マスクに意味はあるのか

新型コロナが世間の関心を集めて久しい。

 

今日は新コロ予防にマスクの意味があるのか?について僕の思うことを簡単に論じてみようと思う。

 

結論から先に言っておくと、マスクには感染拡大を防ぐ効果があるように思う。医療マスクにせよ、効果は劣る布マスクにせよである。

 

ところで基本の確認なのだが、新コロの感染のメカニズムは主に飛沫感染か接触感染だ。飛沫感染は感染者の飛沫を他人が吸い込むことによって感染する。接触感染は手についたウィルスを鼻や口に触ることで粘膜から感染する。

 

なので上記の感染経路を考えればマスクはどこで効果を発揮しそうなのかは明らかだ。マスクは感染者による飛沫が飛ぶのを抑えたり、逆にマスクによって飛沫が周囲から飛んでくるのを(部分的に)抑えたり、もしくは手で口や鼻を触るのをマスクによって防ぐことによって感染経路を遮断することが予想される。

 

感染者のマスク着用でウィルス(特にコロナ)飛沫の拡散が防止できる

 

一部の専門家の意見はこうだ(った)。「マスクは感染者がすることによって飛沫を防ぐ意味がある。けれど健常者にとって予防する効果はない。そのため症状のある人にはマスク着用を薦めるが、症状がない人のマスクは薦めない。」

 

しかしこの感染制御の方針は、全体の感染者数を減らす公衆衛生上の対策としてはちょっとおかしい様に思う。

 

なぜかというと、新コロには無症状の期間があってかつ発症前の数日間は感染性をもつことは新コロが問題となりだした段階から既に認識されていたのだが、だとすれば、健常者にはマスクはさせない方針をたててしまうと、健常者と思い込んでいる不顕性感染者がマスクをしないことによって感染を広げてしまう、ということは容易に想像がつくからだ。

 

無症状でも感染源になり得る

 

また、新コロは症状軽快後も感染性が比較的長期にわたり持続することが知られている。検査体制が十分でない中、実は新コロに感染してもただの風邪かなと本人は思い、軽快して2,3日もすれば自分は健常人として行動している人も多いことだろう。実はウィルスを知らずの内に撒いていたりするわけだが、そんな健康っぽい人もマスクをしていれば感染を防ぐことができるはずである。

 

感染後症状が落ち着いても暫く感染源になりうる

 

なので、新コロ流行期は、無症状の感染者がいて、彼らが他の人に感染させるリスクがあり、そして感染者が誰なのかというのが十分に把握できていない現状がある以上、健康であると自分が思っている人も含めてマスクをするのに意味があるというのは当たり前といえば当たり前の話なのである。

 

マスクで飛沫拡散が防げるのはわかった。それではマスクで飛沫の暴露を防ぐ効果はあるのだろうか。そんな研究はあるんだろうか....しかしちょっと考えてみれば分かるが、これを生身の人間で実験して証明するのはやや酷だ。というのも、マスク有りだったとしても感染者の飛沫を誰も浴びたくはないだろう。なので人間ではなくてダミー人形を使って実験した研究ならあった。その結果によると、ウィルスの暴露量はマスクすることで6分の1ほどになるそうだ。しかし、それ位のオーダーではやっぱりウィルスを普通に吸い込むわけなのでマスクでは多少の防御ができるくらいに認識しておく方がよいのだろう。

 

ダミー人形を用いたマスクで飛沫暴露を防ぐ実験

 

国やメディアのSTAY HOME!!のかけ声で家に籠もっている人も多いことだろう。しかし、日中は旦那は仕事へ、妻はスーパーに買い物に出たりして、無症状で感染して家に帰ってくることもあるかもしれない。もし感染していたら無症状でも、会話やくしゃみ、咳払いなどを通して、知らずのうちに家族内で感染が広がってしまうことだろう。なので、流行期では家において家族一緒に過ごすのならば、マスクをしておくのはロジック的には正しい。実際に、ロックダウン等で移動制限をかけたあとは、家族内感染が多くなることが研究で明らかにされている。

 

無症状による家族感染の報告

家庭でのマスク着用は家族内感染を防ぐ

 

「日常生活でのマスクに予防効果はないけれど、医療現場でのマスク着用は予防効果がある」と専門家がこう言っているのを聞いたことがあるかもしれない。しかしよくも考えてみよう。感染を防ぐ効果がマスクに全くないのであれば、勿論医療現場でマスク着用しても予防効果が無い。するともうそれだけで矛盾しているようにみえるのであるが、なぜそのような説明が起こるのだろうか。

 

簡単に言うならば、医療現場はリスクが高い状況が頻回に起こるからで、そういう暴露リスクの高い状況では研究結果として統計学的に有意な差(予防効果がある)として検出されやすいのであろう。日常での暴露リスクが医療従事者ほど高くないので有意には出ないが、感染のオッズ比は低い(予防効果のある傾向はある)というデータがでてきているのではないかと思われる。(勿論、日常生活でのマスク使用にはマスク誤用のリスクがあるから効果が出にくいという反論は理解できる。)

 

医療従事者によるマスク使用で上気道感染に有意な予防効果がある

日常生活でのインフルエンザのマスク使用では有意ではない予防効果がある

 

 

マスクの有効性を語るにあたってはエビデンスの豊富にあるインフルのデータを用いる事が多いのだが、新コロとインフルエンザは同じウィルスであっても人に与えるインパクトが違う部分があって、どうやら同じマスクするにしも、コロナではインフルより効果が高そうなのだ。

 

というのも

 

・新コロは潜伏期間や発症後感染期間がインフルより長い

これは、一見健常者に見えるコロナ感染者はマスクをすることでインフルより、不顕性感染者による感染拡大を防止することに役立つだろう。

 

・コロナはインフルよりもマスクによって飛沫が飛ばない

冒頭の研究の再掲になるが、下記の図を見ると、コロナではマスクによって防ぎぎれていた5μg以下のエアロゾルの拡散をインフルでは防ぎ切れていないことが分かる。だとすると、インフルよりもコロナの方がマスクによる飛沫拡散が少ないとして、効果が高い可能性が示唆される。

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コロナVSインフル/マスクによる飛沫拡散の違い

 

インフルよりコロナの方がマスクによりエアロゾル拡散が少ない

 

ちなみにSARSコロナウィルスであれば、医療従事者によるサージカルマスク使用によって感染を減らしたエビデンスが5つの観察研究によるメタアナリシスで示されている。日常生活でのマスク使用が、新コロナを予防した直接のエビデンスはまだ無いと思う。

 

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SARSコロナウィルス/医療従事者マスク使用で感染減少

SARSコロナマスク使用で感染減少

 

では実際にマスクは感染防御に役立ち感染者数を減らしたのか?というと、日本で住んでる方であれば、Yesというのにそんなに違和感はないのではなかろうか。欧米で感染者数が激増してる中、ロックダウンもしてないPCR検査数も少ない日本の感染者数の増加はゆるやかだ。実際に、国のマスク着用が義務になってるのが早いほど、感染増加スピードが遅い可能性があることを指摘している論文も出ている。

 

国民皆マスクが早かった国ほど感染防御できていた。

 

 

コロナ感染者の飛沫拡散を防ぐ意味でも、飛沫暴露を防ぐ意味においても、そして感染者数の増加を抑える意味でもマスクが有用であるとして、それでは国民は日常生活(の飛沫暴露or拡散リスクのある状況)でマスクをすべきなのか??についてであるが、

 

マスクが十分に用意され皆に行き渡るのならそれでよいだろう。しかし、今のようにマスクが施設によっては足りてない状況なのであれば、暴露リスクの高い医療現場やその他の密になりやすい職場に優先して配布されるた方がよいのではなかろうか。足りない部分はじゃぁ無防御でいくのかというとそれでは国民は納得しないだろうから、そのための国民に配布する予定の布マスク(アベノマスク)であったはずだ。

 

マスクが有用であると国民に啓蒙する際にはいくつか注意が必要であると思う。主に3つ挙げられる。

 

・マスク着用による誤った安心感

・マスクを誤用するリスク

・買い占め        

 

マスク着用で効果ありと単純に説明してしまうと、他により重要な手洗いや人と距離を置くということを忘れがちになる人がいる。この様なことがないよう他の予防策と併せて行うことが重要であると伝えていく必要がある。

 

またマスクを間違って使うと感染予防にならないばかりか、ウィルスによって汚染したマスクを通して接触感染を成立しやすくしてしまうかもしれない。

 

マスクが重要といきなりメディアが一気に報道してしまうと、買い占めによる価格高騰やより必要性が高い所にマスクが届かなる事態も起こりうるので、それへの配慮とマスク量産分配体制の構築は必要だろう。

 

以上、マスクに意味があるのについて自分の思いを書き綴ってみた。

もっと細かい所を紹介したいのもやまやまだが、簡単に書くと約束したのでこの辺で。

 

因みに僕は日常使用ではマスク買って使ってる。(病院の備品持ち帰ったりしてないyo!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医師は余るのか

 

 Twitterをやっていると、「将来医師が余りますか、それとも足りないままですか」といった質問が多い。僕のフォロワーさんは医師・医学生が多いので、恐らく自身の将来を心配してのことだろうと思う。

 

医師需給の詳細については、厚労省の医師需給分科会などの資料や議事録をみるとだいたい把握できるのでそっちを参考にしてほしい。ここではブログでもあるし、僕の思っていることを、今回はデータなしで徒然に書いておこうと思う。

 

臨床医についてはここ10~20年ほどで需給のバランスはとれるのだろうと僕は思っていて、国の見解とだいたい同じである。臨床医の顧客は患者なわけであるが、今は人口が減り、これからそのスピードは加速するフェーズなので需要減少は必至である。高齢化でちょっと需要は持ちこたえるかもしないが、団塊の世代がいらっしゃる間(ここ10~20年)だけの話になると思う。一方で新しくお医者さんになる人は毎年増えていて、民主党政権の医師養成数増加策の効果も順調に現れているようだ。実際に医師の有効求人倍率は毎年減ってきている。それでも他業界と比べればまだまだ倍率は高い。だから今は平均的にも医師不足なのだけど、徐々に解消されている段階だとみている。

 

医師の過重労働が問題になっているから、それを是正すれば医師はやっぱり足らないのではないかという指摘も飛んでくるだろう。まあそうかもしれないが、病院数は年々減ってきているし、これに昨今の病院の集約化や再編、在院日数短縮、病床数削減、タスクシフティング等、効率性を上げ相対的需要を減らす取り組みが加われば、上の医師の数と患者の数の動きに飲み込まれてやっぱり、ここ10~20年で平均的にバランスがとれるのだと思う。

 

将来的に医師需給は均衡するとはいっても、これはあくまで平均の話で、地方とか、夜間とか、人気のない診療科だとやっぱり医師不足は続くのだろうと思う。よくも考えてみよう。子供の数がこれだけ減っているのに今小児科医の数が足らないはずはないのだが、現場の声はそれでも足らないということになっている。実際に足りている・足りてないはデータも見せてないので議論はしないが、おそらく夜間救急対応する小児科医や、田舎の小児科医は実際に足らないのだろう。逆に、都会の小児科開業医の先生が集患に苦労をしているのをみるにつけては、昼間で都会だと競合が多いわりに需要が少ないといった事情があるかもしれない。なので、将来的に医師需給がバランスしても、上の例のような平均から外れて生じる医師不足をいかに解消できるシステムを構築して、それでいて優秀な医師なのに職にあぶれてしまう人をいかに作らないかが、今後の行政の腕の見せ所になるようにも思う。

 

今は特に医師養成数の調整が難しい時期だと思う。というのも、現在、医師は平均的にも足りてないから医師を増やしたいという声は大きくなりがちなのだけど、だからといって今から増やしても医師養成には10数年かかるから、タイムラグで需要が減少し医師が飽和する事で結局無駄な増員となる可能性が増えてしまうからだ。ここを見誤って今の調子で医師を増やし続けると、2040年頃には弁護士や歯科医師界、アカデミアと同じ運命が医師にも待っていることだろうと僕は思っている。

 

ちょっと論が雑になってしまったけど、僕の考えは簡単に書けた気がするのでこの辺で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民間保険はいらないのか?

聞けば民間保険に入っている人がえらく多い。何事も心配しがちな日本人の国民性によるのもあるだろうが、色んな保険に入りすぎて家計の収支がカツカツになっている保険貧乏な家庭をみるにつけては、ちょっと行き過ぎな状況のようにも思う。

 

民間保険に払い込んだ掛金に対し得られる金額の割合は、正確なデータはないものの、平均にするとだいたい7割くらいではないかと言われている。このいわゆる還元率は保険会社や保険商品によって大きならばらつきがあるようで、都道府県民共済のように9割還元の所もあれば、先進医療特約など1割還元の商品も中にはありそうだ。保険会社を運営する以上、人件費を含む経費がかかってくるのは当然のことで、その分保険に加入する人が平均として元を取れない構造になっているのは当たり前の話ではある。イベントが起こった時にお金がもらえるけど、平均的な還元率は100%超えることはないというビジネスであるという点では宝くじに似ている。

 

 

なぜみんな保険商品を買うのかというと、事故や火災、高度障害を負ってしまい、自分一人では対応できない多額のお金が急遽必要になった場合に備えるためである。もしくは自分で支払える額であっても大きな額を支払うリスクを減らすためだろう。そういったリスクを緩和してくれるサービスにかかる手数料を保険会社に支払っているといった見方が自然だと思う。

 

もちろん保険会社側が利益を上げるためにイベントリスクを消費者に過剰に見積もらせて、公的社会保険がある中で本当はそこまで必要のない保険商品に加入させていると言う側面があるのは否定できないし、逆に消費者が無知が故に無いもの有るもの怖がって、自ら進んで保険に加入してるというのもあるだろう。

 

ここで、消費者が民間の保険を買わないですむ状態というのはどういった状況であるか考えてみよう。イベントが起こっても自身で賄えるほどの資産を持っていれば保険をもってなくても対応できるだろうし、資産の額が大きいほどリスクを緩和するサービスの必要性は低くなるだろう。

 

健康保険があるのだから、大病をしても1000万円の金融資産があれば民間の医療保険はまずいらないだろうし、小さな子供がいたとしても3000万円あれば生命保険もいらないと思う。自動車保険や火災保険も1億円もあれば加入の必要性は低いのではなかろうか。また自分の取り巻く状況を踏まえて商品を吟味すれば、この価格を更に落とすこともできると思う。

 

要は、お金と情報を持っていると自分でイベントリスクに備えることができるので、保険に入る必要性はなくなるといったことだ。富めるものはますます富めるというのは、保険の場合でも当てはまるようで、資産形成や情報収集の目的は色々あろうが、高い手数料ののった民間保険を買わなくて済むというのもその一つだ。

 

終身積み立て保険とかは払った額以上にお金が返ってきて還元率は100%超えるよ!とかいう人もいるかもしれない。でも、そんな商品にも経費はかかっていて、保険会社の方で高い手数料をとって資産運用しているだけに過ぎない。保険会社にお金を預けずに、自身で資産運用すればその分の手数料は取られずにお金を効率的に増やすことができるだろう。

 

とはいえ、結婚して子供が小さくてまだ資産がそんなにないといった家庭だと、一家の大黒柱に不幸があれば経済的にもいろいろ大変だろう。そんな時は、資産形成できるまでの間に生命保険の掛捨てを利用するのはありだと思う。じゃぁどうやって資産形成するの?かといった話はこちらにまとめている。保険料控除を踏まえた損しにくい保険商品の具体的な選び方も載せている。

 

保険はいらない系の本が数冊あって私も目を通したが、1冊を挙げるとすれば、後田了先生の「いらない保険」が最も参考になるように思う。民間の保険にお金をかけているひとは一度読んでみると具体的な話が載っていて、保険の断捨離がやり易くなるかもしれない。