慢性労作性コンパートメント症候群という病気をご存知でしょうか。
それほど頻度は多くないものの、ランナーに多く、保存治療が有効であるものの、外科的治療の成績が良好な疾患です。
保存治療との比較について説明できるように解説しました。
今回の要約
・診断は運動後に増悪する症状、コンパートメント内圧の測定で運動5分後で内圧が20 mmHg以上で診断されます。
・システマティックレビューでアクティビティへの復帰率は保存治療で5割、手術治療で8割程度とされます。
概要
慢性労作性コンパートメント症候群は、運動によって引き起こされる筋肉や神経の疾患で、脚や腕の患部の筋肉に痛み、腫れが生じることがあります。
若年層のランナーや繰り返し衝撃を伴う運動をするアスリートに多くみられます。
慢性労作性コンパートメント症候群は、安静などの保存療法が選択されますが、保存治療が無効の場合、手術が選択されることもあります。
手術治療は有効であり、スポーツ復帰が可能となるかもしれません。
症状
手足の各筋肉は、区画(コンパートメント)で仕切られています。
下腿には4つのコンパートメントがあり、慢性労作性コンパートメント症候群は若年層のランナーや繰り返し衝撃を伴う運動をするアスリートに多くみられ、筋コンパートメント内の圧力が上昇することで様々な症状をきたします。
(参考文献1より引用)
症状で多いのは痛み、灼熱感、締め付け感、痺れ、ピリピリ感、脱力感です。
患肢を動かし始めてから、ある時間、距離、または一定の労作の後に生じ、運動するにつれて徐々に悪化しますが、運動を止めてから15分以内に症状が改善します。
運動を完全に休んだり、負荷の少ない運動をすることで症状が緩和されることがあります。
鑑別疾患として、前脛骨部の痛みをきたすシンスプリントがあります。
原因
原因は完全には解明されていません。
筋膜は伸長に乏しく、運動後に筋肉が膨張することで内圧が上昇し痛みを引き起こすと考えられています。
リスク因子
発症リスクに以下のものが考えられています。
・年齢:年齢に関係なく慢性労作性コンパートメント症候群を発症する可能性はありますが、この症状は30歳未満の男女アスリートに最も多くみられます。
・運動の種類:ランニングなどの反復的な衝撃を伴う運動は、発症リスクを高めます。
・オーバートレーニング:激しすぎる運動、高強度運動は、慢性労作性コンパートメント症候群のリスクを高める可能性があります。
頻度
慢性労作性コンパートメント症候群は、下肢痛の原因としては一般的でないと考えられており、その発症率は、毎年2000人に1人程度と推定されています[2,3]。
有病率は20~25歳ごろにピークを迎え、その後は50歳ごろにプラトーが見られるものの、減少しています。陸軍軍人の発症も多いとされます[4]。
検査
通常の下肢MRI検査では、疲労骨折、シンスプリントなどの他の疾患の除外や区画内の筋肉の構造を評価するのに有用です。
またコンパートメント内の浸出液の有無を評価することができます。
また安静時、症状を感じるまで足を動かしている間、そして運動後に撮影することで検出に有用であることが分かっています。
コンパートメント内圧測定
針を刺す侵襲的な検査ですが、診断するためのゴールドスタンダードです。
安静時の圧力が15mmHg以上、痛みがでるまで運動した5分間後での圧力が20mmHg以上であれば、慢性労作性コンパートメント症候群の診断になります[5]。
治療法
保存治療
鎮痛薬、理学療法、インソール、マッサージ、運動の中断があります。
また、ランナーでは接地時の足の着き方を変えることも有効かもしれません。
しかし、手術以外の方法では、真の慢性労作性コンパートメント症候群の効果を持続させることは困難です。
手術治療
筋膜切開術は、慢性労作性コンパートメント症候群に対する最も効果的な治療法です。
これは、影響を受けた各筋肉区画を包んでいる筋膜を切り開き、圧迫を緩和するものです。
筋膜切開術は小さな切開で行えることもあり、回復時間を短縮し、通常のスポーツや活動に早く復帰できる可能性があります。
リスクとして症状の残存、合併症として、感染症、神経損傷、しびれ、術後血腫などがあります。
保存治療 vs 手術治療の比較
前方区画のコンパートメント症候群に対する保存的治療プログラムでは、65%の患者が手術なしで現役復帰することが可能であり、2年後の成功率はわずかに低下しましたが57%と良好だったと報告されています[6]。
外科的治療と、保存的治療のシステマティックレビューでは外科治療の有効性が報告されています[7]。
・保存治療:内圧68→32 mmHgに低下、47% (±42%)の満足率、アクティビティへの復帰率は50% (±45%) 。
・筋膜切開術:内圧76→24 mmHgへ低下、85% (±13%)の満足率、アクティビティへの復帰率は 80% (±17%) 。
このように筋膜切開術の満足度とスポーツ活動への復帰率が高いことが示されています。
まとめ
診断、治療に難渋するであろう慢性労作性コンパートメント症候群についてまとめました。
システマティックレビューでスポーツ復帰率は保存治療で5割、手術治療で8割程度とされており、保存治療開始前に改善しない際には手術が検討されることを説明する必要があります。
参考文献
1. chronic exertional compartment syndrome https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-exertional-compartment-syndrome/symptoms-causes/syc-20350830
2. Exertional Compartment Syndrome https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544284/
3. Chronic Exertional Compartment Syndrome
https://emedicine.medscape.com/article/88014-overview
4. Rynkiewicz KM, Fry LA, DiStefano LJ. Demographic Characteristics Among Patients With Chronic Exertional Compartment Syndrome of the Lower Leg. J Sport Rehabil. 2020;29(8):1214-1217. doi:10.1123/jsr.2019-0176
5. Tucker AK. Chronic exertional compartment syndrome of the leg. Curr Rev Musculoskelet Med. 2010 Sep 2;3(1-4):32-7. doi: 10.1007/s12178-010-9065-4. PMID: 21063498; PMCID: PMC2941579.
6. Zimmermann WO, Hutchinson MR, Van den Berg R, Hoencamp R, Backx FJG, Bakker EWP. Conservative treatment of anterior chronic exertional compartment syndrome in the military, with a mid-term follow-up. BMJ Open Sport Exerc Med. 2019 Mar 19;5(1):e000532. doi: 10.1136/bmjsem-2019-000532. PMID: 31191976; PMCID: PMC6539157.
7. Vogels S, Ritchie ED, van Dongen TTCF, Scheltinga MRM, Zimmermann WO, Hoencamp R. Systematic review of outcome parameters following treatment of chronic exertional compartment syndrome in the lower leg. Scand J Med Sci Sports. 2020;30(10):1827-1845. doi:10.1111/sms.13747