エンタングルメント

それは精確さを更新するための再定義だった

お役御免になった国際キログラム原器

プランク定数は頭を下げた

ある小説家が量子もつれの話をしたのを巣鴨で聞いて

渋滞の首都高中央環状線山手トンネルに難渋して帰宅すると

いい子でお留守番していた子が出迎えてくれた

 

君はここに来る前にどこにいたの

きみはなにを見てきたの

きみはもう来てくれないの

いまはどこにいるの

なにを見てる

メッセージはたしかに伝わって

いつか返信がなくなって

この先はどうしようか

また話せないの

この答えはなんとなくわかって

ほんとかな

最初にもどろう

 

つぎの存在がやってくる

こんなことがあってね と語りかける

あたらしい子がうまれなきゃならないことの意味

意味?

最後のひとりになったら 別の種に語りかける

聞く 聞ける存在がいる

メッセージが伝わった瞬間に

涙して 最後のひとりは死んだ

看取ったのは猫だった 蛙だったかもしれない

最後のひとりを看取ったのは人間が「虫」と呼んだものだった

「虫」は黙ってそこを離れた

その日の太陽が沈まないうちに「虫」は沼におちた

「虫」のなかまの最後のひとりだった

「虫」を看取ったのはだれだったろう

そうやってほんとの最後のひとりが死んだ時

世界は全員が見守っていた