri と遭遇・交戦したというシチュエーションを再現するもので、マップ北端からの盤外突破に VP を与えるという手法でその事情をカバーしている、しかし突破で得られる点数だけでは勝利条件を満たすには不足で、自軍が被る損害による失点を考慮に入れるとそこそこの数のイタリア軍ステップを奪わなければならず、いきおい「進路上のイタリア軍部隊を撃滅、しかるのち北端を突破」というような命令をこさえてしまいたくなる。けれどもそれは両軍の初期配置と定量的な勝利条件を事前に把握しているプレイヤーだからできる行いであってこの日この時この場所のイギリス軍にできたことではないから慎むべきだ──念のため、これは誰もが慎まなくちゃいけないという『べき論』をぶち上げたいというのではなくて、慎んだ方が僕にはたのしい、という自己紹介だ。これは個々人のスピリチュアルな領域ゆえ一般に通じる頑丈な指針を定めてしまうのはむずかしく、相互の尊重でおのおのの心地よいたのしさを釣り合わせていくしかない。このあたりの感覚が、マロンジンさんと僕とは似通っていて(と、僕は感じました)、ただでさえたのしい TCS がよりたのしくなったのだった。

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 けっきょく上図のとおりの Op Sheet となった、左側がイギリス軍、右側がイタリア軍のものである、先にごちゃごちゃ述べたわりにイギリス軍のシートはいたって簡素で「正面幅5ヘクスにて矢印Aに沿って北進、132nd Tank Regiment を見つけて殴れ」という命令だ、実際のところこのシナリオに同連隊は現れないのでありていにいえば「北端からマップ外へ出ていけ」という話になるんだけれど、それじゃあ味気がありますまい。
 いよいよゲームがはじまるとプレイヤーの視点がまた降りていく、つまり初期配置や勝利条件の確認が最高位につくウォーゲーマーの視点とするなら、Op Sheet の記述には師団長の、各ユニットの具体的な行動には連隊以下の長の視座に立ったつもりで臨む、だからいったん完成させた Op Sheet に則りカウンターを動かすときには「なんでもいいので VP を稼げ」という己がゲーマー心を忖度せず、命令を命令としてまっとうするうちに VP があとからついてくるのを期待したい。

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 ……が、そうはいっても自分はまだ一夜漬けでなんとかルールブックに目を通したばかりの TCS ニュービー、独特のゲームシステムに振り回される場面が多く、配下のクルセイダーが1輌また1輌と敵の47mm対戦車砲に食われていくにつれコマンドルールの妙をおもしろがろうとする余裕をだんだん失って、

The game design works with or without the Command Rules, ...

という先に引用した Dean のことばの前段を図らずも身に沁みて理解することとなった。OCS における補給ルール──ある瞬間にやろうと思えばたいていのことはできてしまうが、Supply Point の総量が全体の奔放さを抑制する──のような役割があるんだろうかとなんとなく想像していたけれど、TCS のメカニクスはコマンドルールで縛りを効かせずともコンペティティブにプレイするのにじゅうぶんな強度をもっている。
 砲爆撃を除き、すべての行動は Action Phase という1フェイズ内で任意の順序で実施できるのが気に入った。1ターンあたり20分(Ariete は30分)という戦術級としては比較的おおらかなスケールによるものでもあるのだろうけど、いろんな戦術を試せるし、プレイアビリティの向上にも寄与していると思う。また、モラルチェックフェチのはしくれとしては本シリーズのそれも見逃せない、受けた損害に応じて成功率が悪化していくルールによって精強な部隊が銃火にさらされ徐々に脆くなっていってしまうせつなさが味わい深く、修正値を含め最悪の士気値をもつユニットによるチェック一発がスタック全体に適用されるのも、安易なキラースタックを抑止する効果があり、士気に優れない人の恐慌が周囲に伝播していく戦場の空気感を感じさせるのに一役買っている(余談:TCS とおなじく Dean Essig の手による南北戦争がテーマの LoB シリーズのモラルチェックは、士気値に関わらず一番上のユニットのチェックがそのスタック全体に適用されるので、やる気のある人たちがやる気のない人たちを鼓舞することができる。ただし受けた損害もまずは一番上のユニットから出さなければならない、という規定と併せて、duty とか honor とか glory とかの観念が染みついていた1860年代の戦場をイメージさせてくれる、なんともフェティッシュなモラルチェックとなっている)。
 他のゲームでいうところの臨機射撃である Overwatch Fire の概念も魅力的だ、条件を満たすユニットはいくつかの敵の行動による契機(Trigger と呼ぶ)さえあれば何回でも射撃できるから、僕が ASL で身につけた戦術級の感覚、「撃てば撃てなくなってやばいけど撃たなければそれはそれでやばい」状況をつくって相手に逆択を迫るというのが通用せず、撃って黙らせるとか煙幕を張って LOS を切るとかしなければならない。しかし何回でも射撃できるとはいえけしてノーリスクというわけではなく、Trigger による非フェイズプレイヤーの Overwatch Fire 自体がまた Trigger を生成し、フェイズプレイヤーに Overwatch Return Fire を実施する権利を与えるから、高火力のユニットを先行させることで「撃ったら撃つぞ」と脅しをかけることもできる。この Overwatch Fire の駆け引きも、フェイズプレイヤーと非フェイズプレイヤーとのあいだに流れる時間の持ち主を柔軟にスイッチできる、本シリーズのタイムスケールの効果と思う。

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 シナリオはイギリス軍の勝利で終わったけれど、終盤のプレイングがちょっとゲーミーに過ぎたんじゃないかというのが反省点。1ステップ単位の損害で細かく VP を得失するから勝敗のスレッシュをめぐるコマ捌きとコマンドルールの理念との折り合いをつけるのが僕にはまだむずかしい。ルールの運用にはあるていど慣れたので、次戦はより納得いくゲームにできるはずだ。

 フルマップ1枚(一面の砂漠のためほとんど LOS 判定要らず)、カウンターシート1枚(マーカー類含む)、ジップロック入りで遊びやすさもお求めやすさも高く、久々のシリーズ新作ということで TCS をもういちど盛り上げようという気概を感じる一品だった、対戦当時はまだ手に入れていなかったけれど先日 Flying Colors 第3版といっしょに届いたし、フォークランド紛争ベトナム戦争を題材にした新作の開発が進んでいるようだし、目が離せないシリーズがまたひとつ増えてうれしい。

対戦相手 マロンジンさんのAAR:
ameblo.jp

Line of Battle - Slope Table の話

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 ウォーゲームと向き合っているとしばしば「もっとまじめに勉強しておけばよかったなァ」と後悔する、”Age is just a number!” の理念を信じて思い立ったらいつからでも学んでいこうという気でいるけれどやっぱり脳みその柔軟な時分に素養を高めておきたかった、と感じてしまう瞬間のひとつは高度差アリな LOS ルールと飽くなき格闘をしているときで、判定手法はさまざまあれどつまるところ知りたいのは見えるか見えないかだからほとんどぜんぶのゲームに通底する物の道理があるわけで、そのへんの感覚がきちんと身についていたらゲーム間のちょっとした実装の仕方のちがいにいちいち手間取らないで済んだろうにと思う。
 このごろ僕の中で爆発的に話題のウォーゲーム Line of Battle シリーズは冒頭の画像に示した Slope Table というドープな表を使って LOS 判定をするんだけれど、僕は最初この数字の羅列がいったいなにを語ろうとしているのかぜんぜん分からなかった、ルールを読んでもいまいち腑に落ちず、ソロプレイでじっさいに使ってみてやっとなんとなく分かった。
 具体的には、下記のような手順を踏んで判定する:

  1. 射撃側 / 目標側ヘクス内のもっとも高い任意の1点(ヘクスの中心点ではない)を End Point とする
  2. より高い方を Higher End Point、より低い方を Lower End Point と呼ぶ
  3. Higher / Lower End Point の高度差(行)と距離(列)をもとに Slope Table を参照して値を求める、この値を Overall Slope と呼ぶ
  4. Higher / Lower End Point を結んだ直線上、視線をさえぎりそうな任意の1点を選び、そのヘクスと Lower End Point とで手順3のとおり Slope Table を参照して値を求める、この値を Obstacle Slope と呼ぶ
  5. Obstacle Slope が Overall Slope より大きい場合、視線はさえぎられている
  6. 手順4, 5を満足するまでくりかえし、視線をさえぎる Obstacle Slope がひとつも見つからなければ、晴れて LOS チェック成功

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青線はOK、赤線は遮断

 つまり Slope Table は上図の \theta_1,\theta_2,\theta_3 を求めるための表で、Overall の角度(\theta_1)より Obstacle の角度(\theta_2, \theta_3)の方が大きい場合に LOS は遮断される、と言い換えられる。

\theta=\tan^{-1} \frac{\textit{Diff}}{\textit{Range}}

 \theta は上式で求められる(もちろんググりました)が、Slope Table ではどうやらこれを度数法に変換したうえで3倍しているらしい。本シリーズのスケール(330フィート / ヘクス、20フィート / レベル)をもとにスプレッドシートで計算してみると、端数は四捨五入でオリジナルの表とめでたく一致した。

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Google さまさま(Office を持っていない)

The Slope Table literally gives the “slope” (in modified degrees so that the numbers are clear) from the Lower End Point to both the Higher End Point and the potential Obstacle.

 ……と、本シリーズの成り立ちの一片を垣間見れた気がしてほくそ笑んでいたところ Slope Table の真下の Design Note で上記の説明があることに気づいたが、スプレッドシートをあれこれいじっているのがおもしろかったのでヨシ。LOS 判定に使うだけでなくて、表の値を3で割ればなじみ深い角度が分かるからプレイ中に「ああ、ここの坂は10%勾配かぁ、きついなぁ」みたいに思いを馳せてみるのも一興だ。

ところで

 シリーズルール 4.0 Line of Sight の項のはじめに、Essig 先生はこんなふうにおっしゃっている:

Players are urged to use an “eyeball” determination for 90% of all LOS decisions. This will not be difficult for reasonable players. Application of the whole rule here is presented for those who do not feel comfortable with “eyeballing it” or in the cases that escape easy classification.

「9割方のLOS判定は(Slope Table なんて使わず)目測で判断しなョ、賢明なプレイヤーにはむずかしくないでしょう?」とのことで、言われなくてもそうしているプレイヤーが大半だろうけれど、Design Note でも Play Note でもなくルール本文にこういうことを書いちゃう先生のあけすけさというかぶっちゃけ感というか、フランクなスタイルが僕はありえん好きなんである、Dean しか勝たん。