結木礼のちょっと怖い話

結木礼(ゆうき・れい)ライター・編集者。怖い話を中心に、ゆかいな話、おもしろい話など、ゆるゆると書いていきます。お問い合わせは下記URLからお願いします。 https://www.yuki-rei.com/otoiawase

『気づかなければよかった秘密の話』が発売

2020年3月27日に、『気づかなければよかった秘密の話』が東京書店より発売になります。

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前作『気づかなければよかった恐ろしい話』の第2弾となる本作も、1話完結型のショートストーリーを70話以上楽しめます。

第七小学校を主な舞台に、不思議で恐ろしい出来事が次々と起こりますが、その秘密をといてしまうと……。

結末はぜひ本を読んでお確かめください。

↓amazon販売ページへのリンクはこちら。

『気づかなければよかった秘密の話』

 

 

 

「ちょっと怖い話」を動画にしました

当ブログに掲載している「ちょっと怖い話」を、いくつか動画にしてYouTubeにアップしました。

【恐ろしいトイレ】

youtu.be

【ハリガネムシ】

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 【呪いの声】

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 どの動画も、カップラーメンを作るくらいの時間でさっくり見られるように編集していますので、ぜひチェックしてみてください。

 

 

ハリガネムシ

夏休み、どこかに連れて行けとうるさい息子のリクエストにこたえて、渓谷にやってきた。
河原で火を起こして、家族そろってバーベキュー。
自然のなかで食事をするのは、やっぱりいいものだ。
息子も妻も、うれしそうに笑っている。

すっかり満腹になり、腹ごなしに河原を散策していたら、息子が「パパ! こんなところにカマキリがいる!」と叫んだ。
見ると、水辺でカマキリがふらふらしている。

「変なカマキリだな…」と思った次の瞬間、私は悲鳴をあげた。
カマキリのお尻から、気味の悪い虫がにょろりと這い出してきたからだ。

「パパ! なにこれ?」と息子が私の服を引っ張った。
スマホで検索すると、どうやらハリガネムシという寄生虫らしい。

文字通り、ハリガネみたいに細い姿のそれは、体をくねらせながら水の中に消えていった。
息子にせがまれ、さらにスマホで調べてみたところ、この寄生虫は恐ろしい能力を持っていることがわかった。

ハリガネムシはカマキリなどの昆虫に寄生すると、宿主の脳を操って、水辺へといざなうという。
特殊なタンパク質を宿主の脳に注入することで、「水辺に行きたい、水辺に行きたい」と思わせるそうだ。
水に落ちた宿主は、当然、魚に食べられてしまうが、ハリガネムシはその前に脱出して、川のなかで繁殖活動をおこなう。

昆虫好きには割と知られた話らしく、カマキリのお尻を水につけて、ハリガネムシが這い出してくる様子を観察した動画まである。
この動画に、息子が食いついた。

「ぼくもやってみる!」と息子が草むらに駆けていった。
なんだか嫌な予感がしたが、数十分後、息子はスーパーの袋にカマキリをいっぱい捕まえて戻って来た。
やれやれ、やっぱり男の子だなぁ…と私は苦笑した。

息子は袋の中からカマキリを1匹つまみあげ、動画と同じように、そのお尻を水につけた。
「必ず寄生されているわけじゃないよ」と私が言い終わる前に、カマキリのお尻からにょろりとハリガネムシが這い出してきた。

おどろいた。
なんと半数以上のカマキリから、ハリガネムシがあらわれたのだ。
なかには2匹、3匹のハリガネムシに取りつかれていたカマキリもいた。

息子は取り出したハリガネムシを、手のひらの上で、うにょうにょ這わせている。
虫が苦手な私は、「ほどほどにしておけよ」と言い残し、妻のもとに退散した。

夕暮れ、ずっとハリガネムシをいじっていた息子に声をかけ、帰路についた。
よっぽど楽しかったのだろう。

帰りの車内でも、息子はずっと「水辺に行きたい、水辺に行きたい」と繰り返している。

モニター付きインターホン

我が家のインターホンには、モニターが付いている。
だれがインターホンを押したか、リビングからカメラ越しにチェックできるんだ。

なにかのセールスだったら、わざわざ応対せずに、無視してしまうことも多い。
女の一人暮らしには、なかなか便利なアイテムだ。

ついさっきも、「ピンポーン♪」とチャイムが聞こえたから、モニターをチェックした。
画面には、髪の長い女が映っている。
白いワンピースをだらりとまとい、おっくうそうに、しかし何度も呼び鈴を押している。

不審者かもしれない…。


「ピンポーン♪」「ピンポーン♪」「ピンポーン♪」
鳴り響くチャイムを無視していると、何分か後に、ようやく静かになった。

恐る恐る、インターホンのモニターを見た。

よかった…。
画面に人影はなく、玄関先が映っているだけ。

ちょっと怖い思いをした私は、念のため、玄関にドアチェーンをかけておくことにした。
リビングから玄関に走り、ドアチェーンに手を伸ばしたとき、私は気づいてしまった。

ドアにカギがかかっていないことを。

呪いの正体

君は、呪いなんて非科学的なものを、まだ信じているのかい?
私は呪いの正体を、科学的に解明することに成功した。

それは神秘的でも、超自然的でもない、極めて現実的な現象だったんだ。
たとえば、だれかにひどい仕打ちをした人が、呪い殺された……なんて怪談がある。

種明かしをしよう。

ひどい仕打ちをするような人は、だれかに恨まれていることを自覚しているものだ。
どこかでだれかが、自分が不幸になることを願っているんじゃないか……、いつか復讐しようと思っているんじゃないか……。

そんなことを考えていると、心身が不調になって当然だ。
ストレスは万病の元だからね。
いずれ病気になって、死んでしまう人がいても不思議ではない。
それを人は、呪いだと解釈するんだ。

呪いに似た「たたり」も同じだ。
神でも悪魔でもいいが、いかにも「たたられそう」なことをしてしまった。
それを気に病むことで、いろいろな症状が精神や肉体にあらわれるんだ。

呪いの話に戻ろうか。
人にひどい仕打ちをしても、なんとも思わなければ、その人は呪われないかもしれない。

でもね、人間にはだれにだって、良心というものがある。
自分には良心なんてない……と思っているような人でも、だれかにひどいことをすると、胸の奥のほうがチクチクするんだ。
だから良心が痛むようなことは、やらないのが一番だね。

とはいえ、知らず知らずに人を傷つけたり、過ちをおかしたりすることは、だれにでもあることだ。
君にも、一つや二つは、覚えがあるだろう?
でも、ひどいことをした……とか、だれかに恨まれているかも……といったことを、あまり考えすぎないほうがいい。

呪われてしまうからね。

【閲覧注意】サシ

筆者が体験した気持ちの悪い話。
虫が苦手な人は、読まないでください。

小学生のころ、釣りが好きで、よく近所の川で竿を振っていた。
エサは釣具店で買ったミミズ。
丸い容器に、ミミズがぎっしり入って、たしか200円だった。

ミミズのエサはよく釣れたが、小学生の財力で毎回200円はキツい。
あるとき、ミミズを買いに釣具店にいくと、別のエサが目についた。

5、6センチ四方くらいの透明パックのなかに、小さな幼虫のようなものが、たくさん入っている。
お店の人に「これはなんですか?」と聞くと、「サシという釣りエサだよ」という

値段は2パックで100円。
ミミズより安いという理由だけで、その日はサシを買った。

2パックのうち、とりあえず1パックを開けて、釣り針に刺してみた。
米粒ほどの幼虫なので、ミミズよりは抵抗がない。

でも、釣果は全然だった。
ボウズ、つまり一匹も釣れずに家路につくハメになり、もう1パックは開ける機会もなかった。
あまったほうのパックは、道具箱に入れたままにしておいた。

何日かして、もう一度サシを試してみようと、川に出かけた。
釣り場につき、道具箱を開けると、ブブ…ブ……と、気味の悪い音がかすかに聞こえた。

透明パックのなかに、ギンバエがぎゅうぎゅう詰めになって、うごめいていた。

そのとき、サシが蛆虫だということを知った。
ギンバエの詰まったパックをどう処理したかは、ここでは書きたくない。