推し、燃ゆ読了
岡本太郎の著作のなかに、坂本九との出会いのエピソードがある。 坂本九はテレビの出演で忙しい時期で、岡本太郎は坂本九に「人気者は大変だなぁ」と言ったらわぁ!!!と泣き出したという。 岡本太郎はそのとき、テレビでの虚構で生きるタレント、アイドルの孤独さを感じ取ったという。本当の自分の内面を理解する人がいないという孤独さを。
青春期から大人を経るにあたり、何かしらの重圧に潰されそうな気持ちがちょっとした弾みで何かがはじける。
「推し、燃ゆ」は大人に至るまでに経験する、衝動、カタルシスを巧みに描いた青春期の文学作品だ。
小説では主人公自身の描写はほとんど語られない。 「自分自身とは何か、自分はどう思うか」ということを言語化できない、現代っ子を表現するため。 また主人公自身が発達障害やセルフネグレクトの傾向があり、それも理由の一つとしている。 これは地の文や文体にも表現されている。場面転換や主人公自身に起きたこと、主人公自身が感じたことなどはほとんど記載されていない。まるで、ピンホールのような小さい眼鏡をかけて生活しているような読後感。
推しを見る主人公の様子を読書をとおして観察することで、主人公の感情、あるいは主人公の意識自身も気づいていない、感情や思いを行間からくみ取らせようとしている。
「推し、燃ゆ」はとても実験的な作品だ。青春小説でよく起こるアイデンティティの消失と、最後の破壊衝動とカタルシス。 おそらく著者が一番伝えたいことは、この「言葉にできない生きづらさを伝えつつも、それでも這いつくばって生きるしかないということ」。 人を選ぶ作品だが、唯一無二の行間と読後感感じてもらえたらと思う。
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
久しぶりにブログで感想をまとめていきます。
今回は、クリストファー・マッカリーが脚本・監督を務めた「ミッション:インポッシブル(以降、MIP)/デッドレコニング PART ONE」。
あらすじ
伝説のスパイ、イーサン・ハントは人類を脅かすAI新兵器を利用されるのを阻止するように命じられ、CIAの極秘組織・IMFの仲間たちとともに、不可能といわれるそのミッションに挑む。
以降、一部ネタバレが含まれます。
問題点はイルサの死
主人公のイーサンにはすでに奥さん役がいるので、イルサとの恋は実らないというのは元々わかっていたこと。
なので、脚本家の人が、イルサとの関係に幕引きしておかないといけないと、インタビュー記事で発言していたのも理解できる。
ただ、イルサの死が犬死ににしか思えなくて。。。
前作、前々作で大活躍したヒロインを、あんなに呆気なく死なせていいのかなと。
もうイルサはチームの一員で、ルパン三世の峰不二子的ポジションを確立していたわけで。
せめて007のダニエルクレイグのような、もっと哀愁ただよう別れを演出してほしかった。
オリエント急行の場面
今回はオリエント急行を使ったアクションは、長かった。。。
アクションシーンだけでなく、ヒロインが扮装して大立ち回りする場面もあり、ずっと緊張しまくりです。
ヒロインが扮装して入れ替わる場面は、多分アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」のオマージュですね。
読んだことなかったけど、「オリエント急行殺人事件」のオチを聞いてとても納得。
一方で、それぞれの登場人物の思惑とか、新しいヒロイン役の半生とか心情風景とか、そういったものがよくわからなくて、感情移入ができなかった。
日本映画とハリウッド映画の演出の違いなのかもしれないが。
また、トムクルーズのオリエント急行のアクションシーンは、昔の映画をみているようなベタなものが多かったなぁ。。。
最後に
以上、感想、にもなっていないポエムな文章でした。
正直に書きましたが、映画自体はとてもよい映画です。MIPファンやアクション映画の好きな人はおすすめです。
ただ今回の作品だけ違和感というか、もやもや感を感じるかもしれません。
続きの次回作に期待しています。
グノーシア プレイ感想
先日2022年1月23日に、Steamでグノーシアがリリースされました。
ここで、自己満足という目的もありますが、ニンテンドースイッチ版のグノーシアをプレイした感想をお伝えします。
皆さんも、ご興味頂けたなら、ぜひ、グノーシアをプレイしてみてください。
グノーシア
グノーシアは宇宙人狼と呼ばれる、繰り返し人狼ゲームを繰り返すアドベンチャーゲームです。
プレイヤーは、セツと呼ばれる船員に導かれる形で、宇宙船の人狼ゲームに臨むことになります。
そして、セツとともに、宇宙船での人狼ゲームを繰り返し、タイムリープからの脱出を試みます。
主人公は、鍵と呼ばれるアイテムを所有したことにより、宇宙船に乗船してからの数日の間の時間を、タイムリープを繰り返します。
タイムリープでは、毎回、宇宙船内に潜む宇宙人、グノーシアを探すため、人狼ゲームを行い、怪しい人物をつるし上げコールドスリープさせ、拘束します。
グノーシアは、一日の最後に、人間たちのうち一人を殺します。
人間たちは、船内の人間の減少を抑えるためにも、グノーシアと思われる人物を、コールドスリープで拘束しなければなりません。
宇宙船内のグノーシアをすべて、コールドスリープさせることができず、船員の半数がグノーシアになった場合、人間たちの負け。
一方で、グノーシアが全員コールドスリープした場合は、人間たちの勝利です。
この人狼ゲームの繰り返しは、はじめ単調なもので退屈なものに感じるかもしれません。
しかし、プレイヤーの皆さんは、ゲームクリア後に、クリアの幸福感とカタルシスの余韻を感じることができます。
タイムリープと人狼ゲームの特性を、巧みにシステムに落とし込んだゲーム
グノーシアの良い点はテレビゲームの単純な移植ではない点です。
人狼ゲームはあくまで、グノーシアの一部分のパーツに過ぎません。
ゲーム全体は、ゲームを繰り返す主人公=プレイヤーの成長と、船内の各キャラクターのふれあいを主軸に置かれています。
そして、人狼ゲームを繰り返した末に、ゲーム内の経験値による成長だけでなく、実際にプレイしているプレイヤー自身が人狼ゲームに慣れ、論理的に学習し成長していくことができます。
そういった意味で、グノーシアは、ノベルゲーム、アドベンチャーゲームに近いゲームでありながら、ナラティブ性が高いゲームではないかと感じています。
また、このゲームの短所でもあり、一つの特徴でもあるのが、人狼ゲーム内の単調な会話です。
この単調な会話は、本当に単調なのですが、この繰り返しに、ゲームとしての業の部分と、タイムリープを巧に表現しています。
例えば、小説「all you need is kill」。この小説は、ゲーム系小説というジャンルで、ハリウッド映画にもなったライトノベルです。
ゲームは、プレイヤーと対戦相手との対決を描き、プレイヤーが死んだ時点でゲームオーバー、その後リスポーンし、次のゲームに参加し、繰り返す、単調な繰り返しです。
「all you need is kill」では、このゲームの一連の流れを、宇宙人との戦争で発生したタイムリープに置き換えて表現し、そのタイムリープの繰り返しの中での主人公の成長と、タイムリープからの脱出、宇宙人との対決を描こうとしています。
ゲーム系小説は、ゲームを繰り返すことで成長するプレイヤー自身の内面も含めてプレイヤーの成長を表現します。
本来ゲームでは表現しにくい、主人公自身の成長を、小説という媒体の特性を生かし、主人公の内面性や五感という形で文章に表現します。
それにより、ゲームでは表現しにくい、プレイヤー自身の人間性の成長を小説で表現し、ゲームのすばらしさを伝えます。
グノーシアは、「all you need is kill」と同様に、ゲームの一連の流れを、タイムリープとして表現し、タイムリープの繰り返しの中でゲーム全体でプレイヤー自身の成長を表現します。
また、登場するキャラクター達のエピソードや関連する伏線をミステリー小説のように、伏線回収をしていきます。
グノーシアは単純な人狼ゲームではなく、ゲーム系小説や、タイムリープをオマージュにしたノベルゲームでもあります。
このように、グノーシアは、人狼ゲームのシステムをうまく生かしつつ、小説や映画で表現されていた方法をゲームのなかに逆輸入していると、私は考えています。
そして、小説や映画では編集上カットされる部分も、ゲーム内ではカットされず繰り返し繰り返されます。それが逆に最後のトゥルーエンドで感じるカタルシスを高める効果をもたらしています。
最後に
グノーシアのプレイ時間は20~30時間。私のタイムリープの回数は150回前後で、TrueEndにたどり着くことができました。
ご興味いただけましたら、グノーシアをお手に取っていただけたら、と思います。