シベリア鉄道9300kmの旅(Day3 - 4)
Day3
翌朝韓国・東海へ到着。再び出航するのは15時です。東海の旅客ターミナルは市街地から離れたところにあるため、周りに観光できそうなところもありません。とりあえず近くの食堂でブランチをとり、船内での食料を買い出しにでることにしました。
旅客ターミナルには日本語とロシア語に堪能な韓国人おばさんがいて、彼女から近くのコンビニを教えてもらい、そこでカップラーメンや飲み物を購入。そうこうしているうちに時間も迫ってきたので、あまりうろつくこともせずWifiが使えるターミナル待合室でiPhoneをいじりながら出航を待ちます。
東海から乗ってくる乗客は韓国人が多く、修学旅行生のような団体もいました。フェリーは定刻通り15時出航。日本海は波が荒いと聞いていたので、揺れるのかな〜と出発前は少し不安だったのですが、幸いほとんど揺れることなく船旅は続いて行きます。
前夜は船内でビールを購入していたのですが、少し値段が張るので、東海のコンビニで仕入れた韓国ビールで今夜は乾杯。翌日はいよいよウラジオストク到着です。逸る気持ちを抑えながら寝床につきます。
Day4
シベリア鉄道9300kmの旅(Day1 - 2)
日本に帰ったらロシア旅行記書きたいな〜、と思っていましたが早3ヶ月が過ぎてしまいました。遅くなりましたが8月下旬から9月上旬にかけて、シベリア鉄道でウラジオストクからモスクワまでを旅したときのことを思い出しながら書いていきたいなと思います。
Day1
初日の東京はひどい雨でした。思い返せば2週間の旅程で一番過酷な状況です。今回の旅では境港から出ている国際フェリーでウラジオストクを目指すことにしたので、まずは新宿のバスターミナルに向かいます。
その前にTravelex新宿西口店で両替。ちなみに…
8月26日時点でのレート(ロシア・ルーブル/日本円)
- 2.66(Yahoo Finance)
- 3.27(Travelex新宿西口店)
- 3.16(NAAグループグリーンポート・エージェンシー成田空港第1ターミナル4F南ウィング店)
ルーブルを扱っているのは空港の両替所以外ではTravelexくらいです。でもレートは空港の方がいいので飛行機でロシアに行く人は成田空港で両替するのが一番いいですね。
新宿を21時くらいに出発し、いざ鳥取は米子へ。。。
Day2
フェリーは境港から19時に出港予定なので、まだかなり時間があります。駅周辺には残念ながら何も無いので、路線バスで近くの皆生温泉へ。朝風呂を浴びに行きました。
温泉で気持ちも新たになったので、少し早かったのですが境港へ行きました。鬼太郎列車に揺られること45分。
境港駅到着。ここからフェリーがでるDBSクルーズフェリージャパンの国際旅客ターミナルへはタクシーで10分の距離ですが、時間があったので水木しげるロードを散歩がてらに歩いて行くこと30分。
ターミナルに着くと目の前には夜の出航を控える大型フェリーが。国際フェリーに乗船するのは初めての経験なので自然にテンションも上がりますね。
境港から韓国・東海を経由してウラジオストクを結ぶ国際フェリーは、現在のところ日本とウラジオストクを結ぶ唯一の路線です。昔は横浜とか富山とかからも出ていたみたいですが、旅客減少に伴い航路廃止の憂目にあっています。
チケット予約は、まず国際フェリーを運行しているDBSクルーズフェリージャパンに直接電話を入れ、希望の日時・客室の等級・パスポートのコピーなどをFAXして受付されます。エコノミークラスが片道22000円で、10%オフの学割もありました。
通常は境港を毎週土曜日出航し、韓国・東海を経由して月曜日にウラジオストクへ到着するスケジュールですが、12月から2月は冬期運航スケジュールになり、ウラジオストク到着が火曜日にずれるようです。詳しくはホームページを参照してください。
17時頃からターミナル内の受付でチケットの発券と出航手続きが行われます。乗客は韓国からの旅行者が多かったです。そのまま船内へ。
通されたエコノミークラスは二段ベッドが4組ある8人部屋で、同室は僕含め日本人3名、韓国人2名、アメリカ人1名でした。出航の前に船内のレストランで夕食の時間があります。値段は支払う通貨によって異なり、それぞれ1000円、10ドル、10000ウォンでした。ウォンで払うのが一番お得です。ビュッフェ形式なのですが、韓国料理ばかりで正直あまりおいしくないです。船内にお湯がでるポットが備え付けてあるので、カップラーメンなどを持ち込む方が無難でしょう。僕も2日目以降は、東海のコンビニで買ったカップラーメンを食べていました。
夜には甲板がライトアップされます。ビールを片手に夜風に当たっていると、隣のベンチにいた韓国からの旅行者がおつまみをおすそ分けしてくれました。彼は若い奥さんとその両親とで鳥取観光にきていたようなのですが、仕事で日本企業と取引があるということで、日本語も話せて日本が大好きということでした。彼と長く話していると、隣でないがしろにされた奥さんからの視線がきつくなってきたので、船内に戻り、シャワーを浴びることに。フェリーには大浴場もついており、早めにいけば綺麗なお湯に浸かることができます。僕は時間が遅かったので、シャワーだけにし、寝床につくことにしました。
タイ上場企業が社債発行する際の決定要因に関する実証分析
お久しぶりです。僕の大学は1月末に卒論提出なので、残り約3ヶ月。意外と時間ないなと焦って来ました(笑)。今回のエントリでは、タイ証券取引所に上場している企業を対象に、どのような特徴を持った企業が資金調達の際、社債発行を選択するのか、実証分析を通じて見ていきたいと思います。
タイ社債市場の概観
分析の前に、タイの国内債券市場の概観を見ておきたいと思います。The Thai Bond Market Associationによると、2011年9月時点でのタイ国内債券市場規模は7兆1984億バーツで、うち国債が39.71%を占めています。発行体別ではタイ政府に続いて政府機関が35.2%で2位、企業は3番目に多く16%です。東南アジア新興国の中で、タイはマレーシアなどと並び債券市場が発展している国として知られていますが、社債市場の規模はまだまだ小さいようです。社債の中では、格付けがA以上のものが83.06%を占め、B格と格付取得なしがそれぞれ約8%ずつとなっています。業態別はエネルギー関連企業と金融機関による発行が多く、それぞれ28.64%と18.49%を占めています。
タイ証券取引所上場企業を対象にした実証研究
永野(2005)が行なっている実証分析を参考に、タイ上場企業の社債発行決定要因について分析を行いました。永野(2005)では、1991年から2003年まで(1997-8年は除外)の上場企業データ(上場廃止企業も含む)を用い、クロスセクションデータとして、プロビットモデルによる推計を行なっています。
- 作者: 永野護
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本エントリではデータの制約などから、被説明変数として1995年から2010年までに起債した実績のある企業を1, 実績のない企業を0としました。また各説明変数は2007年から2010年までのタイ証券取引所に上場している企業データの平均値、標準偏差を使っています。具体的には、SIZEは総資産規模(自然対数表示)、ROAは総資産利益率、IPLは支払利息/総負債、RISKはROAの期間中の標準偏差です。支払利息に関しては、2010年のデータのみ使用しています。
タイ証券取引所の上場企業は579社存在し(2011年10月14日時点)、そのうち債券発行実績のある企業は91社存在します。これら上場企業の財務データは、The Stock Exchange of Thailandのホームページから取得したのですが、データに欠損のある企業も多く、今回は財務データに一つでも欠損のある企業は除外したため、最終的なサンプル数は419社となりました(うち債券発行実績企業82社)。
以下はサンプルの基本統計量です。
SIZE | ROA | IPL | RISK | ||
---|---|---|---|---|---|
(1)債券未発行企業 (N=337) |
平均値 | 9.33512 | 0.061056 | 0.012864 | 0.067763 |
標準偏差 | 0.5186 | 0.10936 | 0.010421 | 0.079806 | |
最大値 | 11.50036 | 0.49586 | 0.072801 | 0.76914 | |
最小値 | 7.88026 | -0.8038 | 3.72646D-06 | 0.0019352 | |
(2)債券発行企業 (N=82) |
平均値 | 10.4933 | 0.074565 | 0.016356 | 0.04044 |
標準偏差 | 0.65042 | 0.066189 | 0.0089558 | 0.031363 | |
最大値 | 12.18744 | 0.24686 | 0.045942 | 0.12982 | |
最小値 | 9.04926 | -0.09326 | 0.000060271 | 0.0029126 | |
(3)全企業 (N=419) |
平均値 | 9.56178 | 0.0637 | 0.013547 | 0.062416 |
標準偏差 | 0.71401 | 0.10242 | 0.010235 | 0.073675 | |
最大値 | 12.18744 | 0.49586 | 0.072801 | 0.76914 | |
最小値 | 7.88026 | -0.8038 | 3.72646D-06 | 0.0019352 |
基本統計量に見られる債券発行企業と未発行企業との違いは次の通りです。総資産規模とROAに関しては、平均値で債券発行企業が未発行企業を大きく上回っています。特にROAについていえば、期間中にROA平均が-10%を下回った企業の債券発行実績はありません。ちなみに債券未発行企業のROA最小値が-80%ととてつもなく高い数値になっていますが、この企業は債務超過で2008年に倒産していました。その他に、RISKの数値から、債券発行企業が未発行企業に比べ収益性の変動が小さいことがわかります。IPLには統計的な差異はあまり見受けられません。
以前紹介したBolton and Freixas(2000)の仮説をもとに、永野(2005)では以下のような推計式を立て、検証を試みています。
Pr(Bondi=1)=F(α1SIZEi+α2ROAi+α3IPLi+α4EXPi+α5RISKi+α6IPOi)
しかし本稿では、EXP(輸出売上高/総売上高)とIPO(株式公開後経過年数)のデータを取得することができなかったため、推計式を以下のように修正し、検証を行いました。
Pr(Bondi=1)=F(α1SIZEi+α2ROAi+α3IPLi+α4RISKi)
F(・)は標準正規変数の累積分布関数です。ここで、各説明変数の係数に期待される符号は以下のようになります。
説明変数 | 符号 | 理由 |
---|---|---|
SIZE | プラス | 企業と投資家間の情報非対称性が小さい |
ROA | マイナス | 収益性が高く内部資金力がある |
IPL | プラス | 調達資金の多様化を求める |
RISK | マイナス | 発行体が破産申し立て手続きに陥る可能性が低い |
実証結果
統計ソフトTSPを使用し、プロビットモデルによる推計を行った結果が以下です。
Parameter | Estimate | Standard Error |
t-statistic | P-value |
---|---|---|---|---|
SIZE | -.043760 | .018769 | -2.33154 | [.020] |
ROA | -.752432 | .983799 | -.764822 | [.444] |
IPL | 11.2601 | 7.19153 | 1.56575 | [.117] |
RISK | -9.56772 | 2.19898 | -4.35098 | [.000] |
考察
有意水準1%のもとでRISK(ROAの期間中の標準偏差)は有意に負となっています。これは仮説と呼応した結果です。また有意水準5%のもとでSIZE(総資産規模)は有意に負であり、これは仮説とは逆の結果となっています。その他のパラメータはP値から判断するに、有意水準10%のもとで係数の推定値は有意とはなりません。
事業収益の変動が小さい企業ほど社債発行が進みやすい、という結果に関しては、永野(2005)の研究でも同様の分析がなされており、妥当な結果と思われます。しかし企業規模に関しては仮説と反し、規模の小さい企業ほど社債発行を行なっているという結果を得ることとなりました。これは永野(2005)で示されている実証結果と反するものであり、東南アジア新興国を対象としたその他の分析でも、総資産規模の小さい企業ほど債券発行を選択しやすい、という結果を得ているものはあまりありません。唯一、永野(2007)の中で、台湾企業を対象とした分析で同様の結果を示しているのみです。(↓の本に収緑)
社債市場の育成と発展―日本の経験とアジアの現状 (比較経済研究所研究シリーズ)
- 作者: 胥鵬,法政大学比較経済研究所
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しかしそこではなぜ総資産規模の変数が有意に負の値を示したのかについて、何ら考察はなされていません。この点に関しては、おそらくデータの推計期間に問題があったと考えられます。すなわち、本エントリでは、1995年から2010年までの社債発行企業を非説明変数として用いたのですが、これでは1997-8年のアジア通過危機や2008-9年のリーマン・ショックが推計期間に入ってきてしまいます。一般的に金融危機発生時は、銀行による貸出が抑制されるため、資金調達を行う企業の社債発行意欲は高まりますが、一方で高格付の社債以外には投資資金が集まりません。すなわち、1997-8年と2008-9年に、通常とは異なる社債発行の決定要因が現出し、それが推計結果に影響を与えたと考えられます。
しかしこれはあくまで推測であるため、次回以降、推計期間を変更するなどして、引き続き研究を続けたいと思います。ではでは!
参考文献
永野護. (2007). アジア債券市場の企業金融分析. 著: 法政大学比較経済研究所/胥鵬, 社債市場の育成と発展 (ページ: 197-219). 法政大学出版局.
永野護. (2005). 新アジア金融アーキテクチャ 投資・ファイナンス・債券市場. 日本評論社.
山澤成康. (2004). 実戦計量経済学入門. 日本評論社.
縄田和満. (2006). TSPによる計量経済分析入門 第2版. 朝倉書店.
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シベリア鉄道9300kmの旅(準備編)
夏休みです。連日35度を超える猛暑日が続いていましたが、8月も終盤にさしかかり少しづつ気候も和らいできた感じもします。卒論はというと、遅々として進まず、膨大なデータ整理に追われる毎日です。
そんな中、大学最後の夏休みということで、2週間ほど旅行に出ることにしました。僕は鉄道での旅が好きで、海外に行く機会があるとなるだけその土地の鉄道に乗ることにしているのですが、その中で憧れていたものの一つが「シベリア鉄道」でした。9000キロを超えるモスクワとウラジオストクを結ぶその路線は、世界中の旅行者が一度は乗ってみたいと恋焦がれる世界最長の鉄道で、僕も宮脇俊三さんの本を読んで以来、ずっと思いを馳せていました。
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作者の宮脇さんがシベリア鉄道で旅をしたのが1982年の春。旧ソ連時代ですが、個人旅行に関してはいま状況はそれほど変わらないきがします。観光ビザの有効期限が旅行者の日程ちょうどに合わせられる点とか… 大きな違いはモスクワから成田への帰りの航空券代が3分の1で済むようになったことくらいでしょうか。
旅程について
ロシア旅行にはビザが必要です。申請のため大使館に提出する資料の中に、バウチャーと呼ばれる現地予約確認書が必要でこれはロシア旅行を扱っている日本の旅行会社を経由して申請することになります。そのため一般には、現地で自由気ままに旅先を決めるといった本当の自由旅行は不可能で、事前にある程度の旅程を決めとかなければなりません。今回僕が予定している旅程は以下になります。
日付 | 都市 | 予定 |
---|---|---|
8月26日(金) | 新宿→境港 | 夜行バスで移動。 |
8月27日(土) | 境港→ウラジオストク(韓国・東海経由) | 国際フェリーで移動。 |
8月28日(日) | 韓国・東海→ウラジオストク | 経由地で休憩。東海って何があんの? |
8月29日(月) | ウラジオストク着 | ここで2泊を予定。 |
8月31日(水) | ウラジオストク→イルクーツク | いよいよシベリア鉄道での旅。車中3泊 |
9月3日(土) | イルクーツク着 | ここで2泊。バイカル湖を見る!! |
9月5日(月) | イルクーツク→モスクワ | 車中4泊。暇すぎ!! |
9月9日(金) | モスクワ着 | ここで3泊。クレムリン!! |
9月12日(月) | モスクワ→成田 | 最後は飛行機で優雅に。 |
9月13日(火) | 成田着 | 長旅も終わり。 |
2週間強の旅程です。この予定で4つの旅行会社に見積もりをとってもらいました。値段や電話での応対を比較し、一番良かったJIC旅行センターにお願いすることに決め、バウチャー手配などやってもらいました。
企業の資金調達に関する理論研究2と東アジア企業を対象にした実証研究
更新が随分滞っておりました。昨日は魁皇が千代の富士の持つ通算勝利数1045勝を抜く新記録1046勝目を挙げましたね。たまたま中継を見ていたのですが、上手を取った時の魁皇はほんとに強い。膝のけがに悩まされ続け、幾度となく引退の危機が叫ばれましたが、無事新記録を達成でき本当によかったです。僕は九州出身で福岡の中学・高校に通っていたのですが、筑豊から来た友達に魁皇の偉大さを常日頃から聞かされていたので、その影響でファンになりました。魁皇には可能な限り記録を伸ばしていってもらいたいです。
さて、卒論制作に際して最大の懸念だったのが、東アジア企業の起債情報などミクロデータをどうやって収集しようか、ということでしたが、様々な方のご協力を得て先日一部めどが立ちました。夏休み前に卒論制作初期における一番の懸念が払しょくされたのは非常に幸運でした。集中した時間の取れる夏休みを使い、データの整理や分析に取り組んでいきたいと思います。
今回は前回のエントリに引き続き、企業の資金調達理論に関する先行研究を紹介したいと思います。前回紹介したDiamond(1991)の他、Bolton and Freixas(2000)で紹介されている理論がよく実証研究にも応用されているのでここでは簡単にそのモデルを紹介します。また東アジア企業のデータを用いた実証研究についても紹介します。
理論面での先行研究レビュー
Bolton and Freixasのモデルでは、資金不足主体としての企業と資金余剰主体としての金融機関という2つの経済主体を考えています。企業は第0期において投資プロジェクトを実行するために内部資金だけでは足りず、1.銀行借入2.債券発行3.株式発行という3種類の資金調達手段の中から最適な組み合わせを選択します。プロジェクトがキャッシュフローを生み出すのは第1期と2期であり、それぞれ高収益、低収益の可能性があるとされます。
企業の資金調達オプションがもつ特徴はそれぞれ以下の様になります。
- 債券(社債)発行
ここでの最大の特徴は、債務不履行に陥った企業は必ず清算されるということです。企業は第1期と第2期に債権者へ資金を返済する義務を負いますが、第1期に返済できなかった場合は企業は清算され、第2期でキャッシュフローを得る機会を失います。もし第2期に高収益が期待できた場合にはこれは非効率的な選択です。
- 株式発行
ここでは企業は新規株式発行により資金調達を行います。この場合の特徴は、倒産コストが発生しない反面、資金調達の際に企業と投資家との間に存在する情報の非対称性によって、希薄化コストが生じることです。(この場合の希薄化コストとは、投資家が真の情報を知っていればより多くのペイオフを企業が提供しなければならないことに起因します。)この希薄化コストは債券発行の場合よりも高く、また良い企業であるほど高いコストになるという特徴があります。
- 銀行借入
銀行はモニタリング機能によって優れた情報収集能力と企業再編能力を持ちます。そのため第1期で債務不履行となった場合も、第2期で高収益が期待できる良い企業の場合はその企業の清算を選択しません。この点債券発行と比較し柔軟な対応が可能というわけです。このため倒産コストも、希薄化コストの面でも、債券発行の場合と比較して優位ですが、モニタリングにはコストがかかり、それを企業が負担しなければならない点はデメリットとなります。
Bolton and Freixasでは株式と債券発行による資金調達の選択について論じています。ここでの結論は第1期で高い収益が期待できる企業は必要資金全てを債券発行によって調達することが可能であるが、リスクの大きいキャッシュフローをもつ企業ほど資金調達手段は株式発行に制約される、というものです。また銀行借入による資金調達では、銀行がその債権を証券化する場合についてもモデルが展開されています。
細かな数式の展開過程は捨象しますが、Bolton and Freixasのモデルでは低リスクの企業は希薄化コストがかからない社債発行や銀行借入(モニタリングコストはかかる)を選好するが、ベンチャー企業などリスクの高い企業は株式発行に資金調達手段が制約される、と結論付けられています。モニタリングコストがかかる銀行借入は債券発行より返済条件の柔軟性が高いというメリットがあります。その結果として銀行借入を選好する企業は返済条件の柔軟性に高い需要を持つ企業に限れらる、とされています。
東アジア企業を対象にした実証研究レビュー
上にあげたBolton and Freixasの理論モデルを使用した実証研究では永野(2005)が有名です。永野(2005)によると、東アジアでは倒産法制への信頼性の低さ、企業清算時の裁判所の公平性の欠如、きわめて多大な清算コストから、債権者が第1期で企業の清算を選択するケースがきわめて少ないといいます。そのため、低収益企業は市場で債券発行を行うことができません。永野(2005)での仮説は、1.企業と投資家の間に情報非対称性が小さく、高収益が期待できると投資家が判断可能な企業のみが、債券市場で債券発行が可能となる、というものです。また同様に、2.倒産リスクの低い企業ほど債券発行するインセンティブがあるとされます。
永野(2005)では東アジア5か国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国)の上場企業データ(1991年〜2003年)を使用し、推計を行っています。詳しい説明は省きますが、仮説1に関しては5か国すべてで有意な統計値が計測され、仮説2に対しても一部の国で有意な値が計測されました。
今後の予定
ゼミの先生のアドバイスを受け、今後は永野(2005)で採用されていた推計式をもとに、最新のデータを使用した検証をしていこうと思います。それには起債情報だけではなく各企業の財務データも必要なので、非常にタフな作業になりそうです。夏休みはおそらくそれだけで終わるかなと。研究に自分なりの色を付けるのはそのあとにしようと思います。回帰分析の手法などもまた勉強しなおす必要があるだろうし。。。
ではでは今日はこの辺で。。。
参考文献
FreixasBolton and XavierPatrick. (2000). Equity, Bonds, and Bank Debt: Capital Structure and Financial Market Equilibrium under Asymmetric Information. The Journal of Political Economy, Vol. 108, No. 2, pp. 324-351.
永野護. (2005). 新アジア金融アーキテクチャ 投資・ファイナンス・債券市場. 日本評論社.