中学受験と児童書と

「中学受験」と「児童書」について真面目に考え、気楽に吐き出す

青春のエール『アルプス席の母』(早見 和真)

一人の選手の野球生命は、もっと言うとその子の人生は、たかが高校野球のために潰されるべきじゃない。(本文より、少年の憧れ校の監督の言葉)

 

やたらいい評判をきくので読んでみたよ。

 

家族愛という言葉だけでは言い表せない

エモーショナルさ溢れる物語だったわ~。

 

ストイックな野球少年の母親が主人公で

中学編が2割程度、メインは高校編だよ。

 

受験対策って点での優先順位は低いけど

多くはないものの素材になる箇所もアリ。


親思いの少年の本心が垣間見える部分や

子供同士のウルッと来るやりとりとかな。


印象的だったのは大人同士の嫌がらせを

まるで中学の教室のようと母が思う場面。


大人になれば、居場所も逃げ場も自分で

選べるって子どもに伝える本があるけど

自身の子どもが関わると複雑になるな~。

 

自分、この作品がマジで気に入ったんで

2パターンのレビューさせて貰ったっス。

 

レビュー(1)

もしも子どもが夢中になる部活の父母会がブラックだったら?

私なら逃げるか自分を殺して流されるのみですが、この作品の主人公は違いました。

夫を亡くした女性が、甲子園を目指す息子のために単身乗り込んだ慣れない土地で奮闘するストーリーです。

共感200%!

不運でも、不遇でも、がんばり続ける母子の姿が胸を打つ作品ですね。

描かれるのは球児たちのドラマの舞台裏。

人と人の繋がりに焦点を当てているので、野球に詳しくなくても没頭できますよ。

生半可でない辛酸の先に何があるのか?

これは読まなきゃ損でしょ。

 

レビュー(2)

自分の可能性を信じることの大切さを教えてくれる作品。

物語の舞台は時代錯誤な野球強豪校です。

横暴すぎる監督、会則のみならず人間関係もブラックな父母会、それでも母は息子の夢のために理不尽の渦中に飛び込んでいきます。

少年の突き抜けた優しさと明るさもビンビンに響きました。

この作品のおかげでこれまで見えなかったものに気づくことができ、野球観戦の楽しみが増えましたよ。

不格好な母のエール、最高にカッコよかった!

 

『アルプス席の母』感想・レビュー

 

ルールを知らなくても熱くなれる(2024/3発売)

 

高校野球における監督は絶対の存在や。子どもたちの生き死に握っとんのはその人なんや。(本文より)

 

出題されるかもしれない新刊本(2024年5月前後)

出たばかりの『俺たちの箱根駅伝だが

池井戸潤先生は界隈注目ではないものの

書店で存在感を示し続けることが確実だ。

 

駅伝は入試頻出テーマってこともあるし

作問者が手に取っても不思議じゃないな。

上下巻で約4千円は俺にはキツいんだが。

 

さて、5月も注目作品がバンバンくるよ。

 

毎度言ってるように未読作品が多いから

出題向きじゃないのも多分混じってるよ。

 

5/9発売 ☆先行レビュー済☆

『学校に行かない僕の学校』(尾崎 英子)

中2男子が森の中の学校で見つけたもの。

 

5/10発売

『6年1組すきなんだ』(吉野 万理子)

短編小学校シリーズついに6年編に突入。

 

5/23発売

『6days 遭難者たち』(安田 夏菜

高校生の日帰りゆる登山で起こるまさか。 

 

5/23発売 ☆先行レビュー済☆

『ぼくの色、見つけた!』(志津 栄子)

色覚障がいの少年は苦難の先に何を見る。 

 

5/23発売 ちゅうでん児童文学賞大賞

ブルーラインから、はるか』(林 けんじろう)

後輩が誘うハードなチャリ旅の真の目的。

 

5/23発売

『グリーンデイズ』(高田 由紀子)

佐渡島の少女が東京の大学にあこがれて。

 

6/6発売

『6年2組なぞめいて』(吉野 万理子)

彩り豊かな個性が躍動する不思議な物語。

 

6/14発売 ☆先行レビュー済☆

『かなたのif』(村上 雅郁)

ひと夏の心にひびくガールミーツガール。

 

6/25発売

『girls』(濱野 京子)

3人の中3女子たちの共通点は母子家庭。

 

6/25発売

『わたしは食べるのが下手』(天川 栄人)

食の悩みを抱える二人の少女が望むもの。

 

6/26発売

『あるいは誰かのユーウツ』(天川 栄人)

等身大の中学生を描く6つのストーリー。

 

6/26発売

『光の粒が舞いあがる』(蒼沼 洋人)

家事に忙殺される少女が出会った相手は。

 

6/26発売

『12音のブックトーク』(こまつ あやこ)

短い言葉につよく込められた少女の願い。

 

7/1発売

『いつか、あの博物館で。: アンドロイドと不気味の谷』(朝比奈 あすか)

4人の中学生男女の3年間を描く群像劇。

 

7/11発売

『6年3組さらばです』(吉野 万理子)

完結?卒業を迎える子どもたちの15編。

 

いま最も期待してる新作の一つ(5/23発売予定)


尾崎先生の新作は複数校で出題のあった

『きみの鐘が鳴る』より素材によさげだ。

 

余談だけど新作『トロフィーキッズ』

3話目までがネットで読めてお得な感じ。

 

吉野先生の短編小学校シリーズ5年版は

平易すぎてスルーしたが6年版はアリか。

表紙の印象も前作とは大きく変化してる。

 

安田先生は山歩き経験が活かされてそう。

迫力あるカバーの訴求力も超ヤバいよ~。

 

志津先生の新作は教科書的な要素が濃い。

安心感ある学びは作問者に好まれそうだ。

 

林先生の少年旅のうまさは前作で実証済。

自ら自転車を駆って行程をなぞった今作、

名のある賞の獲得もあって注目度MAX。

 

これを機に『星屑すぴりっと』にも注目。

 

髙田先生は佐渡島への郷土愛の塊のよう。

未来へ歩む二人って惹かれるフレーズだ。

 

村上先生は超絶頻出となった前作よりも

やさし目でターゲットのすそ野が広いよ。

 

天川先生は6月に3冊出るって説がある。

説というかご本人のブログに書いてある。

 

リストに入れなかったが気になる作品が

『女の子たち風船爆弾をつくる』ですわ。

 

5/15発売で雙葉跡見麴町学園

伝統女子校の勤労奉仕が元ネタのようだ。

これは『伝言』も併せて読みたいかな~。


発売済みで今後レビューしたい新作

『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳 徹子)

『川のある街』(江國 香織)

『俺たちの箱根駅伝』(池井戸 潤)

『うまいダッツ』(坂木 司)

『冷蔵庫のように孤独に』(村木 美涼)

 

【お薦め記事】

中学受験生向け推薦図書(旧作42作品)

 紹介作品からの出題(2024年度中学入試の国語出典・随時更新) 

涙をチカラに変えて ~或る早稲アカ女子の疾走~

わかり過ぎる親たちの葛藤『君の背中に見た夢は』(外山 薫)

中学受験?思い出すだけでゾッとする。いやもう考えただけでも無理、二度とやりたくない。(一章冒頭より、慶應中等部に息子を入れた母親の述懐)

 

小学校受験を描きあげた話題の新作だよ。

 

パワーカップルの妻がお受験にはまって

周囲が見えなくなっていくストーリーだ。

 

慶應幼稚舎、洗足、横浜雙葉、カリタス、

学習院などが実名で登場しまくるんだわ。


出題候補じゃないし子供には薦めないが、

親目線では学びと共感が詰まっていたよ


特に合格請負人みたいな先生の言動には

うなづくしかないものが多々あったな~。


模試の好成績に浮かれる親への言葉とか。


まず最初に言っておきます。今回の結果は忘れてください。(本文より)

 

ネタバレ回避で書けないがもっと大事で
示唆に富むやりとりが終盤にかけて怒涛。

 

先生のセリフじゃないが中受組としては

気になる主人公のこんな心情もあったよ。


中学受験も、私立中学の学費も、小学校受験という青天井の課金ゲームに比べれば可愛いものだ。(本文より)

 

小学校受験はあんま関係ないと思いつつ

軽い気持ちで手にして見事にやられたわ


一喜一憂し、迷い、戸惑い、揺れまくる。

そんな受験生の親の心情が凝縮されてて。

たぶん中受親にも刺さりまくると思うよ。

 

俺のレビューの一部はこんな文章ですわ。

 

親として最も大切なことは、子どもに夢を託すことではなく、どんな背中を子どもに見せるかだと教えられた気がします。

主人公は流され「お受験沼」に迷い込んだワーキングマザー。

娘の受験が生活の全てになっていくなかで、幸せだったはずの家族に思わぬ綻びが生じていきます。

子どもの成績が親の自己肯定感を左右するくだりや、歪んだ自尊心が垣間見える部分など、私にも身に覚えのある狂気が描かれていて、身につまされましたよ。

 

『君の背中に見た夢は』感想・レビュー

 

終盤は特にすばらしい(2024/1発売)

 

娘にいい環境を与えることが自分の役割だと思い込んでいました。(本文より)

 

最頻出作家が上野に降臨、そしてテレビでは・・・

5/5は村上雅郁先生に会えるチャンス

 

前作の『きみの話を聞かせてくれよ』

少なくとも15校で出たときの人ですわ。

 

今年入試問題に採用した15校

駒場東邦、海城、学習院中等科立教女学院横浜雙葉、大妻、日本女子大附属、昭和女子大昭和、栄東、専修大松戸、同志社女子、修道、佐久長聖、東山、帝塚山、その他公立高校入試などでの採用もあり

 

現場は上野の森親子ブックフェスタだよ。

14:30~16:00フレーベル館

ブースでサイン会をしてくれるってんだ。


この催事、幼児向け作家の列は割と込む。

一方で、YA作家はポツーンとなり易い


だから色々と話したければまさに絶好機。


6月に出る新作の宣伝をするって話だし、

天気は最高だし、俺も参戦してきますわ。


先生の話を聞かせてくれよって言うぞ~。

 

t.co


さらに明日5/6は安田夏菜先生の作品

『むこう岸』のドラマをNHKでやるよ。

放映時間は夜の9:30~10:43だ。


灘中をはじめ多くの学校で出題された

この作品は知ってるって人も多いかな?


原作は偏差値60台の少年が超名門校に

逆転合格する場面から始まるんだよな~。

それが次の章ではガラリと様変わりする。


身を絞り切るような努力でやっと合格したぼくは正真正銘の凡人だった。(本文より)

 

受験生の親としても見て損はないかもな。

あの名作がどう料理されるか楽しみだよ。

見よ、この魂の輝きを『再会の日に』(中山 聖子)

わたしは、自分の家のややこしい事情を、友だちや先生には知られたくない。(本文より)

 

受賞歴豊富だけど入試ではあまり見ない

ベテラン作家の4月に出たばかりの作品。


中学受験界隈での注目度は低そうだけど

これは稀に見るエモさのストーリーだよ


しかも素材文適性が中盤から急上昇する。

 

この本に作問者が気づけるか未知数だが

教室、駅周辺、屋上、植物園など各所で

先生方が惹かれるであろう部分があった。

 

具体的には5、7~10、13~14章。

特に少し荒れるシーンが描かれる9章や

14章は素材文適性がMAXだった印象。

 

8・10・13章もかなり使えそうだし

珍しいほど問題文にしやすい作品だろう。

 

文章は易しいんだが心情を理解するには

高い共感力や想像力が求められそうだよ。


今回は長めのレビューを付けときやした。

 

主人公は大人の都合で分かたれた姉妹の姉。

六年生になった彼女が、大切な人の願いを叶えるためにみずからの殻を破り、価値ある一歩を踏み出していく物語です。

 

姉妹の心情に胸を打たれる瞬間が幾度もありました。

特に妹の言動ですね。

彼女が本心を吐露する場面の切なさは、他に類を見ないものでした。

主人公のさまざまな気づきにも要注目です。

 

前半では両親の不甲斐なさにイライラしましたが、その分だけ、主人公たちの優しさや切実さが響きましたよ。

途中からはもう、この子は、この子たちは応援したい、幸せになってほしいって気持ちでいっぱいに。

振り回されるばかりだった子どもたちの切なる思いと行動が、大人たちの心に響いていくさまからは、先行きへのほのかな希望を感じられた気がします。

 

後味さわやかなココロの清涼剤。

大人にも激推ししたくなる逸品。

 

子どもたちにとっても、この本との出会いは、大変な思いをしている当事者だけが知る気持ちに物語で寄り添える貴重な体験になると思います。

 

『再会の日に』感想・レビュー  

 

主人公、本当にいい子だわ~(2024/4発売)

 

家族だって友だちだって、みんなちょっとずつ変なんだよ。完成形の人なんて、たぶんあんまりいないんだから。(本文より)

 

美味しさぎっしり『要の台所』(落合 由佳)

周りとちがうからって仲間はずれにしたり、からかったりするやつらのほうが、どう考えたっておかしいだろ。なのになんでそいつらに合わせてやらなきゃならないんだい。(本文より)

 

何でもズケズケ言う老婆の物言いが爽快。

今年、普連土学園で出た作品の続編だよ。


自分に自信のない中1の女子が夏休みに

やりたいことを見つけてがんばるって話。

 

前作より先にこれを読んでも問題はない。


平易すぎた前作より対象年齢が高めゆえ

今作のほうが入試素材には適していそう


特に主人公が優しさの押し売りに気づく

三章のシーンなどはちょっとアリかもね。

他にも問題文なる箇所はあるだろうけど。


ま、そういうのは抜きにして食育になり

人間関係についても学べる良い作品だよ。


俺のレビューの一部だけ以下に貼っとく。

 

主人公は気持ちに余裕がない中学一年生。

時間にはゆとりがあった彼女が、隣家のネパール人少女とのやり取りにのめり込んていくなかで、食を通じたおいしいコミュニケーションを採り入れていきます。

料理の師”がみばば”の厳しさと裏腹な思いやりが沁みますね。

 

『要の台所』感想・レビュー

 

料理で気持ちは伝えられる?(2024/4発売)

 

だれかといっしょに作って食べる。その楽しさとおいしさを、わけあいたい。(本文より)

 

待ってたのは、コレ!『やすらぎハムエッグ』(宮島 未奈)

こんなキャラ、うちの学校にいたら間違いなくいじめられてたと思うんだけど、これまでの人生なんともなかったんだろうか。(本文より)

 

成瀬は天下を取りにいくシリーズ最新話。

 小説新潮5月号掲載の未刊行作品ですわ。


短編の話をあんまし詳しく書いちまうと

ネタバレが過ぎるんでサラッと触れとく。


神奈川の外れにある進学校出身の少女が

失意のまま進んだ京大で成瀬に出会う話。


もうね、成瀬が名乗っただけで鳥肌だよ。

コレだよコレって叫びたくなる例の濃さ。

 

で、その猛烈キャラが主人公を変えずに

おかないといういい意味でのお約束展開


主人公の張り裂けそうな葛藤などもあり

素材文適性はめっちゃ高かった印象だよ。

成瀬に会う前のパートなんかも含めてな。


ま、熱心に素材探しする作問者でないと

この作品には気づけないように思うけど。

 

ちなみに『成瀬は天下を取りにいく』

初めて入試に出たのは今年ではないそう。

 

著者によれば、なんと2年前に採用した

関西圏の中学があったっていうことだよ。

 

そのときも小説新潮から出たんだそうな。

 

『成瀬は信じた道をいく』の次に読むべし!(4/22発売)

 

その瞬間、私の志望校も京大理学部になった。(本文より)