あんこ旅の醍醐味の一つは予想を超える店と出会えた時。
店名の「餅屋」という、シンプルの極みみたいな和菓子屋さんに惹かれて、宇都宮まで足を延ばした。
ハズレてもともと、期待半分で宇都宮駅からかなり離れた場所までクルマを走らせた。
あれっ、看板がない。店名も見えない!
シンプルなレンガ仕立ての店構えに白い暖簾がかかり、臼と杵のイラストが小さく、控えめに描かれていた。
よく見ると、店名の小さなプレートがかかっていた。何という控えめさ。
意を決して入ってみると、木枠の渋いケースがいくつか見え、そこに見るからに手づくり感のある大福類が数種類収まっていた。
いちご大福、豆大福、コーヒー大福、海苔大福(のりだいふくって珍しい)などなど。
まだ午前中なのに売り切れも出ていた。
あんこころがくすぐられた。
明るい店内と和モダンな世界。
奥に女将さんらしきお方がいて、明るく「いらっしゃい」とこちらを見た。他にも常連らしいお客が2~3人。
よく見ると、横の棚にはおはぎ(3種類ほど)なども置かれている。当たりか?
★ゲットしたキラ星
いちご大福 300円
豆大福 200円
海苔大福 300円
草餅 200円
※すべて税込みです。
【センターは?】
豆大福と海苔大福と草餅で迷う
「無添加づくりなので、今日中にお召し上がりくださいね」(女将さん)
自宅に帰るのが夜遅くなるので、ひょっとして餅(杵つき餅)が固くなっているかもしれない。
その心配が当たった。餅の表面が固くなり始めていた。本物の証拠。
やむを得ず、電子レンジで20~30秒ほど温めることにした。
豆大福:香り立つようなつぶあん
秀逸ぞろいな中で、私がもっとも感動したのがこの豆大福だった。
サイズは大きめで、重さは約87グラム。餅粉がたっぷりとかかり、赤えんどう豆が悩ましくお顔を出している。
手で割ると、餅の伸びがしっかりとすごい。
〈味わい〉
搗(つ)いた餅のピュアな味とふっくらと炊かれた赤えんどう豆の塩気がとてもいい感じ。
店名に餅屋を名乗るだけのことはあるなあ、などと一人心地。
何よりも驚かされたのはつぶあんの美味さ。
藤紫色のオーラをまとい、しかも小豆の大きめの粒々がびっくりするほど柔らかい。
歯に引っかからない。
甘さがかなり抑えられていて、それ故に、小豆本来のいい部分が口の中にわっと広がるのをそのまま感じた。春風の気配。
あずきのこだわりを知りたくなった。
どうやら北海道産大納言小豆を使用しているようだ。
砂糖は?「企業秘密です」とかわされてしまった(当然だよ)。
かなりのレベルのあんこ、と脱帽したくなった。
余韻の長さ。
私的には東京の名店に負けていない味わいだと思う。
素朴ではなく、洗練された豆大福。この洗練はうれしい誤算でもある。
海苔大福:餅に青海苔がちりばめられている
コーヒー大福などもあったが、最も驚かされたのがこの一品。
大福類はかなり食べているが、青海苔というのは初めて。
よく考えてみれば、青海苔の伸し餅もあるので、大福にあっても不思議ではない。
中はつぶあんで、豆大福と同じ洗練を感じさせるものだが、餅粉の奥に見える青海苔の淡い緑色の点々と鼻腔にくる海の香りに慣れるまでちょっとだけ時間がかかった。
ひょっとしてミスマッチではないか? とさえ思ったが。これは 間違いでした(反省)。
〈味わい〉
海の香りが思ったほどイヤではない。
春の潮風が柔らなか餅とともに口中からいずこかへと抜けていく。そんな感じ。
つぶあんの美味さがすべてを丸く収めて、「こういう大福もアリだな」と次第に新しい感動を連れてくることに、舌の奥まで洗われる。
大福の世界が少し広がったような。
ほんのりと漂う塩気も心地よい。
【サイドは草餅】
よもぎの香りがほどよく、中のつぶあんの上質な美味さとぴったし合っていると思う。
重さは84グラムほどで、草餅としてはやや大きめ。
手でちぎってみると、伸びのある草餅と甘さ控えめのつぶあんが「早く食べてね」と誘ってくるようで、春先のたまらない感覚。
草餅好きの心までとろかすような、深くてきれいなマリアージュだと思う。
●あんヒストリー
創業は大正5年(1916年)と百年を超える歴史を持つ。もともとは市内の大通りにあり、水害などで清住町通りに移転、リニューアルオープンしている。伝統と新しさが同居していて、作り方は代々相伝されているとか。
「餅屋」
所在地 栃木・宇都宮市松原3-8-38