「むらさきのスカートの女」を読みました
今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」を読みました。
不思議なテイスト。芥川賞受賞作にしては読みやすいなあと感じた。
近所に住む『むらさきのスカートの女』の素性が気になって仕方ない『わたし』。彼女を観察してわかったことが綴られていく。
『むらさきのスカートの女』の行動は少し変わっていて、地域の人からもそういう人だという認識で見られている様子。
たしかに行動はちょっと風変わりな感じがするものの、仕事の話になってくると印象が変わってきた。そのうち、意外と普通の女性なのかもしれないとも思えてきた。
むしろ『わたし』の方が逆に気になってきたりして。
後半の展開、面白かった。そこはかとない怖さも感じたなあ。
巻末には、芥川賞受賞記念のエッセイがいくつか載っていて、こんな風に作品が生まれるんだなと興味深かった。「ぐるりと回るレストラン」の流れは何だか「むらさきのスカートの女」に出てくる『わたし』が思いそうなことに感じたし、私自身もこういう小さな葛藤ってするよと思って変に感情移入した(笑)。
「死にがいを求めて生きているの」を読みました
朝井リョウさんの「死にがいを求めて生きているの」を読みました。
螺旋プロジェクト8作品の内のひとつ。
盛り上がりはそれほどないはずなのに、どうしてこんなに面白いんだろう?と思いつつ一気読み。
急転直下なストーリーというわけではないと思うのだけど、何だかずっと少しドキドキしてた。
普通のひとたちの普通の日常が描かれているようで、海族と山族の特性が見え隠れしたり、不穏な気配をちょっと感じたりするので目が離せない。登場人物たちの言動にも、何かの思惑や血の宿命のようなものを感じてソワソワした気持ちになった。
必要な対立、不要な対立、生きがい、死にがい。ただただ生きて行くだけというのは難しい。
みんな、自分の存在意義を認めるべく頑張って生きているんだと思い知らされる。登場人物たちの不安定な気持ち、どれも理解できてしまった。
いやー、面白かった。好きな話。ラストのその後も気になる。
『こんな物語を書けるのすごいー』と思っていたけれど、タイトルもすごいなって思った。こんなの思いつかないよね。
「レモンと殺人鬼」を読みました
くわがきあゆさんの「レモンと殺人鬼」を読みました。
2023年『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作。文庫グランプリってあったの知らなかったな。
面白かった。読みやすいし、展開も早いのでスルスル進む。
普段はあまり犯人や展開を深く予想しないで読み進めるのだけど、この作品は『こういうことか?』などといろいろ考えて楽しめた。途中、なるほどねーこの人ねー、とわかった気になっていたら、違っていたのも良かった(笑)。
登場人物、ほとんど全員イタイところがあった。どこかしら歪な価値観を持っている感じ。そのせいか言動がちょっと突飛で、リアリティが薄いところがあるかなー。
でも、だからこそ予想がつかず展開が読めなかったという面もあるので、そこを楽しめればすごく面白い作品だと思う。
「存在しない時間の中で」を読みました
山田宗樹さんの「存在しない時間の中で」を読みました。
次女が手に入れて読んでいたけど、少し難しくて途中でやめてしまったみたい。その後「おかあさん 好きそうじゃない?」とオススメされて。
物理学の話なんかが出てくると、たしかに少し難しかった。でもストーリー展開はわかりやすいし、どうなるのかなーという興味も手伝って割とスラスラ読めた。
この世界は実は…という部分は突拍子もないような仮説ではあるものの、あり得なくもないなあと思えてくる。すごい次元の話なんだけど、具体的に語られているできごとは身近なことの延長という感じなので自然に受け入れられた。
第四部が特に面白かった。今までのあれこれはそういうことだったのかーとわかったり、切なくなる部分があったり。読後、いろいろな登場人物たちに対してあれこれ思いを馳せてしまった。
登場人物たちが、自分の思いや未来のことなどに誠実に向き合っているのがよかったな。
読み終わってすぐよりも、しばらく経ってからの方が『この本 好きだなー』と思ってる。
「52ヘルツのクジラたち」を読みました
町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」を読みました。
2021年本屋大賞受賞作。
とても良かった。でもとてもつらいお話。
どうしてこうも貴瑚の身の上に。これでもかというくらい、次から次へと悲しいことや苦しいことが降りかかってくる。
虐待のエピソードも、読んでいて顔が険しくなってしまってた……現実にもこんなにひどい虐待ってあるのかなと恐ろしくなった。
アンさんの話も貴瑚の話もムシの話もつらくてつらくて気分が沈んだ。文章は読みやすいし先は気になるからどんどんページは進むものの、これ一体どんな風に着地して終わるの?と途中で不安になったくらい。
でもラストは明るい兆し。良い人も多くて良かった。みんな幸せになって欲しい。
私も52ヘルツが聞こえる人でありたいなと思った。
「同志少女よ、敵を撃て」を読みました
逢坂冬馬さんの「同志少女よ、敵を撃て」を読みました。
2022年本屋大賞受賞作。
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
独ソ戦の最中、狙撃兵となって戦った女性たちのお話。ほとんど知識がないので、私には難しい部分がたくさんあった。戦況や作戦の説明など、あまり把握しきれないまま読み進めてしまった感じ。
会話の流れで補完して、大体は理解できたかなとは思う。とはいえ、含みのあるセリフが出てくると、何しろ知識がないものだから『これはどっちの意味で言ってるの?』とわからなくなることもあった。
史実に基づいた部分や実在の人物も出てくるものの、フィクションなので、展開は面白い。
ただ、銃を撃って敵を殺すシーンや人が死ぬシーンが多く、こまかく描かれてもいるので気は滅入る。普通の女の子だったのにここまでできるようになってしまうのかというのが衝撃だった。
ミハイルが最後に出てくるシーンは、淡々と描かれていたけれど、ここでこんな風にミハイル出てくるんだ……と驚いた。
エピローグは割と穏やかで良かったな。
「汝、星のごとく」を読みました
凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」を読みました。
2023年、本屋大賞受賞作。
櫂と暁海、ふたりの人生を私も一緒に生きたなあというような読後感だった。
17歳から32歳までの櫂と暁海の人生が描かれている。どちらも親に問題があって、共感から親しくなっていく。楽しい時期もあるけれど、これでもかというくらいつらいことがたくさん起きる。
ふたり以外の登場人物たちも、どこかのタイミングで失敗したり、つらい思いをしたり、重いものを背負わされたりしている。
彼らにとって人生は、きっと楽しいものではないんだろうと思う。それでも捨てられないものがあって、忘れられないものがあって、大事にしているものがあって。絶望しても何とか歯を食いしばって生きる姿は健気で、弱さもあるけれど強いなあとも思った。
考えていることは生々しくてリアル。心の汚い部分、弱い部分がきっちり描かれていて、この境遇に立ったことはないけれど、想像だけでも読んでいてつらくなってしまった。
大きく分けたら恋愛小説ってことになるのかな。恋愛モノって割と苦手なんだけど、これはむしろ人生モノって感じ。先が気になって、手を止めずどんどん読めた。
事象だけ挙げていくと壮絶な物語だけれど、起こった出来事の凄さよりも、それぞれの登場人物が一生懸命に生きる姿を見た、という感覚が強かったな。
ハッピーエンドとは言い難い結末。でもバッドエンドかと言ったらそんなこともないと思う。もっとこうだったらいいのにって思いはもちろんあるんだけど、正解は私の方にはないんだ。
覚えておきたいフレーズがいくつもあった。この作品は長く心に残りそう。そしてまたいずれ読み返したくなりそう。