第4章 「コンフリクトを処理する」 組織における指標
前回はコンフリクトを最小化もしくは処理するために鍵となるコヒーレンスという概念について勉強しました。
今回はコンフリクトをうまく処理するに当たって、組織が指標にするべき事項について勉強してみたいと思います。
前々回に職場環境をpHに例えました。
コンフリクトの処理に関わる組織の指標として『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』では、Fig 8のように「pH」で組織の特性を表現しています。
「pH」が酸性に傾くとき、組織内の雰囲気がお互いに過干渉で対立を招きやすく、攻撃的になっている状態を指します。
誰もが積極的に何かに取り組もうとしている状態ともいえますが、あまりにもお互いに干渉しすぎる結果、時に攻撃的にもなってしまいます。
そうすると、お互い友好的でなくなり、攻撃を受けたり攻撃をしたり、対立的なコミュニケーションを招いた結果、コンフリクトが生じやすくなってしまいます。
例えば、看護師さんが患者さんの心音を聴診しようとしている場面を考えてみましょう。
その場になぜか医者がやってきて「お前の聴診はなっていない!」などと攻撃的な干渉をしてきたとしたらどうなるでしょう?
普通に考えれば、喧嘩になりますよね。
一方、「pH」がアルカリ性に傾いたらどうなるでしょう。
その場合には、組織内が全体的に消極的で、お互いのことに対して無関心になり、自分のやっていることを他人に批判されないようにと防衛的になっている状態を示します。
確かに、お互いに攻撃をし合わないため一見コンフリクトが生じにくそうではありますが、お互いが協力しようとしなければ不満が溜まります。
例えば、病院で研修医の先生が患者さんに採血のオーダーを出して看護師さんに依頼をしたとしましょう。
ここで看護師さんが「研修医が勝手にオーダーした採血のことは知りません」などと言って指示受けを拒否したとしたら、どうなるでしょう?
これまた徐々に職場内での雰囲気が悪くなり、不満が溜まっていくでしょうね。
どちらの方向に傾いても組織の中でのコンフリクトは処理できそうにありません。
最も望ましい「pH」の範囲とは、組織内のスタッフが積極的に各自の仕事に対して責任を持ち、継続的な学習をしようとする状態を指すのです。
敵対的な関係が強くなりすぎていれば対立を緩和し、お互いが無関心になっているようならば適切に相互理解ができるよう援助しなければなりません。
これこそが、コンフリクトを処理するための組織にとって必要な指標になるのです。
コンフリクトの原因にかかわらず、コンフリクトを処理するために時間をかけ、注意を払わなければならないこととは、この「pH」の状態を望ましい状態に戻すことです。
意見の不一致が生じている部分になるべく早く気付き、その出どころを突き止め、その不一致によるコンフリクトを健全で建設的な調和のとれた状態へと誘導する努力をしなければなりません。
あなたにとっても、あるいは組織にとってもそのコンフリクトが「健全なもの」であるように状況を誘導するのです。
そこでこそ初めて建設的な議論が成立し、スタッフにとってより良い選択ができる環境が醸成されていくことになります。
傑出した結果というものは、そのような建設的な環境、すなわち人々に選択する機会を与え、彼らが選択をすることを期待する組織でこそ生まれるものです。
というわけで、今回はコンフリクトをうまく処理するに当たって、組織が指標にするべき事項について勉強しました。
次回はコンフリクトの構造について勉強してみたいと思います。
第4章 「コンフリクトを処理する」 コンフリクトを最小化する、もしくは処理する鍵は何か?
前回はコンフリクトを最小化する職場環境について簡単に勉強しました。
今回は、ズバリ「コンフリクトを最小化する、もしくは処理する鍵」について勉強してみたいと思います。
この命題を考える前に、「コヒーレンス*1」について考えたいと思います。
コヒーレンスとは、物事がかみ合って調和がとれている状態をさします。
このコヒーレンスの状態があるからこそ、人や組織はコンフリクトをよりうまく処理することができるのです。
……この書き方ではややわかりにくいので、少し具体例を考えてみたいと思います。
逆にコヒーレンスでない状態を考えてみます。
噛み合わなくて、調和がとれていない状態ですね。
それでも仕事ができているのだから、その職場では上司が下した命令を部下が唯々諾々と従っている職場なのかもしれません。
あるいは、高圧的な上司に対して常に防衛的な態度をとる部下が揃った職場なのかもしれません。
一見、通常業務自体はこなせるかもしれませんが、そんな職場ではきっとスタッフ間で不満も溜まっていることでしょう。
日々のちょっとしたことでいさかいが起こり、それがすなわちコンフリクトとなって、ある時通常業務にすら支障をきたしてしまうかもしれないのです。
では、そのようなコンフリクトを生まない、あるいは仮に生じてもうまく処理できる「コヒーレンス」な状態の職場にするにはどうすれば良いのでしょうか?
『Managiment and Leadership Skills for Medical Faculity』では、大学病院のような職場を例に挙げています。
特に大学病院のように学究的な医療の現場では、人はしばしば給与以外の要素で職場環境を選択することがあります。
確かに、大学病院の給料は安いですよね。
それでも人が集まるのは(医局人事で仕方がなく、という側面もあるのでしょうが……)多くの職員は持っている能力を発揮し、その環境でさらに成長したいと思っているからです。
したがって、もしも大学病院側が仕事をする上での障害を取り除き、職員や組織がもつ能力を発揮できるように様々なサポートをすることができればどうなるでしょう。
大学病院ならではの煩わしい管理手続きを簡略化し、部門間の情報伝達をよりスムーズにできるように改革したらどうなるでしょう。
職員たちはもともと高いモチベーションを持って集まっているはず。
自ずと職場全体が防御的な態度や上意下達な状態から、より調和のとれたコヒーレンスの状態に移行するのです。
当然、それまで生じていたギスギスした雰囲気を排し、コンフリクトを最小化もしくは処理しやすくできるはずです。
という訳で、今回はコンフリクトを最小化もしくは処理するための鍵になる「コヒーレンス」な状態について勉強しました。
次回は、組織における指針について勉強してみたいと思います。
第4章 「コンフリクトを処理する」 健全な職場環境はコンフリクトを最小化する
早速、コンフリクトについて勉強していこうと思います。
組織はその組織環境の健全さを保つことによってコンフリクトを最小化することが可能です。
もちろん、それは逆に言うと健全さが失われればコンフリクトが増えることを意味しています。
健全な環境とは、例えば清浄な水質に似ていると言えるでしょう。
水質がよければ良いほど(具体的には清潔で澄んでいて、pHのバランスが取れていればいるほど)、より多くの生命を維持することができるでしょう。
本章のタイトル写真は水槽の写真にしてみましたが、良い水質を維持しなければ熱帯魚もエビも水草も育てられないのです。
熱帯魚やエビを育てようと思えば、水槽内の水質、pHを適正な範囲内に維持しなければなりません。
話題が少し逸れましたが、海洋の健全さ、そして我々人間の体の健全さは、完全な酸塩基平衡が維持できているかにかかっています。
海洋のpHが適正に保たれていれば、多様な生命を育むことができます。
pHが0.1でも適正値から外れてしまえば、サンゴは死に、多くの生命が苦しむことになるのです。
これは、個人でも、人間関係においても、組織にとっても同様です。
職場環境において「適正なpH」が保たれていれば、各自が果たすべき貢献が明らかになり、責任は果たされ、個人にとっても集団にとっても最良な成果をもたらすことになるでしょう。
このバランスを保つことによって、飛躍的な進歩や学習、革新が手に入れられるようになるのです。
医療者にとっての職場環境とは、その医療者にとって主要な生活環境の一つです。
その状態が「適正なpHの範囲」から外れてしまえば、好ましくない行動や、残念な結果、そしてより多くのコンフリクトを招くことになります。
健全でない職場環境は、職員のモチベーションを下げ、仕事の進捗を遅延させ、結果さらに職場環境が悪化するという悪循環を生じさせます。
このような組織では適切な医療が行われず、働く医療者だけでなく、何よりも患者さんへ被害が及ぶことになってしまいます。
というわけで、今回は適切な職場環境の重要性について勉強しました。
次回は職場環境を適正化し、コンフリクトを最小化させるための鍵について勉強してみたいと思います。
第4章 「コンフリクトを処理する」 はじめに
第4章は「コンフリクトを処理する」です。
『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』では「Navigating Conflict」と表記されている章です。
「Conflict」とは「対立」とか「衝突」と訳せますが、どちらの訳語も正直しっくりきません。
「人間関係の軋轢」などと訳しても良いのかもしれませんが、長すぎるので本ブログではカタカナ語で「コンフリクト」のまま表記しようと思います。
よく言えば平和主義者、悪く言えば事なかれ主義的な僕にとって「コンフリクト」の処理は正直苦手です。
僕自身が巻き込まれるのも嫌ですし、組織内で起こった「コンフリクト」をうまく収めろと言われても正直どうしていいのかさっぱり分かりません。
まとめようとしても、結局どっちつかずで事態をかえって複雑にしてしまいそうです。
とは言え、組織を率いる立場になれば、決断をすること、そして責任を取ることをしなければなりません。
いつまでも苦手だからといって逃げ回るわけにはいかないのです。
というわけで、なかなか難しい内容になりそうですが、「コンフリクト」の処理について勉強していこうと思います。
第3章 「フィードバックを利用する」 まとめ
ここで第3章のまとめをしたいと思います。
第3章では「フィードバックを利用する」ことを勉強しました。
フィードバックを与える側の内容が多くなっています。
組織を率いる側になると、メンバー達の成長を促すためにフィードバックをする機会が多くなると思います。
ただし、効果的なフィードバックの方法を取らなければ、効果があがらないだけでなく、相手からの信頼を失い、ギスギスした雰囲気の組織になってしまいます。
何につけても、最初に大切なのはフィードバックをするタイミングです。
フィードバックをしようと思っていると、どうしても会話の最初にフィードバックをしてしまいがちです。
しかし、最初からフィードバックをしようとすると、相手が防御的になってしまい、結果的に信頼関係を壊してしまう可能性があります。
また、ネガティブなフィードバックだけを行なってしまうと、どうしても相手の自尊心を傷つけ、帰って頑なにさせてしまうこともあるでしょう。
「サンドイッチ・テクニック」という「ポジティブ・ネガティブ・ポジティブ」という内容で伝える方法も有効かもしれません。
思い込みや先入観が強くなりすぎると、相手にとって不当なフィードバックをしてしまうかもしれません。
相手を自分の都合が良いように誘導していないか?
自分の思い込みからフィードバックしようとしていないか?
しっかりと自己管理することが大切です。
また、誰かのせいと決めつけるのも危険です。
一方的に相手が悪いと決めつけるのではなく、相手がなぜそのような行動をしているのか?
その背景を理解しようとすることが大切です。
そんな問いかけをするときには英語で「What」から始まる自由回答式質問が有効でした。
当然ですが、怒りに任せてフィードバックするのは危険です。
むしろ、相手の強みを見つけ、褒めることが効果的です。
誰でもネガティブなフィードバックを受けるより、ポジティブな評価と前向きな提言をもらえる方が良いに決まっています。
また、「私はこう思う」「私はこうしてほしい」という「I Statement」でフィードバックを行うことも大切です。
「誰かが見ていたと報告があったから」「自分たちの部署ではこうすると決めているから」という第三者の意見を使ってフィードバックの正当性を高めようとする試みは得てして裏目にでるものです。
これらの手法を取り入れてフィードバックをしたとして、それでも聞き入れてもらえない場合はどうすれば良いのでしょうか?
第3章ではフィードバックを受け入れてもらえない相手に対して、今回の手法でフィードバックを行ない、再度相手に何を期待しているかを明確にすることが推奨されています。
フィードバックをした人間の責任のもと、しっかりと行動の変容を促す必要があるのです。
一方、フィードバックを受ける場合にはどうすれば良いのでしょうか?
リラックスして、しっかりと傾聴することが必要です。
批判的なフィードバックの場合にも防御的にならず、どんな意見に対してもオープンな姿勢を貫きましょう。
また、褒められた場合には素直に受け止めましょう。
いずれのフィードバックにしても、真摯に受け止め、行動を変容させようとする姿勢を示すことが、組織全体の文化にも作用するのです。
というわけで、第3章ではフィードバックについて勉強しました。
第4章では、組織の内外で生じるコンフリクト(衝突・仲違い)をうまくコントロールする考え方を勉強したいと思います。
第3章 「フィードバックを利用する」 フィードバックを受ける時の心構え
前回はなかなかフィードバックを受け入れてもらえない場合の対応について勉強しました。
今回は、逆にフィードバックを受ける側になった時の心構えについて勉強します。
フィードバックを受ける側になる時に大事なことは、リラックスして傾聴することです。
批判的なフィードバックの場合はどうしても防御的な意識が働いてしまうものですし、ストレスを感じると思いますが、そういう時こそリラックスして耳を傾けることが大切です。
個人攻撃だと捉えてしまうと防御的な意識が働いてしまうので、あくまでも中立的な意見だと捉えましょう。
とはいえ、誰でも批判的な意見を受け入れるのは難しいものですし、特に不当だと感じる場合や悪意がある意見の場合ならなおさらでしょう。
そのような場合には、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせながら、「私は他人からの指摘に対してオープンだ」と心の中で繰り返すと良いかもしれません。
一方、批判的な意見に対して自己正当化しようとしていたり、他人のせいにしようとするのはお勧めできません。
自己防衛的になっていて、フィードバックから学ぶ心構えができていない、つまり「フィードバックを受け入れてくれない人だ」と相手に思われてしまうからです。
逆に、褒めてもらえるようなフィードバックを受けた場合には、変に言い訳したり辞退したりしないで、素直に受け止めましょう。
上手くやったことは事実なのです。
好意的なフィードバックをくれた人に対して感謝し、しっかりと受け止めましょう。
フィードバックを真摯に受け止める姿勢を見せるということは、周囲からの信頼されるようになるだけでなく、職場全体でフィードバックをし合う機会が増える文化を醸成することにつながるのです。
そういった一つ一つの行動が組織全体の環境を作っていくのかもしれませんね。
というわけで、今回はフィードバックを受ける時の心構えについて勉強しました。
次回は第3章をまとめることにします。
第3章 「フィードバックを利用する」 フィードバックを受け入れてもらえない時は
前回は「I Statement」の形式を使ったフィードバックについて勉強しました。
今回は、もしもフィードバックが相手に受け入れてもらえなかった場合について勉強します。
『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』では、「Because I Said So」とタイトルが付けられている章です。
何が「私がそう言ったんだから」なのでしょうか?
早速勉強していきます。
中には、行動を変化させるための洞察力が乏しい人もいます。
つまり、誰かから何かを言われてもなかなか行動を変容させられない人、ということです。
指導をする側から見てみれば、自分が何かフィードバックをしても反応が乏しい相手に対してはどこか「やりにくいな」と思ってしまうものです。
例えば、十代の若者と関わる人であれば、どんなに気配りをして共感的で良質なフィードバックをしても、その効果に限界があることを知っているものです。
僕にはまさに十代の子供がいるのですが「言っても聞かない」という苦労はよくわかります。
そんなフィードバックを受け入れてもらえない相手に対してはどうすれば良いのでしょう?
『Management and Leadership Skills for Medical Faculity』では、これまでに勉強してきたフィードバックの手法を試したのちに、何を期待しているのかを明確にする(もしくは再度明確にする)ことが必要であると指摘しています。
具体的には、以下のような言葉が紹介されていました。
「あなたにしてもらわなければならないことは_______であり、そうしなかった場合には_______になる。」
しっかりとやって欲しいことを伝え、そうしなかった場合どうなるかを明確にすることが必要なのです。
感情的に怒っても仕方がありませんが、弱腰になっても仕方がありません。
深呼吸をして落ち着いて、遠回しに言うことをせず、はっきりと自分の立場を貫くのです。
冒頭に触れた「私がそう言ったんだから」とは、「私」の責任のもとにはっきりとフィードバックを伝え、それによる行動変容を促し、それが達成されなかった場合の対応も最初に決めた通りに行う、ということなのです。
日本人的には「遠回しに言わない」「はっきりと自分の立場を貫く」というのは少し難しいと感じる場面もあるかもしれません。
ただ、フィードバックが伝わらなければ組織全体としての行動にも支障をきたす可能性があり、当然ですが「締める部分は締める」必要があるのです。
というわけで、今回はフィードバックを受け入れてもらえない場合について勉強しました。
これまではどうしても「フィードバックをする側」の勉強だったので、次回は「フィードバックを受ける時の心構え」について勉強しようと思います。