観劇日記

観劇とその他の日々

1月6日(金)晴れ

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戻ってきた原稿のチェックと修正。

気分を換えようと思って散歩に出るも気づくとストレスフルな出来事を反復していて気分転換失敗。考えても自分でどうにかできる問題ではないのはわかっていてもぐるぐると考え続けてしまう悪癖は手強い。

中川駿脚本・監督『カランコエの花』。ある高校のひとつの組でだけLGBTについての授業が行なわれたことをきっかけに、クラスのなかに当事者がいるのではないかと噂が広まり……という話。そもそも発端となった授業をした保健教師の対応がクソ過ぎる。

39分と短いなかにコンパクトに出来事を詰め込みつつ、当事者ではなく周囲の人間のふるまいを映していくのがよかった。当事者が不在のままに伝播していってしまう波。だからこそ、最終的に当事者が自ら選択した行為の切実さと、善意でもってそれを無に帰してしまった主人公のふるまいの残酷さが際立つ。

1月5日(木)晴れ

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久々の外出らしい外出というか仕事初め的な一日で3月公演の会場下見→打ち合わせ→劇評講座→打ち合わせ。さすがに疲れたところに仕事とはあまり関係のないところでものすごーーーくストレスフルな出来事もありぐったり。

合間にいつものバーンイサーンでカオパットタレー(魚介チャーハン)。気になっていた蟹ブックスをチェックして年森瑛『N/A』と和泉悠『悪い言語哲学入門』を購入。

移動中に読んでいたアリ・スミス、『秋』『冬』も素晴らしかったが『春』のあまりの真っ当さに電車の中で涙ぐんでしまった。「あなたは目の前の人に同じ人間として接していますか」という(※そういう台詞があるわけではないです)、あまりにまっすぐな問い。

1月4日(水)晴れ

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二人と一匹が帰り我が家の一匹は一日寝。

海沿いの公園では今日も凧が上がっていた。

原稿の修正を一本終え、助成金の申請書の続きをやるも終わらず。新年早々に作業が予定(というか希望的観測)から遅れていてめげそう。

合間に今泉力哉監督『his』。脚本のアサダアツシは『そばかす』の企画・脚本でもあると知ってなるほど。別れを突然かつ一方的に(いや別れはたいてい一方的かもだが)切り出しておきながら何年も経ってから突然子連れで元カレである迅(宮沢氷魚)のところに押しかけてくる渚(藤原季節)があらゆる意味でクソ野郎すぎて特に最初の方は見ていてしんどいのだが、そんな渚がきちんと謝ったことを受けて、許すのではなくわだかまりを抱えつつ関係を結び直そうとする妻・玲奈(松本若菜)の姿にグッときた。迅が変わろうとするシーンも(セリフがちょっと劇的に過ぎると思ったりもしたものの)カミングアウトを聞いた側のリアクションによって、むしろ迅の側にあった偏見が(もちろんそれは単なる「偏見」ではなくこれまでの積み重ねによって築かれたものであることも描かれつつ)解されていくように描かれているのがいい(それによって全ての偏見が払拭されるわけでも問題が解決するわけでもないとしても)。聞いたことのある声がすると思ったら浅井浩介と大窪人衛が嫌ーな場面の嫌ーな役で出ていて(しかもハマっていて)嫌いになりそう。

とか思ってたら『愛と差別と友情とLGBTQ+』にちょうど『his』の話が出てきた。

1月3日(火)晴れ

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コーヒーを買いに行ったら最後の一個の福袋を熱烈にプッシュされて購入。福袋って初めて買ったかもと思ったが中身わかってるしただのコーヒー詰め合わせでは?という気も。袋がかわいい。

散歩で通りかかった海沿いの公園では30枚ほどの凧が上がっていた。

引き続き資料の確認。書いてないといまいち仕事が進んでる気がしないがこればかりは致し方なし。

北丸雄二『愛と差別と友情とLGBTQ+』を読みはじめる。面白くて一気に半分まで。歴史的な経緯は知らないことが多く反省。第二次世界大戦アメリカからヨーロッパに派遣された黒人兵士が自国とは違う状況に触れたこと、同性愛者の帰還兵が不当な扱いを受けたことが「アイデンティティの政治」へとつながっていったという話を特に面白く読む。

1月2日(月)晴れ

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年末年始の読書用にと買っておいたアリ・スミス『春』を開いたらスピンが短かった。こんなことあるのか。珍しいという意味ではあたりだと思いたいが本の下からはみ出させられないのは使いづらい。

今日も海まで散歩。

仕事は立て込んでいるものの〆切はどれも微妙に先なので資料映像や台本の確認などして過ごす。助成金の申請書も書くが進まず。合間にお節とすき焼き。我が家は元旦の夜はカニ、二日目の夜はすき焼きが定番です。お雑煮は元旦が澄まし汁、二日目は白味噌白味噌雑煮は普通の味噌の倍くらい味噌を入れないとうまくないとのこと。

イン・イーシェン、リベイ・リンサンガン・カントー編『イン・クィア・タイム』(原題SANCTUARY、村上さつき訳)読了。面白かったのはアンドリス・ウィサタ「よぅアダム」(インドネシア)。全てを吹き飛ばすオチに「この話、クィアである必要あった!?」となるのだがもちろんそこがいい。オチがそれ自体としては割とよくあるものなのにこの本の並びでは全く予想できないところも◎。他には軽妙な語り口で描かれるクィアな登場人物とそのパートナーの家族との結びつきがグッとくるディノ・マホーニー「バナナに関する劇的な話」(香港)、ファンタジーとリアルが表裏一体のアヴィディア・ユー「呪詛」(シンガポール)、ポルノホラーなアッシュ・リム「生理現象」(シンガポール)あたりもよかった。と書いてみて、あれをホラーと言ってしまうのはエイジズムでは?と思いもしたのだが、どう考えても笑える怖いオチとして書かれているし、その笑いも怖さも結局のところ我が身に返ってくるところが巧いのだと思い直す。

17編で350ページと各編が短めなのもあってか物足りなく感じる作品も。スー・ユーチェン「お茶休憩」(台湾)は原語が二人称的な語りなのに「この語り手が誰なのかな解釈を幅広くとっておくために敢えて三人称視点っぽい口調で訳しました」って翻訳者がコメントしてるんだけど、そんなんあり?それはもはや別の作品では??

マイノリティの物語が紡がれることが重要であることはもちろんとして、だからと言ってクオリティが低くてもよいはずはなく、でも現状としてはそれはどうなんだと思わされるものも多い。そういう作品に触れるたびに、マイノリティであるというただそれだけのことでこの程度の物語で満足しなければならないのかと悲しく、そして怒りを感じる。その作り手がしばしば当事者であることも気持ちのやりどころを難しくさせる。絶対数が少ないからそうなのだと言えばそうなのだろうし、打率はむしろ高い気もしなくはないのだけど、でもやっぱり面白い作品にたくさん触れたい。そのためにも、もっと多くのマイノリティの物語が紡がれてほしい。

1月1日(日)晴れ

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他人の日記を読むのが好きだ。なかでも小説やら映画やら演劇やらの感想が含まれているものがいい。日記を読むのが好きだという気持ちはしばしば日記を書きたいという気持ちへと高じて、年に一度くらいは書きはじめたりもするのだが、どうも続かない。嫌になってしまう。自分が書いた他の文章はたいてい、書いてから時間をおいて読み返したときに面白いと思えるのだが、日記はダメなのだ。どうやら私生活を文章にして公開するということに抵抗があり、というか、自分の私生活に読む価値などないと思いながらそれをなんとか文章に仕立てあげるという行為の矛盾に耐えられないのだと思う。書きはじめると全てを書かなければならないという強迫観念もよくない。嫌なら書かなければいいのである。すでに嫌になってきている。

我が家では正月の朝は誰も起きてこない。新年早々猫の吐く音で目を覚まし、処理をしてからトーストとヨーグルト。お節の前に海まで散歩。今年はせめて5キロくらいは落としたい。

正月明けに〆切が立て込んでいるのでスケジュールを整理してみたところ正月返上で働かなければならなさそうで悲しい。去年はまあまあ働いたと思っていたのだが全然稼げていなかった。舞台芸術業界の性質上、どうしても秋から年度末に仕事が集中しがちなので、年度前半にも収入を得る手段を確保することが課題。

今年の目標はまずSNS(というかTwitter)に触れる時間を減らすこと。まずそれかよと思わなくもないけど去年はここには書けないくらいスマホの画面を見ていた。漫画はほぼほぼkindleで読んでいるとはいえ画面を見る時間をせめて半分にしたい(と言いつつこの日記もスマホアプリで書いている……)。

ジェンダーセクシュアリティ関係のインプットとアウトプットも増やしていきたい。y/nの創作のためということもなくはないのだけど、自分にできることくらいは(たとえそれが微々たるものであれ)していきたいという気持ちも少しずつ強くなっている。

今年最初の仕事はローチケ演劇宣言!の「今月の優先順位高めです!」。1月はNT Live『レオポルトシュタット』、果てとチーク『はやくぜんぶおわってしまえ』、屋根裏ハイツ『父の死と夜ノ森』、宮森みどり『Trace a Day』の4本。

今年最初に読み終えた本は佐々木敦『映画よさようなら』。去年の手帳を見ると1月から3月くらいまではかなりがんばっていろいろ観たり読んだりしていたのであのペースを取り戻したい。