「楽園の鳥」+「夢見る水の王国」メモ

松永洋介が作成した、寮美千子の長編小説『楽園の鳥 ―カルカッタ幻想曲―』(講談社2004)と、その作中ファンタジー『夢見る水の王国』(上下、角川書店2009)についてのメモ。作中のガンジス神話は『天からおりてきた河 インド・ガンジス神話』として絵本化(山田博之・画、長崎出版2013)。

番外:8月27日、舞台「ラジオスターレストラン―星の記憶―への道」

ysk2011-07-05

8月27日(土)、金沢で舞台「ラジオスターレストラン―星の記憶―への道」が上演されます。

ボクらは行く。宇宙のレストランへ。オペラの旅はこうして始まった。
2012年8月19日上演予定のオペラ「ラジオスターレストラン 星の記憶」へ向けたプレ公演。
オペラ制作の裏舞台を舞台化。原作・脚本の寮美千子が本人役で出演します。
金沢ジュニアオペラスクールの中間発表として、来年のオペラのための新曲もお披露目。寮美千子が作詞、谷川賢作さんの作曲で、すばらしい歌ができあがってきています。
日時:2011年8月27日(土) 13:30開場 14:00開演
場所:金沢市民芸術村 パフォーミングスクエア
   石川県金沢市大和町1−1 電話076−265−8300
北鉄バス 武蔵ヶ辻バス停発・香林坊経由「西金沢4丁目」行き、大豆田バス停下車/
 片町交差点またはJR金沢駅よりタクシー5分、または徒歩15分)
料金:全席自由(定員220名)前売800円/当日1000円
   立見席(およそ30名)前売500円/当日700円
   ※未就学児入場不可
主催:公益財団法人金沢芸術創造財団 電話076−223−9898
共催:金沢市金沢市教育委員会
助成:芸術文化振興基金
協力:金沢オペラクルージングクラブ
チケット取扱:
金沢芸術創造財団、茶房犀せい、石川県立音楽堂チケットボックス、香林坊大和プレイガイド、金沢市民芸術村、
チケットぴあ(Pコード142−075)、ローソン(Lコード53896)

音楽:谷川賢作
上演台本:村井幸子
演出:丹下一
出演:金沢ジュニアオペラスクール生、寮美千子谷川賢作丹下一、石川公美、水上絵梨奈、門田宇、清水史津、浦本真知子

『夢見る水の王国』日刊ゲンダイで紹介

  • 日刊ゲンダイで紹介されました。
     祖父が急逝したショックで記憶をなくしてしまった少女マミコ。
    気がつくと、時の止まった海岸にたたずみ、目の前には漂着した木馬と壊れた角。
    少女の体から分かれた影は分身「マコ」を名乗り、角を抱え、水平線のかなたに消えてしまう。
    角を取られた木馬は白馬となり、少女を乗せてマコの後を追う……。
     泉鏡花文学賞受賞の著者が描く耽美ファンタジー
    日刊ゲンダイ「新刊あらかると」、2009年8月21日(20日発行)※書影あり
    ……というわけで、日刊ゲンダイ的には「耽美ファンタジー」となるようです。これはこれで納得の形容。

『夢見る水の王国』日経新聞に書評掲載

  • 書評といっても短いものですが、いちばん早い掲載でした。
     児童文学+ファンタジーのコンセプトで出発した〈銀のさじ〉叢書の1作。
    祖父と孫娘の水と石をめぐる迷宮的冒険を描く。
    ポリフォニックな語り方の工夫に目を見張った。
    小谷真理「目利きが選ぶ今週の3冊」(寮美千子夢見る水の王国』書評、日本経済新聞、2009年6月17日夕刊)
    「目利きが選ぶ今週の3冊」というコーナー。他の二冊は『アーサー王ここに眠る』と『スパイダー・スター』。

読売新聞夕刊「人物クローズアップ」に登場

  • 読売新聞夕刊の文化欄に人物紹介記事が載りました。
     鉱物や地質にまつわる無数のイメージが、詩のように歌のように、語りにのせてあふれ出す。自分の影に名前と記憶を奪われた少女が、たどり着いたのは外輪山に囲まれた不思議な島。そこでは海よりも地面の方が低く、伏流水が一夜にして砂漠を湖に変えてしまう……。
     「時間も空間も備えた、その世界のイメージが最初に降ってくる。そこに読者をいざなう地図として、物語を紡いでいる」。構想20年という長編ファンタジー小説夢見る水の王国』(角川書店、上下刊)がこのほど刊行され、地元の奈良や大阪、東京などで朗読会を開いている。
     会社勤めの傍ら1986年、童話作家としてデビューした。自然科学に詳しく、兵庫県西はりま天文台(同県佐用町)に備えられた大型望遠鏡の完成記念絵本や、日本で46年ぶりに皆既日食が観測されるのに合わせた「黒い太陽のおはなし 日食の科学と神話」(小学館)など、天文、地学関係の絵本も数多く手がける。
     子供のころ、休みごとに訪れた千葉の海岸で、妹と競って巻き貝を拾い集めた。数学的に非の打ち所のない見事ならせんが、海の中でひとりでに生成することの不思議さを思った。
     幼い心に刻まれたセンス・オブ・ワンダー。「宇宙を貫く物理法則を受けとめる現実的な強さと、例えば死んだ肉親が自分を守ってくれると信じられる心の豊かさと。矛盾する両方を重ねて受け入れられるくらい、人の心は懐が深い」。サイエンスとファンタジーのあわいを行く自らの世界観を、そう説明する。
     初めて大人を主人公にした長編小説『楽園の鳥 カルカッタ幻想曲』で2005年、泉鏡花文学賞を受けた。恋人を追ってアジア各地を放浪するヒロインをとりまく、悪夢のような人間模様。人間の愚かさ、豊かさをのみ込んで、なお混沌として流れゆくガンジス川……。ここでも水の気配は濃厚だ。
     受賞を機に、奈良市の旧市街にマンションを借りた。当初は二重生活のつもりだったが、「近所の人に野菜を頂いたり、催しに誘ってもらったり。よそ者を実に温かく受け入れてもらって」。生まれ育った関東を離れ、本格的に移り住んだ。
     『夢見る水の王国』では、少女が棚田に映る千の月と共に、彼我を結ぶ水路を流れて現実世界へと戻ってくる美しい場面がある。「東大寺のお水取りから発想しました。地下水路を通って霊的な水がやってくるイメージが、とてもすてきに思えて」
     来年の平城遷都1300年祭に合わせ、応援ソング「あおによし」「まんとくんのうた」の作詞も手がける。長年の夢だった作品を書き上げて、今は「とても自由な気分。奈良が舞台の青春ファンタジー、個性的な住民が巻き起こす不思議な話など、書いてみたい世界がいっぱいある」と、充実している。(西田朋子)人物クローズアップ 作家・寮美千子さん 科学と空想のあわいで(読売新聞、2009年8月13日)※写真あり

    取材場所は大阪・中崎町の「アラビク」でした。

『夢見る水の王国』公明新聞に書評掲載

  • 公明新聞の書評。
     村上龍の初期の傑作『コインロッカー・ベイビーズ』がハリウッドで映画化され、来年公開されるという。コインロッカーに捨てられた子供たちが成人してから、自分たちを捨てた母親を探して復讐するという話だったが、あれから三十年、育児放棄は社会に蔓延し、親殺しも今ではありふれた事件の一つにすぎない。『コインロッカー・ベイビーズ』が予感していたような社会が現実になってしまったのだ。
     寮美千子氏の泉鏡花賞受賞後第一作となる『夢見る水の王国』は、一見すると、『コインロッカー・ベイビーズ』の血腥い世界とは対極の繊細で美しいファンタジーのように見える。
     ヒロインのマミコは新進オペラ歌手で、故郷の海辺の町でデビュー・コンサートをおこなうためにもどってくる。町はずれには祖父、香月光介と少女時代をすごした別荘がそのまま残っており、郵便配達員は親子二代で親切にしてくれる。母の美沙は世界的な写真家で、誕生日には必ず外国からプレゼントを贈ってくれる。
     きれいなものずくめだが、ちょっと引いて見ると、親子二代の育児放棄という構図が見えてくる。祖父は若い頃は仕事中毒の会計士で、妻を亡くすと、幼かった美沙を全寮制の学校に預けてしまう。成人した美沙はコピーライターになるが、独身のままマミコを産み、育児放棄した父親に復讐するかのように、赤ん坊のマミコを押しつけ、自分は写真の仕事で海外を飛びまわる生活をはじめる。
     赤ん坊をコインロッカーに捨てるというようなひどいことをした親なら公然と憎めるが、きれいなものずくめの世界では憎しみは内攻せざるをえない。マミコは悪魔の童子マコ(魔子=真子)とミコに分裂し、何重にも入れ子になった幻想の世界をまたにかけた追跡劇がはじまる。甘口のファンタジーのようでも、この小説には現代の病理が埋めこまれているのである。
    加藤弘一「現代の病理が埋めこまれたファンタジー小説」(寮美千子夢見る水の王国』書評、公明新聞、2009年8月10日)※書影あり
    ここに書いてある「きれいなものずくめの世界では憎しみは内攻せざるをえない」というのはまさにその通りで、そこらへんの困難をどう突破するかが、この世界におけるサバイバルの鍵だろう。本書はその道程を描いている。

『夢見る水の王国』産経新聞に書評掲載

  • 産経新聞の書評。
     新人オペラ歌手のマミコが海辺の小さな町を訪れます。少女時代、マミコは祖父さんと2人、ここにある別荘で暮らしていました。その縁で、新ホールのこけら落とし公演をすることになったのです。
     懐かしい別荘での一夜、マミコは不思議な夢を見ます。ひとりの少女が父王に捨てられ、泣き叫ぶ姿。彼女を守ろうとする謎の少年。いったい何? 翌日、コンサートは大成功しますが、そのことより気に掛かるのは、少女の記憶です。
     マミコの祖父は妻が亡くなった後、残された娘を育てる自信がなく、全寮制の学校に任せてしまいました。今度はその娘が、まるで自分を育てなかった代わりに、孫娘を育てなさいとでも言うかのように、マミコを祖父に預けたのでした。そして祖父は昔、子育ての喜びを放棄したのが、なんと愚かだったかを知ります。一見幸せそうに暮らす祖父と孫娘。しかし……。
     ここから物語はマミコをファンタジー空間へと連れて行きます。記憶を失ったまま彼女はミコとなり、彼女から分離したマコ(魔子)を追う旅が始まるのです。なぜ、マミコはミコとマコに分離してしまったのか? マコは何を探しているのか? ここは本当に別世界なのか? 失われた記憶と、この世界の関係は?
     謎は謎を生み、どんどん膨らんでいきます。導いてくれる魔法使いも、助けてくれる騎士も出てきません。読者はミコと一緒に、時にはマコと一緒に、この旅を続けていくしかないのです。
     謎解きがつまらなくなりますからヒントは「愛の記憶」とだけ言っておきましょう。
     様々な神話・伝説・昔話の断片や、想像力によって生まれた鮮やかなイメージが、これでもかこれでもかと押し寄せてきます。決して読者に親切な物語ではありませんので、転覆しないための舵(かじ)取りには、多少の腕が必要でしょう。ですから、シンプルな冒険ファンタジーを好みの人は手を出さない方がいいです。
     でももうすぐ夏休み。
     この急流を乗り切って、河口までたどり着けるか、挑戦してみる?
    ひこ・田中「謎が謎を生むファンタジー」(寮美千子夢見る水の王国』書評、産経新聞、2009年6月28日)※カラー書影あり
    なるほど、ひこ氏らしく、家族像にフォーカスした読み方。
    それにしても「シンプルな冒険ファンタジーを好みの人は手を出さない方がいい」というほど難しくないと思うんだけどなあ。

イベント:6月26・27・28・30日『夢見る水の王国』発売記念朗読会