とっても面白かった。この映画自体が伝記映画のパロディ、映画の形をとった妄想、ということは壮大な『パロディ放送局 UHF』(1989)だと言ってもいいのでは。一番の根にあるのがお馴染み父親との確執で、自身と同じ工場労働者になるよう命じられ替え歌を禁じられ「クローゼット」の中のあれを壊されながら、息子はスターになっても父の承認を求め続ける。笑えるよう派手に描かれている暴力を息子もふるう(物にあたる)のは父親を見てきたからか。ちなみに終盤の和解のくだりからAmish Paradiseが自身のルーツを歌った曲ということになっている(実際はアルの父はユーゴスラビア系アメリカ人)。
「親に禁じられてて出来なかったことは?」からの親友三人組のあり方、気がよく「役に立ち」献身的で裏切らない、というのも『パロディ放送局 UHF』に通じるところがある。ベタに言えば友情…超豪華な面々が数分ずつ登場し医者からバーの客、当時の有名人までを演じているということ、それから分かりやすさ…有名人達のあまりの「記号」ぶりに、アルが最も表れていると言えるかもしれない。
「かなりの迷走を重ねたよ」とのナレーション(ディードリック・ベーダー…これは「パロディ」という意味でZAZによるフランク・ドレビンのそれを思い出させる、こちらは主演本人の声だけども)通り映画は多くのジャンルを横断するが、音楽映画としてのきらめきは間違いなくある。スコッティ兄弟(トニー・スコッティを演じるのはアル・ヤンコビック)の「同じ金額で元の曲が買えるのに誰が替え歌を聞きたがる?」には逆説的にアルに才能と先見の明があったことが込められているし、何よりデビュー曲が生まれる瞬間や作中初めてのステージのわくわく感は手堅い。