前置き
みなさんこんにちは。外付け煮干(@externalniboshi)です。
みなさんは、しらたき太郎丸さんがアップロードされたBig Brother -音街ウナcover-をもう見て聞きましたか。いいカバー動画です。
悪いことは言わないから、まだ見ていない人は今ここで聞いてみてください。絵も曲に合わせて変化して、見ても楽しいですから。
見ましたか?
見ましたね?
それでは始めましょう。
注意事項
後半では、最後の最後の音街ウナさんの表情を中心に感想を喋っていきます。
もしそれを見逃したなら、ここから下を読む前に見てきてください。
感想
この動画は曲の雰囲気に合わせてかっこよく作られていて、
- カクカクしたフォントがかっこいい
- そもそも、軍服を身にまとった音街ウナさんがかっこいい
- フィルム風味の加工がオシャレ(おそらく時代設定を合わせている)
- 機械感(ケロケロ感)強めの高音ボイスが心地よい
- 対照的に、低音パートは発音なめらかで、こちらもまた耳に良い
- 音街ウナさんの低音が健康に良い
- 最後の「ヤイヤイと~」の4回が少しずつ音圧が上がっていて、迫力がある
また、そのほかにも、詳しくは後述する、この記事のメインであるところの、
- 音街ウナさんが、後半かわいそうでかわいい
- 後半でハイライトが消える音街ウナさんがかわいい
- 最後の最後の音街ウナさんの表情が非常にかわいそうでかわいい
といったたくさんの魅力を感じることができました。改めて、しらたき太郎丸さん、素晴らしい動画をありがとうございます。
音街ウナさんの最後の表情について
さて、たくさん挙げましたが、「かわいそうでかわいい」というところは、一見して雰囲気を掴めそうではあるものの、どういうことなのかということに関して私自身の整理も兼ねてきちんと説明しようと思います。
先ほど申し上げた「最後の最後の音街ウナさんの表情」は動画3分11秒時点の顔です。
さて、後ろを振り返り切った瞬間の音街ウナさんのこの表情。みなさんはどう感じたでしょうか。目を大きく見開きながらも、口元は小さく開くのみで、眉も目の開き具合に比べれば相対的に力ない印象を受けます。また、それ以前の絵とは異なり、背景が青黒い色調になっています。
直前の3分6秒時点の絵と比べてみればその変化はより明瞭に浮かび上がります。
下まぶたが上がっていて、目つきが鋭いこの表情は、先ほどの1枚目(つまり動画ではその直後に現れる絵)の表情とは異なり、敵意を帯びているようにも見えます。もちろん、前髪に隠れた眉のイメージ次第でこの絵の表情から「驚き」を感じる人もいると思いますが、1枚目に示したその直後の「驚き」とでは質が違うことがわかると思います。
前提共有:Big Brotherとは
ここで、Big Brotherという曲の背景について軽く説明しようと思います。というのは、これから歌詞と絵との繋がりに関して感想を書きたいと思うので、その前提を共有しておきたいと思ったからです。
『ビッグ・ブラザー』について
ビッグ・ブラザーとは、いわゆるディストピアを描いたジョージ・オーウェルの小説である『1984年』に登場する国家「オセアニア」において、最高指導者であり独裁者である者の名前です。BIG BROTHER IS WATCHING YOU(ビッグ・ブラザーが君たちを見守る/ビッグ・ブラザーは君たちを見ている)という言葉やその文字が入った絵が有名ですが、あれが街中の至る所に配置された看板に描かれた絵であるということはあまり知られていないのではないかと思います。
ともかく、ビッグ・ブラザーは「国民を厳しく監視する独裁国家のトップ(最高指導者)」だということが分かれば問題ないと思います。
『Big Brother』について
Big Brotherは2004年に平沢進が核P-MODEL名義で製作した「全体主義による弾圧と監視、強制的服従を諷刺する曲」(Wikipedia - ビッグ・ブラザー)です。もちろん上のビッグ・ブラザーをもとにして書いた曲になっていますから、歌詞もそれを前提にしたものとなっています。
歌詞を読んでいくと、歌詞の中での「キミ」がもしすべて同じ人物であるとすれば、その人物は独裁国家に住む人民であり、最終的には逃亡を試みていることが分かります。
無情 明日の日はキミのためにはあらずと
隅々に地を覆い 逃亡の夢も砕く
ちなみに、以下の公式サイトからBig Brother.mp3を視聴・ダウンロードすることができます。ぜひどうぞ。
再びカバーの絵へ
というわけで、この音街ウナさん…音街ウナ様…音街ウナ閣下……の地位や立場が分かったことと思います。オタマン軍帽を被り、部下や人民を指導する立場にあるということですね。
背景に戦闘機らしきものも飛んでいたりしますし、もしかすると軍事体制なのかもしれませんが、ここに深入りしても感想に影響しないので彼女が軍人であるのかどうかについては割愛します。(おまけに、わたしはミリタリに詳しくありません。)軍事に詳しい方は、ここから萌えを発見することができるかもしれません。
なぜ、後半の音街ウナさんはかわいそうでかわいいのか
さて、再び、この顔を中心に感想を始めようと思います。
驚いた眼に比して口元や眉に相対的に力ない表情だと書きました。この表情から、わたしは、驚きがありながらも驚き100%にはなれない複雑な心情という感じを受け取って、「怒るに怒りきれない」とか、「驚きと脱力」とか、「『一番敵であってほしくなかったひとが来てしまった』」とか、そういった表情に見えました。
キミであってほしくなかった、今この状況でキミに会いたくはなかったという表情に。
そして、歌詞と合わせて、もっとも逃亡者・反逆者であってほしくなかった人がそうであったというように感じました。
そこで、動画を2分25秒まで遡ってこの表情に注目しました。
歌詞はついに逃亡者を徹底的に追い詰めようとし始めたところです。音街ウナ閣下の顔に焦りが浮かんでいるように見えます。
わたしの妄想で申し訳ないのですが、先ほどまでの話を前提として、わたしの心にはこういったバックストーリーが走り出しました。
▶独裁国家の最高指導者、音街ウナ閣下。厳しく監視社会を敷いて民を統治している。監視体制の厳しさとは裏腹に、あるいはそのおかげなのか、はたまた指導者の熱狂的な人気に基づいてか、ともかく社会は安定している。
しかし反逆者が現れたとの報があり、特別警察に報奨を約束して捕縛を命じる。人民も同調し、国家反逆の敵を今にも殺さんとばかりに熱気を帯びている。それなのになかなか反逆者は捕まらない。さらに目を厳しく、範囲も広くして捜索を続行する。
閣下の表情には焦りが見えるようになった。予算も人員もつぎ込んできた。なぜ捕まらないのか。いよいよ厳戒態勢を張ろうとしたその矢先、市民に捕まったという反逆者が連れてこられた。これから間もなく極刑に処されるであろう国家に仇なす者の顔を見てやろうと振り返ると、それは、自らの最愛の親友であった──。
もちろんこれ自体は妄想にすぎません。
しかし、音街ウナ閣下のあのどこか茫然自失にも見える表情が、独裁国家の最高権力者という自身の立場によるものであったなら、という解釈をすることは十分に可能です。そう考えると、逃れられぬ宿命であるという感じが少なからず出てきてしまい、かわいそうでかわいい音街ウナさんの姿を発見することができるのではないでしょうか。
ここで、補強として、独裁監視社会と萌えの関係についてもう少し述べたいと思います。
独裁国家の監視社会というのは、好きな人を監禁してしまうタイプのヤンデレに近いのです。国民を社会に閉じ込めて逃亡を許さず、情報を遮断(検閲)し、監視し、それをよかれと思ってやっている、という構図は、監禁タイプのヤンデレの一種によく似ています。
音街ウナ閣下は国家のスケールでやっているから、閣下の行いにナントカ経済だとかナントカ主義だとかの仰々しい名前が付きますが、もしそれが1対1の関係ならば国民を厳しく管理し統制しようとする動きはほとんどヤンデレのそれです。
でも、
それでも、
良かれとおもってやっているのなら、
音街ウナさんがそう思ってやっているのなら、
どこか、それでもいいかと思えてしまうじゃないですか。
列をなせ 汝従順のマシン
享受せよさあ 思慮はいま罪と知るべし (Big Brother 歌詞)
音街ウナさんに、「何も考えないでいいから、良いか悪いかわたしがぜんぶ考えてあげるから」って言われたいじゃないですか。
無情 明日の日はキミのためにはあらずと
次々に地を覆い 逃亡の夢も砕く
聞けよ 目の前で「良きことのため」と囁く
見えないブラザーが 暗示のようにキミを見る
列に立て 汝従順のしもべ
甘受せよさあ 思慮はいま罪と知るべし (Big Brother 歌詞)
音街ウナさんに「どうして逃げちゃうの、どうして?わたし、あなたがどうしたら良くなるか考えたのに、そうしてくれたら、ぜんぶがうまく行くのに」って言われ……るような状況にはあまり身を置きたくありませんが、そうしてくれるくらい必死に『良い』を遂行しようとしてくれる彼女は愛おしいと思えてしまいます。
理想の高さについていけなくなった誰かから、きっと彼女は裏切られてしまう。それでも、そのどうしようもない運命に見舞われる彼女が、かわいそうでかわいいのだと思います。
おわりに
思ったより妄想たっぷりになってしまった記事をここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
この感想は、VOCALOID音街ウナ関係者様方、本カバー作成のしらたき太郎丸様、オケ作成のあくまのゴート様、原曲の平沢進様、『1984年』の原作のジョージ・オーウェル様、その他携わったどなたが欠けても書くことのできなかったものです。この記事がこの魅力あるカバーの良さをさらに引き立て、またこれを読んだ方がわたしに見えなかったものも感じ取れるようなものになっていれば、とてもうれしく思います。
末筆ながら、重ね重ね、皆様方に感謝を申し上げ、締めの挨拶に代えさせていただきます。