animelog

旧アニメワンの個人ログを引き継ぐものとして開設しました。基本的にアニメについて、もうちょっと広げて特撮についても書くかも。

孤独な魂、その救済の物語 ~ガッチャマン クラウズ~

ガッチャマンクラウズは科学忍者隊ガッチャマンの直接的続編ではない、ということは冒頭に記しておく。

滅びろー!みんな滅びろー!

 科学忍者隊ガッチャマン最終回「地球消滅!0002」における科学忍者隊の宿敵ベルク・カッツェ最期の言葉である。
 こ の作品におけるベルク・カッツェは総裁Xによって生み出された人間を超越した雌雄同体ミュータントであり、そのため人々から迫害されたという過去を持つ。 その背景があるが故にカッツェは悪の道へと突き進みギャラクター首領として世界征服に並々ならぬ執着を持っている、と同時に生みの親である総裁Xに絶対の 忠誠を誓っていた。
 しかし最終回、ギャラクターの最終作戦「ブラックホール作戦」完遂目前、科学忍者隊に本部急襲を受けた総裁Xはカッツェを見捨てて自らは地球を脱出する。そればかりか置き土産といわんばかりに分子爆弾発射装置で地球を消滅させようとする。
ここに至って、カッツェはその全てを総裁Xに否定されたのである。
 それでもカッツェは飛び立っていく総裁Xに縋って言う
「総裁! 私はなんのためにあなたにミュータントにされたのですか!こんな結末を迎えるなら私は人間でいたかった!私は人間に生まれていた方が幸せだったのです!総裁X様!」
 しかしカッツェの悲痛な叫びは宙に帰らんとする総裁Xに届かず、科学忍者隊と共に今まさに消滅しようとする地球に取り残されてしまうのだった。絶望にうちひしがれるカッツェ。一方科学忍者隊は総裁Xの残した分子爆弾発射装置を懸命に破壊しようとするが、幾重にもバイパス回路を張り巡らされた装置は全く止まら ない。
そこへカッツェは狂ったように笑いながら言い放つ。
「無駄だ科学忍者隊!その機械は止まらん!私は総裁の言葉を信じて制御装置をつけなかったのだ!」
まるで勝ち誇るかのように狂った笑い声をあげ続けるカッツェ。そして叫ぶ。
「滅びろー!みんな滅びろー!うわああああああああ!」
叫びながらカッツェはマグマに飛び込み落ちていく。岩に叩きつけられぼろ雑巾のようになりながら、真っ赤に沸き立つマグマへと落ちていく。
 これが科学忍者隊最大の敵ベルク・カッツェの最期である。
 彼あるいは彼女は、世界全てを呪い、恨み、その滅びを望みながら燃え尽きたのだった。

蘇る、純粋たる滅びの意思

 前置きが長くなった。
 先日最終回を迎えたガッチャマン・クラウズ。そこにもベルク・カッツェと言う名前を持つ者が登場する。長身で毒々しい赤い長髪を持ち、その髪に隠された目は 血のように赤く、瞳が存在しない。そんな狂った外見に違わず、彼は狂気の存在である。相手の姿や記憶をコピーするという能力、そして話術を巧みに使い、 人々を追い詰め、憎しみを振りまき、社会を混乱させ、一方で操り、世界を自滅させる。カッツェはその様を何よりの愉悦とする絶対悪的存在である。
 彼のバックグラウンドはほとんど描かれない。純粋な悪意の塊として主人公であるはじめ達の前に現れ、世界を滅びに導こうとする。一方ではじめ達同様NOTEを持ち、彼らに力を与えた神のごとき存在JJのように、人からNOTEを取り出す能力を持つ。
ま た断片的な描写として、ODやパイマンはカッツェをよく知りそして戦った過去を持つと言い、JJはおそらくカッツェを差して壊れた鳥と表している。このこ とからかつてカッツェはガッチャマンであり、JJとただならぬ繋がりがあると思われるがしかし、それを断定する描写は存在しない。
 しかしその狂気に彩られた世界を滅ぼす意思は、旧作カッツェの最期の姿とダブって見える。まるでその深い怨嗟が純粋な形でキャラクターになったかのように。
 本作のカッツェが旧作のカッツェと同様の絶望と恨みを根底に持つのかはわからない。しかしベルク・カッツェは、世界を滅ぼす純粋なる悪意の塊として再びこの世界に現れたのである。

もう一人のカッツェ

 さてガッチャマンクラウズでカッツェについて語るならもう一人、あるいは一組の存在を語らなくてはいけない。それが爾乃美家 累と彼が生み出した人工知能総裁Xである。

 天才的少年プログラマー、そして外出するときはゴスロリ少女ファッションに身を包むという二つの姿を持つ累もまた、旧作ベルク・カッツェの要素を受け継ぐ者として描かれている。
 累は齢18にして巨大SNS「GALAX」と高性能人工知能総裁Xを生みだしたまさしく天才プログラマーである。彼は総裁Xの助けを借りGALAXを使って 自らの理想とする世界、報酬や評価を必要とせずに誰もが誰かを助け合う世界へとアップデートする事を目的として活動している。しかしそこをベルク・カッ ツェにつけ込まれ、世界を滅ぼしかねないクラウズという巨大な力を与えられ、追い詰められていく、というのがガッチャマンクラウズという物語の一つの軸で ある。
 累もまたクラウズという力を手に入れる以前のバックグラウンドがほとんど描かれない。しかしこれらの要素は、旧作カッツェの過去を思い起こ させる。つまりベルクカッツェが辿った道筋において悪の道に入る以前、世界征服を企むギャラクター首領へと分岐する一歩手前のところにいるのが爾乃美家 累というキャラクターである。
 あるいは累もまた、はじめたちガッチャマンに出会わなければカッツェの導きにより既存の社会秩序を破壊し、世界滅亡の尖兵となっていたかもしれない。しかし累ははじめ達と出会い対話する事で、カッツェと、世界の滅びと対立する道を選ぶのだった。

総裁Xとカッツェ

 し かし累はカッツェに完膚なきまでにたたきのめされる。その上カッツェはその擬態能力によりGALAX管理者としての地位、そして最大の協力者であった総裁 Xまでも累から奪う。ここに至り、カッツェが総裁Xを思いのままに操るという構図が生まれる。GALAXと総裁Xの力を意のままに傍若無人に振るい、世界 を滅びへと着実に導いていくカッツェの姿は、かつて総裁Xにいいように使われたあげく、見捨てられた者の意趣返しにも見える。ここに来て「カッツェ」はか つての総裁Xに代わり、世界を、地球を滅ぼしうる存在へと成り上がったのだ。

 分子爆弾よりももっと単純で、もっと効果的な人のネガティブな意思で滅亡しよ うとする世界。しかしその作戦が最終段階を迎えようとした時、累が逆転の一手を放つ。今までに築き上げてきた総裁Xと累との繋がり、信頼関係によって、累 は総裁XとGALAXを取り戻す。そこにはかつての総裁Xとカッツェとの間には存在し得なかった、真に信頼する者同士が持つ絆があった。
 そして一方でカッツェは「再び」総裁Xに裏切られ、全てを失った。

孤独な魂の救済

 カッツェはそれでも世界を滅ぼすためクラウズを使った人間同士の同士討ちを加速させんとする。しかし累と総裁Xの決断、そして人のほんの少しの善意により、その目論見は崩れ去る。人に裏切られ孤独に世界を滅ぼそうとした「カッツェ」の化身は、人との繋がりを得た「カッツェ」の化身の前に敗れ去ったのだ。
 この状況においてもはや効果的な手段を持たないカッツェは、人々の疑心暗鬼につけこもうとするも誰にも相手にされない。その姿はまさに道化であり、悲しい孤独な姿にも見える。
 その孤独な魂はどこへと向かうのか。そんな彼には一つの約束があった。はじめと交わした約束。その約束の場所にはじめはいる。そして――。
そして何が起こったのかは視聴者には提示されない。しかし少なくともカッツェはまだ存在している。はじめとと共に。


 と、少し狭く、ベルク・カッツェという視点でなんとなくクラウズを見てきましたが、してみるとこの物語は孤独に悲劇的最期を遂げたカッツェの救済の物語でもあったのかな、と感じました。
累とXの信頼関係、そしてラストのはじめとカッツェ。その辺りに旧作へのメッセージがあり、この作品がガッチャマンという名前を関する意味があったのかなと私は感じています。
しかしこの作品は他にも強いメッセージが込められているようなので、その辺を上手く書く事が出来たら、また別の機会に書きたいなと思っています。
では。