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個人的に好きな曲たちについて書いています。

Supertrampアルバム紹介 その7:... Famous Last Words ...

世界的大ヒットとなった Breakfast In America の次のスタジオ録音アルバムである ... Famous Last Words ...は、前作リリースから約3年半のブランクを空けて1982年秋に発表されました。元々寡作なバンドであったことと、間にライブアルバム Paris のリリースを挟んだため、客観的にはそんなに空白期間があったようには見えませんが、自分も含めファンにとってはまさに待望の新作でした。

Supertramp / ... Famous Last Words ...

Supertrampの音楽はメインライターの二人、フォークをベースとしてファンタジックで思索的なテーマを歌うRoger Hosdonと、ブルースをベースとして都会の生活シーンを切り取ったテーマを歌うRick Daviesによる一見両極端にみえる音楽性が、二人のコラボレーションによって絶妙なバランスで成立していたのが特徴であり魅力でもあったのですが、ここにきてこのコラボレーションが成立しない状況になってきました。これには前作の大ヒットによる共同作業に対するモチベーションの低下や、双方の生活スタイルの変化などの要因があったと思われます。

レコーディングは、HodgsonとDaviesそれぞれの自宅スタジオで録音したものを、別のスタジオでバンドメンバーによってオーバーダビングするという方式で行われたようです。そのため作曲段階における共同作業は無く、それぞれの曲がHodgsonとDaviesのソロ作品のように聴こえてしまう点がこのアルバムの特徴ともいえると思いますが、結果的に、Hodgsonはこのアルバムの制作とライブツアーを最後にバンドを脱退することになってしまいます。

 

アルバムタイトル「Famous Last Words」とは「臨終名言集」という意味だそうで、そをが転じて「よほど自信があるんだね」と皮肉るセリフとしても使われているようです。このようなダブルミーニングの言葉をタイトルにするのはいかにもこのバンドらしいのですが、仮タイトルは「Tightrope」だったとのこと。こちらのほうがアルバムジャケットのイメージに近いように思いますが、Hodgsonの脱退という事実を匂わせるためのタイトル名変更だったのかもしれません。

 

とはいえ、アルバムのサウンドには大きな変化は無く、前作同様洗練されたSupertramp流のポップロックを聴くことができます。プロデュースも前作に引き続きバンドとPeter Hendersonとの共同で行われました。一方機材的には若干変化があり、本作ではYAMAHAシンセサイザー GS1が導入されているとクレジットされています。GS1は後に一世を風靡することになるシンセDX7と同じFM音源方式を用いたシンセなのですが、このアルバムのどこで使用されているかはよくわからないです。

 

Side 1
1. Crazy
2. Put On Your Old Brown Shoes
3. It's Raining Again
4. Bonnie
5. Know Who You Are
Side 2
1. My Kind Of Lady
2. C'est Le Bon
3. Waiting So Long
4. Don't Leave Me Now

 

Crazy
Hodgson作。アップテンポだけどシリアスな雰囲気が漂う曲。「みんなを楽しませる歌を歌っているのにどうして世界がクレイジーなんだろう」と「Brother」へ呼びかける歌詞はHodgsonの心の叫びのように思えます。

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Put On Your Old Brown Shoes
Davies作。跳ねるようなエレピが印象的な曲。バッキングヴォーカルにハードロックバンド Heart のAnn WilsonとNancy Wilsonが参加しています。

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It's Raining Again
Hodgson作。この曲を最初にラジオで聴いたときには普通のポップス過ぎてSupertrampの曲とは気づきませんでした。明らかにシングル狙いの曲のため当時はあんまり好きにはなれませんでしたが、今では違和感なく聴くことができます。

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ヴィデオクリップも作成されました。歌のテーマと合わせたストーリー仕立てとなっています。米国ビルボードシングルチャートでは最高11位まで上昇しました。

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Bonnie
Davies作のラブソング。2分50秒付近から始まる間奏部で高音から低音へ転がり落ちるようなピアノソロが印象的です。エンディングはシンセストリングスでドラマチックに盛り上がります。

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Know Who You Are
Hodgsonのアコースティックギター弾き語り。ほぼHodgsonのソロ曲といってもおかしくない感じです。終盤に生のストリングスがオーバーダビングされていますが、これが前の曲同様ドラマチックさを引き立てています。

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My Kind Of Lady
アルバムからの2番目のシングルとしてもリリースされた曲。Davies作のドゥワップの要素を取り入れたレイドバック感のあるラブソング。この曲のヴォーカルパートはコーラス部分も含めすべてDaviesが歌っているのだそう。私はずっとHodgsonとAnthony Helliwellがコーラスを歌っていると思っていました。

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ヴィデオクリップではなんとHodgsonの姿がありません。ヴォーカルパートにもHodgsonが参加していないことも含めて、アルバム中最もDavies色の強い曲といえそうです。

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C'est Le Bon
12弦アコースティックギターの弾き語りがベースとなったHodgsonの曲。Hodgson自身のハイトーンヴォイスにAnn & Nancy Wilsonによるバッキングヴォーカルもフィーチャーされていて、女性的なヴォーカルの響きを持っています。Helliwellのクラリネットソロも優雅な印象を受けます。

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最後の2曲はそれぞれ6分半の長い曲ですが、アルバムを締めくくるだけではなく、1970年から続けてきたDaviesとHodgsonの二本柱でのバンド活動の終焉に対するDaviesとHodgsonからの惜別の曲となっているように思えます。

 

Waiting So Long
Davies作。淡々としたピアノ演奏にのせて「The Blindness Goes On」という歌詞が印象的な心の距離を歌った曲。Bob Siebenbergのドラマチックなドラミングが素晴らしい。

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Don't Leave Me Now
Hodgson作。シンプルな循環コードのピアノフレーズにのせて「僕を今置いていかないで」と繰り返し歌う悲壮感漂う曲。中間部のHodgson自身のギターソロも泣いているかのよう。終盤には彼らがブレイクしたアルバム Crime Of The Century の1曲目冒頭で演奏されたハーモニカのフレーズが再び現れフェードアウトする流れは、バンドの終焉を否が応でもイメージさせます。

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曲の最後に聴こえる女性ヴォーカルは Claire Diament というシンガーで、この人は1984年にリリースされたHodgsonのソロアルバムでもバッキングヴォーカルとして起用されています。

Pendragon 「The Wall of Babylon」

イギリスのシンフォロックバンド Pendragonの1993年のアルバム The Window Of Life の1曲目に収録された曲「The Wall Of Babylon」。

この時期のPendragonサウンドは、ギター/ヴォーカルでほとんどの曲を手掛けるNick Barrettとキーボード奏者でArenaやShadowland等の複数のバンドを掛け持ちして活動しているClive Nolanの2人を中心としたシンフォニックな演奏と、抒情的で親しみやすい歌メロが特徴で、個人的にはどちらもこのバンドの好きな部分なのですが、この曲もその特徴がよく表れた作品です。

イントロの4分間、BarrettのギターとNolanのシンセによる情感たっぷりの演奏が繰り広げられ(ちょっとピンク・フロイド風)、その後ブリッジを挟んで後半の歌メロに入っていくというトータル11分ほどある長い曲ですが、プログレ風な演奏部分とポップでちょっと野暮ったいほどの歌メロのバランスがこのバンドらしいといえます。

 

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個人的には、上の動画でいうと8分45秒からの歌メロがスーパートランプの曲「Hide In Your Shell」の一節とよく似ているのには、この曲を最初に聴いたときにはアレっと思いました。(以下の動画の5分24秒あたり)

ひょっとしたらNick Barrettもスーパートランプを聴いていたのかもしれませんね。

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Pendragon / The Window of Life

羊毛とおはな 「逢いにゆこう」

羊毛こと市川和則さんのギターと千葉はなさんのヴォーカルによるアコースティックデュオ 羊毛とおはな。2015年に千葉はなさんが病気で亡くなって、新しい歌を聴くことはもうできませんが、彼らの活動20周年記念として5月にトリビュートアルバムがリリースされるそうです。

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羊毛とおはなは、"LIVE IN LIVING"と銘打ったギターと歌でのライブ録音による一連のアルバム制作が活動の中心で、CDショップでも話題作として取りあげられていたのを記憶しています。

私が彼らのアルバムで聴いたのは2009年のスタジオ録音アルバム どっちにしようかな だけなので、特にヘビーリスナーというわけではないですのですが、このアルバムの中で好きな曲があって、今回はその曲をご紹介します。まずはヴィデオクリップから。

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軽やかなアコースティックギターにのせた千葉はなさんのあたたかいヴォーカルが素敵な曲「逢いにゆこう」。作詞曲はLilyBOLD、編曲はGira Mundoさんということで羊毛とおはな自身の曲ではないですが、千葉はなさんの歌が入るだけで羊毛とおはなサウンドとなってしまいます。

こちらはアルバム収録の音源。ヴィデオクリップと同じだとは思いますが念のため。

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ちなみにこの曲を提供したLilyBOLDとは前回の記事でも名前を出したシンガーソングライターの堀下さゆりさん(と共作者)ということを最近知りました・・・。

 

羊毛とおはな / どっちにしようかな

最近の曲からいろいろ

今回は5曲。

■ Kitri 「Sigh Sigh」
MonaとHinaによるピアノ連弾ユニット Kitri の最新の曲は、4部構成12分以上に及ぶ大作。ピアノ連弾のみならず、アコースティックとエレクトリックなバンドの演奏を織り交ぜての意欲的な曲になっていると思います。6分過ぎからのピアノの速弾きから始まるロックスタイルのパートがなかなかカッコイイです。

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■ ルルルルズ 「次の日」
前作アルバム 僕らの生まれた町 から4年以上のブランクをあけてのルルルルズの新曲ですが、ヴォーカルのモミのやわらかな歌と安定感のある演奏は、従来のイメージとはさほど変化なく安心して聴けるシティポップに仕上がっています。

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清浦夏実 「対岸の人」
現在は沖井礼二さんとのユニット TWEEDEES で活動している清浦夏実さんのソロミニアルバム Breakfast に収録された曲。清浦夏実さんのソロ作としては12年ぶりとのこと。この曲の作編曲は辻林美穂さん(作詞は清浦さん)。ストリングス主体のアレンジが美しい曲です。

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■ 中島怜 「GA-TAN GO-TON」
辻林美穂さんが劇伴を担当しているTVアニメ「終末トレインどこへいく?」のオープニングテーマ。シンガーの中島怜さんはこの曲が2曲目のシングルだそう。サビが可愛らしい曲ですが、途中で雰囲気がガラッと変わったりとトリッキーな展開がユニーク。作詞曲は姉田ウ夢ヤさんと堀下さゆりさんの共作。

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■ Mei Semones 「Kabutomushi」
この曲はYouTubeで偶然見つけたのですが、ジャズギターを主体にボサノヴァのフレーバーを織り込んだサウンドにのせて日本語と英語で歌われるというユニークな曲。何気に変拍子が多用されていたりして。歌っているMei SemonesはNYで活動しているアーティストとのことですが、曲の多くは日本語のタイトルで、最新EP Kabutomushi の収録曲も「Tegami」「Wakare No Kotoba」「Takaramono」「Inaka」といった感じです。


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ニルギリス 「sakura」

「桜ソング」で真っ先に思いつくのが、私の場合なぜかこのニルギリスの「sakura」。

 

2005年の4月から1年間に渡って放送されたTVアニメ「交響詩篇エウレカセブン」の最後の第4クールのオープニングテーマに使用された曲です。日曜朝7時からの放送だったのですが、最終話までの10話ほどはがんばってリアルタイムで観てたように記憶しています。

このアニメは続編が制作されたり、リメイクされたりと人気の作品ですが、私が観たことがあるのはこの作品だけです。各話のサブタイトルがロックやダンスミュージックの曲名、登場メカの名前がLFOやKLFや909、303といったふうに、音楽関係のワードがふんだんに使用されていたのがユニークでした。

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この「sakura」は、当時流行っていたマッシュアップの手法を取り入れて「アメイジング・グレース」のフレーズを曲中に挿入したことが話題になっていましたが、個性的な声の岩田アッチュさんのヴォーカルとカッコいいギターリフが魅力的な曲です。シングルCDも買いましたよ。

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NIRGILIS / sakura (single)

彼らのアルバム BOY にも収録されています。

 

この曲の原曲(マッシュアップする前の曲)は「sakura (cherry blossom)」というタイトルでシングルCDに収録されていたのですが、このバージョンは、2021年に再結成したバンドによってセルフカバーされています。

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今年には岩田アッチュさんによるピアノ弾き語りバージョンがリリースされています。

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四人囃子 「レディ・ヴァイオレッタ」

「Lady Violetta」はアメリカの画家マックスフィールド・パリッシュの作品。

この作品を見た四人囃子のギタリストだった森園勝敏さんがインスピレーションを得て作った曲が、四人囃子のセカンドアルバム ゴールデン・ピクニックス に収録された「レディ・ヴァイオレッタ」です。

このアルバムがリリースされた1976年頃は、ジャズとロックをクロスオーバーさせてさらに洗練させたフュージョン音楽が流行り始めた時期です(といっても私はリアルタイムで体感したわけではないですが・・・)。

四人囃子プログレッシヴロックバンドとしてスタートしたのですが、1975年のシングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」のB面「ブエンディア」などではフュージョン指向が強くなったサウンドを披露していました。これはバンドのメインライターだった森園さんの興味がフュージョンに傾いてきた時期だったからのようで、この「レディ・ヴァイオレッタ」も美しいメロディに彩られたフュージョンの色濃いインスト曲です。

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アコースティックギターから始まるメロディはクリーンな音色のエレクトリックギターに引き継がれ、ラテン系のリズムを導入した間奏部では、ゲスト参加の浜口茂外也さんのフルートをフィーチャーし、再びエレクトリックギターに戻って締めくくられる約7分の演奏は、リラックスな空気を持ちながらも非常に完成度が高く、何度聴いても聴き飽きることはないです。

四人囃子 / ゴールデン・ピクニックス

 

ちなみにこの曲は、森園勝敏さんのソロや、在籍したバンドのプリズムでもカバーバージョンが制作されていて、その他のライブ音源なども加えた形で収録した森園さん名義のアルバム レイディ・ヴァイオレッタ が2020年に発表されています。ここでのアルバムジャケットはパリッシュの作品をそのまま採用しています。

Cocteau Twins「Lorelei」

Cocteau Twins1984年のアルバム Treasure に収録された10曲は、すべて人または神の名前が曲名タイトルになっていると言われています。

この時期のCocteau Twinsサウンドは、ローファイなドラムマシーンにザラザラした感触のRobin Guthrieのギター、そしてElizabeth Fraserのファルセットと地声を組み合わせたヴォ―カリゼーションをメインとしたドリームポップで、エフェクト類で加工されたサウンドであってもどこか生々しさを感じさせる不思議な音楽でした。

 

この「Lorelei(ローレライ)」はアルバムの中では最もポップなメロディで聴きやすい曲だと思います。チープなドラムマシーンとギターとエフェクトでバンドが求めるサウンドを模索していた時期の手作り感が逆にこの曲の魅力になっていると思います。

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Cocteau Twins / Treasure

マネキンにレースのカーテンを被せたモノクロの写真もどこか怪しげで美しいジャケットです。