運動不足といふもの

社会で働いてみて、ひとつ判ったことがある。

それは働く人の多くが不必要にイライラしているということだ。

そりゃあ、もう、本当にイライラしている。

たとえば部下が無能で言う事を聞かないとか、取引先が納期を守ってくれないとか。

イライラの理由は、人によって千差万別であるのだろう。

それは仕方ないことなのかもしれない。

でも、デスクで働く人々がイライラしている最大の要因は共通しているように私は思う。

デスクワークをする人々、いわゆるデスクワーカーがイライラしている理由――。

それは、運動不足じゃないかと私は思うのだ。

極端なことを言っているように見えるだろうか。

でも、私は大真面目だ。

仕事中、理不尽なことで怒るあの上司も、パソコンと向き合いながら、ずっと舌打ちをしているあの同僚も。

イライラの原因を、たとえば部下のせいにしてみたり、外に求めがちだけど。

その理由は実は後付けなんじゃないかと私は睨んでいる。

(本人に、その自覚はないだろうが……。)

まず、イライラが先にあって、それを誰かにぶつけたくて仕方ない故に、尤もらしい理由を見つけてきては怒りを発散するのだ。

私は、そう睨んでいる。

そして、その原因不明のイライラの正体は、体調不良。

もっと遡れば、運動不足が原因なのではないか。

つまり、運動不足ゆえに体調がどんどん悪くなり、体調不足でなんとなくモヤモヤするものだから、他人に怒りをぶつける。

そんな循環が発生しているのではないかと思うのだ。

それほど、多くのデスクワーカーは殆ど運動をしないのである。

これは、何度か職場を転々とした私の実体験に基づく事実だ。

どの職場でも、一日中オフィスにこもってパソコンと睨めっこしている。

本当に1日中だ。

仕事が忙しいとか、みんな、それぞれに理由があるのだろう。

それにしたって動かなすぎである。

たまには散歩へ行けばいいのに、と何度思ったことか。

トイレに行くのだって、3時間に1度行けばいい方である。

そんな環境だから、頻繁にトイレ休憩へ行ったりすると周りから白い目で見られるのだ。

いや――。もしかしたら、逆なのかもしれない。

デスクワーカーは動かないもの。頻繁にデスクを立ってはいけないもの。

そうした不文律があるから、みんな、動きたくてもデスクに縛られて動けないでいるのだ。

なぜなら、私もそうだったから。

本当は天気の良い日になど、1時間ほど近所をぐるっと散歩してみたい気持ちでいっぱいになるのに。

同僚が一生懸命に仕事に打ち込んでいる姿を見ると、私だけサボるのは申し訳なくて、つい我慢してしまうのだ。

その様子は、客観的に見たら、とても不健康であると思う。

これに電車通勤や車通勤の事を加味すれば、移動時間もほとんど運動しないので、さらに運動不足という事になるかもしれない。

でも、日本のデスクワーカーとは、そういうものなのだ。

(海外のデスクワーカーについては知らない。)

青空の下を歩くというのは、とても気持ちの良いものである。

少しくらいの憂鬱なら、青空の下を1時間、のびのびと散歩するだけで晴れるというものだ。

一日に2時間くらい散歩する時間がとれたなら、多くの人は幸せな気分になれるんじゃないかと。

そう思うくらい、体を動かすというのは、心に大きな影響を与える。

ずっと同じオフィスに閉じこもって、体を殆ど動かさないとそれだけでイライラするし、同僚や上司に叱られたり、嫌なことを言われるようものなら、その言葉がぐるぐるぐるぐる頭を巡って離れなくなる。

散歩すれば、頭を冷やすことができて、少しくらい理不尽な言葉を言われても「そういえば、そんなことを言われたな」と大らかに考えることができるのにだ。

それに、きっと同僚や上司も運動不足で血のめぐりが悪くなって、なんだかイライラしているのだ。

なんだかイライラするから細かいことが気になって、理不尽に見えるような小言を言いたくもなるのだ。

そういう悪循環が確かに存在し、そして、悪循環の根っこには、みんなが運動不足という問題があるのだ。

日本の会社の多くは、どこも慢性的な運動不足に陥っているに違いないと私は考えている。

今までの働き方で、いっときでも成功したものだから、今までの働き方でいいのだと皆、考えているのかもしれない。

ここで述べている今までの働き方とは、ほとんど運動せず8時間近く、パソコンの前でじっとしている働き方のことだ、

でも、今までの働き方で限界が来ていると、多くの経済誌や新聞では報じている。

働き方改革だ!残業を減らせ!と声高に叫ばれているが、一番深刻な問題はデスクワーカーの運動不足なのでは、と私は思う。

「運動不足」とだけ言われると、なんだか単純な響きに聞こえて、「問題はそんな単純なわけないだろう」と反射的に考えてしまうかもしれない。

けど、人間も動物なのだから、そうした単純なことの積み重ねが深刻な問題を引き起こしている可能性だって大いにあるのだ。

今すぐに働き方を変えましょう、なんて言ってもすぐに変えられるものではないかもしれない。

でも、今のデスクワーカーの価値観――運動しないで、一日中パソコンの前に座ってじっとしていることが正しい!という価値観を変えていく必要があると、私は切実に感じるのだ。

お願いだから、与太話だなんて思わないでほしい。

この国の偉い方々が、「考えてみたら、デスクワーカーの運動不足もバカにならないな」と足を止めてくれるきっかけになってほしい。

いくつかの職場でデスクワーカーの現状を見てきた私の切実な願いである。