整形外科学的考察を行うブログ

Daily Orthopedics ~整形外科チャンネル~

整形外科専門医が執筆.日々の診療に役立つ知識をまとめています.

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Mendeleyにログインできないときの対処法

Mendeleyは無料で使える便利な文献管理ソフトですが、ログインできなくなってしまう場合があります。

ログインできない時の対策についてまとめていきます。

ログインできない時の対策

1. ユーザー名とパスワードを正しく入力しているか確認してください。入力する際には、大文字と小文字を区別する必要があることに注意してください。

2. みてください。通常は、ログインページの「パスワードを忘れた場合」などのリンクをクリックするとリセット手順が表示されます。

3. インターネット接続が正常かどうか確認してください。一時的な接続の問題がログインの障害となる場合がありますので、他のウェブサイトにアクセスできるか確認してみてください。

4. ブラウザのキャッシュやクッキーをクリアしてみてください。これにより、古い情報が削除され、ログイン時の問題が解決される場合があります。

5. 必要に応じて、別のブラウザやデバイスを試してみてください。特定のブラウザやデバイスに関連した問題がある場合があります。

6. これらの手順を試しても問題が解決しない場合は、Elsevierのカスタマーサポートに直接連絡して、具体的な問題を報告することをおすすめします。

特にログインしようとした際に、大学のアカウントが残っていて、自動でログインできる設定になっている場合には4のクッキーの削除が有効です。

クッキーの削除方法について

以下に一般的なブラウザでのクッキー削除方法を示します。

Google Chrome:

ブラウザを開き、右上のメニューアイコン(3つの垂直なドット)をクリックします。
「設定」を選択します。
「プライバシーとセキュリティ」セクションまでスクロールし、「サイトのデータ」をクリックします。
「すべてのクッキーとサイトデータ」をクリックします。
「すべて削除」をクリックして、クッキーを削除します。
Mozilla Firefox:

ブラウザを開き、右上のメニューアイコン(3つの水平な線)をクリックします。
「オプション」を選択します。
左側のメニューで「プライバシーとセキュリティ」をクリックします。
Cookieとサイトデータ」セクションに移動し、「データを削除」をクリックします。
「クッキーとサイトデータ」を選択し、「削除」をクリックして、クッキーを削除します。
Microsoft Edge:

ブラウザを開き、右上のメニューアイコン(3つの水平な点)をクリックします。
「設定」を選択します。
左側のメニューで「プライバシー、検索、およびサービス」をクリックします。
「クリアデータ」セクションに移動し、「クッキーとその他のサイトデータ」をクリックします。
「クリア」をクリックして、クッキーを削除します。
注意: クッキーを削除すると、一部のウェブサイトの設定やログイン情報が削除される可能性があるため、必要な情報は再入力する必要があります。

アスリートに必要なタンパク質摂取量について解説、結論として1日2g程度が推奨されます。

ハードなウエイトトレーニング、スポーツをする目的は何でしょうか。格好良くなるため、ビジネスのため、健康のためなど目的は様々だと思います。トレーニング時には回復を促すためにプロテイン(タンパク質)を摂取する方も多いと思いますが、腎機能が悪い方ではタンパク質の過剰摂取は推奨されません。この記事では、アスリートで推奨されているタンパク質摂取量について解説していきます。

今回の要約

タンパク質の過剰摂取は腎機能障害の原因となります。

健康なアスリートでは1日2g/kgまでが推奨されています。

タンパク質の過剰摂取は腎機能障害の原因

高タンパク質摂取は、腎臓へのダメージや慢性腎臓病の悪化につながる可能性が指摘されています[1]。

高タンパク食は糸球体(血液を濾過して尿にする腎臓の中の構造物)の内圧亢進を引き起こし、腎臓の過濾過、糸球体損傷、タンパク尿の原因となる可能性があります[2]。

事実、慢性腎臓病を持っている患者ではタンパク質を制限することが推奨されています。

しかし、健康な成人では、食事によるタンパク質の摂取が必ずしも腎機能を悪化させるとは限らないと報告されています[3]。

全米腎臓財団は、早期の腎臓病患者には適量のタンパク質を摂取することを推奨していますが、健康な成人では腎機能を悪化させない1日のタンパク質摂取量は特に定められていません[4]。

長期的な高タンパク質摂取は慢性腎臓病を引き起こす可能性がありますが、さらにタンパク質の質も腎機能に影響する可能性が報告されています。

動物性タンパク質は食事性の酸負荷、リンの摂取、腸内細菌叢の変化、その結果生じる炎症などから植物性タンパク質と比較して、腎機能の悪化に関与している可能性が指摘されています[5]。

腎機能が低下する因子として、加齢、高血圧、糖尿病などがあるため、これらのリスクがある方はタンパク質の過剰摂取は控えて1日1-2g程度とし、植物性のタンパク質を摂取することが有効かもしれません。

アスリートにおけるタンパク質摂取量は

それでは健康なアスリートにおいて推奨されているタンパク質摂取量はどの程度でしょうか。

推奨される1日のタンパク質摂取量は、様々報告されています。

国際陸上競技連盟によると、アスリートは1日に体重1kgあたり1.6~2.4gのタンパク質を摂取する必要があるとしています[5]。

Michigan大学からの報告では、身体的に活発な人は体重1kgあたり1.2~2.0gを摂取するよう推奨しています[6]。

米国スポーツ医学会は、持久系アスリートには1.2~1.7g/kg/日、筋力トレーニングアスリートには1.6~1.8g/kg/日を推奨しています[7]。

また持久系アスリートは1日に体重1kgあたり約1.2~1.4g、筋力トレーニング系アスリートはそれ以上必要であると提案している報告もあります[8]。

まとめ

競技のために筋量を増やしたい方ではバルク期に1日3g/kg程度を摂取している方もいる様ですが、この量を長期的に摂取することは推奨できないことがわかりました。健康のために運動とプロテイン摂取をしている方は1日のタンパク質摂取量を目安にして取り入れるようにしてみましょう。

参考文献

1. Ko GJ, Obi Y, Tortorici AR, Kalantar-Zadeh K. Dietary protein intake and chronic kidney disease. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2017 Jan;20(1):77-85. doi: 10.1097/MCO.0000000000000342. PMID: 27801685; PMCID: PMC5962279.

2. Ko GJ, Rhee CM, Kalantar-Zadeh K, Joshi S. The Effects of High-Protein Diets on Kidney Health and Longevity. J Am Soc Nephrol. 2020;31(8):1667-1679. doi:10.1681/ASN.2020010028

3. Martin WF, Armstrong LE, Rodriguez NR. Dietary protein intake and renal function. Nutr Metab (Lond). 2005 Sep 20;2:25. doi: 10.1186/1743-7075-2-25. PMID: 16174292; PMCID: PMC1262767.

4. Nutrition and early kidney disease. https://www.kidney.org/atoz/content/nutrikidfail_stage1-4

5. New Protein Guidelines for Runners Prove You Probably Aren’t Getting Enough.

https://www.runnersworld.com/news/a27305904/protein-guidelines-runners-iaaf/

6. Protein intake for athletes. https://www.canr.msu.edu/news/protein_intake_for_athletes

7. How much protein do your athletes really need? recommendations for both endurance and power athletes. https://www.scienceforsport.com/how-much-protein-do-your-athletes-really-need/

4. How much protein do athletes need? https://www.verywellfit.com/sports-nutrition-protein-needs-for-athletes-3120669

文章

稀ですが、手術の可能性もある下腿の痛みを呈する慢性労作性コンパートメント症候群とは

 慢性労作性コンパートメント症候群という病気をご存知でしょうか。

それほど頻度は多くないものの、ランナーに多く、保存治療が有効であるものの、外科的治療の成績が良好な疾患です。

保存治療との比較について説明できるように解説しました。

今回の要約

・診断は運動後に増悪する症状、コンパートメント内圧の測定で運動5分後で内圧が20 mmHg以上で診断されます。

・システマティックレビューでアクティビティへの復帰率は保存治療で5割、手術治療で8割程度とされます。

概要

慢性労作性コンパートメント症候群は、運動によって引き起こされる筋肉や神経の疾患で、脚や腕の患部の筋肉に痛み、腫れが生じることがあります。

若年層のランナーや繰り返し衝撃を伴う運動をするアスリートに多くみられます。

慢性労作性コンパートメント症候群は、安静などの保存療法が選択されますが、保存治療が無効の場合、手術が選択されることもあります。

手術治療は有効であり、スポーツ復帰が可能となるかもしれません。

症状

手足の各筋肉は、区画(コンパートメント)で仕切られています。

下腿には4つのコンパートメントがあり、慢性労作性コンパートメント症候群は若年層のランナーや繰り返し衝撃を伴う運動をするアスリートに多くみられ、筋コンパートメント内の圧力が上昇することで様々な症状をきたします。

 (参考文献1より引用)

 

症状で多いのは痛み、灼熱感、締め付け感、痺れ、ピリピリ感、脱力感です。

患肢を動かし始めてから、ある時間、距離、または一定の労作の後に生じ、運動するにつれて徐々に悪化しますが、運動を止めてから15分以内に症状が改善します。
運動を完全に休んだり、負荷の少ない運動をすることで症状が緩和されることがあります。

鑑別疾患として、前脛骨部の痛みをきたすシンスプリントがあります。

原因

原因は完全には解明されていません。

筋膜は伸長に乏しく、運動後に筋肉が膨張することで内圧が上昇し痛みを引き起こすと考えられています。

リスク因子

発症リスクに以下のものが考えられています。

・年齢:年齢に関係なく慢性労作性コンパートメント症候群を発症する可能性はありますが、この症状は30歳未満の男女アスリートに最も多くみられます。
・運動の種類:ランニングなどの反復的な衝撃を伴う運動は、発症リスクを高めます。
・オーバートレーニング:激しすぎる運動、高強度運動は、慢性労作性コンパートメント症候群のリスクを高める可能性があります。

頻度

慢性労作性コンパートメント症候群は、下肢痛の原因としては一般的でないと考えられており、その発症率は、毎年2000人に1人程度と推定されています[2,3]。

有病率は20~25歳ごろにピークを迎え、その後は50歳ごろにプラトーが見られるものの、減少しています。陸軍軍人の発症も多いとされます[4]。

検査

MRI

通常の下肢MRI検査では、疲労骨折、シンスプリントなどの他の疾患の除外や区画内の筋肉の構造を評価するのに有用です。

またコンパートメント内の浸出液の有無を評価することができます。

また安静時、症状を感じるまで足を動かしている間、そして運動後に撮影することで検出に有用であることが分かっています。

コンパートメント内圧測定

針を刺す侵襲的な検査ですが、診断するためのゴールドスタンダードです。

安静時の圧力が15mmHg以上、痛みがでるまで運動した5分間後での圧力が20mmHg以上であれば、慢性労作性コンパートメント症候群の診断になります[5]。

治療法

保存治療

鎮痛薬、理学療法、インソール、マッサージ、運動の中断があります。

また、ランナーでは接地時の足の着き方を変えることも有効かもしれません。

しかし、手術以外の方法では、真の慢性労作性コンパートメント症候群の効果を持続させることは困難です。

手術治療

筋膜切開術は、慢性労作性コンパートメント症候群に対する最も効果的な治療法です。

これは、影響を受けた各筋肉区画を包んでいる筋膜を切り開き、圧迫を緩和するものです。

筋膜切開術は小さな切開で行えることもあり、回復時間を短縮し、通常のスポーツや活動に早く復帰できる可能性があります。

リスクとして症状の残存、合併症として、感染症、神経損傷、しびれ、術後血腫などがあります。

保存治療 vs 手術治療の比較

前方区画のコンパートメント症候群に対する保存的治療プログラムでは、65%の患者が手術なしで現役復帰することが可能であり、2年後の成功率はわずかに低下しましたが57%と良好だったと報告されています[6]。

外科的治療と、保存的治療のシステマティックレビューでは外科治療の有効性が報告されています[7]。

・保存治療:内圧68→32 mmHgに低下、47% (±42%)の満足率、アクティビティへの復帰率は50% (±45%) 。

・筋膜切開術:内圧76→24 mmHgへ低下、85% (±13%)の満足率、アクティビティへの復帰率は 80% (±17%) 。

このように筋膜切開術の満足度とスポーツ活動への復帰率が高いことが示されています。

まとめ

診断、治療に難渋するであろう慢性労作性コンパートメント症候群についてまとめました。

ステマティックレビューでスポーツ復帰率は保存治療で5割、手術治療で8割程度とされており、保存治療開始前に改善しない際には手術が検討されることを説明する必要があります。

参考文献

1. chronic exertional compartment syndrome https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-exertional-compartment-syndrome/symptoms-causes/syc-20350830

2. Exertional Compartment Syndrome https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544284/

3. Chronic Exertional Compartment Syndrome

https://emedicine.medscape.com/article/88014-overview

4. Rynkiewicz KM, Fry LA, DiStefano LJ. Demographic Characteristics Among Patients With Chronic Exertional Compartment Syndrome of the Lower Leg. J Sport Rehabil. 2020;29(8):1214-1217. doi:10.1123/jsr.2019-0176

5. Tucker AK. Chronic exertional compartment syndrome of the leg. Curr Rev Musculoskelet Med. 2010 Sep 2;3(1-4):32-7. doi: 10.1007/s12178-010-9065-4. PMID: 21063498; PMCID: PMC2941579.

6. Zimmermann WO, Hutchinson MR, Van den Berg R, Hoencamp R, Backx FJG, Bakker EWP. Conservative treatment of anterior chronic exertional compartment syndrome in the military, with a mid-term follow-up. BMJ Open Sport Exerc Med. 2019 Mar 19;5(1):e000532. doi: 10.1136/bmjsem-2019-000532. PMID: 31191976; PMCID: PMC6539157.

7. Vogels S, Ritchie ED, van Dongen TTCF, Scheltinga MRM, Zimmermann WO, Hoencamp R. Systematic review of outcome parameters following treatment of chronic exertional compartment syndrome in the lower leg. Scand J Med Sci Sports. 2020;30(10):1827-1845. doi:10.1111/sms.13747

方形回内筋の温存、修復は橈骨遠位端骨折の観血的整復固定術の際に有用か

 橈骨遠位端骨折は、整形外科で観血的整復と内固定を必要とする最も一般的な上肢骨折の1つです。この10年間で、他の治療法に比べて固定性が良好で、合併症の発生率が低く、良好な機能成績をもたらす掌側プレート固定が普及しました。

 方形回内筋は橈骨遠位端を覆っており、プレート固定の際には切離する必要がありますが、固定語に修復する必要があるかは議論が分かれていました。また方形回内筋を温存してプレート固定をしている方もいると思います。

 この記事では橈骨遠位端骨折のプレート固定における方形回内筋の修復の必要性について解説していきます。

今回の要約

短期的には方形回内筋の修復の利点は示されている。

一方、システマティックレビューでは修復の利点は示されていない。

方形回内筋の機能

 方形回内筋は尺骨掌側から橈側に走行し、橈骨遠位側に付着します。前腕の回内に働き、正中神経支配です。

方形回内筋の修復は利点なし!?

 橈骨遠位端骨折の掌側プレートは骨に密着させる必要があり、この方形回内筋を切離することがスタンダードな術式です。方形回内筋の修復は、回内筋力の回復や遠位橈尺関節の安定性などの利点があると報告されていますが、修復に難渋する例も少なくないと思います。

 方形回内筋の修復を評価した研究はいくつかあり、回内筋力、痛み、DASHスコアに差がないことから、修復するメリットはないと報告されています[1][2]。

短期的には方形回内筋修復の利点あり

 それでは方形回内筋があまりにも可哀想、、ということで、修復に肯定的な報告もあります。

 まず方形回内筋の修復では修復しない場合と比較して、疼痛、可動域、筋力が術後早期に改善することが示されてます[3]。

 さらに、方形回内筋をsplitしたり、sparingすることで筋への損傷を最小限に抑える方法も存在し、方形回内筋の温存手術を受けた37例は、手術時間の短縮、出血の減少、合併症の減少、術後疼痛の減少、早期の機能回復を有意に示しました[4]。ただし、温存のデメリットとして、整復固定が煩雑になることがあります[4]。

ステマティックレビューでは利点なし

 6件の研究をメタアナリシスした2020年のシステマティックレビューでは主要評価項目である両群間のDASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand)スコアは修復群203例と非修復群180例で有意差は認められませんでした。(SMD: 0.43, 95% CI: -0.12 to 0.98, I2 = 85%, p = 0.12 )。また、メタアナリシスでは、修復の有無による握力(SMD: -0.10, 95% CI: -0.53 to 0.33, I2 = 64%, p = 0.64)、回内筋力(SMD: -0.02, 95% CI: -0.82 to 0.78, I2 = 82%, p = 0.96)、術後可動域にも有意差を示しませんでした。

 そのため、橈骨遠位端骨折のプレート固定後、方形回内筋の修復は必要ない可能性があると結論づけられています[2]。

 また遠位等尺関節の安定性にも、方形回内筋の深部は橈骨遠位端の尺側に付着しているので、固定時の剥離程度では遠位橈尺関節が不安定になることはないと報告されています[3]。

まとめ

 システマティックレビューでは修復の利点はないと記載されているものの、私は修復の利点は十分にあると思います。術後疼痛の軽減は患者の満足度の向上、リハビリの促進につながるので、今後患者の主観評価に重点をおいた研究が発表されれば修復の利点を主張することができると思います。今後の研究が楽しみな分野です。 

参考文献

1. Häberle S, Sandmann GH, Deiler S, Kraus TM, Fensky F, Torsiglieri T, Rondak IC, Biberthaler P, Stöckle U, Siebenlist S. Pronator quadratus repair after volar plating of distal radius fractures or not? Results of a prospective randomized trial. Eur J Med Res. 2015 Nov 25;20:93. doi: 10.1186/s40001-015-0187-4. PMID: 26607745; PMCID: PMC4660810.

2. Shi F, Ren L. Is pronator quadratus repair necessary to improve outcomes after volar plate fixation of distal radius fractures? A systematic review and meta-analysis. Orthop Traumatol Surg Res. 2020;106(8):1627-1635. doi:10.1016/j.otsr.2020.06.003

3. REVIEW: ROLE OF PRONATOR QUADRATUS REPAIR IN VOLAR LOCKING PLATE TREATMENT OF DISTAL RADIUS FRACTURES

https://www.brighamhealthonamission.org//09/13/review-role-of-pronator-quadratus-repair-in-volar-locking-plate-treatment-of-distal-radius-fractures/

4. Huang X, Jia Q, Li H, et al. Evaluation of sparing the pronator quadratus for volar plating of distal radius fractures: a retrospective clinical study. BMC Musculoskelet Disord. 2022;23(1):625. Published 2022 Jun 30. doi:10.1186/s12891-022-05576-3

 

tm-ortho.hatenablog.com

 

関節リウマチにおける手術部位感染リスクと休薬による再燃について

 関節リウマチ患者さんにおける手術で問題となることが①術後感染症、②関節リウマチの再燃、③関節リウマチによる骨破壊、骨質不良があります。

 この記事では術後の感染症、関節リウマチの再燃について解説していきます。

今回の要約

・関節リウマチ患者では手術部位感染のリスクが上昇します。

・生物学的製剤、JAK阻害薬は術前休薬が必要でJAK阻害薬は4日の休薬が推奨されています。

関節リウマチ患者の年齢と人工関節手術

 関節リウマチは50-70歳代で頻度が高く、人工関節置換術は70歳代の方が受けることが最も多いと報告されています。

 

(図は「関節リウマチ診療ガイドライン2020」スライドキットより引用

https://www.ryumachi-jp.com/publish/others/ra_gl2020/

関節リウマチの治療薬について

 関節リウマチの治療薬は大きく3種類があります。

①csDMARDs:古くからある、従来型の合成抗リウマチ薬です。関節リウマチ診療ガイドライン2020年版で第一選択薬であるメトトレキサーやサラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムス、イグラチモドが本邦ではよく使用されています。

②bDMARDs:生物学的製剤。TNFα、IL-6などのサイトカイン物質を阻害する抗体を投与することで、治療効果を発揮します。

③tsDMARDs:JAK阻害薬。サイトカインのシグナル伝達に重要であるJAK(Janus kinase)を阻害する経口薬剤です。数種類が上市されており、どのJAK阻害薬でも単剤、MTX併用でbDMARDsと同等またはそれ以上の有効性が報告されています。2019年EULAR recommendation、本邦のガイドライン2020年版でもphase 2での使用が提言されています。

その他としてステロイドや非ステロイド性抗炎症薬があります。

各年代別の治療薬剤の比率は以下の図の通りになっています。70〜80歳台でも20%程度の方がbDMARDsを使用していることがわかります。

関節リウマチにおける手術部位感染リスク

 関節リウマチ患者における手術部位感染のリスクは人工関節置換術(膝、股関節)を対象とした研究が多く、人工膝関節全置換術(TKA)で3倍、人工関節置換術全体で1.6-8倍、変形性関節症を対照(0.86%)として1.26%と高い感染率が報告されています。

 本邦の関節リウマチ診療ガイドライン2020年版においても関節リウマチ患者では手術部位感染、創傷治癒遅延のリスクが報告されています。

感染リスクを上げてしまう薬剤

 関節リウマチの第一選択薬であるメトトレキサートは感染リスクと関連しないと報告されています。しかし、bDMARDsの周術期使用は感染率が高くなると報告されています。9911名のRA患者、10923件手術のコホート研究で感染率はアバタセプト 8.16%、アダリムマブ 6.87%と高率でした。

 一方、tsDMARDsと感染リスクについてはまだ明らかにされていません。JAK阻害薬の使用が手術部位感染のリスクを高める可能性はありますが、これを確認するためにはさらなる研究が必要とされます。

休薬するべき薬剤

 休薬が必要な薬剤はbDMARDs、tsDMARDsです。

 それ以外のメトトレキサート、ステロイド、その他のcsDMARDsについては通常通り使用可能です。

休薬期間

 2017年版のACR/AAHKSガイドラインではtsDMARDsは1週間の休薬が推奨されていましたが、2022年版では4日に短縮されました。詳細は下記リンクをご参照ください。

 

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手術時休薬での活動性再燃について

 関節リウマチ薬の休薬による痛みの悪化、疲労感の出現はFlare(フレア)と呼ばれます。THAやTKA術後は実に63%もの方にフレアが出現するとされており、手術前の関節リウマチの疾患活動性高値が危険因子です。

 フレアが出現すると、術後リハビリテーションの阻害因子となりますが、創部が治癒していない状態での再開は感染症の懸念もあり、どちらを優先するかはトレードオフの関係にあると思います。患者さんと術前休薬が必要なこと、術前休薬による活動性再燃の可能性を十分に相談しておくことが必要です。

参考文献

1. Lee JK et al, Knee Surg Relat Res. 2012

2. Premkumar A et al, Curr Rheumatol Rep. 2019

3. George MD et al, Ann Intern Med. 2019

4. 関節リウマチ診療ガイドライン2020

5. Bykerk VP et al, J Rheumatol. 2014

6. Goodman SM et al, J Rheumatol. 2018

変形性股関節症による変形性膝関節症の合併、Coxitis kneeについて

  変形性股関節症の合併症の1つに変形性膝関節症があるのをご存知でしょうか。Coxitis kneeと言われており、股関節と膝関節の変形があるため、どちらから治療をするべきか迷う場合もあると思います。この記事ではcoxitis kneeの内容、どちらから治療をするべきかについて解説していきます。

今回の要約

・Coxitis knee変形性股関節症により変形性膝関節症を発症する病態です。

・治療の原則は先にTHAを行い、次にTKAを行うですが、症例毎に検討が必要です。

Coxitis kneeとは

 Coxitis knee は 1974 年Smillie によって報告された病態で、変形性股関節症等の股関節疾患に伴い、対側あるいは同側に発症する二次性変形性膝関節症です。

Coxitis knee の発症メカニズム

今回の要約

主な原因

・内転拘縮

・脚長差

・骨盤傾斜

内転拘縮

 股関節が内転拘縮すると、同側の膝には外反、対側の膝には内反変形を起こすような力がかかり, windswept deformityという変形が起こってしまいます。

脚長差

 脚長差が小さい場合には骨盤の傾斜のみで代償して歩行しますが、脚長差が大きくなると長い方の下肢を屈曲や外反することによって代償することとなり、結果として膝関節症が発症してしまいます。

骨盤傾斜

 中臀筋の筋力低下や脊椎の側弯、脚短縮、外転筋力の低下により骨盤の傾斜は生じます。立位で骨盤が著明に傾斜すると、機能的には股関節内転位、相対的長下肢の状態になるため、反対側の膝関節は外反位となります。その結果、外反型の変形性膝関節症を生じる機序が考えられています。

(原庸ら、日関外誌, ⅩⅩⅣ, (4), 405-411, 2005)

 ただし、これらの病態は単一で生じることは少なく、病態の進展に伴い複合するのが一般的ですので、患者さんの主な病態が何かを症例毎に考える必要があります。

治療の順番について

 患者さんが最も困っている部分から治療をするのが整形外科手術の原則ですが、coxitis kneeの場合は股関節から治療することが推奨されます[1][2]。

 理由として膝関節症の原因自体が股関節由来のアライメント異常による場合が多いためです。

 特に、変形性股関節症は、変形性膝関節症に比べ、機能低下や筋力低下、全体のバランスに影響を与えやすいと言われています[3][4][2]。

 そのため、先に股関節を手術し拘縮の離開や脚長を整えてから、膝関節の症状が残存した場合に手術治療をすることが望ましいです。

 また、THAを行うと大腿骨軸と大腿骨頭のoffsetが変化するため、荷重軸(ミクリッツ線)に変位が生じ、TKAの骨切りラインがTHA術前と変化するため、理論的にもcoxitis kneeに対してはまずTHAを行い、次にTKAを行って荷重軸の微調整を行うことが妥当であると言われています。

参考文献

1. A Review on the Management of Hip and Knee Osteoarthritis
Total knee replacement is indicated in patients with severe osteoarthritis suffering extensive pain and deformity, where conservative measures have failed.
arthritis.org favicon
arthritis
2. Osteoarthritis: Symptoms, Diagnosis, and Treatment
Having OA can decrease function, weaken muscles, affect overall balance, and make falls more likely, especially among those with OA in knees or hips.
mayoclinic.org favicon
mayoclinic
3. Osteoarthritis - Symptoms and causes - Mayo Clinic
This most common form of arthritis mainly affects joints in your hands, knees, hips and spine. There's no cure, but symptoms can be managed.
cdc.gov favicon
cdc
4. Osteoarthritis (OA) | Arthritis - CDC
It occurs most frequently in the hands, hips, and knees. With OA, the cartilage within a joint begins to break down and the underlying bone begins to change.
webmd.com favicon
webmd
5. Knee Osteoarthritis: When to Consider Surgery - WebMD
The two types of surgery most often recommended for knee OA are arthroscopic surgery and knee replacement surgery.

 

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ACR/AAHKS(アメリカリウマチ学会/股関節・膝関節学会)から発表された、最新の関節リウマチ薬(生物学的製剤、JAK阻害薬)の休薬ガイドライン2022年版のまとめ

 関節リウマチ(RA)患者さんの手術で最も気を付けることは創傷治癒不全と感染症と思います。特に生物学的製剤(Bio)や最近使用されているJAK阻害薬では感染症のリスクが上がりますが、適切な休薬期間については、まだ研究途中であり、手術前の休薬期間も変わってきています。

 この記事では2022年にAmecican College of Rheumatology (ACR;アメリカリウマチ学会)とAssociation of Hip and Knee Surgeons (AAHKS; アメリカ股関節・膝関節学会)から出版されたRA患者における人工股関節(THA)、人工膝関節(TKA)の周術期対応ガイドラインの内容について解説します。

今回の要約

・DMARD (Disease modifying anti rheumatic drug; 疾患修飾性抗リウマチ薬)の休薬は不要

・Bioは休薬を検討し、投与間隔+1週の時期に手術が推奨

・JAK阻害薬は休薬を検討し4日目に手術が推奨

ACR/AAHKSガイドライン2022

 この論文はリウマチ性疾患患者、特に炎症性関節炎患者および全身性エリテマトーデス(SLE)患者が、THAまたはTKAを受ける際の、周術期管理に関する最新のガイドラインです。以前の発表は2017年でしたので5年ぶりの改訂版となります。

 リウマチ専門医、整形外科医、感染症専門医からなる委員会を招集し、系統的な文献レビューを行い、臨床的に関連する患者数、介入、比較対象、アウトカム(PICO)の質問に対して現在利用可能な薬剤を含めています。

 またGRADE(Grading of RecommendationsAssessment, Development and Evaluation)手法を用いて、エビデンスの質と推奨の強さを評価しています。

 このガイドラインでは主に、薬剤をいつ継続し、いつ中止し、いつ再開するか、に関する推奨事項が更新されています。

 今回この記事ではRAにおける部分のみ抜粋、提示します。

 結果

日本語の要約版

DMARDs
商品名
投与間隔
最終投薬からの手術時期
 
メトトレキサー
リウマトレックス
週1回
いつでも可
サラゾスルファピリジン
アザルフィジン
1日1〜2回
いつでも可
手術前に控えるべき薬
 
 
 
Biologics
 
 
 
インフリキシマブ
レミケード
4, 6, 8週間毎
第5,7,9週目
アダリムマブ
ヒュミラ
2週間毎
第3週目
エタネルセプト
エンブレル
毎週
第2週目
アバタセプト
オレンシア
毎月(IV)、毎週(SC9
第5週;第2週
セルトリズマブ
シムジア
2, 4週間毎
第3, 5週
トシリズマブ
アクテムラ
毎週、4週間毎
第2週;第5週
JAK阻害薬
 
 
 
トファシチニブ
ゼルヤンツ
1日1〜2回
Day4
バリシチニブ
オルミエント
毎日
Day4
ウパダシチニブ
リンヴォック
毎日
Day4

DMARDs

 THAまたはTKAを受ける場合、DMARDsの通常投与を手術まで続けることが条件付きで推奨されています。

 こちらは2017年のガイドラインと同様であり、対象薬剤と術後感染症のリスクとの間に関連性は認められておりません。

Bio

 THAまたはTKAを受ける場合、すべての生物学的製剤を手術前に差し控え、次の投与予定日の後に手術を計画することが条件付きで推奨されています。

 これは投与間隔の終了後に手術を計画することは、薬剤の活性レベルが低くなるためです。

JAK阻害薬

 手術の少なくとも3日前からトファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブを差し控えることが推奨されることとなりました。

 以前のガイドラインでは、トファシチニブの血清半減期が短いことは知られていましたが、免疫効果の持続時間が長いことを懸念して、手術の7日前からトファシチニブを控えることが推奨されていました。

 新しい推奨は、トファシチニブ治療を中断した後に疾患活性が急速に上昇し、免疫抑制効果の急速な逆転を示唆した試験データに基づいており、推奨は手術の3日前からトファシチニブを差し控えるように変更されています。

 新しいJAK阻害剤の血清半減期は、トファシチニブのそれとほぼ同じであるため同様の休薬期間で大丈夫なようです。

薬剤の再開時期

 創が完全に治癒し、すべての縫合/ステープルが抜け、著しい腫脹、紅斑、または痛みがなく、手術部位感染がない場合に再開すべき(通常術後~14日間)です。

  ただし、GRADEでは”非常に質が低い”に分類され、リウマチ以外の疾患を持つ患者が含まれていたり、比較対象群が含まれていなかったりした論文が元となっているため、結果を鵜呑みにせず慎重に適応することが必要です。

まとめ

 日本のガイドラインにおいてもJAK阻害薬の使用が推奨されていることから、今後JAK阻害薬を含めた対応については認知しておく必要があります。むやみに休薬期間を長くして、患者さんの痛みを増悪させないように、対応が必要と感じました。

 

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