今日も本屋をはしごする

書店営業マンから見た本屋さん、本、出版社のことについて書いていきます。出版業界を知ってもらって活性化したい。

8700の壁

こんにちは、ダイノです。

 

更新がだいぶ遅れてしまいました。

 

新刊について

 

「新刊」 

何てワクワクする言葉なんでしょう。

 

書店員時代は毎朝、新刊の箱を開けるのがとても楽しみでした。

なぜかといえば、もしかしたらベストセラーとなる本が入っているかもしれないからなのです。

 

これはもう宝探しの気分です。

 

出版社に勤めてからも書店の新刊コーナーは必ず見に行くんですが、仕事そっちのけで読者目線で面白そうな本を、これまた宝探しの気分で軽く物色します。

 

実は意外だと思われるかもしれませんが、自社の新刊なのに発売日までどんな装丁カバーなのか知らないことがあります。

というかほとんど知りません。

うちの会社だけでしょうか?

 

ですから「なるほど、こういうデザインになったのか」と書店に並んでいるのを見て知るなんてこともしょっちゅうです。

 

突然ですが

 

「7万」

 

この数字は日本で年間に発売される新刊書籍の点数です。

平成28年調べで78113点。

 

平成22年の時は77773点。

 

あれ?出版不況のはずなのに増えていますね。

書店数が減っているというのにどういうことでしょうか?

 

年間約7万点ということは、ひと月に直すと約6千点、毎日約200点も世に出ている計算になります。

 

つまり書店には毎日それだけの新刊が入荷していることになります。

しかも、1タイトルにつき複数冊数入荷するものも当然ありますのでお店の方は品出しがとても大変です。

 

でもそんなに新刊が入荷して書店の売り場が商品であふれてしまわないのでしょうか?

もちろん、すぐに売れてしまえば何の問題はありませんが。

 

新刊本(書籍)の仕入れには条件がありまして、基本は委託扱いで後から返品が可能です。

 

委託期間は105日、およそ3ヶ月半です。原則この期間中に返品すれば良いので、店の中が在庫であふれかえることがないのです。

 

少し話しを戻します。

毎日およそ200点の新刊書籍が発売されると言いましたが、実は新刊が全点入荷する書店は全国でもほんの一部に限ります。

 

書籍には様々なジャンルがあります。

文庫や文芸書、ビジネス書や実用書といった一般書だけでなく、主に医学書に代表するような専門分野の方がお仕事で使う専門書も含まれます。

 

専門書は委託扱いではなく、買切り扱い、つまり買い取りとなるものが多く、原則返品はできません。

このような特殊な専門書については出版社が委託条件をつけていないので元々配本(入荷)がないのです。

 

それと、こちらの方が書店にとっては重要なことだと思いますが、作り部数問題というものがあります。

 

商品ごとに出版社が予想する売り上げ見込み部数が違うため、当然印刷する数も違ってきます。

簡単に言えば、出版社が少ししか作らなければ、書店数で頭割りした場合不足が生じてしまいます。

 

ちなみに2018年の図書カードのカードリーダー設置店は8700店。

この数が「間違いなく書籍を扱う書店の数」と考えて良いでしょう。

 

これを踏まえますと、出版社が最低でも8700部以上作らなければ、1冊も入荷しない書店が出てしまうという計算になります。

 

じゃあ8700部と言わず、1万部でも2万部でも刷ればよいのでは?

と思われますよね。

 

ですが、中小版元にとって8700部の壁は決して低い壁ではありません。

というか高いです。

 

だって、これは物によるので全てに当てはまるわけではありませんが、少ないもので1000部スタートなんてザラなのですから。

 

ではまた。

一心不乱に在庫チェック

こんにちは、ダイノです。

 

前回の続きを少し。

 

前回は、本を買う人はブランド(出版社)なんていちいち気にしてないという話しをしました。

 

さて、ブランドと言えば、付録付きブランドMOOKのTVCMでお馴染みの宝島社があります。

 

私が書店のバイヤーをしていた頃は、このブランドMOOKがいくら仕入れても足りないくらい売れました。

私はブランドものに疎いので、ここだけの話、いかほどの人気があるのか妻に尋ねて仕入れ数を決めてました。

 

宝島社は今もTVCMが頻繁に流れているので知ってる方は多いでしょうね。

 

また、TVCMといえば毎号揃えると完成する分冊百科を出版しているディアゴスティーニやアシェット・コレクションズ・ジャパンもよく目にします。

 

聞くところによれば、定期購読を申し込んだものの最終号まで購入できず挫折する人が多いんだそうです。

 

特に組み立て系は、発売後すぐに書店に買いに行かないとあっという間にたまってしまい、書店に取りに行くのが億劫になってしまいます。

 

さらに創刊号の安さに惹かれて買い始めても2号目以降は案外単価も高いので、数千円から1万円をまとめて払うことになり金銭的にもだんだん辛くなる…

 

続かない気持ち分かりますよね。

 

それでも魅力的な商品が創刊されると、ついつい買ってしまうんでしょうね。

 

このように普段からTVCMで目にしていると刷り込み効果もあり「CMでやってたから」と安心して買うことができます。

 

それならばどの出版社もCMを流せば知名度が上がるのではないでしょうか?

しかしながら、どこの出版社でもTVCMを流せる訳ではありません。それができるのはほんの一部の会社だけです。

 

コストがかかりますからね。

 

でもTVCMは流せなくても自社の本を宣伝して歩く人たちがいます。

 

それが書店営業さんです。

 

 

書店営業 

 

聞いたことはありますか?

 

出版社の人=編集者と思われがちですが、営業さんももちろんいます。

 

ただ発売するだけでは本は売れません。

 

発売前から話題になるくらいの注目の作家さんの本なら別ですが、それはかなり限られています。

 

大抵の本は、書店員さんの地道な努力によって売れることの方が多いのです。

 

「え?営業さんの努力じゃなくて?」という声が聞こえそうですね。

 

営業さんが仕掛けることももちろんありますが、書店員さんが「この本売りたい」と思ってくれないとなかなか売れないのです。

 

書店員様様です。

 

じゃあ営業さんはどんなことをしているのか?

 

これは大手出版社なのか、中小の出版社なのかによっても異なります。

 

大手出版社の営業さんは、だいたいチェーン本部のバイヤーさんとの商談がメインで、本屋さんを回るとしても都内の大きな本屋さんが中心です。

 

一方、中小の出版社の営業さんのメインはチェーン店の支店や街の本屋さんです。

 

意外かもしれませんが、大手出版社にはチェーン店の支店や街の本屋さんを細かく回れるような営業さんはほとんどいないのです。 

 

実際バイヤーと商談して本を店舗に送り込むので細かく店舗を回る必要がないのです。

もし回るとしてもそれは商談のためというよりも展開状況の確認のためです。

 

しかし、中小の出版社(うちの会社は中小です)は大手出版社みたいにバイヤーから簡単に注文をいただけないこともありますので、個々の店舗の担当者に直接交渉しに行かないといけません。

 

本屋さんの棚の前で、一心不乱に在庫を調べているスーツ姿の人を1度は見たことがあるのではないでしょうか。

 

その姿を見たら我々書店営業だと思ってください。

 

書店営業の仕事は、まずは本屋さんに「うちのこの本はいい本ですよ」と売り込むこと。

そして気に入ってもらって店頭に置いてもらうことです。

 

仕入れてもらう。

これが第一段階です。

 

次回はその辺りのことを。

 

 

 

読者はさほど気にしていない

はじめましてダイノです。

 

ブログを始めました。

 

現在、某出版社に勤務しています。

以前は某書店チェーンで書店員やバイヤーをしていました。

 

このブログでは私の仕事「書店営業」のこと、出版社のこと、本屋さんのこと、本のことを書いていきます。

 

出版社や本屋さんに興味がある方、これから出版業界で働いてみたいという方に楽しんでもらえたら嬉しいです。

どうぞお付き合いください。

 

出版社

世間では「出版社」という呼び名の方がポピュラーですが、出版業界では版元(はんもと)と呼ばれることもあります。

 

出版社をクラシックな言い方にしたのが版元という感じでしょうか。

 

語源など詳しいことはウィキペディアをご覧下さい。

 

版元 - Wikipedia

 

みなさんは出版社と聞いて最初にどんな会社を思い浮かべますか?

 

小学館

集英社

講談社

 

どれもとても有名なので、一度は聞いたことがあるでしょう。雑誌やコミック以外にも様々な書籍を扱う総合出版社です。

 

ちなみに私の会社はあるカテゴリーではそれなりに知られていますが、一般消費者の方にはおそらくあまり認知されていないかもしれません。

だからというわけでもありませんが、会社名は伏せさせていただきますので、あしからずご了承ください。

 

さて、話を戻しまして、こちらの出版社はご存知ですか?

 

新潮社

文藝春秋

早川書房

幻冬舎

 

もし、あなたが小説がお好きならこちらの名前はよくご存知かもしれません。

 

いやいや、私はビジネス書しか読みませんという方にはこちらの出版社の方が馴染みがあるかもしれないですね。

 

ダイヤモンド社

プレジデント社

日本経済新聞社

朝日新聞社

 

好きな作家さんはいても、その作品がどこから出版されているのか気にしたことがないという方が大半だと思います。私もこの業界に入るまではそうでした。

 

試しに一度ご自分の本棚を眺めてみてください。同じ作家さんであっても複数の出版社の本が混じっているのではないでしょうか。

 

所有する冊数が増えてくると、こういう現象が起こります。

なぜなら人気作家というのは様々な出版社から執筆を依頼されるからなのです。

 

また、例えば本屋さんに行き、たまたま立ち読みした雑誌を購入したいと思ったとします。

価格を確認をする方はいても、出版社名を確認する方はいないでしょう。

 

でももし、それが食品であったなら?

口に入るものですからメーカーを気にする方も多いはずです。

 

本の場合も商品の価値に対してお金を払うのは同じですが、本の特性上商品価値の大半は「活字」となります。

 

もちろん、カバーがおしゃれであったり、かわいいという理由でジャケ買いする方もいらっしゃいますが、欲しいと思った本の出版元がどこであろうと読者はさほど気にしていないのです。

 

それでは出版社があまりに気の毒ではないか、と思われるかもしれません。良い本を出版してもブランドを気にする方が少ないのですから。

 

悲しいかな。

それが現実なのです。

 

でもそれだけに、まだやることはあるのです。