私の民語「手」
色とりどりの貝殻を一杯にのせた少女の両手。ていねいにお金を戴く掌。思いがけぬ指先のつめたさ。色あせた手書きの文字。肩におかれた静かな手。小指を強くにぎりしめてきた手。最期の握手。
書き記してきたものには「手」や「掌」にふれたものが数多ある。読み返しているうちに、「手」や「掌」にまつわるさまざまなことが思い起こされてきた。
手袋越しの温もりと柔らかさ。油紙のようになってしまった手にふれたこと。つなぐことを拒む手。走りゆく電車へ向かって、いつまでも高く振られる手。
小学校の授業中、答えが分かっているにもかかわらず、恥ずかしくて手を挙げられなかったこと、湧きあがる働きに促され手を挙げたこと。掌にしわが多く、濡れるとふやけてしまい、人に掌を見せることを頑なに拒んでいたこと、意を決し掌を開いたときのこと。
手はまた仕事の大切な道具でもある。
今の仕事を始めるにあたって、体調面、金銭面など、いろいろな偶然が重なり、しかも短日時で凡てが決まった。見えぬ手がさしのべられたとしか言えない。自分の意思とは違う形で、抗えることのない力が静かに事を進めている。
ときのしずく
てのひらに
ときのしずくを
うけとめて
にぎりしめれば
ふゆのぬくもり
太古のかがやき
花の潮みちて
ひかりあふれ
声つつむ翼は
風に舞い
太古の海原
かがやき響き
青ふかき夜空に
うたを待つ
涙
まばゆい光に
にびいろの霧を
たえない足音に
透明なせせらぎを
ふりそそぐ熱線に
鋼の流氷を
いさかいの鐘に
やわらかな雨を
慟哭する後ろ姿に
古の枯れぬ泉を
迷いさすらう歩みに
花の香たたえる涙を
つかれはてた今日に
葉先からほほえむ雫を
花はどこへいった
舞いおりた欠片は
雨に憩い
風を待つ
根は低く奏で
沈黙の蕾によりそう
光にとけ
佇み
招きの声を知る
かがり火を享け
波に惑う
朱鷺色のあゆみ
微笑みは天をきよめ
腕しなやかに蝶と遊ぶ
瞳に星の記憶
奈落の底は夢景色
藤棚
藤棚の香りたどれば幼き日