しなやかさと強さと小幡竜平【2/5 対紅組◯】
しなやかで、力強い。
僕が野球場でタイガースの小幡竜平を初めて見たときの印象だ。あのとき感じた驚きは、今も変わっていない。
宮崎県・延岡学園高校出身の内野手。2018年のドラフトでタイガースから2位指名を受けた。2000年生まれの高卒4年目で、同世代にはカープの小園海斗やマリーンズの藤原恭大がいる。昨シーズンは代走や守備固めを中心に43試合に出場した。
身長184cmの小幡は内野にいるとなかなかの存在感がある。まだ伸びしろがありそうな少しほっそりとした体格だが、スローイングの強さはチーム随一だ。
細くて長い腕から放たれるボールはまるで光線のよう。三遊間の深いところからの送球や外野手からのカットプレーは「ビューン!!」という音が聞こえてきそうだ。昨年タイガースで臨時コーチを担当した川相昌弘さんも、「タイガースの内野でスローイングが1番すごいのは小幡」と太鼓判を押している。
春季キャンプが始まって最初の実戦となった紅白戦。だが、昨シーズンショートのレギュラーだった中野拓夢はキャンプ前の故障の影響で2軍、セカンドの糸原健斗は前日に新型コロナウイルスの感染が発覚した。二遊間の主力が揃わない状況で、紅白戦の内野スタメンには経験の浅い選手が多数起用された。その中のひとりに小幡がいた。
この日は白組の2番・ショートで起用された小幡。紅組のピッチャーは伊藤将司だ。アウトコースのボールをレフト方向へ鮮やかに弾き返す。落ち着きに定評のある伊藤将だが、小幡はそれ以上に落ち着いているように見えた。小幡は足も速い。あっという間に2塁を陥れた。レフト線に伸びた打球と走る小幡がしなやかだった。
最終回、再び小幡に打席が回ってきた。2点差だが、2アウト満塁。公式戦とはプレッシャーのかかり具合が比べ物にならないとはいえ、ここでも小幡は落ち着いていた。低く伸びていった打球が、前寄りに守っていたセンター・近本光司の頭を超えた。ランナーが全員帰ってきた。小幡の足は速い。ベンチの興奮が最高潮になるのを尻目に、小幡は3塁ベースを蹴った。試合を決める逆転満塁ランニングホームラン。今までの小幡のイメージを覆す強い打球だった。そして何より、絶好のアピール機会でこれ以上ない結果を残した小幡の強さに驚いた。
小幡がホームベース近くで白組のランナーたちと笑顔でタッチを交わした瞬間、「2022年もきっと良い年になるぞ」と思えた。チーム内の競争はいっそう激しくなるだろう。仲間同士で競い合えるチームは、必ず今より強くなれる。しなやかで力強い小幡がシーズンの始まりを告げた。
「好き」があふれている大学・社会人野球の写真展に行ってきた
野球のない冬。
このオフシーズンの時期に、1年間撮り溜めた写真を集めて展覧会を開いている野球ファンがいます。写真のテーマは「大学・社会人野球」。王道の六大学野球以外はなかなか注目されにくいですが、仕事の合間を縫って試合に通い続けている人たちがいます。
僕が通っていた専修大学も「東都大学リーグ」に所属していました。卒業後、社会人野球でプレーされている選手もたくさんいます。写真を見たら、当時の記憶も蘇ってくるかも……。写真の勉強も兼ねて、見に行ってきました。
都営大江戸線の牛込柳町駅から徒歩7分。狭い道を進んでいきます。
閑静な住宅街の一角に、会場のギャラリーはありました。
看板には日本通運、亜細亜大学、JFE東日本……プロ野球を中心に取り上げている雑誌ではほとんど見かけないチームの写真に僕のテンションも上がります。
入り口につながる階段を降りると、10人弱のお客さんが楽しく歓談しながら写真を眺めていました。野球熱の高い人達が集まっていることが直感で分かりました。
写真は全部で5名の方が撮られたようで、お気に入りの写真をそれぞれ9枚ずつをセレクト。みなさんよく見に行くリーグや応援しているチームが違うようで、撮影者の個性がよく表れていました。ガッツポーズしているところが好きなのか、笑顔が好きなのか、それともかっこいいプレーのシーンが好きなのか。どういうシーンをカメラに収めるのが好きなのかって、特に個性が出ますよね。
写真展のTwitterアカウントに会場の様子を撮影した写真が載っていたので紹介します。今年プロ入りした山田龍聖投手(JR東日本・ジャイアンツ2位指名)佐藤隼輔投手(筑波大・ライオンズ2位指名)の写真もありました。
おはようございます🌞
— MAB大学・社会人野球写真展 (@photo_mab) 2022年1月8日
写真展一日目開場いたしました!
素敵なお花も届きました🌷
ありがとうございます。
皆様のご来場お待ちしております📸
宜しくお願いします☻ pic.twitter.com/1CjJXrkYNM
会場には実際に写真を撮られた方たちも来ていて、お客さんと楽しく野球談義をしていました。せっかくの機会なので、写真展のことについてちょっと取材してみました。
ももさん(Twitter:@m2334ys2666)が野球に興味を持ったきっかけは1通のメール。職場の野球部が都市対抗野球大会に出場することを伝える内容でした。それまで地元のベイスターズをなんとなく知っている程度でしたが、これを機に野球への関心が高まっていったそう。
今は違うお仕事をされているようですが、社会人野球と大学野球のファンは続けています。イーグルス・松井裕樹投手の弟さんが所属しているハナマウイ野球部の写真も展示されていました。
ぴろこさん(Twitter:@merisotilas)はこの写真展の取りまとめ役。大学生だった頃にお祭り感覚で見に行った早慶戦での応援をきっかけに、野球の楽しさに気づきました。他校の応援を知りたくて早慶戦以外も見るうちに、同じ神宮球場で別のリーグ戦が行われていることを知ります。そこから東都大学野球にも興味を持ち、実際に見に行ってみることにしたそうです。なんとすごい行動力。
六大学野球とは違い、ベンチ外となった選手たちの応援に魅了され、気づいたら東都のとりこになっていました。東都でプレーした選手の卒業後の進路も気になり、彼らがプレーする社会人野球も一緒に追っかけているそう。
ぴろこさんはみなさんから集めた写真の選定も行っています。さながら編集者のようです。「今年は都市対抗が12月だから、写真選びも年末までかかりました。本当は全部紹介したいんですけどね。私は今年プロ入りした選手や、惜しまれつつ現役を勇退される人を中心に選びました」ぴろこさんが撮られた写真は選手の感情がよく伝わるものばかりでした。
写真展は今回の開催が5回目。最初はもっと人数も少なかったそうなのですが、すこしずつメンバーを増やして、今の規模で開催できるようになりました。メンバーが知り合うようになったきっかけは野球場。「あの人カメラ持っていつもいるな~」とお互いのことをなんとなく認知していたようです。趣味が同じ仲間が、意気投合するのに時間はかかりませんでした。写真展には同じく大学・社会人野球のファンのほかに、野球部のスタッフが来てくれるそうです。僕が訪れたときには、とある社会人チームのトレーナーさんが見学に来ていました。過去には後にプロに行った選手も来てくれたとか。
球場に何度も通っているうちに選手と仲良くなることもあるらしく、今はプロで活躍するあの選手の裏話も聞かせてもらいました。ここでの紹介は控えますが、大阪ガス時代の近本光司選手のいい人エピソードも教えてもらいました。みなさんスポーツ記者さん以上にお詳しい方ばかりです。
写真展は今日まで開催されているようです。
時間は10時から18時まで。
最寄りは都営大江戸線の牛込柳町駅、もしくは東京メトロ東西線の早稲田駅。
僕もこういう写真を残したいなと刺激をもらいました。
会場へのMAPなど、詳しい情報はこちらから
MAB大学・社会人野球写真展
Jonseyのプライド【11/25 対ヤクルト戦○】
助っ人外国人選手の適応力に驚かされるときがある。
初めての日本の文化、「ベースボール」とは似て非なる「野球」の考え方。戸惑うことも多いはずの1年目を乗り切ると、2年目のシーズンにはすっかり違いを受け入れ、より一層チームに溶け込もうとしている。来日前はMLBや別のリーグで実績を残してきた選手も少なくない。時にはこれまでの価値観を捨てなければならないこともあったはずだ。そう簡単なことではないことは容易に想像できる。
オリックス・バファローズのA.ジョーンズのようなかつての超スーパースターなら、なおさらのことだ。
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見返してやれ大山悠輔【11/6 対巨人戦●】
ペナントレースの開幕戦がチームの戦い方を示す場なら、クライマックスシリーズはペナントレースの総決算だ。
「ウチは1年間こうやって戦ってきた」、「ウチは今年ここが成長した」「ここを強みとして勝ち星を重ねてきた」と、対戦相手やファンに示す場であると思っている。毎年不要論が起こるけど、上位チームのやってきたことを緊張感たっぷりで味わえるCSが、僕は好きだ。
だからこそ、「あの男」がスタメンにいなかったことがさみしくて仕方なかった。
大山悠輔だ。
今年の大山は「4番・三塁」で開幕戦を迎えた。それまでのシーズンでこだわり続けた4番出場を実力で勝ち取った。チームが勢いに乗った4月は打率.308、5本塁打。佐藤輝明の活躍に隠れがちでチャンスでは打てないと言われながらも、チームの勝ちにつながる「打点」にこだわり続けた。7つの犠牲フライ7はリーグトップタイ。勝利打点15はチームダントツの数字だ。選手やファンが歓喜にわく瞬間、その中心にはいつも大山がいた。
阪神甲子園球場で幕を開けたCSのファーストステージ。初戦のオーダーに大山の名前はなかった。背中のケガの影響だろうか。いや、タイガースがCSの直前に行った社会人チームとの練習試合には出場している。「やりたいことを試せた」と頼もしいコメントも残している。ファンが知ることができる情報はほんの一握りだ。
大山の本当の状態を知っているのは首脳陣やチームのスタッフだけ。先発出場させられない理由があったのかもしれない。相手との相性があったのかもしれない。
分かっている。分かっているし、その決断に異を唱えるつもりはない。けれども、ペナントレースの総決算であるCSに、今年1年頑張ってきた大山がいない。その現実を僕は簡単に受け入れられなかった。「出られない」と「出さない」には大きな差があるのだ。
今年の大山と去年までの大山。彼が発するコメントが変わった。「4番へのこだわり」だ。ベンチスタートで迎えた去年の開幕戦。三塁を守っていた故障したJ.マルテの代わりにサードのレギュラーを奪うと、「4番・三塁」で試合に出続けた。キャリアハイの成績を残した大山は、4番で試合に出続けることへこだわりを持っているように思えた。
けれども、今年はそんなコメントを聞かなくなった。
「4番はどうでもいい」
「勝てれば何でもいいんです」
Numberのタイガース特集に載っていた大山の言葉だ。嘘偽りない本心から出たコメントだろう。そうでなきゃ、代わりに4番に座って逆転満塁ホームランを打った佐藤輝明の活躍を心の底から喜べないはず。自身のポジションよりチームの勝利を優先する姿。キャプテンとしての覚悟を感じた。
ねえ大山。今も同じ気持ちなの?
CSファーストステージの初戦。9回の裏、大山がバットを持ってベンチから出てきた。プレイボールがかかったときに広がっていた青空は、すでに夕暮れに姿を変えている。
点差は4点。ジャイアンツ・菅野智之に抑えられたタイガースはここまで無得点。諦めに近いムードが甲子園に漂っているのを、テレビ越しにも感じた。
木浪聖也の代打で登場した大山。T.ビエイラが初球に投じた157キロのストレートを弾き返した。鋭い当たりがレフト線に伸びた。一塁走者の糸原健斗は3塁まで達した。甲子園に活気が戻ったように感じた。
結局得点は入らなかったけど、大山のヒットが試合の雰囲気を変えた。
「俺を使えよ!!」
一塁ベース上で表情を変えない大山がそんな風に言っているように思えた。全部僕の妄想だけど。
「プロ野球選手・大山悠輔」の原点は負けず嫌いだ。今でも忘れられないあのドラフト会議。タイガースが1位で大山を指名した瞬間、会場には野球ファンからの「えー?」という声が響いた。大山はあの日のことについて、こんなコメントを残している。
「見返してやるというか、悲鳴をあげた人たちを後悔させてやるんだという気持ちを持って、今もやっている」
見返してやる、後悔させてやる。大山を大きく成長させてきたのは、周りへの反骨心だった。
ねえ大山。今こそ見返してやろうよ。
試合後、矢野監督は大山のスタメン起用を示唆した。当然だ。
確信はないけれど、きっと2戦目は最初から試合に出る。そこで真価が試されるだろう。けれど大山なら大丈夫だ。今年1年どんな苦境に立たされても、自分のバットで突き進んできた。勝利の喜びを一緒に分かち合ってきた。絶対やってくれる。
見返してやれ大山。自分のために打て大山。
その先に、誰よりも追い求めた勝利が待っている。
下を向いてる選手は誰もいない【10/9 対ヤクルト戦○】
阪神ファン御用達のスポーツ紙、デイリースポーツ。中継だけでは分からないプレーの裏側はもちろん、普段なかなか知ることができない2軍情報を載せてくれる。
僕が島田海吏のことを深く知ったのは、デイリースポーツのファームコーナーだった。
当時ルーキーだった島田は、2軍でプロの壁に苦しんでいた。結果が出ないことに相当悩んでいたようで、鳴尾浜球場に取材に来た女性記者に「僕にバッティング教えて下さいよ……」とこぼしていたらしい。
(おいおい大丈夫かよ……)
この記事を読んだ僕は、島田が記者に愚痴をこぼすほど悩んでいることを知り、心底不安になったことをよく覚えている。
この年の島田はシーズン終盤に一軍昇格すると、なんとプロ初打点をサヨナラヒットで決める離れ業をやってのける。
喜びを爆発させてチームメイトから祝福を受ける島田。最下位に沈んだチームに希望の光が差し込んだ。あの赤星憲広が身に付けた背番号53が再び甲子園に戻ってきた!僕は興奮を隠せなかった。
だがタイガースのセンターの座を掴んだのは、この年のオフにドラフト指名された近本光司だった。
あれから3年が経った。
島田はファームで課題だった打撃に磨きをかけていた。10月9日現在で二軍戦の打率は.344。
女性記者に弱音を吐いていたあの頃と比べて、自信に満ちていたに違いない。
当然これだけ打っている選手を一軍が見逃すはずがない。島田は一軍に昇格した。
この日は守備からの途中出場。7回に初めての打席が巡ってきた。スワローズ・今野龍太の投じたボールを弾き返すと、打球はファーストベースに当たり、グラウンドを転々とした。
島田はグラウンドで両手を何度も握りしめていた。この打席にかける思いがひしひしと伝わってきた。
打球の内容だけを見ればラッキーな当たりだと思うかもしれない。けれども、島田が強い引っ張りの打球を求めて練習していたことを、僕は知っている。
相手ピッチャーに負けない鋭い当たりを求めていたからこそ、一塁方向への打球になった。ベースに当たったのは偶然だとしても、島田が一二塁間を狙っていたのは偶然ではないはずだ。
これぞ死闘。まさに首位攻防戦。
島田の一打で勝ち越したタイガースが、このリードを守りきった。
お立ち台にあがった島田は力強く語った。
「下を向いている人は誰もいないので」
グラウンドでは気迫を全面に出して選手たちがプレーしていた。何度ピンチが訪れても、チャンスで相手のピッチャーに抑え込まれても、誰も下を向いていなかった。
見せてくれ。闘志あふれるプレーを。
見せてくれ。奇跡の逆転優勝を。
マジック0になるその日まで、一瞬たりとも諦めるもんか。
マジック0になるその日まで、一瞬たりとも諦めるもんか。