児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ミルクこぼしちゃだめよ!

 

西アフリカの小さな村に住む女の子ペンダ。ヒツジを連れて山へ行っているおとうさんに、ミルクを届けます。ミルクをたっぷり入れたおわんを頭にのせて、こぼさないように気をつけて。

砂漠をのぼってくだって、舟で川をわたって、山のてっぺんを目指します。ラクダやキリンの群れ、砂漠の精霊たちやお祭りのおもしろいお面をかぶった人たちに見とれないように、舟がゆれてもミルクをこぼさないように。

なんとか無事に、お父さんが休んでいる木の下へたどりついたその時です。上からマンゴーが落ちてきて、ミルクのおわんの中へ「バッシャーン!」。泣き出すペンダ。

でも、おとうさんは言いました。「おまえの気持ちはおわんにいっぱい入っているよ、1滴もこぼれずにね」。そして、マンゴーを3つに分けて2人で食べ、1つはおかあさんのお土産にして、ペンダは帰ったのでした。

西アフリカのブルキナファソに暮らす英国人の作家に、英国のイラストレーター。

最後の場面では、ペンダが山を下り始め、家からたどった道中を見開きいっぱいに見渡す。欲を言えば、最後はおかあさんの元へ帰り着いたラストだとほっとします。 (は)

ハンダのびっくりプレゼント

 

ハンダは、友だちのアケヨにおいしいくだものを持っていってあげることにして、7種類のくだものをかごに入れました。バランスよく頭にのせると、アケヨの村へ出かけます。

バナナにグアバ、マンゴー、パイナップル・・・アケヨは、どのくだものが1番すきかな?アケヨのびっくりする顔を思い浮かべながら、アケヨは歩いていきました。

ところが。アケヨの知らないまに、サルやダチョウ、ゾウたちが、かごの中のくだものを1つずつ失敬していたのです。

最後のパッションフルーツまで持っていかれてしまったとき、勢いよく走ってきたヤギがミカンの木にぶつかった衝撃で、上から実が落ちてきて、ハンダのかごにどっさりのっかりました。アケヨの家に着くと、アケヨはびっくりして大喜び。「わあ、ミカンだ!一番すきなくだものよ!」ハンダは、もっともっとびっくりしたのでした!

ケニアの子どもがモデル。ハンダの知らない状況を絵が能弁に語っていて、集団へのよみきかせにもおすすめです。
続編に、アフリカの動物で1から10を数えていく『ハンダのめんどりさがし』も。 (は)

チトくんとにぎやかないちば

 

お母さんの背中に負ぶわれて市場へやってきたチト。きょろきょろしていると、お店の人がバナナをくれたりココナツをくれたり。チトは1つ食べては、残りをお母さんの頭のかごの中に。お母さんは品定めに夢中で、まったく気づきません。帰りのタクシーを呼び、かごを下ろしてみてびっくり。買ってもいない品物がたくさん入っています。そこへお店の人たちが来て「それはみんな ぼうやにあげたんですよ!」。チトもお母さんもにっこりで、うちへ帰っていきました。

西アフリカ・ナイジェリア生まれの作者と西アフリカ育ちの画家による。チトとほかの人々のようすが同じトーンで細かく描きこまれているので、近くでじっくり楽しむ絵本。
同じ題材なら『ジンガくんいちばへいく』(福音館書店)がおすすめ。

また、頭のかごの中身が知らないうちに・・・という話なら『ハンダのびっくりプレゼント』(光村教育図書)が、集団への読み聞かせにはおすすめです。 (は)

ジンガくんいちばへいく

 

ジンガは初めて1人で、市場のおばあさんのお店まで卵を届けることになりました。ロラおばさんの後について行けばだいじょうぶ。市場に向かう人たちの行列にまじって、とっとことっとこ歩きます。

果物などの作物を運ぶ人、牛や羊を連れていく人。途中、大勢の人を乗せたトラックが追い抜いた砂ぼこりで、ジンガはロラおばさんを見失ってしまいました。

市場には着いたものの、広くて人もいっぱい。困っていると、年上の少年サファリが声をかけてくれました。サファリの案内で、ジンガは無事おばあちゃんのところへ。卵が売れたお金で上等の肉を買い、家に帰ったのでした。

道中や市場での賑やかなざわめきが聞こえるよう。絶妙なバランスで、ミシンやテーブルまで頭にのせて(!)歩く人たちに驚きます。色とりどりの衣服も目に鮮やかです。

作者は家族でザイール(現コンゴ)に暮らし、市場を利用した経験が存分に生かされました。 (は)

パレスチナのちいさないとなみ

 

『瓶に入れた手紙』でわからなかったことが、いろいろ本当によくわかります。

パレスチナ人」というひとくくりではなく、1人ひとり顔があって、名前があって、仕事と暮らしがあって、生きている、ということが、高橋美香さんの写真と文章で前半に、後半は、パレスチナ地域の人たち(アラブ人もユダヤ人も)とフェアトレードで共に仕事をする皆川万葉さんの文章で。

笑顔の写真が多いのは、写真家が何度も現地に通い、そういう関係をつくっているからで、後半を読みすすめていくと、とても笑って受け止められないパレスチナの仕事環境の過酷さ、人権が踏みにじられている現実が、突きつけられます。それでも笑い飛ばす人の言葉には、何と言っていいのか。

イスラエル軍はいまや、外出禁止令を出さなくても、いつでもやってきて逮捕や暗殺ができるから、外出禁止令の必要がないんだよ。ハッハッハー」「日本は地震が多いね。パレスチナは戦争が多いよ。ハハハ」

さらに、パレスチナの歴史や、複雑な背景を解くQ&Aでは、「オスロ合意」の問題点や、「パレスチナ自治政府」に対する民衆の”冷ややかな”視線、日本政府に対する厳しい言葉――支援には感謝しているが「お金がほしいわけじゃない」「きちんと批判をしてほしい」。ここには、皆川さんが指摘する沖縄の人と米軍基地、福島の人と原発事故の問題のほか、核兵器禁止条約に対する態度も思い当たります。

日本にいるわたしとして、できることをしたいと考えました。 (は)

瓶に入れた手紙

 

イスラエルエルサレムに暮らすタルは17歳。ある日、ガザ地区の兵役に就く兄に、手紙を入れた瓶を託す。パレスチナの知らない少女と、憎しみ以外の言葉で語り合いたいという願いをこめて。

ところが、瓶を拾ったのは20歳の”ガザマン”で、その返事は悪態やからかいの言葉で埋め尽くされていた。でもタルはあきらめずにメールを書き、語りかけ続ける。それは、タル自身の抱えきれない不安や恐怖を、頭の中から追い出すためでもあったから。

やがて心を開き始めた”ガサマン”は、ナイームという名であることを明かす。そんな矢先、エルサレムでまた自爆テロがあり、その現場を目撃したタルは、ショック状態に陥ってしまう。

以前ナイームが、「疲れた」と書いてきた気持ちを初めて知ったタル。一方、彼女を心配するナイームには、国際的なカウンセラー・チームのメンバーとの出会いがあり、”幸せ”を感じられる気力を取り戻しつつあった。

ある日、「君への最後の手紙だ」と切り出したナイームのメールに書かれた決意とは。

イスラエルには男女ともに兵役の義務があり(作者自身も従事した)、タルも18歳になると兵役に就く。その後2人は対面を果たしたのか、そもそもナイームの夢は叶ったのか、読者の想像にゆだねられる。

書くこと、考えることをやめない、あきらめない2人の姿は、希望でもあり、また本文の訳注や関連年表に「圧倒的」と表現されるイスラエルの「武力」や「勝利」という文字は、絶望が続くようにも思えました。 (は)

ヴィンセントさんのしごと

 

ヴィンセントさんは、毎朝7時に起きて仕事へ出かけます。ヴィンセント事務所に着くと、郵便受けには、世界中の子どもたちからの手紙。ヴィンセントさんは、1つ1つ開いて読み、「今日はこの手紙にしましょう」と決めました。

「ゆきで あそびたいです。 みなみのしま トント」。

髪を七三に分け、鼻の下にちょび髭を生やし、まじめに穏やかに日々を送っていそうなヴィンセントさんは、この後、大きな大きな扇風機をしょって、雲に届くほどのはしごをのぼり、高い山の上に雪を降らせている雲を南の島まで吹き飛ばし、トントの願いを叶えるのです。そしてまた、大したことでもなかったように家に帰り、9時にベッドに入って1日を終えます。

ちょっとシュールな雰囲気。 (は)