しもばしら

ほほえみの影おくりゆくしもばしら


  ☆

 

 霜月十二日は七十二候、地始凍の頃。その早朝、叔父の訃報を受ける。いつも静かに微笑みをたたえていた佇まいが目に浮かぶ。霜が立つと大地が水で潤されていたことに気づかされる。知らず支えてくれていた人は旅立った。葬儀は家族のみとのことで俳句をそえ、手紙を送ることにした。

私の民語「手」

 色とりどりの貝殻を一杯にのせた少女の両手。ていねいにお金を戴く掌。思いがけぬ指先のつめたさ。色あせた手書きの文字。肩におかれた静かな手。小指を強くにぎりしめてきた手。最期の握手。
 書き記してきたものには「手」や「掌」にふれたものが数多ある。読み返しているうちに、「手」や「掌」にまつわるさまざまなことが思い起こされてきた。
手袋越しの温もりと柔らかさ。油紙のようになってしまった手にふれたこと。つなぐことを拒む手。走りゆく電車へ向かって、いつまでも高く振られる手。
 小学校の授業中、答えが分かっているにもかかわらず、恥ずかしくて手を挙げられなかったこと、湧きあがる働きに促され手を挙げたこと。掌にしわが多く、濡れるとふやけてしまい、人に掌を見せることを頑なに拒んでいたこと、意を決し掌を開いたときのこと。
 手はまた仕事の大切な道具でもある。
 今の仕事を始めるにあたって、体調面、金銭面など、いろいろな偶然が重なり、しかも短日時で凡てが決まった。見えぬ手がさしのべられたとしか言えない。自分の意思とは違う形で、抗えることのない力が静かに事を進めている。

まばゆい光に
にびいろの霧を

たえない足音に
透明なせせらぎを

ふりそそぐ熱線に
鋼の流氷を

いさかいの鐘に
やわらかな雨を

慟哭する後ろ姿に
古の枯れぬ泉を

迷いさすらう歩みに
花の香たたえる涙を

つかれはてた今日に
葉先からほほえむ雫を

花はどこへいった

舞いおりた欠片は
雨に憩い
風を待つ

根は低く奏で
沈黙の蕾によりそう

光にとけ
佇み
招きの声を知る

かがり火を享け
波に惑う
朱鷺色のあゆみ

微笑みは天をきよめ
腕しなやかに蝶と遊ぶ

瞳に星の記憶
奈落の底は夢景色